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プライドとプライド 

マリア達、普通の心の者たちと、
クトール軍団達、よこしまな心にとらわれし者たちとの地球を含めての空間争奪戦だ!!

プライドとプライド 改

2011年09月06日 20時56分15秒 | Weblog

  第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(18)

       しかし、グミ族(黄金毛族)のカミュエルの方もまんざらではなかった。

   師匠であり、実の父親でもある、グミ・キュエールの同じ弟子で、親友でも

   あった、ユーコ族(調節眼族)のルペイジの妹のユーコ・サヴォーヌを、

   密かに想っていたが、キュエールによる、ルペイジの左眼失明事件のため

   に、もちろん、絶縁状態になり、サヴォーヌとも会えなくなっていた。(その

   直後に、サヴォーヌがクトールの襲撃に会い、間一髪、ルペイジによって、

   命は救われたが、両腕を切断されて、危うく死にかけたことは、知りもしな

   かったが。)もちろん、サヴォーヌと、友里可は見た目は全然似ていないが、

   何故か、サヴォーヌの面影を、友里可の中に見る思いのカミュエルだった。

   そして、つい、出来上がったばかりの偽造の名刺、江藤亨という偽名入り

   で、おまけに電話番号無し、住所なし、偽名のソール企画の社名と、メール

   アドレスだけが、記載してあるのを渡しながら、「しがない、フリーの記者

   だけど、何か困ったことがあったら、このアドレスにメールして」と、言い

   残して、友里可の前から消えたのだった。彼女からすれば、得体の知れない

   自分になぞ、連絡はくれないだろうと、確信しながら。だが、数日後、彼女の

   方から連絡のメールが、届いたのだった。「わたし、今日は仕事休みです。

   もし、良かったら、どこかでお茶でも、飲みませんか?」と。この世界に潜伏するために、

プライドとプライド 改

2011年09月06日 20時56分15秒 | Weblog

  第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(18)

       しかし、グミ族(黄金毛族)のカミュエルの方もまんざらではなかった。

   師匠であり、実の父親でもある、グミ・キュエールの同じ弟子で、親友でも

   あった、ユーコ族(調節眼族)のルペイジの妹のユーコ・サヴォーヌを、

   密かに想っていたが、キュエールによる、ルペイジの左眼失明事件のため

   に、もちろん、絶縁状態になり、サヴォーヌとも会えなくなっていた。(その

   直後に、サヴォーヌがクトールの襲撃に会い、間一髪、ルペイジによって、

   命は救われたが、両腕を切断されて、危うく死にかけたことは、知りもしな

   かったが。)もちろん、サヴォーヌと、友里可は見た目は全然似ていないが、

   何故か、サヴォーヌの面影を、友里可の中に見る思いのカミュエルだった。

   そして、つい、出来上がったばかりの偽造の名刺、江藤亨という偽名入り

   で、おまけに電話番号無し、住所なし、偽名のソール企画の社名と、メール

   アドレスだけが、記載してあるのを渡しながら、「しがない、フリーの記者

   だけど、何か困ったことがあったら、このアドレスにメールして」と、言い

   残して、友里可の前から消えたのだった。彼女からすれば、得体の知れない

   自分になぞ、連絡はくれないだろうと、確信しながら。だが、数日後、彼女の

   方から連絡のメールが、届いたのだった。「わたし、今日は仕事休みです。

   もし、良かったら、どこかでお茶でも、飲みませんか?」と。この世界に潜伏するために、

プライドとプライド 改

2011年09月01日 22時29分04秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(17)

         陣内真弓(じんない・まゆみ)の剣幕の圧されて、口を開こうとした

   辰神雄介(たつがみ・ゆうすけ)。その時、横から、「ごめん。待たせて。

   ちょっと、仕事が溜まっていて、さあ、結婚式について、すこしだけ、打ち

   合わせしておこうか。俺と、友里可(ゆりか)の。なあ、雄介。あっ!婦長さん

   ですか?いつも、友里可がお世話になっています。申し遅れました。俺、

   いや、わたくしは、日の本テレビの報道カメラマンの江藤亨(えとう・とおる)

   という者です。友里可の婚約者です。彼女は結婚しても、看護の仕事は

   続けるつもりらしいので、わたくしともども、これからもよろしくお願いいたし

   ます。済みませんが、プライベートの話し合いですので、しばらく、席を外して

   いただけないでしょうか?婦長」突然現れて、一気にまくしたてる、薄い黄色

   の半袖シャツに、白いジーンズに足元、茶色のレザーシューズで、胸元に

   高価そうな黒色カバーの一眼レフのカメラをぶら下げている。それが、江藤

   亨だった。「3人はお知り合いなのね?これは失礼しました。今、休憩を

   取っていいから、終わったらすぐにナースステーションに戻ってね。では」

   急な出来事にとまどいは隠し切れない真弓だったが、精一杯の笑みを

   浮かべて、亨、雄介に軽く会釈すると、真弓は背を向けて、又、階段を

   上っていった。「ふう~っ」と、大きく溜め息をつく雄介。そして、「友里可

   ちゃん。恋人いたんだね。紹介して・・」雄介が言葉を続けようとして、バシッ

   という音に驚いて、友里可と、亨の2人の方を視た。視ると、友里可が亨の

   頬を引っぱたいていたのだ。「もう、しばらく姿が見えないと思って、ずっと

   心配していたのに。日の本テレビのカメラマンなんて、聞いていないし。

   何よ。結婚って?わたし、承諾した憶えなんかない」と、怒って、去ろうとした

   友里可の右腕を掴んだ亨。「痛いわよ。離して・・」その手を振りほどこうと

   して、亨の手のぬくもりから、ある意識が、友里可の脳へと流れ込んで

   来た。友里可が思わず、「雄介さん。こっちに来て」と、彼を呼んで、今度は

   友里可が、左手で彼の右腕を掴んだのだった。亨(グミ・カミュエルの

   変装。)の意識が、手を通して、雄介の脳にも流れ込んだ。(ごめん。今まで

   騙していて。こんなこと言える義理ではないんだが、この際、無理は承知で

   2人にお願いしたい。この世界に恐ろしい危機が訪れようとしている。

   ひょんなことから、この世界に関わりを持った我らだが、できうれば、我らの

   戦いに、この世界を巻き込みたくはない。2人なら信頼できそうだ。頼む、

   力を貸してくれ。この世界で、動き回るには、我らは制約が多すぎて、身動き

   が取れないことが多いのだ。頼む。実はわたしは・・」と、カミュエルは

   アメリカ大陸から徐々に迫り来るクトールの脅威(謎の宗教団体を隠れ蓑

   にしての。)を早めに、摘み取っておきたいと焦ってもいた。部下も多くが

   アメリカの地で、消息を絶っていた。人手が絶望的に不足していたの

   だった。時間的猶予ももうない。そこで、思い切って打ち明けるつもりなど、

   まるでなかった正体を、2人に明かしたのだった。正に信じられない衝撃的

   な話を聞いて、動揺する2人だったが、すぐに冷静さを取り戻した雄介が、

   「わかりました。職務に支障が出ない範囲でなら、ご協力させていただき

   ます」と、肯定の会釈をした。ただ、友里可は違った。(ただ、わたしを利用

   するためだけに、この人はわたしに近付いた。わたしの心をもてあそんだ。)

   と、怒りよりも、深い悲しみが、友里可の全身を包み込んだ。8ヶ月ほど前の

   今年の正月。慌しい3が日の夜勤明けの1月4日の早朝、疲れた身体を

   ひきずって、家路を急ぐ友里可。空気がとても冷たくて、暗い静寂の中。

   朝一番の電車を降りて、後わずかで、自宅のアパートだというその手前の

   道路の真ん中で、友里可は妖しい3人組の男達に襲われたのだった。頭に

   すっぽりとかぶった黒い覆面に、黒づくめの服装の男達に。彼らが実は
  
   黒制服士団の下級兵士達だったとは、知るよしもない友里可。いろいろと

   クトールの動きを探っていたカミュエルが、偶然、にも、友里可の危機を、

   視てしまった。本当は、敵に悟られないように、放っておくべきだったが、

   非情に徹しきれないカミュエルは、ついつい、男達を叩きのめして、友里可

   が恐怖で気を失っている間に、3人を拷問にかけるべく、イリアスの自分の

   アジトの1つに転送したのだった。そして、友里可の肩をゆさぶって、

   「お嬢さん。もう、大丈夫ですよ。あいつらは追い払いましたから」と、

   起こそうとした。すると、ゆっくりと眼を開いた友里可は、カミュエルの端正な

   顔立ちを視て、何故か、全身に電流が流れるような衝撃を、覚えたの

   だった。(( 次回に続く。 ))

