そしてアメリカ人の側も外国人が米国債を買ってくれるということを前提に、政府債務を増やせるだけ増やしてきた。コロナ後に世界的なインフレを引き起こした莫大な現金給付のために大量の米国債が発行されても、米国債が無秩序な暴落とはならなかったのは米国債の買い手が世界中にいたからである。
しかしダリオ氏によれば、それは変わりつつある。ダリオ氏は次のように述べている。
金融と経済の秩序は崩壊しようとしている。巨額の負債があり、増加の速度が速すぎ、現在の金融市場と実体経済はこの持続不可能な巨額の債務によって支えられているからだ。
この負債が持続不可能なのは、財政が負債に依存しているために巨額の負債を増やし続けざるを得ない債務者(例えばアメリカ)と、既に巨額の債券を保有しており、経済を支えるためにアメリカのような債務者に商品を売りつけることに依存している債権者(例えば中国)の間に不均衡が発生しているからだ。
アメリカと中国の相互依存
まず重要なのは、コロナ後の金利上昇で米国債の利払い費用が急増し、米国政府は国債の利払いを新たな国債の発行で賄っているということである。新たな国債には当然新たな利払いが生じるため、このままではアメリカの政府債務は指数関数的に増えてゆく。
また、次に重要なのは、アメリカの債務膨張の裏には中国の売上があるということである。
中国人が米国債を買い、アメリカ人に金を貸してきた一方で、アメリカは中国相手の貿易赤字を抱えているわけだから、中国人は自分が金を貸しているアメリカ人に、輸出品を売りつけてきたわけである。いわば、中国人はアメリカを通して自分のお金で自分の製品を買ってきたということになる。製品そのものはアメリカ人のものになるのだが。
そして中国でも不動産バブルの崩壊によって経済が立ち行かなくなっている。そこにトランプ大統領が、中国からの輸入に関税をかけるという脅しをかけた。アメリカは中国が信用できないため、中国から輸入していた商品を自国で作ろうとしているが、今更アメリカ人が工場で働くような製造業をやることは容易ではない。
また、中国の方でも米国債の保有を増やし過ぎたと感じている。自分のお金で他人に自分の商品を買わせるようなことは永遠には続けられない。このまま米国債の大量発行が続けば米国債の価値が毀損され、損をするのは米国債を既に持っている中国や日本である。
だから中国の方も米国債の保有を減らしたいのだが、アメリカにお金を貸さないことはアメリカが中国の製品を買えないことを意味する。
アメリカも中国も、この相互依存関係は何とかしなければならないと思っているのだが、そこから離脱することは痛みを伴うのである。
ダリオ氏は次のように述べている。
自給自足の重要性をめぐる大国同士の一種の戦争の結果、こういう状況が生じている。
ドルと米国債からの逃避
トランプ政権は、この相互依存関係の解消を強行したと言える。だがトランプ政権が中国を突き放すことは、アメリカとドルを中心とした金融秩序の崩壊を意味する。
だから金融市場では、株安の裏でドル安が進んだ。以下はドル元のチャートだが、初めは株安にいつものようにドルの上昇で反応していたものが、途中で急にドル安に転換している。

そしてこのドル安が中国と日本の米国債保有者にダメージを与えた。ドル安により米国債に含み損を抱えた日本や中国の金融機関が米国債を投げ売りしたため、株安にもかかわらず米国債が下落し、以下のように長期金利が上昇しているのである。
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