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プライドとプライド 

マリア達、普通の心の者たちと、
クトール軍団達、よこしまな心にとらわれし者たちとの地球を含めての空間争奪戦だ!!

プライドとプライド 改

2012年06月02日 21時39分47秒 | Weblog

      第8章 大乱戦2。生か死か?それぞれの選択(12)

         折り曲げられた小刀を見て、セプテムが突然、「あっはっ

   はっは!」と、笑い出した。マリアも、ルチリアも、周りの団兵たちも怪訝な

   表情を浮かべた。「急に笑って済まんが、こんな愉快な思いは久し振りで、

   つい笑ってしまった」と、愛想よく言うセプテムの顔が、今度は急に険しく

   なった。「わしは自分が恥ずかしい。この子らの清々しい覚悟を見たか。

   わしらに大勢の大人に、敵わないと思いながら、怯むことなく向かってくる。

   これこそが、戦士の鑑だとは思わんか?わしは、誇りをいつの間にか

   忘れておったぞ。本日ただいまから、わしはこの子らの家来になる。そういう

   訳で、みんなとは今からは敵同士だ。2人はこのわしが守り抜く。さあ、

   遠慮はいらんぞ。掛かって来い!」と、サグヌークで身体をグルグル巻か

   されていたマルルごと、持ち上がると、「ご無礼いたしました。マルル様」と、

   サグヌークがマルルから離れて、元の棍棒に戻すと、左手にマルルを抱え

   込んで、右手1本で、サグヌークを凄い勢いで回す。「さあ、姫様もこちらに。

   済みません。まだ、お名前を伺っておりませんが」「私はマリア。マリア・

   エヴィータ・ヤブキです」「マリア様。いいお名前ですね。では、マリア姫。

   こちらに」と、マリアも背にかばいながら、ルチリアを睨むセプテムだった。

   すると、「わっはっは。こいつはいい。さすがはセプテム。らしい判断だが、

   早計なのも、おぬしの悪い癖だ。お前の覚悟はわかった。だが、お前は、

   こういっては悪いが、嫁も貰わず、1人身ですぐに動けるが、ここに居る

   他の者には、面倒を見続けていかなければならない家族がいる。この私を

   除いては。だから、私もお前に従うぞ。セプテム。だが、他の者はそうは

   いかん。今この場で殺し合いなぞしたくはない。この場のみ見逃してくれ。

   頼む。セゾン。ローリオ。他の者も」と、頭を下げるルチリアに、一同は、

   お互いの顔を見合わせたままで、しばし、沈黙の時が流れた。しかし、

   考えている時間はそうはなかった。遠くで又、別のひづめや、大勢の人の

   声が聴こえてきたからだ。「みんな。今までありがとうな。だが、今度会う

   時は、残念ながら敵同士だ。お互いに遠慮なく、存分に戦おうぞ。さらば

   じゃ」と、ルチリアは言うと、セプテムに眼で合図して、すぐそばの木の枝に

   轡から垂らした紐をくくりつけて、待機させていた、愛馬・アヌエールの轡の

   紐を解いて、その背を優しくなでると、「少し重くなるが、この子らも乗せて

   くれ。お願いだ。アヌエール」と。まるで、「いいですよ」と、返事するかの

   ように、「ブルルルッ」と、ひと啼きするアヌエール。その背中の前方に、

   マルルとマリアを乗せてから、2人の後ろにルチリアと、3人がアヌエールの

   背中にに乗り、ルチリアが手綱を取った。「セプテム。悪いがお前は走って、

   後ろからついて来てくれ。さすがにいくら元気なアヌエールでも、お前の

   巨体を乗せては、すぐに、つぶれてしまうからな」と。「はい。合点承知です。

   いざ、行きましょう」その時、「お待ち下さい。いくら、セプテムが健脚でも、

   アヌエールについて行くのは無理です。こいつをお使い下さい」と、声を

   掛けて来たのは、セゾン。すると、背後からローリオたちが引き連れて来た

   のは、3頭の大型犬が引っ張る荷台車で、台には干し肉や干し魚や乾燥

   パンなど、少しの食料が積んであった。「お前ら。こんなことをしたら、

   ただでは済まないぞ。いいのか?」と、驚くセプテム。その巨体に、嬉しそう

   にじゃれてくる3頭の中の真ん中の犬、白と黒のブチ犬は、ディエスの子、

   ディエス2世だった。「私たちも覚悟を決めます。ルチリア副隊長!失踪した

   ままのアンティーヌ隊長の行方を、捜すのでしょう。大丈夫です。私たちも、

   御供いたします。ただ、今すぐというわけには、いきません。おっしゃる

   ように、みんな、家族がいますので、家族ともども、無事に脱出したら、

   かならず、後に続きますから、もう2度、敵だなんて、おっしゃらないで

   下さい。そうだろう?みんな!」「おう!」「そうだ!」「その通り!」と、

   口々に答える声。「済まぬ。かたじけない。みんな」と、今度は大粒の涙を

   流すセプテム。その場に居る誰もが、ルチリアはもちろん、マリアや、

   マルルでさえも、胸に暖かいものが流れるのを感じたのだった。

    ((だいぶ暑くなって来ました。自分もですが、皆さんもお身体には、

       気をつけて下さいね。それでは又。次回に続く。))