プライドとプライド 改

2011年08月26日 12時57分57秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(16)

          「おいおい、勝手に触ると、ただの火傷では済まないぞ。炎剣の

   名前は飾りじゃないぜ」と、ファルガー。炎剣・ファガートをからみとった

   ガッシュ・ミッシングのしっぽは、燃え出していた。あわてて、離した。

   「おのれ。だが、逃がさんぞ」と、口の牙で右手の糸を次々と噛み切って

   いった。鎖が凄い力で引っ張られて、ファルガーは徐々に、ミッシングの方に

   引き寄せられていった。鎖は締め付ける力も倍増して、激痛で倒れて

   しまったファルガー。なんとか、最後の力を振り絞って、念動力でファガート

   を操作して、ミッシングの身体に突き立てようとした。そこへ、「何、苦戦して

   いるんだよ。ミッシング。手伝おうか?」と、2本のファガートを蹴り飛ばした

   新手の大男、同じ黒服士団のマロ族(3本角族)のトリケトーラ(がっちりした

   体格で、黒いスーツは嫌って、ハリネズミのような、前も後ろも、棘だらけの

   黒い鎧に、黒い短パン。両足には黒いブーツを履いていた。頭に黒い3本の

   角、髪は銀色で、褐色の肌にレモン色の目が、笑うように、ミッシングの右・

   透明、左・黒のサングラスの右のナイルブルーの目を視たのだった。(残念

   だが、ここまでか。)と、薄れ行く意識の中で、亡き父・アロエード、亡き母・

   マリーナの顔が浮べながら、覚悟を決めるファルガーだった。

     「マズイ、誰か来るぞ。ひとまず、ここまでで止めておこう」と、この病室

   にやって来る数人の気配を感じて、刑事の辰神雄介(たつがみ・ゆうすけ)

   と、看護士の側野友里可(かわの・ゆりか)と、マリアの姿に化けている同じく

   刑事の柏木操(かしわぎ・みさお)の3人はあわてて、ベットの下にグッタリ

   したままのトートを隠して、改めて操が布団に潜り込んだのだった。間一髪、

   ノックの音がして、ドアが開いて、婦長の陣内真弓(じんない・まゆみ)が、

   2人の男女を連れて入って来た。「失礼します。あらっ?何かあったの?

   側野」と、訊く真弓に、「いえ、こちらの刑事さん達に、患者さんの容態は

   どうかと、尋ねられたものですから、変わったことはありません。容態は安定

   していますと、お答えしていたところです」と、返す友里可。「ええっ、ああいう

   おかしな事件があった所ですから、精神的ダメージも含めて、訊いていたん

   ですよ」と、フォローする雄介。「そうですか。ご苦労様です。ですが、

   プライベートな面会ですので、少しの間、席を外していただきたいのですが」

   と、女性としては大柄な、そして、身をピンク色の看護服で包み込んだ真弓

   が、後ろの2人を視ながら言った。1人は淡い空色のワンピースに、白い

   パンプス姿のマリアの叔母のマリノフ・矢吹・結子(やぶき・ゆいこ)と、真弓

   の息子で、マリアと同じG高校で、1年先輩の3年生の陣内大河(じんない・

   たいが)が、長い黒髪に、その痩せた長身を、半袖の黒いジャケットに、白い

   Tシャツに着て、下には、ベージュのカーゴパンツに、パープルのスニーカー

   を履いていた。その2人が心配そうに、ベッドの中を、マリアの様子を窺う。

   「どうぞ、どうぞ」「失礼します」と、雄介と、友里可はあわてて、病室を出て

   行った。その背中を訝しげに視ながらも、気を取り直して、「では、わたくしも

   失礼いたします」と、(なんなら、あんたもすぐに席を外しなさいよ。)と、息子

   の大河に目配せしながら、真弓も出て行った。操は布団の中で、気が気で

   なかった。(困った。わたしが偽者だとバレたら。それにもし、下の男の人も、

   見つかったらどうしょう?)と、パニックになりそうだった。一方、病室を出た

   雄介と、友里可の2人は、廊下を渡って、 階段を降り、すぐそばの自動

   販売機の前で、人影がいないのを確認してから、密談に入った。

   「どうしょう?このままじゃ、操がヤバイよ」「そうだな。仕方ない。すべてを

   話して、あの2人にも協力をお願いしよう」「え~っ!大丈夫かな?信じて

   もらえるかな?」「信じてもらうしかない。俺が話すよ」と、階段を上がろう

   とした2人は、上から、階段を降りてくる真弓に会ってしまった。「刑事さん。

   それに側野。2人でこそこそと、一体何をしているのですか?」と、問い

   詰めらてしまった。そう問われて、どう言えばいいのか?返答に困る2人

   だった。いい加減な答えでは許さないという、強い眼の力を発している

   真弓だった。(( 次回に続く。 ))

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2011年08月25日 00時02分54秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(15)

