西村 洋の音楽とギター

音楽の持つ繊細、深遠、愛、ギターはこれらを表現しうる力を持っています。でもどうやって?

この所思う事等(5)

2013-09-27 22:46:12 | Weblog
そんな訳で私の20代は、様々な体験や書物では得られない知識、多くの音楽家との出会い等が乾いた砂に水を吸収するがごとく私の体内に入り込んだ年代でした。

僕は30代に入って念願の尺八を習う事になりました。ギターやピアノなどは僕を教えてくれそうな人はいませんでした。クラッシックの方は一人でもどうにかなったのですが、他のジャンル(特に邦楽や、ジャズ)については雰囲気は分かるにしても実際の所は全く駄目でした。

その頃僕が憧れていた楽器が中国の二胡と日本の尺八でした。後年、二胡はやるのですが、この時はお付き合いしていたギター専門店のオーナーに尺八の先生を紹介して戴き、尺八を勉強する事が出来ました。

僕は小学生の頃から映画が好きで良く見に行きました。信じられないでしょうが小学校生はその頃、映画館の入場料が10円でした。僕は二日か三日に1度10円お小使いが貰えたので、ほぼ毎週位に映画館に行きました。良く見た東映の時代劇では、虚無僧が登場して尺八を吹いているシーンが出てくるのです。今思えば《鹿の遠音》とか《虚空》と言った名曲でしたが、その頃はそう言った曲を聴いてワクワクしました。

やがて黒澤映画を見る頃には尺八の奏法の一つに《ムラ息》と言うのがあるんですが、それがふんだんに出て来ました。あのブオーっという空気をつんざく様な尺八特有の音の出し方です。これに痺れました。

やがて武満徹の「ノベンバーステップス」を聴いた時は震えました。横山勝也さんの尺八でした。僕はこれまでにクラシックの楽器は色々手掛けましたが、その中ではギターが一番好きです。そして次に好きなのが尺八でした。

こうして念願が叶い、月に2回ほど我が家からは2時間電車に乗って、その先生の家へ行く事になりました。もともと管楽器は何でもやっていたので指も音の出し方にも違和感なくスムースに学ぶ事が出来ました。ただ西洋音楽と違って先程の“ムラ息”の様にフルートでは雑音として嫌われる音の出し方を、邦楽では突き詰めて行って心を表現する奏法として捉えること等は、古いと言うより斬新さを感じさせました。又、小節の無い自由リズムを駆使する尺八には吹禅という言葉がある様に、楽器の演奏そのものに悟りを求める精神が根底にある所などに関しては、僕にはこれこそ音楽だと合点が行く思いをしました。

尺八を学んでいた何年かの間には、お琴や、三味線、吟詠の先生方とも合わせる等、いい経験になりました。それに恥ずかしいのですがギターを習ってくれる人は少なかったので、ああこれで尺八の生徒を取れば生活はどうにかなるな、なんて考えていました。まあ実際に何人かの人を教えることになりましたが尺八を学んだ経験はギターの演奏には大いに役に立ちました。リズムや呼吸との関係についても以前より深く追求する様になりました。又作曲の方でも日本音階を用いる曲が増えて来ました。

作曲のほうは40才を過ぎてから依頼する人も増えたせいか、沢山作る様になりましたが、この時の経験がとっても役に立ちました。

続きは後ほどにします。とりあえずお休みなさい。

この所思う事等(4)

2013-09-13 00:33:06 | Weblog
その他にも檀上先生には大切な事を教えて戴きました。一言で言うと、≪音楽理論と演奏が結びつく事で生きた演奏理論が生まれる。≫と言う事です。

演奏理論は現在では演奏家には当たり前の知識とは思いますが、当時20代の私には何もかもが新鮮で、驚異的な事でした。
ビラロボスが用いるrit.とrall.の使い分けとか、アーティキュレーションやフレージングについて、等多くの事を檀上先生から学びました。

私的な話で恐縮ですが僕はかなりの本を読んで勉強をし、又事あるごとに色々な音楽家(作曲家、色々な楽器の演奏家等)の話を聞いたりしましたが本当に自分の求めている事を教えてくれたのは檀上先生だけだと思っています。残念ながら先生は他界され、先生の教えを書いた本も出版される事は有りませんでした。先生の教えが広く行きわたっていれば日本にはもっといい演奏家が生まれていたのではないかと思っています。

世の中には多くの音楽理論書が出版されています。その中には良い演奏を求める人にはとても有益な正しくそして役に立つ記述もあるのですが、その数は少なく、又一冊の本の中で大切なことに触れているのは数行のみという本も有ります。後はどうでもいい事ばかりが書いて有ったり、中にはかえって害を及ぼすような記述が有ったりします。

膨大な記述の中から取捨選択できる能力が必要です。以前このブログにも書きましたが、出版されている楽譜に書いてある、指使いのほとんどが有害な物ばかりです。又音符その物についても、酷いアレンジで到底実演にはそぐわない楽譜まで出版されています。多分出版社には人材がいないからと想定されますが、それはまあ致し方ないとすれば、こういった楽譜を手にするギタリスト諸氏の中には発言力のある人もいるかと思います。そういう方がきちんとアドバイスをしたらいいのではないかと思います。

スーパーで売られているお惣菜等市販のものは一切口にせずすべて手作りします。というのならいいのですが実際はなかなかそんな訳にはいきません。それが楽譜となると普通はそうそう手作りと言う訳にはいきません。

まあそれで私の人生訓では無いですが今までの経験からアドバイスを書いておきます。
楽書などで何らかの記述が書いて有ったら、決してそれを鵜呑みにせず何故そうなのか、正しいのか、間違っているのではないかと言う読み方が大切です。

先程の指使いでしたら書いてある以上間違いだろうから一応参考にしながら他の指使いを探す事です。
世の中を見る目も同じです。ただし、すべて猜疑心で凝り固まって物を見ると言うのでなく、物事を正しく見抜く為にはただ鵜呑みにせず真実かどうかを考える態度が大切と言う事です。真贋の森に迷い込まず正しい道を見つけて欲しいと思っています。