プライドとプライド 改

2012年05月30日 12時41分35秒 | Weblog

       第8章 大乱戦2。生か死か?それぞれの選択(11)

          誰かに身体を揺すられている感覚を覚えて、グミ族(黄金毛族)

   のカミュエルは、徐々に覚醒していった。長い黒髪、黒褐色の肌でピンク色

   の大きな瞳が、心配そうにカミュエルを見つめていた。柔らかい髪の毛が、

   カミュエルの頬に当たっていた。カミュエルは驚いて、起き上がって辺りを

   見渡した。意識が戻ってくると、凄い異臭が鼻についてきた。よく視ると、

   周りに多くの死体?が転がっていた。手足がない死体もあった。「ここは

   何処だ?君は何者で、ここに何故いる?」しかし、薄汚れたドレスを着て、

   右腕がなく、裸足の少女?は悲しげな瞳で、首を横に振るのみだった。

   「そうか。声が出ないのか。大丈夫だ。心を落ち着かせて、俺の手を握って

   ごらん」と、優しく声を掛け、気遣ってみずからの左手を出すカミュエル。

   少女は少しの間、ためらった後、左手を出して、ゆっくりとカミュエルの

   左手を握った。柔らかく暖かい手だったが、肌のざらつきが感じられた。

   少女の心の映像が、カミュエルの脳裏に浮んだ。優しそうな両親や、

   年の離れた大柄な兄の姿が見えた。少女の心の声も聴こえてきた。(私の

   名はユジャーヌ。お父さんはダンテム。お母さんはユーナ。お兄ちゃんは

   セプテム。お兄ちゃんは黒制服師団、アンティーヌ隊の第一班長で、とっても

   強くて、みんなから、黒鬼って恐れられているの。でも、私にはとても優しい

   のよ。ああ!今すぐにでも、お父さん、お母さん、お兄ちゃん。みんなに

   会いたい。ディエスにも。)白と黒のブチの大型犬の愛らしい表情が、

   カミュエルの頭にも浮んできた。(中々、可愛らしい犬だね。では何故ここに

   来たのかな?ユジャーヌ。)優しく心の通信を送るカミュエル。だが、少しだけ

   微笑んだユジャーヌの顔が曇る。(わからない。近くの友達の所に遊びに

   行こうとして、ディエスとともに、表に出てすぐ、背後から誰かに襲われ、

   すぐ眼の前が暗くなって・・。ディエスが咆える声だけが、今も耳に残って

   いるの。)後はその大きな瞳から、大粒の涙を流して、ただ、泣きじゃくる

   のみのユジャーヌだった。(悪かったな。嫌なことを思い出させたみたいで。

   もう安心だ。この私、カミュエルがかならず君を、家族の元に返してあげる

   から。)と、ユジャーヌを優しく抱きしめた。(この娘は誰か似ている?それは

   ともかく、シュヴァールめ。とんでもない奴だ。この娘の声帯と、右手を奪った

   んだな。絶対に許さん。だが、ここは何処で、他のみんなは何処にいる

   のだ?)どうすればいいか?まるで見当がつかないカミュエルだった。

   この澱んだ感じの空間では、カミュエルの力をもってしても、跳べそうにも

   なかったからだ。その時、背後から人の近付く気配がしたのだった。

     ひづめの音が近付いてきて、すぐ直前で止まると、「セプテムどうした?

   済まんが、待ち切れなくて、こっちから、アヌエールとともに駆け付けたぞ」

   と、黒い毛並みで、黒い稲妻の異名のある、愛馬アヌエールの背中から

   飛び降りた、全身黒尽くめで、銀色の髪に紫色の眼。黒褐色の肌に赤い

   唇。美しいいでたちでまるで貴公子然としている凛々しい顔の若武者。

   それがアンティ-ヌ隊、副隊長のヘミュ族(変化髪族)のルチリアだった。

   まだ青年の彼は血気盛んで、何事にも好奇心旺盛で、涼しげな眼が

   キラキラしていた。「何している?セプテム」と、近付きながら、セプテムと

   マリアを視た。サグヌークにグルグル巻きにされて、地面に横たわっている

   マルルも視たのだった。「副隊長。見て下さい。ずっと行方知れずになって

   いたユジャーヌが、やっと戻って来てくれたんです」と、涙声のセプテム。

   だが、マリアを一瞥すると、やや冷たい反応が返ってきた。「セプテム。

   お前の気持ちはわかるが、よく視ろ。似てはいるが、まるで別人だぞ。

   彼女が困っている。さっさと解放してやれ」と。「えっ?」そう言われて、

   改めてマリアの全身を、なめるように視るセプテム。その表情が、

   みるみる内に青ざめたのだった。そして、今度は赤く染まった。「おのれ!