       「よう!弟よ。久し振り。それにしてもまだ子供か。いいな。年を取る

   のが遅くて」と、聴こえてきた懐かしい声。ヨーグ・ミノメの重い心が晴れる

   ようで、顔を上げて前を視た。そこには、ぐったりした少女エム・シャルーダ

   を背負って立つ黒サングラスに、黒スーツの男、ラース族(透明化族)の

   ファルガーの姿が。「ど、どうしてここへ?」と、あまりの嬉しさに、思わず

   声が裏返るミノメ。「まあ、今はこういう状況だから、長い話は止すが、お前も

   知っているとおり、俺はイリアスを裏切った。クトールの黒服士団のガッシュ・

   ドールゴに拾われて、その配下になった。が、その息子、ドールレイに

   疎まれて、又、裏切ったろくでなしだ。そして、狂死ウィルスに感染して、死に

   かけたのを、イリアス?の女の子、マリアに助けられた。だから、今までの

   影ながらではなく、表舞台で堂々と動く。そのせいで、イリアス、クトールの

   両方から、命を狙われる羽目になって、死んだとしても本望だ。あのまま

   では、どうせウィルスのせいで、命を落としていたのは間違いない。だから、

   イリアスに敵視されても、イリアスのために生き、イリアスのために死んで

   いく。それが今の俺の覚悟だ。徐々に回復して、身体が動くようになって

   きた。そうなると、さすがにいつまでも、パロダムス診療院には、いられ

   ないだろう。だから、出てきたんだ。そして、俺の能力、1度に5分ほど

   なれる、透明人間。それで、危険を承知で、クトール領内に侵入して、

   あちこちの話を盗み聞きして、確信はないが、このルルイエ監獄内に、

   王、王妃が囚われているのではないかと、推測して、跳んできたという

   わけさ。だが、跳んでくると、この女の子が、こいつらの餌食になりそうだった

   ので、つい、余計なことだが、助けてしまったんだ」と。視ると、床の少し

   向こう側で、アル・フォーゼス大僧正のお抱えの料理長、アル・スパイサー

   と、その助手、3人が意識を失くして倒れていた。ファルガーにのされたのは

   明らかだった。「心配するな。ちゃんと手加減はしてある。殺してはいない。

   こいつらは気絶しているだけだ。それより、その方はエウロヴァ王妃だな。

   それなら、後は王、アンディスだけだな。お前は悪いけど、この子と、王妃と

   ともに先に行け。運が良ければ、又会えるかもな」と。ミノメが言い返す間も

   なく、シャルーダを押し付けられ、ファルガーの強力な念動移動力で、3人は

   空間内を跳んで、消えていった。「そんな!せっかく、又、会えたのに・・・」

   とのミノメの悲痛な言葉とともに。その時、背後から、「八つ裂きにしても

   足らんぞ。裏切り者め」と、ファルガーを罵倒する声。それは、元仲間、

   黒服士団のガッシュ族(鉄犬歯族)のミッシングだった。おなじく、正装の黒

   スーツを着ていたが、小柄だが筋肉隆々の身体に、みずから切り落した

   右腕は、肩から先が金属製のメタル・アームで、手首から先が、普通の人の

   2倍はある手のひらに、2倍はある長い5本の指が、巨大シャベルカーの

   アームのようで、不気味に黒光りしていた。「この手で、その肉を裂き、この

   牙でその骨を砕いてくれる」と、言うが早いか、あっという間に、敏捷な動作

   で、間合いを詰めてきた。ファルガーも、両手の人差し指の赤い指輪を、

   具現化させて、2つの炎剣・ファガートをニ閃。だが、硬質なメタル・アーム

   が、弾き返してしまう。「この特殊合金の腕に、剣は通じないぞ。くたばれ!」

   間一髪かわしたファルガーは、ショート・テレポートで距離を取ると、繊維

   発生師として、2つの剣を上空に投げ上げて、その一瞬の間に、「スレッド・

   ターン・アラウンド」と、メタル・アームめがけて、両手のひらから、たくさんの

   糸を放出させて、メタル・アームをグルグル巻きにして、動きを抑えたの

   だった。「フン。それで勝った心算か。悪いな。左腕も交換したのだ」と、

   喜悦の表情のミッシング。左手のひらの中心が穴が開いて、中から鎖が

   出てきて、今度はファルガーの全身をグルグル巻きにして、捕らえてしまって

   いた。だが、上空にあった2つの炎剣・ファガートが、ファルガーの念動力

   で、急降下して、ミッシングに襲い掛かったが、「悪い。悪い。術が使えない

   俺様だから、ついでにしっぽも付けました」と、急に?現れたしっぽで、2つの

   炎剣・ファガートをからみとったのだった。(( 次回に続く。 ))

   

   

   

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2011年08月20日 22時20分26秒 | Weblog

  第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(14)

     「さあ、明日は農作業をしなくてもいいぞ。領主フィアナ公(アドラス)様の

   お触れで、みんなで、夏の暑さを忘れるための納涼の地、北のはずれの

   イダーレに行けるぞ。2泊3日の強行軍だがな」と、夏の暑いある日の朝、

   父・アロエードのガラガラ声が、ラース家総出で行なっている広い農場に、

   響き渡ったのだった。それを聞いた皆が、一時歓声を上げたのだった。まだ

   8歳と5歳と幼いファルガー、ミノメも手伝っていたが、嬉しさがこみ上げて

   きて、手を止めて、2人はそこら辺りをはしゃぎ回っていた。毎年の暑い夏の

   時期に、日頃の領内の農民たちをねぎらうために、行なわれる大移動

   だった。それが出来るのは、君主国家で軍制が敷かれているとはいえ、周り

   に紛争がなく、長く平和な時が流れているおかげだった。しかし、それが

   悲劇の始まりになるとは、イリアスの人々は誰も思わなかったが。

    次の朝、たくさんの農民たちが、奥さんや子供や下働きの者など、身内を

   大勢連れていた。また、それぞれの父親も、形だけの武器、木刀を腰紐の

   間に差していて、その周りを、フィアナ領兵が、これも軽装で、軽めの剣や、

   短槍を持って、護衛して貰いながら、集団の前後は少数の騎馬隊も動員

   するという物々しさだったが、イリアス王アペスト(アンディスの父親)が、

   周りの諸国と協定を結んで、早、3年余りが過ぎていて、(イリアス暦・1038

   年。西暦・1988年。20年少し前の出来事。)警備に油断があったことは、

   完全には否定出来なかったが。だが、隠密裏に、イリアス。オレオ王国殲滅

   の陰謀が着々と進められていたのだった。イリアスの元最高貴族・侯爵で、

   欲深く、振る舞いが傍若無人で粗暴なために、国外永久追放になった

   のが、エム・ディマーナル侯爵とその一族だった。(後の恐怖の帝国・

   クトールを建国した、クトー・ディマーネの前の名前。)助命されたのは、

   本人ではなく、ひとえにその先祖たち、ディマーネの祖父、父、その郎党など

   が、イリアス王国防衛に多大なる貢献をした。その大忠義に免じての王・

   アペストの寛大なる処置だった。多くの臣下の反対を押し切っていたが。

   まさにそれが大裏目に出たのだったが・・・。ヨーグ・ミノメの恐ろしい運命

   が始まった。まさにその日だったが。大事件が起こる直前まで、暑い日射し

   が辺り一面を照らしながらも、どこまでも蒼い空、時々吹くそよ風が、気持ち

   のいい、穏やかな風景だった。しかし、悪魔の牙がすぐそこで、開けられよう

   としていたのだった。

    ミノメは頭を左右に振って、追憶を追い払っていた。今は緊急事態。

   さきほどの女男?があてにならない以上は、自力でこの悪の巣窟から脱出

   しなければならない。イリアスの大事な現王、王妃を伴って。もちろん、

   やりきらなければならないことだが、どう考えても、絶望的状況だった。

   あれから、20年余り。ファルガー兄さん達とは、あの混乱の中、はぐれて

   しまっていて、エム・シャルミ公女の手下たちに襲われたのだった。ただ、

   その場で、棍棒で叩かれて、動けなくなったところを、数人の女たちに押さえ

   込まれて、その背中に呪いのタトゥーを刻み込まれた。激痛で薄れ行く記憶

   の中、ボス格の黒尽くめの女から、「おい、子供よ。そのタトゥーは我らの者

   でないと永久に消えぬ。喜べ。人よりも時の流れが遅くなれる。もし、

   うまくいけば、とても長生きできるぞ。もっとも、お前の生殺与奪は我らが主、

   シャルミ公女様しだいだ。ゆめゆめ、我らから逃れられると思うなよ」と。

   そう捨てゼリフを残して、女達は消えたのだった。その後、運良く、危難を

   聞いて駆けつけた、フィアナ公の領兵の後方部隊によって、生き残った

   わずかな者の1人となったミノメ。だが、そこからが地獄の始まりだった。

   普通の人の5倍くらい、年を取るのが遅れ出したミノメ。20年立った今も、

   子供のままで、まさに9歳くらいの小柄な身体だった。これではまともに

   戦えるはずもない。しかし、背中に伝わるぬくもり。エウロヴァ王妃の体温

   だった。恩義があるミノメ。なんとしても、助け出して差し上げたい思うが、

   ゆっくりと進む廊下のすぐ手前を、塞ぐ人影に気付いて、全身に緊張が走る

   ミノメ。子供ながら背負った王妃。汗が滴る背中には、青色の大蛇の呪いの

   タトゥーが浮かび上がっていたのだった。(( 次回に続く。 ))  

   

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2011年08月16日 22時58分39秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(13)

