第8章 大乱戦2。生か死か?それぞれの選択(12)
折り曲げられた小刀を見て、セプテムが突然、「あっはっ
はっは!」と、笑い出した。マリアも、ルチリアも、周りの団兵たちも怪訝な
表情を浮かべた。「急に笑って済まんが、こんな愉快な思いは久し振りで、
つい笑ってしまった」と、愛想よく言うセプテムの顔が、今度は急に険しく
なった。「わしは自分が恥ずかしい。この子らの清々しい覚悟を見たか。
わしらに大勢の大人に、敵わないと思いながら、怯むことなく向かってくる。
これこそが、戦士の鑑だとは思わんか?わしは、誇りをいつの間にか
忘れておったぞ。本日ただいまから、わしはこの子らの家来になる。そういう
訳で、みんなとは今からは敵同士だ。2人はこのわしが守り抜く。さあ、
遠慮はいらんぞ。掛かって来い!」と、サグヌークで身体をグルグル巻か
されていたマルルごと、持ち上がると、「ご無礼いたしました。マルル様」と、
サグヌークがマルルから離れて、元の棍棒に戻すと、左手にマルルを抱え
込んで、右手1本で、サグヌークを凄い勢いで回す。「さあ、姫様もこちらに。
済みません。まだ、お名前を伺っておりませんが」「私はマリア。マリア・
エヴィータ・ヤブキです」「マリア様。いいお名前ですね。では、マリア姫。
こちらに」と、マリアも背にかばいながら、ルチリアを睨むセプテムだった。
すると、「わっはっは。こいつはいい。さすがはセプテム。らしい判断だが、
早計なのも、おぬしの悪い癖だ。お前の覚悟はわかった。だが、お前は、
こういっては悪いが、嫁も貰わず、1人身ですぐに動けるが、ここに居る
他の者には、面倒を見続けていかなければならない家族がいる。この私を
除いては。だから、私もお前に従うぞ。セプテム。だが、他の者はそうは
いかん。今この場で殺し合いなぞしたくはない。この場のみ見逃してくれ。
頼む。セゾン。ローリオ。他の者も」と、頭を下げるルチリアに、一同は、
お互いの顔を見合わせたままで、しばし、沈黙の時が流れた。しかし、
考えている時間はそうはなかった。遠くで又、別のひづめや、大勢の人の
声が聴こえてきたからだ。「みんな。今までありがとうな。だが、今度会う
時は、残念ながら敵同士だ。お互いに遠慮なく、存分に戦おうぞ。さらば
じゃ」と、ルチリアは言うと、セプテムに眼で合図して、すぐそばの木の枝に
轡から垂らした紐をくくりつけて、待機させていた、愛馬・アヌエールの轡の
紐を解いて、その背を優しくなでると、「少し重くなるが、この子らも乗せて
くれ。お願いだ。アヌエール」と。まるで、「いいですよ」と、返事するかの
ように、「ブルルルッ」と、ひと啼きするアヌエール。その背中の前方に、
マルルとマリアを乗せてから、2人の後ろにルチリアと、3人がアヌエールの
背中にに乗り、ルチリアが手綱を取った。「セプテム。悪いがお前は走って、
後ろからついて来てくれ。さすがにいくら元気なアヌエールでも、お前の
巨体を乗せては、すぐに、つぶれてしまうからな」と。「はい。合点承知です。
いざ、行きましょう」その時、「お待ち下さい。いくら、セプテムが健脚でも、
アヌエールについて行くのは無理です。こいつをお使い下さい」と、声を
掛けて来たのは、セゾン。すると、背後からローリオたちが引き連れて来た
のは、3頭の大型犬が引っ張る荷台車で、台には干し肉や干し魚や乾燥
パンなど、少しの食料が積んであった。「お前ら。こんなことをしたら、
ただでは済まないぞ。いいのか?」と、驚くセプテム。その巨体に、嬉しそう
にじゃれてくる3頭の中の真ん中の犬、白と黒のブチ犬は、ディエスの子、
ディエス2世だった。「私たちも覚悟を決めます。ルチリア副隊長!失踪した
ままのアンティーヌ隊長の行方を、捜すのでしょう。大丈夫です。私たちも、
御供いたします。ただ、今すぐというわけには、いきません。おっしゃる
ように、みんな、家族がいますので、家族ともども、無事に脱出したら、
かならず、後に続きますから、もう2度、敵だなんて、おっしゃらないで
下さい。そうだろう?みんな!」「おう!」「そうだ!」「その通り!」と、
口々に答える声。「済まぬ。かたじけない。みんな」と、今度は大粒の涙を
流すセプテム。その場に居る誰もが、ルチリアはもちろん、マリアや、
マルルでさえも、胸に暖かいものが流れるのを感じたのだった。
((だいぶ暑くなって来ました。自分もですが、皆さんもお身体には、
気をつけて下さいね。それでは又。次回に続く。))