エミン・ユルマズの未来観測
顕在化した「円安不況」のリスク
円安・ドル高に終わりが見えません。円安は、日経平均株価が史上最高値を更新した理由の一つだといわれていますが、その分析は正しいとは言えません。直近では投資家のポジション調整に伴う円高がやや進みましたが、それでもこの水準の円安が続けば日本経済に深刻な悪影響をもたらすでしょうし、日本株の相場好調に水を差すことにもなりかねません。
そもそも、なぜここまで円安が進んでいるかを整理しておきましょう。背景には構造的な要因が1つと、需給面での要因が3つあると考えられます。
構造的な要因とは、今の日本が輸入に依存する内需型の経済になっていることです。従来のイメージと異なり、日本の輸出依存度は世界の中でも低く、15%程度です。一方で輸入依存度は高く、エネルギーの94%、食料の63%を輸入に頼っています。
それだけではありません。日本の各分野で今、急ピッチでデジタル化が進んでおり、AI(人工知能)やクラウドサービスなどの利用が急増しました。これらを手掛けるのは全て海外企業であるため、海外に流出する利用料が膨れ上がり、円安圧力となっています。
一方でインバウンド(訪日外国人)消費の増加は円高圧力であり、その規模は年間5兆円に達していますが、輸入の増加には及びません。日本は構造的に貿易赤字が定着していく可能性があります。
海外投資家のヘッジ円売り
この構造的要因に、3つの需給的な要因が上乗せされます。まずは日米の金利差を背景に、機関投資家が円を調達して高利回りのドル資産を買うキャリートレードが増えていること。2つ目は、新しい少額投資非課税制度(NISA)の追い風もあって、日本人による海外投資が増えて
いること。
3つ目の需給要因は、日本株を買っている海外機関投資家が、円安による為替差損を避ける(ヘッジする)ために円を売ることです。ちまたでは「海外勢は円安で日本株が割安だから買っている」とする分析が多いのですが、実際の行動は順番が逆です。「株を買うからこそ、円を売っている」なのです。
政府や日銀が本気で通貨防衛の姿勢を見せれば、海外勢もこの水準から円売りヘッジをせず、円安トレンドは止められるでしょう。しかしその姿勢は見えません。
現状は円安が進むほど、約2カ月後の岸田政権の支持率が下がるという明確な相関があります。にもかかわらず、どうやら政府から日銀への圧力は特になく、日銀の劇的な政策転換は期待できない状況です。マイナス金利を解除しても利上げ幅は0.1%に過ぎず、日米金利差は縮まりません。
円安からの転換があるとすれば、それは米国の金利が下がる場合です。しかし、少し前までは米国が春から利下げを始め、24年中に5回行うだろうとの観測でしたが、今や利下げ開始時期のメインシナリオは6月以降にずれ込んでいます。想像以上に米国の景気が強いため、大幅な利下げをする必要性が薄れてきているのです。
日本だけがインフレ悪化
現状でも、円安は日本経済にとってプラスだと主張する声は少なくありません。しかし、足元の経済データを見る限り、「良い円安」は幻想に過ぎません。
2月15日に発表された、23年10〜12月期の実質GDP(国内総生産)の1次速報値は、事前予想の年率1.4%増に対して、0.4%減というネガティブサプライズでした。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB13BC30T10C24A3000000/