       「驚くことはなかろう。お前と同じだ。ただ、僕はヨーグ族の血が、半分

   だけ流れている。生まれてきてはならない、禁断の子だ。だが、姉、エム・

   シャルミ公女から、妹と認められて、今の生がある。さあ、もう、お喋りも、

   共同戦線も終わりだ。姉のため、目障りなフォーゼスを始末出来た。

   ただいまからは敵同士。今だけは見逃してやる。さっさと去れ」と、オレンジ

   色に戻った冷たい眼で、ミノメと、エウロヴァを促した。「ありがとう。

   シャルーダさん。でも、その剣は強さともに、使い手に負担の大きい妖剣・

   ラヴァーニ。充分に気をつけて下さい。では、ごきげんよう」と、エウロヴァの

   言葉の終わりが合図のように、ミノメは、彼女をおぶったまま、歩き出して

   いて、やがて、部屋の外に出て、シャルーダの視界から消えたのだった。

   シャルーダは大きく肩で息をして、そのまま、しりもちをついて、膝を抱えて

   座り込んでしまっていた。実は立っているのでさえ、苦しいほどに、力を使い

   果たしてしまっていたのだった。厨房の隅の大鍋は、空焚き状態で、煙が

   舞い上がっていた。主人、フォーゼスの遺体を見捨てて、いつの間にか、

   料理人兼護衛の、アル・スパイサーと、助手3人は、姿を消していた。

   今なら、難なくシャルーダを倒せるというのに。

    「姉者(あねじゃ)。今なら、シャルーダを殺(や)れますよ。どうします?」

   と、ここはエム・シャルミ公女の私邸の中の休憩のための居間。そこで籐の

   椅子に、シャルミ公女と、下の妹のシャループの2人が、それぞれに座って

   いて、壁のはめ込まれている大きな楕円形の鏡の中を、覗き込んでいた。

   鏡の中では、なんと、今のシャルーダの戦いの一部始終が、漏れなく映し

   出されていたのだった。「シャルーダの奴。姉者から頂いた、妖剣・

   ラヴァーニを早くも使いこなしているし、フォーゼスが消えたのはいいです

   が、同士討ちでは、クコンラ王の親衛隊どもが黙っていますまい。今が始末

   の時では?」と、2人の幼い少女、1人は10歳、1人は6歳くらいが、

   大人びた恐ろしい会話をしていた。それも、どうやら、小さな6歳の方が、

   シャルミ公女であったが。「まあ、まだよい。使い道があるし。あやつの細胞

   も欲しい。だが、いざとなれば、真(まこと)の妹のお前に任せよう。

   シャループ。わかっておるぞ。あやつ、男女のシャルーダを、殺りたくて仕方

   がないのだろう」「いいのですか?ありがとうございます!あやつは所詮、

   我らとは違いまする。妙に偽善者ぶる所があって、嫌いです」と、平伏して

   答えるシャループ。「それと、王妃らを捕まえなくていいのですか。何なら、

   わたくしが・・」と、申し出るシャループ。2人は、まるで合わせ鏡の様に

   似ていた。エム族(長耳族)特有の紫色の長髪の両側にそそり立つ、白く、

   内側がピンク色のまるでうさぎのような長い2つの耳に、オレンジ色の瞳。

   そして、長い鼻、赤い唇に、透きとおった白い肌。おまけに御揃いの衣装。

   黒マントに、黒いドレスに、足には赤いショート・ブーツを履いていて、そっくり

   な面影だった。だが、禁忌のエム族と、ヨーグ族の合いの子のシャルーダ

   だけは、長い耳は無く、普通の形態の耳であり、顔つきも2人よりも、より

   細長くて、彫りが深く、切れ長の眼をしていたのだった。「よいよい。

   泳がせた方が、確実に見つかるというものだ。王冠の行方がな。奴等は

   かならず、その隠し場所に行く筈。誰でも、大切な物ほど、時々は確認しに

   行きたくなるもの。そうではないかのう?シャループ。我が可愛い妹よ」

   「なるほど。仰せの通りでございますな。姉者」と、可愛い?だけに、その

   笑顔が不気味に映る2人は、微笑み合っていた。まだまだ、エム3姉妹?

   には深い謎がありそうですが、その謎解きは、今、この場ではなく、又の

   機会に追々と、解いていくことと、いたしましょう。(自分が、忘れていな

   ければのことですが・・。)

    エウロヴァ王妃を背負いつつ、必死で歩くヨーグ・ミノメは、こんな非常時

   に、ただただ、幼い日の出来事を思い出していた。アル族本家の未来の

   当主、アル・ジャンテ・トートに出会った日のことを、生まれてすぐに捨て

   られて、農家の家にもらわれたミノメ。だが、暮らしは決して苦しくは

   なかった。イリアス王、アンディスの弟君、フィアナ公アドラスの領内で、

   養父、ラース・アロエード、養母、マリーナ、義兄、ファルガーの3人で畑仕事

   をして、仲良く暮らしていた。突然、クトール(頭首・クトー・ディマーネ)の

   侵攻が、始まるまでは・・。(( 次回に続く。 ))    

プライドとプライド 改

2011年08月12日 21時15分01秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(12)

      「だから、どうだというんだ。僕には関係が無い。見逃してやるから、

   さっさと失せろ!」と、男に変化したシャルーダが、蒼い冷たい眼で、

   エウロヴァ王妃と、ヨーグ・ミノメの2人を視た。「確かに。あなたはあのエム・

   シャルミ公女の妹?なら、イリアスに取っては、許されざるにっくき敵だ。

   次に会うときはどちらかが、死ぬ時だな。今はありがとう。さらばだ。おきさき

   様。さあ、王様を助けに行きましょう」と、エウロヴァを促すミノメ。だが、「何

   をのん気に話しているんだ。俺様はまだやられてはいないぞ」との声に、

   驚いて振り向く3人。視ると、バラバラになった筈のアル・フォーゼス大僧正

   の身体が、ひっついて?いて、元の身体になっていた。もっとも、身体中の

   血はまだ止まってもいないし、顔面の左側や、左手は爆風で飛ばされた

   ので、欠損したままだったが。「無論。今の俺様は戦える状態ではない。

   だから、とっておきの俺様の相棒に闘ってもらう。存分にな」と、床に転

   がったままのフォーゼスが、残った右手をかざすと、球形の炎が現れて、

   それが大きくなって人型になった。「無敵の炎人間、プリオーンだ。どれくらい

   まで待つか。お手並み拝見だ。俺様は治療に専念したいんでな。まあ、1分

   も持たまいがな」と、傷だらけの顔で、凄惨な笑い顔のフォーゼス。ミノメに

   目配せしたシャルーダ。(邪魔になる。僕が引き付けるから、2人して、

   すぐにこの場から消えろ。)という意味で。だが、ミノメは逆の意味に

   取った。(嬉しいですね。我の力を認めてくれて。お任せ下さい。)ミノメは

   得意顔で、「ブリザード・シャワー・マックス!」と、突然現れた炎人間?

   プリオーンに、たくさんの小さな氷の塊りを浴びせたのだった。炎の勢いが

   一時小さくなったが、それはほんの一瞬のことで、すぐに炎人間の背丈は

   逆に大きくなり、その両手が伸びて、右手の拳が、エウロヴァ、左手の拳が、

   ミノメを殴ったのだった。2人は床でのた打ち回っていた。それぞれ殴られた

   頬のあまりの熱さに。「雑魚はいい。その化け物男女から、始末しろ。

   プリオーン!」伸びる炎の両手を、シャルーダが、鞘から抜いた妖剣・

   ラヴァーニで、超速で何度も斬った。一瞬バラバラになっても、すぐに元の腕

   に戻ってしまう。「ばかめ。炎を斬ってもすぐに戻るぞ。何の意味もない。

   まあ、喜べ。ひと思いに焼き殺してくれる。やれ、バーニング・ダイ・

   ホールド!」と、プリオーンが一気にシャルーダに接近してきた。シャルーダ

   はと見ると、なんと、逃げるのではなく、同じように、妖剣・ラヴァーニを

   下向きに構えて、突っ込んでいった。「やれやれ、ヤケクソになったか。安心

   しろ。骨まで溶けて、楽に死ねるからな」と、フォーゼス。恐ろしい回復力で、

   全身から出ている血がもう止まろうとしていた。瞬間、シャルーダの小柄な

   身体を、炎が隙間なく包み込んだ。憐れ、黒焦げになったか?しかし、

   そうではなかった。全身に火傷は負ったが、溶けてはいないシャルーダの

   ラヴァーニが、一直線にフォーゼスに向かい、一閃した。炎に包まれた

   フォーゼスは、断末魔の叫び声を上げて、完全に絶命した。しばらくはプツ

   プツと肉の焼ける匂いが続いたのだった。シャルーダは冷たい表情で、

   その真っ黒になった遺体を視て、立ち去ろうとした。そこへ、具現化した氷

   で、みずからの頬を冷やしながら、なんとか起き上がったミノメの感嘆した声

   だった。もちろん、エウロヴァにも氷を渡して、背中におぶっていた。「凄い

   ね。超速で起きた一瞬の風圧による隙間をかいくぐっての一閃。凄い剣技

   と、超高温に耐える剣と、一瞬で見定める勝負勘。まさに超一流の剣客

   だね」と。ミノメの眼の良さにはちょっと驚いたが。もっともだから、早わざの

   氷の防御で、シャルーダの命もここにあるのだが。うるさくて、追い払おう

   としたシャルーダ。だが、特殊体質がそれを阻んだのだった。急に息苦しさ

   を覚えて、右ひざをつき、肩で荒い息を。身体が、筋肉質の男性のもの

   から、線の細い、そして、胸のふくらみが戻った女性のものへと変わって

   いった。その急激なシャルーダの変化を、息を呑んで、見つめるだけの

   エウロヴァ王妃と、ヨーグ・ミノメだった。(( 次回に続く。 ))

プライドとプライド 改

2011年08月05日 23時04分28秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(11)

