異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説 『呆け茄子の花 その四十四』

2019年05月13日 21時03分18秒 | 小説『呆け茄子の花』

尚樹自身は大きなこの病院でごく数人しか名前と顔が一致しないので

「自分はそれほどこの病院で知られた存在ではない」と常々思っていた。

しかし、この病院に入院していたことや「こわおもて」というイメージが

先導しているDr.と一緒の部屋にいることに「異様さ」を感じている様で

知らぬ間に通勤・退勤の際には知らない職員に対してもあいさつ絵をするのが通例なのだが

なぜか「ほほえみ」を持ってあいさつをされることに違和感を感じていた。

そのことだけ取ってみれば、別に「悪い話し」ではないのであるが、

今の世に限らず、人の口での「伝聞」というのは、いい加減なもので

そのことで嫌な思いをする人も少なくないだろう。

また、「あいつはDr.に「すり寄りやがって!」と思う人も居るだろう。

この時の尚樹には頭にもよぎらないことであった。

しかし、この事はすでに根も葉もない恨みを買っているのであった。

 

その人は「またか・・・」というよりは「そこまでか・・・」と尚樹を思わせる。

一見、Dr.の下で仕事をしていると「シェルター」の様なモノと他の職員は

思っている様であったが、尚樹の直属の上司である、あの部長がまた無意味な

嫌がらせをするのである。

ある日、尚樹はいつものように他の職員よりも早く退勤する。

電車の中でマナーモードにしてあったスマートフォンが震えていたが

車内と言うこともあり、最寄り駅でこちらから電話をするつもりでいた。

駅に着き、改札を通り駅から少し離れたところで電話をした。

部長は「あっ尚樹さん、あの私の手元にある書類をスキャンしてください。

今すぐに病院に帰ってきてやってください、待っていますので」

とのことであった。

常識的には考えられない話しである。

病院の受付と事務所が忙しかったのは知っていたが、

職種は違うしお役に立てることはないと思って、電車に乗り込んだのである。

それも部長の部署には多くの部下が居り、尚樹のこの病院での職歴など

話しにならないくらいの面々であるのだが、

なぜ、わざわざ尚樹を呼び戻したのか?考えながら尚樹は電車の中で考えながら

病院へと引き替えしていった。

 

 

その四十五につづく

 

 

 

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