第9章 新たなる脅威。それでも前を向いて進め!(4)
マリアは異変を感じて、別れたばかりのセゾン達の安否はもちろん、
死んでしまっている、マルルの両親、父親、リザ族(高体温族)のブルーノと、
母親イユエラの遺体の行方も心配だった。だから、まだ疲れの取れていない
身体に、ムチを打つような覚悟で、さっきの場所へと跳んだのだった。
生死ギリギリの危険な所だと承知の上で。マリアの後を追って、銀色の毛の
愛馬・アヌエールの背中に乗って駆け出したのは、女ながら、元?クトール・
アンティーヌ隊の副隊長ヘミュ族(変化髪族)のルチリアであり、その後ろ
からは元同隊、第1班長のマロ族(白色角族)のセプテムが、その巨体を
大きく揺らしながら、吹き出る汗もお構いなしで、徒歩で精一杯走っていた。
その頭の中には、会ったばかりのマリアの顔が。何故か、生き別れたままの
妹、ユジャーヌの面影を重ねて思い浮かべていた。だから、マリアの生死が、
ユジャーヌの運命を握っているかのように、思えてならなかったのだ。(俺が
行くまで、生き延びていてくれ。姫様!)と、心の中で、激しく叫んでいた
のだった。
パロダムス診療院本部の中。傷ついて収容されていたラース族(透明化
族)のファルガー。男性専用室の中で、その長く伸びた銀色の髪にひげ。紫色
の眼で、薄緑色の着物を着せられていた。広い木の板の上、その隣に座って
いる同じく収容されていて、同じ着物を着た義弟のヨーグ族(両性子族)の
ミノメを視ながら、呟いた。「ミノメ。ここはもう危ないみたいだな。これ以上
は迷惑を掛けられまい。ここを出よう。どうだ?」と。白い髪に白い肌。青い瞳
のミノメに問い掛けたのだった。(彼は雌雄同体で、青い眼の時は男性。赤い
眼の時には、女性の身体になっているが、本人の強い希望で、兄、ファルガー
と同室に居たのだ。)「そうですね。確かにここに居ては危ないし。何より
我々はここでは足手まといですからね。」と答えたのだった。言葉を続ける
ミノメ。「それにしても、昨日まで一緒に居た、トートさんは何処に行かれた
のでしょうね。あの容態では心配です」と。だが、ファルガーは知っていた。
昨夜遅くに、急に起き出して、この部屋を出ようとするトートを呼び止めた
ファルガーは、その表情にある意志を感じた。決死の覚悟を。「短い間では
あったが、世話になったファルガー殿。弟殿と末永く仲良くな。わしのことは
このまま見逃してくれ。これがこの国を救う、わしができうる最後のご奉公
なのだ。黙って行かせてくれ。頼む」と。この大部屋の中。弟ミノメをはじめ、
他の男たちは誰もが熟睡しているようであった。ファルガーは深くお辞儀
をして、出て行くトートを見送ったのだった。「今は騒然として、ここには、
誰の眼も行き届いていない。出て行くなら、今が好機だ。行くぞミノメ」と、
急に立ち上がって、ミノメの手を引っ張るファルガー。戸惑いと未練がある
ミノメだった。そして、その未練とは、かいがいしく働き、ここにも見に来て
くれる看護係の女の子、ガッシュ族(鉄犬歯族)のエルメーターのことだった。
出会ってすぐに2人とも、心に密かな恋心が芽生えていたのだった。
オレンジ色の髪の毛で、黒い瞳に褐色の肌。すらりとした身体に、薄桃色の
上下の服を着ていたエルメーター。女性ながら、身長175センチくらいの
長身のエルメーターと、160センチに満たない小柄なミノメ。見た目は正に
男女逆転だったが、2人にはどうでもいいことだった。エルメーターは母親の
セーナとともに、クトールから、命からがら逃げて来ていた。夫であり、父親で
ある、ガッシュ・ハーケンは、兄のゲルケンともども、クトールの黒制服士団
の先の団長、ガッシュ・ドールゴと、その息子で、今の団長のドールレイの
2代に仕えていた。イリアスの裏部隊・イマージュの先の総帥・グミ族
(黄金毛族)のキュエールの命(めい)で、若い内からクトールに潜伏していた
のだ。イリアスのスパイだったが、手違いで、その魂を、ゴリラの身体に憑依
させられたゲルケン、ハーケンの兄弟。2人は最近、非業の死を遂げた
のだったが、セーナも、エルメーターも、肉親がそんなことになっている
とは、夢にも知るよしがなかった。ファルガーはミノメの気持ちを知っては
いたが、あえて黙殺しようとしていた。何故なら、彼女、エルメーターは
申し分のない娘ではあったが、ファルガーの長年培ってきた感性が、危険な
信号を、脳内に送って来ていた。(この娘は危険だ!)と。それにファルガー
は焦っていた。自分の命が、残り少ないことを、感知していたからだった。
((いつもお待たせして済みません。まだまだ、精神的に不安定で、
心配掛けてごめんなさい。なるべく、次は早く出来るように
頑張りたいです。いつも、出来なくて済みません。それでは又。
次回に続く。 ))