       気を失っているのか、両手を金属の輪に伸ばしたままで、壁に

   もたれて、動かないままの王妃、エウロヴァ。「う~ん。こうやってじっと視て

   いると、なんかそそられるものがあるな」と、いやらしい目付きになった、

   アル・フォーゼス大僧正。(腹もへったが、あっちの方も2、3日ご無沙汰だ。

   どうせ、王冠の居場所さえ聞き出したら、殺す心算だ。その前に頂いて

   おこうか。せめて最後に、こいつにも、いい思いをさせてやれるし・・)舌を

   なめながら、ゆっくりとエウロヴァに近付く、フォーゼス。その刹那、眼を

   見開いたエウロヴァが急に動いたのだった。実は右の肩から先が、人工で

   造られた義手のエウロヴァ。密かに痛みをこらえながら、右肩を外していた

   のだ。宙ぶらりんになった、右の義手が爆発した。右腕を取ると、自爆用

   にと、起爆スイッチが内臓されていて、爆発する仕組みになっていた。

   エウロヴァは、生きてイリアスに戻れることは、ほぼ諦めていた。ならば、

   せめて、イリアスの誉れある忠臣の一族、アル家に生まれながら、反逆し、

   イリアス・オレオ王国に、数々の災いをもたらす、逆臣のこの男を、道連れに

   して、爆死して、ともに地底の悪魔神・ハベスの裁きを、受けさせてやろうと、

   必死の覚悟をしていたのだ。その瞬間。(これで終わった。王様、後を頼み

   ます。)と、女神マリウスの呪文を唱えたエウロヴァだった。が、そうはなら

   なかった。粉塵が去って、視界が開けてくると、何やら、凄い力で抱きしめ

   られていた。(これが地獄の苦しみ?やはり、痛みがあるのか?)と、

   エウロヴァが抱きしめられている者?の正体を、見極めようとした。すると、

   「まだ、死ぬのは早いじゃないかな。特にこんな下らない野郎と、心中する

   のは」と、見つめる青い瞳。だが、その姿は、焼死した?筈のエム・

   シャルーダだった。女とは思えない、その怪力?に抱き寄せられていた。

   エウロヴァは知るよしもなかった。シャルーダの瞳の色が、オレンジ色から、

   青色に変化していることを。そして、全身の筋肉が、急に盛り上がっている

   ことを。凄い爆風で、崩れ落ちた薄緑色の土、グリレイドを原料にして出来て

   いた壁。希少なイリアス産の土で、充分な硬度と、柔軟性を併せ持った

   優れ物だったが、粉々に砕け散っていた。「あんたが、イリアスの王妃、

   エウロヴァか?」と、訊くシャルーダに、「そうです。助けて頂いて、ありがとう

   ございます。ところで、あなた様は?」「俺様をこんな姿にしやがって。何、

   会話していやがる。頭に来た。面倒くさい、2人とも、バラバラにして、地獄に

   送ってやる」と、背後から、聴こえるフォーゼスの怒りに震える声。見ると、

   無残にも、フォーゼスの顔、左半分と、左腕の肘から先が、爆風で飛ば

   されていて、壮絶な姿と化していた。「お前。その瞳の変化と、その身体つき

   の変わり様。もしかして、禁断のヨーグ族との間に生まれた、合いの子か?

   これは面白い。生け捕ってさらし者にしてくれる。シャルミ公女の失脚にも

   使えるぞ」と、残った右目を細めるフォーゼス。右手をかざして、「今度こそ、

   容赦はしないぞ。フェニックス・ティガ・アタック!」すると、フォーゼスの右手

   のひらから、3つの小さな火の塊りが出現して、3つがそれぞれ、急激に

   巨大化、孔雀の形になって、右、左、上の3方向から、シャルーダ、

   エウロヴァに迫ってきたのだった。「さっきはどう逃れたかは知らんが、今度

   こそは逃げ場は無いぞ。王妃ともども、黒焦げになって死ね!」3方向から

   合わさろうとした、その瞬間、不死の火の鳥・フェニックスは、瞬間冷却

   されて、3つの氷の塊になって床に落ちたのだった。「クソッ。ヨーグ族同士

   の呼吸の合った防御だったか。おのれ、このままでは済まさん・・」しかし、

   次の言葉は続かなかった。シャルーダの赤い鞘に納まっている妖剣・

   ラヴァーニが一閃。哀れ、フォーゼスの身体は乱斬り状に斬られて、

   バラバラに床に転がったのだった。最後の晩餐も食べられないままに。

   「フン、我を食べようとした報いだ。ああ、すっとした。ざまあみろ。ところで

   どうもありがとう。え~と」哀しい眼で、エウロヴァから、手を離したシャルーダ

   は、身を翻しながら言った。「名前なぞ、どうでもいい。2人でさっさと逃げろ。

   後は・・」「いえ、まだ、逃げれません。王様を残したままでは」と、全身軽い

   火傷に、左の片腕だけのボロボロの状態ながらも、必死で、シャルーダに

   訴える王妃・エウロヴァだった。 ((次回に続く。))  

プライドとプライド 改

2011年07月31日 22時56分31秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(10)

         「おや?どこのお方かと思ったら、確か、エム・シャルミ公女の

   ところのシャ・・」「上の妹のシャルーダだ」「そうそう、魔の3姉妹で、

   シャルミ、シャルーダ。それと、シャ・・」「末の妹はシャループだ。フン、

   やはりな。アル・フォーゼス大僧正よ。お前の魂胆はわかっている。表面上

   は、姉と手を結んでいる振りをして、その裏では、いずれ、クコンラ王をも

   操って、クトールを。そして、イリアスや周りの諸国をも牛耳って、真の支配

   者になるのが、お前の野望だろう」と、フォーゼスの全身をジロジロと視る

   いやらしい青色の眼を、真っ直ぐに見返すシャルーダのオレンジ色の瞳。

   (まだまだ、痩せっぽちで幼い感じだが、わずか数年で、いい女になろうぞ。

   中々の上玉だ。さすがは美人揃いと噂の3姉妹だ。なんとかてなづけたい

   がな。さて、どうするか?)と、一瞬思考を張りめぐらせるフォーゼス。

   その気持ちを見透かすように、「ばかめ。お前の手先になる僕ではない。

   くたばれ!サウザンド・コルク・スルー!」シャルーダのかざした右の手の

   ひらから、たくさんの木のコルクが超高速で、具現化されて、飛び出して

   いた。気配もなく、包丁やナイフやフォークで、襲いかかろうとした、

   スパイサーと、3人の助手たち。その全身に容赦なくぶち込んだ。凄い衝撃

   で、一瞬で倒れこむ4人。シャルーダが周りを見渡すと、残りの人影は天井

   から吊るされた鎖に、全身をグルグル巻きにされたままの上半身裸で、毛皮

   の腰巻だけで裸足のヨーグ族の少年。「おい、見てないで、助けろ。我

   (われ)は・・」と、少年が何か言い続けようとするのを無視して、シャルーダ

   は、右手の伸ばした爪で一閃。しかし、高速で数度、鎖を断ち切っていた

   のだ。床に倒れたが、鎖がバラバラに切れて外れて、自由な身になった

   ヨーグ族の少年。「おい、我は怪我もしているし、おなかも空いている。

   薬と、何か食べる・・」シャルーダは聴く耳を持たず、跳んで消えたフォーゼス

   の後を追って跳んだのだった。フォーゼスはわざと、エウロヴァ王妃を捕ら

   えている牢屋に跳んだのだった。シャルーダが同じ空間に姿を現したその

   瞬間。その場に向けて、凄い炎がぶつかってきていた。「フン。わざとおびき

   寄せたのもわからんか。小娘が。まあいい。昼飯を台無しにした責めを

   負わせてやったわい。まあ、手加減はしたから、ちょっと、肌が焼けて、傷が

   ついたが、死んではいまいだろうがな」と、すぐに猛火を消して、その影に

   近付こうとした。フォーゼスの眼の前に、急に氷の壁があった。「これでも、

   我はイリアスの戦士、アル・ジャンテ・トート様の弟子、水媒体師のヨーグ・

   ミノメだ。攻撃は苦手だが、防御は得意だ」と、シャルーダの後を追って、

   すぐに跳んで、シャルーダを守っていたのだった。「余計なことをしなくても、

   自分の身ぐらいは自分で守れる。端にでも居て、じっとしていろ。中々の

   炎発生師だな。でも、残念ながら、僕の敵ではない。だが、安心しろ。ここ

   では殺しはしない。お前は生け捕りにして、姉の前に突き出してやる。後で、

   姉に八つ裂きにされても、知らんがな。サウザンド・コルク・スルー」「チッ、

   チャライな。同じ手が・・」「アップサイドダウン・スパイラル!」シャルーダの

   右手のひらから、右回転のコルク。左手のひらから、左回転のコルクを

   具現化させて、放出させていた。スピードもアップさせて。それでも、トップ級

   のテレポーター(瞬間移動者)だと信じているフォーゼル。すぐに跳ぼうと

   して、両足が重くて、動かないことに気付いた。両膝から下が凍っていて、

   いつの間にか、床に張り付いていたのだった。仕方なく、みずからの身体

   を、発火させて、氷、コルクを一瞬で、溶けさせていた。そして、すぐに、

   反撃してきた。「フェニックス・レヴェル・フライト・アタック!」と、大型の

   孔雀の形をした猛火が、瞬く間に、シャルーダ、ミノメの2人の身を包んで、

   焦がした?のだった。「やれやれ、しまったな。つい、力が入って、殺って

   しまったな。焦げ付かせては喰えないし。まだまだ、修行が足らんな。

   仕方がない。腹ぺこだが、飯は後にして・・」と、2人にはもう眼もくれず、振り

   返って、両手首、両足首に、鋼のわっかをはめられて、そこから繋がって

   いる超合金の鎖を、背後の壁に取り付けていて、自由を奪われている女を

   視た。もう、中年なのに、少女のような美貌で、茶髪に、黄金の瞳に白い肌。

   うす汚れた白いドレスに裸足の王妃。気を失ったままのエウロヴァを。

                ((次回に続く。))

