第7章 大乱戦。次第に剥がされてゆく真実のヴェール(17)
(やったぞ。マリウスの像を呼び寄せるという、秘道具のマドナー
を手に入れたぞ。王妃のとどめを刺せなかったのは、少し残念だが、この
鎌の刃には、猛毒で有名なポレズンという木の樹液が、たっぷりと塗って
ある。これさえ手に入れれば、王妃に用はない。まあ、もって、1時間の命
だろうよ。お気の毒に。さあ、帰って、王の奴を締め上げて、この秘道具の
使い方を吐かせてくれる。そうなれば、もう、同じく用なしだから、後を
追わせてやる。)と、手にかざしたブレスレッド、マドナーを見ながら、歪んだ
表情で微笑する、ガッシュ・ドールレイ。彼の澱んでしまった性格には、幼い
頃の衝撃的な出来事が、あったせいだった。しかし、それは、ドールレイが、
父、ドールゴに対する、大いなる勘違いも、含んでいたのだが。
それについては、又、後日の話に譲るとしょう。
「やあ、ロコロ。どうだ?今日はいい魚は上がっているか?」と、
すぐ近所の居酒屋にでも行くのかと、思っていた、ササ・リオンとゼーラの
思惑を裏切って、小船を使って、眼の前の海、カシュラ海に乗り出すと、
すぐ1キロ程先に浮かぶ、小さな島、オーランド島。この島に上陸したのは、
酔いどれ医者?のドクター・テオに、少女、ガガリー族(2色肌族)のメドルサ
と、その仲間らしい?5人の男たちと、リオンと、リオンの包帯を巻いた
右手の中の?ゼーラだった。船が波に流されないように、岩に紐を掛けて、
きつく固定させてから、全員で船を降りて、しばらく、ぞろぞろと、続いて
歩いてゆくと、すぐそばに現れた、深いしわに、オレンジ色の短髪に、
白い髭を生やした2メートルを少し超えたくらいの筋肉質の初老の大型の
男に、テオが顔見知りのようで、気楽に声を掛けていた。名前を呼ばれた
空色の半袖シャツに、白い短パンに、草鞋の男は、ふと、その大きな精悍な
顔を、こちらに向けると、テオを視て、急に柔和になって、「な~んだ。
どうしたんだい。テオじゃないか?みんなで揃って、こんな辺鄙な島に
わざわざお出ましとは。又、何かのお祝いの宴会か?いい魚ならあるぜ。
もちろん、俺も混ぜてくれるんだろうな?」と、親しげな目をしたロコロ。
「そりゃあ、訊くまでもないことだ。今日は何が上がったんだい?鮫か?
それとも・・」その時、テオの表情が、急に険しくなった。「悪い。ちょっと
待っててくれ。こんな所で、一体何が起こったんだ?おい、ティーチと、
ローガン。俺と一緒に来てくれ。エヴィリ、ハッセー、ダンビーラ、メドルサと、
客人はここにいてくれ。後を頼む。ロコロ」と、真剣な表情で、テオは、
ティーチとローガンという名前の男たちとともに、足早に、うっそうと生える
亜熱帯の茂みの中へと消えていった。(なんだ?どうしたんだ。血相を
変えて。何か、感じるか?ゼーラ。)と、テレパシーを右手に送るリオン。
すると、(ああ、風に乗って、血の匂いが流れてきた。だいぶ、出血している
みたいだ。助からないかもな。まだ、死ぬには早過ぎる、中年の女性だな。)
(何!事故か。それとも、何かの戦闘か?)(さすがに、そこまではわから
ない。知るためには・・)(もちろん、調べに行く。)後に続こうとする、
リオンとゼーラの前方を、いつの間に、接近してきたのか、巨大な
人間の壁、ロコロの身体が、行く手を阻んだのだった。「おい!何をする。
邪魔をしないで、道を開けてくれないか。確か、ロコロさんとやら」と、叫ぶ
リオンに、まるで、いたずらをしようとする子供を、叱るような目で視ながら、
「あれっ?さっきのテオの言葉を聞かなかったのか。客人。あんたらは、
俺がここで守ることになったんだよ。わかったら、ここで大人しくしていろ!」
と、言い返すロコロ。素直にきくリオンではなかった。「今までも、最後は
自分の身は、自分で守ってきた。これからもずっとだ。誰にも、俺の行く手を
遮らす心算はない」と、そう言い放つと、「スーパー・バキューム・キャノン!」
と、拘束しようと、迫って来たロコロの巨体に向かって、左手のひらを
かざしたのだった。すると、空気媒体師のリオンの手のひらから、
圧縮された空気のボール状の塊りの弾丸が、連続で発射され、地面に
しっかりと、張り付いているかのような、ロコロの巨体が、まるで、巨大
バルーンのように、空高く、吹っ飛んでいた。「まあ、手加減はしておいた
から。あんたなら、それだけの身体だ。地面に落ちても、たいした怪我も、
しないだろうよ」と、苦笑しながら、背中を向けたリオン、ゼーラだった。
(( 次回に続く。))