第6章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史2。失われた時を求めて・・。
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グミ族(黄金毛族)のキュエールの持っていた、小剣2刀、ダブル・
シーザーが光の速さ、「シューティング・スター・スピード・ソード」の術で、
ササ族(動植物中間人族)のユグドランの顔面を、Ⅹ状に交差しつつ、通過
したのだった。もちろん、通常ならば、光の速さなぞ、かわせるはずも無く、
ユグドランは顔面をズタズタに切り裂かれて、大量出血で絶命した筈
だった。だが、顔面に深手を負ったが、ユグドランは生きていた。正に野生
動物のような鋭い勘で、危険を察知して、わずかレイコンマ何秒の差で、
攻撃を止めて、防御体制に入ろうとしていて、それが、ユグドランの命を
救ったのだった。しかし、ダブル・シーザーを天空の彼方に失い、エネルギー
を使い果たして、倒れ込んだままのキュエールと、致命傷は免れたが、顔面
に深手を負って、激痛にのた打ち回るユグドラン。相討ちといえたが、
このままでは、ユグドランの命はなかっただろう。辺りには、ユグドランや、
キュエールの他に、ユグドランに倒されたフィアーナ領兵達の死体があった
が、近くで大勢の声が聴こえてきた。新たなるフィアーナ領兵の増援部隊
だった。ユグドランがとどめを刺される可能性は、大であり、正にその命は
風前の灯(ともしび)といえたが、彼は死ななかった。邪神ハベスの申し子
なのかも知れなかった。「おい、みんながやられているぞ。あっ、リコードル
さんとこのキュエールじゃないか。おい、見慣れぬ奴がいる。まだ、生きて
いるみたいだ。よし、生け捕りにしよう。手に余るようなら、みんなの仇だ。
斬ってしまおう」と、リーダー格の男の声で、集結した領兵20数人が、
一斉に腰の剣を抜いて、身構えると、ゆっくりと、ユグドランに近寄り始めた
のだった。倒れている領兵の生死を確かめつつ、進んでいたが、誰も息を
している風になかった。「これだけの人数を、たった1人で殺めるとは、
恐ろしい奴。何者か知らんが、ここで殺しておいた方が、ゆくゆくイリアス
のためになるのではないか?」と、リーダーの言葉に、あまりに急な戦闘
状態に、興奮している領兵達の誰もが、「そうだ、そうだ。こんな強敵は、
今ここで、始末しておいた方が、我らイリアスのためだ。殺ってしまおう」
「そうだ!」「その通り!」と、口々に応じる声。一瞬で、ユグドランを、
生け捕りから、とどめを刺す方針に決まってしまっていた。殺気を感じて、
何とか血みどろの顔を上げるユグドラン。だが、激痛で身体の制御がきか
ないでいた。(クソッ。ここまでか。)心で舌打ちするユグドラン。しかし、
まだ、天は見放してはいなかった。正に飛びかかろうとしたその時、「止めて
下さい!いくら、国のための戦いとはいえ、もう、戦う力のない人を大勢で
殺すなんて、卑怯な真似は止めて下さい!この人は私が連れて行きます
から」と、血まなぐさい戦場に、突然現れた可憐な花のような、少女。それが
後に、ユグドランの正妻になり、リオンを産むことになる、ミーザ族(花紋族。
身体のどこかに1つか、数ヶ所、生まれつき、花の形のあざがある種族
だった。)のリリイヤ達数人が、マリウス教、布教のための旅で偶然、
おおぜいの血が流れているのを発見して、リリイヤが仲間の忠告を無視
して、単身、白い毛並みの愛馬・シジュールとともに、割って入ったの
だった。根が優しい者が多いイリアスの兵達。ピンク色の髪の毛に、黒い瞳
に白い肌。その小柄で、華奢な身体を、マリウス教の女性信者の特有の
焦げ茶色の大きなストールの下に、白色の着物に、足首が完全に見える、
少し短めの白いズボンを履いていた。足元には、少しくたびれた黒色の
サンダルがあった。リリイヤの大きな瞳に、誰もが惑わかされたのか、
彼女の両の眼が、光を失っているのを、気付く者は1人もいなかった。
「異存がなければ、この人は、わたしが連れて行きます。それでは、失礼
します」と、強い口調でそう言うと、リリイヤは念動力で、ユグドランを宙に
圧し上げて、シジュールの背にゆっくりと乗せたのだった。そして、繊維放出
師のリリイヤが、その巨体を具現化させた縄で、シジュールの背中の後ろの
上部にあっという間に括りつけたのだった。領兵達が唖然とする中を、
リリイヤ達は悠然と、去っていった。ユグドランがみすみす逃れてゆくのを、
もし、キュエールが正気なら、なんとしても止めていただろう。正に運命の
転換点だった。だが、気絶したままのキュエールが、止められるわけもなく、
この展開を詳しく知ったのは、ずっと後になってのことだった。「おい、女・・
俺を助けたことを・・後悔するぞ・・」「怪我人は静かにしておいて下さい」
と、ユグドランの途切れ気味の言葉を、恐れなく遮る、リリイヤだった。
((お蔭様で、なんとか退院できました。声帯の腫瘍の切除手術でした。
癌でなくて良かったです。これからもよろしくお願いいたします。
ご心配、ご迷惑をお掛けして、本当に済みませんでした。
次回に続きます。))