   

プライドとプライド 改

2011年07月26日 22時37分30秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(9)

        アル・フォーゼス大僧正は、イリアス王妃・エウロヴァを捕らえている

   部屋に行こうとして、一瞬、足を止めると、(チッ。又、腹が減ってきた。

   ええい、くそったれめ。我慢が出来ん。仕方がない。少し、腹ごしらえする

   か。)と、思って、向きを変えると、空腹を我慢するために、走り出していた。

   その途中で、厨房のある部屋に、テレパシーを跳ばしていた。(おい、わし

   だ。腹が減ったぞ。いつものようにご馳走は用意してあるな。スパイサーよ。

   なるべくなら、生に近い方がいいぞ。血のしたたるガゼンダ(鹿の一種)の肉

   とか、ジャーズ(鮫の一種)の生き造りとかな。)(わかっております。ご主人

   様。しかし、今回は残念ながら、ガゼンダや、ジャーズではありません。

   がしかし、ご心配には及びません。その代わりといってはなんですが、めった

   に食べられない極上の生肉を、ご用意させていただきました。そうです。

   ご主人様が、常々食べたいと申しておりました。あれでございます。ただし、

   まだ生きておりまする。どう、調理いたしまするかは、ぜひ、ご主人様が、

   物を視てから、お決めいただければ、幸いか存じまして・・)(いつもながら、

   よく気がつくな。スパイサーよ。後で何か褒美をとらせるぞ。ええい、面倒だ。

   今行くぞ。)と、廊下を走っていたフォーゼスは、立ち止まって、意識を集中

   させると、すぐに跳んで、厨房の真ん中に、姿を現したのだった。よく心得た

   もので、料理長のアル・スパイサーと、3人の助手たちは端に寄っていて、

   フォーゼスが出現すると、すぐにその場に、膝まづいていた。「ようこそ。

   ご主人様。これが例の物です。とくとご覧あれ」と、でっぷりとした腹を窮屈な

   白衣、紫色の前掛けで包み込んで、頭に白い山高帽子、足元には白い

   ズボンに、茶色のガゼンダの皮でできた長靴を履いていた。アル族特有の

   黄色の長い眉毛にしょぼくれた青い眼。それに白い肌。だが、肥満して、

   頬も首も肉が垂れていて、不気味な顔になっていた。その顔で、フォーゼス

   のために作った精一杯の笑顔で、指差した先に囚われの身の者がいた。

   なんと、まだ若い男の子だった。けものの皮の腰巻だけで腰周りを覆って

   いるだけで、ほとんど裸同然だった。白い髪に白い肌。それに青い眼。

   それはヨーグ族の少年だった。「まあ、捕まえたら、報告せよと言われていた

   が、どうせ、見つかれば処刑される身。なら、喰ってやる。昔、旱魃で何も

   食う物がなかった時に、試しに喰った奴がいて、予想に反して、とても

   旨かったそうだ。その話を聞いてから、ぜひ、一度はヨーグ族の者の肉を、

   食ってみたいと思っていたぞ。でかしたぞ。スパイサー。よし、生きたまま、

   釜ゆでにして、すぐに肉をさばいて、しゃぶしゃぶにしてまずは食うかな。

   用意はできておるか?」と訊くフォーゼスに、間髪入れずに、スパイサーが

   答えた。「もちろん、この通りにできております」と、スパイサーが起き

   上がって身体を横にずらすと、その背後に下のかまどの猛火のせいで、

   中のお湯がグツグツと煮えたぎっている大きな釜が、その上に置かれて

   いた。「よしよし。もうたまらんぞ。早くその肉を、釜に入れろ!」と、

   フォーゼスの号令で、暴れる少年は、押さえつけられて、3人の大柄な助手

   たちに担ぎ上げられて、大釜の中、今まさに放り込まれようとしていた

   おのれ。なんたる非道ぞ。許さんぞ。破戒坊主が。永遠に呪ってやる」と、

   最後の気力を振り絞って罵倒する少年。しかし、宙に浮かされてそのまま、

   大釜の中に・・哀れ、落ちると思われた瞬間、考えられない動きで、少年の

   身体は又、天井近くまで上がって、反対側、フォーゼルの目の前の床に、

   落ちてきていたのだった。「どういうことだ?まあいい、なら、俺様みずから

   入れてやるまでだ」と、少年の身体を捕まえようとしたその時、背中に激痛が

   走って、思わず振り返ると、そこには、エム・シャルミ公女の2人居る妹の

   上の方、シャルーダが、異常に長く伸ばした爪を、白いハンカチで拭き

   取っていた。同じ紫色の髪に、オレンジ色の瞳、白い肌の3姉妹だったが、

   姉のシャルミや、妹のシャループとは違って、大柄なシャルーダは、髪を

   やや短めにしていて、後ろで束ねていたし、男の物の黒い胴着、白いズボン

   に、紫色のブーツを履いていて、腰には赤い鞘付きの大きな剣を差して

   いた。その長い爪で、フォーゼルの背中を刺していたのだ。「ああ、嫌だ。

   手が腐るかも。この代償は高くつくぜ。骸骨野郎」と、大きなオレンジ色の瞳

   が、臆せずにフォーゼルを、じっと睨んでいた。                                                                    
              ((次回に続く。))

プライドとプライド 改

2011年07月22日 20時31分51秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(8)

