世界の天気予報を見

世界の天気予報を見

時間のうちにすっ

2016-12-28 11:30:28 | 日記

 
[#ここから2字下げ]
 水曜日
 前略、きみの手紙入手。しかし、もはや何を論じようとむだだ。すっかりあきらめがついている。奴らと戦って寄せつけずにいるだけの意力がまだわたしに残されているのがふしぎなくらいだ。たとえわたしがすべてを捨てて逃げようとしても、逃げられはせぬ。奴らにきっとつかまってしまう。
 きのう、奴らから手紙を一通受けとった――わたしがブラトルボロへ出かけた留守に、無料配達の郵便屋が届けてくれたのだ。タイプで打ったもので、ベロウズ・フ公開大學 學位ォールズ郵便局のスタンプが捺《お》してあった。奴らがわたしをどうしたいのか、その点をいっているのだ――わたしはそれを繰り返していう気になれない。きみ自身も気をつけたまえ! あのレコードは壊《こわ》すがいい。雲の濃い晩がつづくし、月はこれからずうっと欠けていく。思いきってだれかの助けが得られればいいのだが――そうなればわたしも元気が出よう――だが、敢

 

えて助力を惜しまぬ人でも、なにか証拠になることでもないかぎり、わたしのことを気ちがいだというだろう。何も理由がないのに、人に助けにきてもらうわけにはいかない――いまはだれひとりつきあっている人はないし、ここ数年間そうしてきた。
 しかし、ウィルマート、わたしはきみに一番悪い話はまだしていないのだ。気を強く持ってこの手紙を読んでくれたまえ、きっとこれはきみにショックを与えるからだ。とはいえ、わたしは本当のことをいっているのだ。話はこうだ――わたしは奴らのひとり[#「わたしは奴らのひとり」に傍点]、あるいは奴らのひとりの一部分を見たり[#「あるいは奴らのひとりの一部分を見たり」に傍点]、触《さわ》ったりしたのだ[#「ったりしたのだ」に傍点]。ああ、くわばらくわばら、それにしても恐ろしい! いうまでもないが、そいつは死んでいた。番犬のうちの一頭がそいつをやっつけたので、わたしはけさ犬小屋の近くでそいつを見つけた。世間の人にこの事件をわかってもらうたしにしようと思って、薪小屋《まきごや》の中でそいつを何とか助けてやろうとしてみた、が、そいつは二、三時間のうちにすっかり蒸発してしまった。跡には何も残さなかった。ほら、あの洪水のあと、川の中に例の怪しい死体が見つかったのは、最初の朝だけだったっけね。その怪物の死体がここにあったのだ。きみのためにそれを写真に撮ろうとしてみた、ところが、現像してみると、あの薪小屋のほかには何ひとつ写っていないのだ[#「あの薪小屋のほかには何ひとつ写っていないのだ」に傍点]。あの怪物はいったい何でできているのだ? わたしはあれを見、あれに触りもしたし、あいつらはみな足跡を残した。体が物質でできていることはまちがいない――が、どんな種類の物質なのか? あの姿は口ではいえない。いわば大きな蟹《かに》のような形のもので、人間の頭に当たるところに、先のとがった肉質の環《わ》というか、あるいは濃いねばねばする物でできていて触角におおわれた結び目というか、そういうものがたくさんついているのだ。その緑色のねばりけのある物は、そいつの血か分泌液だ。それにその連中は、いつでも地球にもっとたくさんくるはずなのだ。
 ウォルター・ブラウンの姿が見えない――このあたりの村で、彼がよくきたどんなところででも、彼のぶらついている姿を見かけないのだ。わたしが銃で彼を射ったにちがいない。なるほどあの連中は、仲間の死卓悅化妝水体や負傷者をいつも連れていこうとしているらしいが。きょうの午後、別になんのいざこざもなくブラトルボロの町へ入いったが、町の人たちはわたしのことをよく知っているので、寄りつかないようにしているのだと思う。この手紙は、いまブラトルボロの郵便局で書いているところだ。これがお別れのことばになるかもしれない――だとすれば、手紙は息子のジョージ・グッドイナフ・エイクリー宛てに書いてくれ。カリフォルニア・サンデ


運転してるのは

2016-12-05 15:30:16 | 日記

――以前からわたしは、昔のニューベリーポートから、母の里かたの出身地であるアーカムに、まっすぐに行ってみようと計画していた。車を持っていなかったので、いつも一番安あがりの旅程を探しながら汽車、電車、バスで旅行していた。ニューベリーポートの町で聞いたところによると、アーカムへ行くには、汽車しかないという話であった。わたしがインスマウスの名を初めて耳にしたのは、この駅の出札口で運賃が高|過《す》ぎると抗議をしているときのことであった。がっしりとした体格の、抜け目のない顔をしたそこの出札係は、その言葉使いからみて田舎者でないことがわかったのだが、わたしがしきりに安あがりの旅程にこだわっているのに同情したらしく、いままでだれも教えてくれなかった旅程があるということをそれとなく持ちだしてきた。
「そう、あすこにある、あのおんぼろバスに乗ったって、行けると思いますがね」とややためらいながら彼はいった。「もっとも、この近所の連中で、あれを利用しようってやつはあんまりおりませんが。あのバスは、インスマウスを通って行くんです――この町の名は聞いたこともおありでしょう――近所の連中が嫌がるのもそのせいなんですよ。ンスマウスのジョー・サージェントという男ですが、あのバスには、たぶんこの町からも、アーカムの町からも、あんまり客が乗らないんですから、あれでよくまあ走ってるもんだと、いっそ不思議な気がしますよ。運賃はきっと安いと思いますが、乗客は、まあほんの二、三人で――乗っているのは、いつもインスマウスの連中だけですからな。ハモンド薬局の前の――微創手術あの四つ辻のところから、そうですな、最近、時刻表が変わっていなければ、確か、午前十時と、午後の七時と、二度発車することになっているはずです。わたしは乗ったことはありませんが――いや凄《すご》いがたがた自動車らしいです」
 不吉な影のあるインスマウスの名を耳にしたのはこのときが初めてであった。普通の地図にものっていなければ、また最近の案内書にも記載されていない町があると聞いただけでも、おそらく充分に興味をそそられたにちがいないところへもってきて、この出札係がそれとなく妙なことをほのめかすのを聞くと、もうどうにも抑えきれない好奇心が強く湧きあがるのをわたしは感じた。近隣の町々に、それほど忌み嫌われるような町ならば、少なくともかなり風変わりな、どこか旅行者の注意を引くに値《あたい》するものがあるにちがいないと思った。もしもインスマウスの町が、アーカムよりも手前だったら、そこで下車してみようと思い――出札係に、なにかインスマウスの町のようすを少し聞かせてくれないかと頼んでみた。すると彼は、用心深く考えこむような調子で、かつはまた自分の話にやや得意げな面持でこう口をきった。
「ははあ、インスマウスのことですか? さよう、あれはマニューゼット河の河口にある変わった町でしてな。むかしはもう、市といったほうがいいくらいでしたよ。一八一二年の戦争以認沽證前は、たいした港でしたがねえ。ここ百年ほどのあいだに、すっかり寂《さび》れちまって、いまじゃ鉄道もありませんやね――ボストン=マサチュセッツ鉄道がそこを通らなかったところへ持ってきて、ロウレイからの支線も、数年前に廃止になりましたからな。