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異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説 『呆け茄子の花 その二十三』

2016年11月07日 21時31分41秒 | 小説『呆け茄子の花』

尚樹(なおき)には二つ年下の弟がいる。

尚尊(なおたか)という。

兄の尚樹とは違って、人付き合いは良いが気が強く暴力沙汰も気にしないたちだった。

その為、父親からは疎まれ、時には手を上げられることも珍しくなかった。

だが、尚樹の言うことは素直に聞き入れるという一面もあった。

尚樹にしても時折親から手を上げられる尚尊に対して慰めるという

「兄貴らしい」一面もみられ、兄弟の関係は蜜であった。

それは、尚樹が尚尊の剣道の師という一面もあったのであろう。

尚樹は道場で、他の道場生以上の厳しい稽古をつけた。

しかし、尚尊は「これは己の為」と、兄弟の意識の共有が出来ていたので、

剣道がもとで言い争いになることはなく、逆に尚尊が酒を飲めるようになってからは

兄弟で「剣道談義」に花を咲かせていた程である。

もう一つは、労災事故で片足を失った尚樹に対して献身的に尽くしていった。

事故当初は、持ち前の気性の荒さから、「会社へ殴り込む」と、言い張って

尚樹を困らせたが、再三の尚樹からの説得にようやく矛を収めた。

 

その二十三に続く・・・

 


小説 『ボケ茄子の花 その二十二』

2016年10月21日 00時07分42秒 | 小説『呆け茄子の花』

通院を重ねて、主治医と、やり取りする中で尚樹のなにを見いだしたのか、

「この病院でプログラムの進行役をやって貰えないか?」という

まさに「藪から棒」の主治医の発言に尚樹は面喰らった。

尚樹の根っからの性分である「頼まれたら断れない」ことから承諾した。

毎週土曜日、患者が昼食を食べ終わった後の13時半から90分間の

「言いたい放題、言ったことに意見しない」という

発言者の安全が担保されるプログラムであった。

尚樹はそのプログラムの「差配役」であり、参加者と同じ「発言者」でもあった。

病院からの報酬は、「図書カード1000円分」という

なんだか訳の分からぬ報酬であった。

自宅から私鉄を使って往復440円。

その当時、尚樹は「障害者手帳」を持っていなかった為、

駅に向かうのは、「市バス代往復460円」到底採算の合うものでは無かったが、

その時の尚樹にとって、重要な「お勤め」になり、

その先の「更なるお勤めの前段階」となる事を尚樹の知るところでは無かった。

 

その二十三に続く

 

 

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小説 『ボケ茄子の花 その二十一』

2016年09月19日 22時45分36秒 | 小説『呆け茄子の花』

尚樹は大学を苦渋を飲むような辛い思いをして、なんとか「卒業」したが、

精神疾患は「卒業」出来なかった。

尚樹は大学卒業後、一度入院しその入院の間に「生活保護」の申請をした。

卒業後は、生活保護を受けながらも、尚入退院しその家計は「火の車」だった。

尚樹は「金の掛からない遊び」と称して、卒業した大学にもぐっては、

講義を受講し、図書館にも通っていた。

しかし、尚樹の気持ちは「働いてない後ろめたさ」を全身で感じていた。

とはいえ、働ける精神の状態でも無かった。

その事を主治医に吐露することも一度では無かった。

 

その二十二に続く

 

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小説 『ボケ茄子の花 その二十』

2016年09月01日 22時04分38秒 | 小説『呆け茄子の花』

破産は弁護士には「日常」起こることだろうが、一般人には「非常時」だ。

尚樹は弁護士の言われるままに資料を集めたのだが、

資料が揃って、あとは弁護士が資料をまとめ、

裁判所に提出するだけだった。

尚樹と弁護士とは電話連絡だけで済んでいた。

「場合によっては、裁判所へ来ていただく必要があります。

もちろん私が同行しますし、難しい質問はされませんが、

心配しなくて良いですよ。」

尚樹には、西京地方裁判所に知人がいた。

尚樹は、今回の自己破産を知られるのを警戒した。

その旨も弁護士に告げたが、事もなげに弁護士は

「個人情報の流出は許されないので、その点も心配しなくていいですよ。」

結果が出るのは来年の1~3月の間と言われ、

尚樹は、内心「アバウトだな」と思いながらも、ただ静かに待つのみであった。

世間はもうクリスマスを終え、待ちは年末の雰囲気であった。

 

 

 

 


小説『呆け茄子の花 その十九』

2016年08月26日 21時36分33秒 | 小説『呆け茄子の花』

「西都第一法律事務所」は、繁華なビル街のひとつにあった。

いわゆる「合同事務所」であって、「個人事務所」では無かった。

事務所の立地の良さとしては、歩いて10分以内に地方裁判所があることだ。

季節は徐々に夏の盛りから、足抜けするような季節の狭間であった。

尚樹は、もはや自分の能力では裁ききれない「請求書」を

何度かに分けて、事務所に持ち込み「破産手続き」に

必要な書類、私文書、公文書を言われるがままに用意し、持ち込んだ。

しかし、その間毎度のように、『複雑性PTSD及びうつ病』から来る

「倦怠感」が容赦なく訪れ、尚樹をベッドに釘付けにして

法律事務所に行けなくなり、また「行けなかったことの罪悪感」が

そのことがまた、自分を苛むことになった。

数々の書類を見ながら、弁護士は慌てることなく言い放った。

「やはり、自己破産しかないと思いますが、心配することはないですよ。」と。