     10年ほどの月日が流れ、アル・ジャンテ・トートは18歳の青年になって

   いた。イリアスでは18歳で成人と認められていた。(この時、イリアス暦・

   1045年、西暦・1995年だった。)トートには早くも、扶養家族?が出来た

   といってよかった。幼馴染のグミ・フレイディアとの婚約が決まっていたのだ。

   彼女自身の強い要望もあったが、父親のグミ・サージョンや、サージョンの

   いとこに当たる、グミ・キュエール(グミ・カミュエルの父親で、イリアス・

   マリウス教の大僧正、神事の中心人物にして、イリアスの武の裏部隊、

   イマージュの総帥。)の後押しもあって、婚約が成立したのだった。トートも、

   フレイディアのことを嫌いではなかったし、一生懸命、将来のためというか、

   自分のために、家の事を覚えようとしているフレイディアが眩しくさえ

   あった。ただ、1つだけ気掛かりがあった。それは、中性子族のヨーグ・

   フェンリルのことだった。彼女(彼?)とは、何故か、段々と疎遠になって

   いった。最後に会ったのは、可愛がっていた愛犬のコラボが死んだ時だ。

   トートの母、ジャンテ・ソレイユが、生まれつき身体が弱くて、周りは結婚を

   反対したが、父、アル・タイ・フォーデは、頑として聞き入れず、ソレイユを

   正室に迎えて、生まれた一粒種が、トートだった。だから、トートには兄弟が

   いなくて、もらってきた子犬のコラボが、唯一の兄弟?といえた。しかし、犬と

   人間では、生きている時間のスピードが、あまりにも違いすぎる。トートが

   4歳で、生まれて間もないコラボと出会って、ともに成長し、この時(イリアス

   暦・1045年)から、4年前の1041年の秋、トート、14歳の時に、犬の

   年齢で、10歳になっていたコラボは、老衰で息を引き取ったのだった。トート

   の悲しみは深かった。実はその半年前、同じ年の春先に、母、ソレイユも

   病気で亡くしていたからだ。誰の言葉も聞かず、自室に3日間もこもった

   ままのトート。その殻を破ってくれたのが、フェンリルだった。トートが2階の

   自分の部屋で、塞ぎ込んでいたその時、階下で聞こえてきた。言い争う声。

   1つは執事のアル・バトリエ。そして、もう1つは久し振りに聞く、フェンリル。

   それと子犬の鳴き声。トートは、身を起こすと身だしなみも構わず、扉を

   開けて、急いで階段を駆け降りていった。「済みません。おぼっちゃま。

   こちらの方が、急に入って来られて」と、困り顔の白い上下のスーツの

   痩せ型、小柄な男の執事、バトリエ。久方に視るフェンリルは、白い髪を短く

   刈り込んでいた。服装も男の格好で、青い胴着に、黒いズボン。靴だけは

   焦げ茶色の木製のサンダルを履いていた。だが、トートの姿を視ると、急に

   黙り込んで、ただ、胸に抱いている白い犬を、トートに差し出したのだった。

   クリクリとした黒い目に、ふわふわとした全身の白い毛。まさに昔のコラボ

   に、生き写しとさえいえそうだった。「困ります。え~と?」「こちらは

   フェンリル。ヨーグ・フェンリルだよ。バトリエ」と、突然の訪問者の素性を

   教えるトート。しかし、反対にバトリエの困惑は深まった。何故なら、少数

   民族で、体のしくみが他の民族と違うヨーグ族は、長い間、忌み嫌われて、

   迫害の歴史があった。無理もなかった。特殊な生物として、一生の間に、

   数回、性別が入れ替わるなどという民族は、他にはいなかった。普通は

   もちろん、生まれた時のままの性別で、一生を終えるのが当たり前の生き物

   たち。その中で、厳しい環境で生き残るため?にか、途中で急に性別が

   入れ替わるヨーグ族の者たち。差別せずに自国内で保護した、イリアスの

   前の王、アペスト。(アンディス、アドラスの父。)それでもさすがに、不思議

   な?生体のヨーグ族と、他の民族との性交、婚姻だけは厳禁して、もしも

   破った者には、重い処罰を与えると、国中にお触れを出した。どこか心は

   晴れなかったが、イリアスの血を守るため?のアペストの苦渋の決断

   だった。だから、たとえ、トートとフェンリルの2人の間でもし、恋がはぐく

   まれたとしても、その将来はないものといえた。フェンリルの気持ちが、

   どうかわからなかったが、フレイディアと、フェンリルの2人の間で、心が

   激しく揺れていたのを、後から深く自覚したトートだった。

              ((次回に続く。))

プライドとプライド 改

2011年07月15日 21時23分13秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(7)

         「大丈夫?トート。はい、栄養補給のためよ。これを食べて」と、

   籐の籠を開けると、フレイディアは中から、おいしく焼けたビスケットを取り

   出して、倒れたままのトートの口に、持っていこうとした。が、完全に疲れ

   切っていて、トートは口さえも動かせそうもない。「今すぐは無理よ。ちょっと

   どいて。フレデ」ムッとしたフレイディアが、仕方なく横にどくと、井戸場の横

   の桶を、井戸の底に投げて、水を汲み上げて、なんと、倒れたままのトート

   の身体に、水をぶっ掛けたのだった。「何をする!」と、動かないはずの身体

   の上半身を起こして、濡れた髪を振りながら、抗議するトート。その身体に

   さらに、腰のポケットから出した、この辺りに自生している、グラース(葡萄の

   一種)を何粒かぶつけられたのだった。「おい、いい加減に・・」その声は

   遮られた。愛犬・コラボが、香ばしい匂いにたまらず、トートの顔中心に、

   赤い舌を出して、ペロペロ嘗め回したのだった。とても、くすぐったくて、

   いつの間にか、ささくれだった心も落ち着いていた。そこに、今度はズカズカ

   と近付いてきて、トートにグラースを何個かを手渡した。「これで、なんとか、

   口を開けられるでしょう。後は頼んだよ。フレデ」と、つっけんどんに告げる

   と、背を向けて、そのまま、歩き出すフェンリル。自分でも無愛想なのは、

   よくわかっていたが、照れくさくて、うまく想いを伝えられない。自分に舌打ち

   しながら、去っていった。「もう、乱暴ね。フェンリルは。わたし、あの人、好き

   じゃない」と、ふくらながらも、トートを心配して、白いハンカチを出して、

   濡れたトートの顔を、拭こうとしたが、「悪い。自分でやるよ」と、ハンカチを

   受け取ったトートは、自分で顔を拭きながら、フェンリルの大きな背を、

   ずっと見つめていたのだった。

     時を元に戻します。アル・タイ・フォーデも、ガッシュ・ドールレイに

   よって、幽閉されていた、堅牢なルルイエ監獄所。そこに、イリアスの王、

   アンディス。王妃、エロウヴァが囚われていた。「この私にも、慈悲はある。

   出来れば、さっさと殺して、楽にして上げたいからね。いいかげん、教えて

   くれないか。アンディス」と、蒼い髪に、金色の

   瞳。女性の様な透きとおった白い肌。しかし、顔の左半面は、醜く、黒い

   金属性のお面で覆われていた、アンディス。身体中に重い鎖で、グルグル

   巻きにされていて、身動きが出来ないでいた。その姿を眼を細めて、視て

   いるのが、ハベス・クトール教の頂点に立つ、アル・フォーゼス大僧正

   だった。フォーデと同じアル族ながらも、憎しみ合って、袂を分かっていた。

   紫色の三角頭巾で、禿げ上がった頭を隠して、フォーデらと同じく、両目の

   上に黄色い毛の異常に長い眉毛。痩せているが大柄で、左頬に上から下の

   方向に、大きな刀傷があった。首から下も、身体を太く見せるためからか、

   ダブダブの紫色の袈裟を着ていた。足元には、金色の派手なトウ・シューズ

   を履いていた。その眼を、真正面から、見返すアンディス。「この傷の痛み

   を、忘れたことは、1度もないぞ。裏切り者の外道め!我がイリアス・オレオ

   王国を渡せる筈がなかろう。殺すなら、さっさと殺せ。ハベスの使い

   となって、汝らを地獄に叩き落としてやる」大声を張り上げた。が、それに

   動ずる様子もなく、急に高笑いするフォーゼル。「まったく、お前ら、イリアス

   の馬鹿どもらが、威勢だけはいいな。だが、現実を直視しな。別にお前で

   なくてもいいのだぞ。なんなら、エウロヴァの身体に訊いてみてもいいんだ」

   と、笑うのをやめて、妖しくアンディスを視た。アンディスの心が、激しく

   揺れる。「おのれ。 我が妃に、指1本でも、触れさせるものではないぞ。

   お前も、元はアル家、武家の出なら、せめて、我と一騎打ちをせよ。卑怯者

   め!」と、ののしるアンディス。「フン。馬鹿馬鹿しい。我は最早、ハベスの

   神の地上における代理人ぞ。お前ごときの相手なぞは、する気もない。

   さて、時間の無駄だ。仕方がない。エウロヴァの身体に、訊くとしよう。世界

   を動かす、イリアスの王冠のありかを」と、言って跳んで消えた、フォーゼス。

   「ま、待て。やめろ!エウロヴァに手を出すな!」しかし、アンディスの声は、

   独房の中で、空しく反響するだけだった。((次回に続く。))

プライドとプライド 改

2011年07月12日 23時24分58秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(6)

         「とにかく。このままではマズイわ。容態を看ないと」と、まず、

   掛け布団をはぐって、患者?のトートの状態を看ようとした友里可。左手首を

   握ってまず脈を診ようとしたその瞬間。凄い衝撃的な映像が、友里可の脳に

   流れ込んできたのだった。あまりのことにのけぞりそうになって、その身体を

   あわてて、雄介が右側の背中と肩、操が左側の背中と肩を支えた。その

   瞬間、2人の脳内にも、映像が飛び込んできたのだった。雄介との接触で、

   操も、友里可も、サイコメトラー(物体残留思念読み取り能力者。)としての

   能力を開花させていた。3人ともが、言葉も無く、イリアスの歴戦の戦士、

   アル・ジャンテ・トート。その凄まじい記憶が、3人を包み込んだのだった。

    「トートよ。モタモタするな!もっと機敏に動け!」と、まだ8歳と幼い

   ながらも、穂先に覆いをした槍を持って、黒い兜、胴着をつけたトートが、

   眼の前の大男めがけて、力一杯突き出していたが、右手一本で、穂先を掴む

   と、逆に押し返されて、尻餅をつくトート。「何度言ったらわかるんだ。両腕の

   力だけに頼っていてはいかん。全身をばねにして、腰や足も使って、よく

   踏み込んで突け」と、大声でトートに、槍の訓練をつけているのは、父、アル・

   タイ・フォーデの弟で、トートの叔父に当たるアル・タイ・ビビンデ。アル族の

   直系のフォーデの直系の長男、トートは将来、アル族を束ねる身分。欲深い

   姻戚関係で、後継者争いで血を流す者たちもいた中で、アル族は、フォーデ

   の父、つまり、アル・ミーネ・ガリメラを中心に結束が固く、一枚岩のように、

   血というよりも、お互いを慈しむ愛情の絆で、結ばれていた。トートは半泣きに

   なりながらも、起き上がっていた。叔父とはいえ、いや、身内で、将来の

   アル族の希望の星、トートには、他の教え子以上に、厳しく当たるビビンテ

   だった。彼がよしと言うまでは、雨が降り出そうが、日が暮れようと、その日の

   稽古は終わらないのだった。それから、1時間程して、やっと、「よし、今日は

   ここまでだ!ブリューエによく身体をほぐしてもらってから上がれ!」と、

   ビビンテの大きな声が、訓練に使っている水汲みのためにいくつか並んで

   いる大きな井戸群を越えて、100メートルは離れている民家にも響いていた。

   「おい!水分の補給も忘れずにな。水媒体師の我らには重要なことだ。

   身体の水分が、身を守る武器になるのだ。わかっておると思うが、喉を

   渇かせてはいかんぞ。わかっておるな。トート。では、又、ワレイ聖堂の

   起床の鐘の音の下、明朝4時にな」と、まだ、30代半ばながら、はや薄く

   なった黄色の髪の頭をなでながら、アル族の特徴の黄色の長い眉毛に、顎に

   無精ひげを生やし、眼の色は、右の眼は蒼色だったが、何故か、左の眼は

   銀色だった。ビビンデが、正統なアル族の血であることを、疑う声もあったが、

   どうやら、トートの祖父、フォーデ、ビビンデの父、ガリメラが、それらの声を

   黙殺してしまったようだった。なので、表向きはビビンデのことを、どうこういう

   者はいなかった。トートが知る限りにおいては。足早に去っていって、ビビンデ

   の姿が見えなくなると、大きく溜め息をついて、トートは、持っていた槍を

   投げ出して、その場に大の字に、倒れ込んでいた。もうしばらくは、身体を

   1ミリでさえも、動かせそうになかった。そこへ、「ワン、ワン、ワン」と、

   白いふさふさな毛の雄の牧羊犬で、家で飼っている、コラボが、そのクリクリと

   した黒い目で、優しく見つめながら、駆け寄ってきた。その後ろから、小柄な

   5歳の女の子で、黄金色の髪の毛に、レモン色の眼に、白い肌。頭に赤や

   黄色の花の飾り物をつけ、首に赤いスカーフ、上に黄色のシャツに、花柄の

   スカート。足元に赤い皮の靴を履いて、右手に籐の籠を持った、グミ・

   フレイディアと、ついこの間、決闘?をしたばかりの大柄な身体で、13歳の

   今は女の子?の白い髪、褐色の肌に、赤い瞳。(男の子になると、蒼い瞳に

   なる。)ヨーグ・フェンリルが、そのいはちきれそうな身体を、ママに

   借りた、薄緑色のワンピースに、胸に銀色の貝の形のブローチをつけて、

   足元には薄茶色のサンダルを履いていて、まさに女の子になっていた。その

   2人が、愛犬、コラボに続いて、横たわったままのトートに、近付いて来て

   いたのだった。    ((次回に続く。))

   

プライドとプライド 改

2011年07月09日 11時16分35秒 | Weblog

   第5章 呪われたイリアス・オレオ王国の歴史。王、王妃の行方は?(5)

          自分の念動力で、自分自身を起こしたマロ・ディオーニ。崩れ

   落ちた自分の屋敷を視て、背後のグケルトンを視た。いつの間にか、マリアに

   掛けられた薄茶色の大きな毛布も、一緒に消えていた。全身を覆っていた氷

   の箱?が溶けて元に戻っていた。ゆっくりと、ディオーニに近付くグケルトン。

   「チッ。図体だけがでかくて、この役立たずが」と、怒りの眼を向けて、

   ディオーニが右手をかざすと、大柄のグケルトンが、宙に浮いて、そのまま、

   海へと落ちていった。実は念動力以外に、最後の切り札として、重力操作師

   でもあるディオーニ。最大10メートル四方くらいの空間内の気圧を、通常の

   1気圧から、10気圧くらいまでを、1時間くらいまでなら発生、維持出来て、
 
   空間内に閉じ込めた、あらゆる物を押しつぶしてしまうのだった。グケルトンも

   周りの空間を、急に10気圧にさせられて、バラバラに砕けて、ワパール海の

   底へと落ちていったのだった。普通の生物なら、間違いなく即死状態だった。

   「フン。永遠に海の底に沈んでいな。出来損ないのクズめ」と、悪態をつくと、

   もう振り返りもせず、木の車椅子の上に、いつもの白いマントを、首から下に

   かぶると、猛スピードで、移動始めたディオーニ。「くそったれが。余裕の

   心算か。俺様を殺(や)らなかったことを、存分に後悔させてやる」と、

   はらわたが煮えくり返る思いのディオーニだった。

    時間を少しだけ戻します。マリアに化けたままの操は、柴井田病院の病室で

   横になっていた。最近、急激に信じられない出来事が、周りで次々と起こって

   いて、精神的に混乱していた。その気疲れのせいか、うとうとと眠ってしまって

   いた。そこに急に久し振り?にエヴィータとダヴィデが現れたのだった。その

   背に壮年の男の人(トート。)を背負って。「済まぬが。今一番安全な場所と

   いうのが、わらわにはここしか思いつかなかった。悪いが、数時間後?には

   引き取りに来るから、こいつ、トートをそこに寝かせておいてくれ。そう心配

   するな。意識は今はないから、動くことは無い。が、もし、何か異変が

   あったら、心でわらわを呼べ。かならず、助けに来るから。かならずな。では

   頼んだぞ」それだけ言うと、エヴィータとダヴィデは、一瞬で消えたのだった。

   「ち、ちょっと待ってよ。そんなこと急に言われても。ちょっと!」わざとか

   どうかわからないが、操の言葉は無視?されてしまっていた。そこへ、「どうか

   したの?みさお」「大丈夫か?柏木」と、柏木操(かしわぎ・みさお)の声が

   聴こえてきたのに反応して、ドアを開けて、マリア担当の看護師の側野友里可

   (かわの・ゆりか)と、同じ警視庁捜査1課の同僚、辰神雄介(たつがみ・

   ゆうすけ)が入ってきた。3人の間には、ディオーニに操られたり、操られそう

   になったりの仲で、そのおかげで?不思議な絆が生まれていた。1つは雄介

   のサイコメトリー(残留思念読み取り能力。ほんの一瞬触っただけで、

   人や生物や物に強く残されている思念を読み取ってしまえる能力。読み

   取った本人が、その強い思念のために、苦しめられることもある。)雄介の

   サイコメトリーのおかげで、お互いの心の中が見えてしまい、通常では

   信じられない不思議な現象を、目の前で共有したことを知った3人は、嫌でも

   その現象の存在を認めざるをえず、そういう点では、苦しみを同じにする同士

   だといえた。操はパジャマ姿で立っていて、エヴィータがベッドに横にさせた

   男・トートを指差して言った。「マリアちゃんが急に現れて、この男の人を、

   ここに寝かせて、又、消えてしまったの。どうしょう?」と、2人を視ながら、

   困惑の表情を。2人も顔を見合わせながら、雄介が口を開いた。

   「とりあえず、この場合。この男の人、トートさんだっけ?の番をするしかない

   だろう。もし、他人に見つかった場合。説明が出来ないだろうし」「そうね。

   そうするしかないわ。ちょうど、今晩は夜勤だから、ギリギリ明日の朝まで

   しか、ごまかせないでしょうけど。その時はその時で、又、後で相談しましょう。

   3人で協力して、なんとか朝まで乗り切りましょう。とにかく、今はマリアちゃん

   が、迎えに来てくれるのを信じて待つしかないわね」「そうだな。一緒に頑

   張ろう」と。友里可と、雄介の言葉に、情けないなと思いながらも、1人で

   抱えなくていいと思って、内心ほっとする、マリアの姿の操だった。

              ((次回に続く。))