   このあまめ。こいつといい、お前も妙な術で、この俺をたぶらかして、

   この場から逃れようとしたか。許さん!」と、腰の小刀を抜くセプテム。

   ルチリアの制止も間に合わないで、マリアの胸を一突きしょうとした刹那、

   マリアの黒皮のグローブをはめた右手が、その小刀を掴んで、折り曲げた

   のだった。それを見た、ルチリアや、周りの黒制服師団の部下達から、

   驚きの歓声が起こったのだった。

     ((体調不調で済みません。なるべく、空かないように頑張りますので、

    応援をよろしくお願いいたします。次回に続く。))
     

プライドとプライド 改

2012年05月16日 21時10分39秒 | Weblog

        第8章 大乱戦2。生か死か?それぞれの選択(10)

          亡き父・ブルーノの腰から抜き取った短剣を、両手で構えた

   マルルは、みずからを奮い立たせるかのように、大声を発しながら、大勢の

   人間の気配がする方へと、飛び出していった。上下、黒色の半袖、半

   ズボンで、薄緑色の草鞋を履いた大勢の男たちの集団が、眼の前に

   現れた。それぞれに剣や短槍や棍棒など、好みの得物を持っていた。

   マルルは恐怖心を抑えるために、わざと、すぐ前の大男に掛かっていった。

   だが、その男の持つ棍棒で、したたか、手首を打たれて、短剣を落として

   しまい、そのまま、大男は左手に棍棒を持ち替えて、残った右手一本で、

   その場に押さえ込まれてしまった。「小僧!たった1人で、黒制服士団の

   我がアンティーヌ隊に、戦いを挑むとは。中々の度胸。だが、ここは戦場。

   情けは無用。可哀想だが、その命はもらう。しかし、その勇敢な行為に、

   敬意を表して、名前だけは聞いておこう。さあ、名乗れ!」と、アンティーヌ隊

   の第1班長のマロ族(1本角族)のセプテム。身体があまりに大きくて、

   合う兜がない、セプテムは頭の中心に、白い角が生えていて、黒いモジャ

   モジャの髪に、黒褐色の肌。眼はピンク色で、身内では黒鬼と恐れられて

   いた。(ガッシュ・ドールレイ率いる黒制服士団の1部隊、アンティーヌ隊。

   隊長はヘミュ・アンティーヌ。副隊長はヘミュ・ルチリアで、部隊は10個の班

   に分かれていた。その先鋒ともいうべき、第1班の長が、セプテム

   だった。)「ギガール(銀の大鷲)隊所属、第3班長、リザ・ブルーノの息子、

   マルル。敵わぬまでも、我が父の無念を晴らす」と、全力を込めて、自分の

   右のこぶしで、セプテムの右手の甲を殴った。すると、セプテムが顔を

   しかめて、手を離した。知るはずもないが、マリアと指切りげんまんを

   した時、マリアが右手にはめていた、メビウス・グローブから、ほんの

   少しだけ力が、マルルの右手に注入されていた。「小僧!油断はならんな。

   その右手に、不可思議な能力を持っているな。やむをえん。とどめを刺す」

   と、セプテムの左手で、棍棒・サグヌークがうなりを上げ、マルルの心臓を、

   正に一突きしようとした刹那。(待て!セプテム。その子を離せ!)と、

   心の声が聴こえてきた。それは副隊長・ヘミュ族(変化髪族)のルチリアの声

   だった。(リザ・ブルーノといえば、隊長・ケレト・ナンディーラの元から、

   家族を連れて、失踪したと聞く。もしかして、我が隊長、アンティーヌ様のこと

   を、知っているかも知れん。生け捕りにして、わたしの所に連れてきて

   くれ。)と。(わかりました。)と、セプテムはその黒い大きな瞳で、マルルを

   睨みつけた。「小僧!命拾いしたな。だが、いずれ、借りは返してくれる」

   と、サグヌークを宙に放り投げると、「サグヌークよ。この少年を縛り上げよ」

   と、命令した。すると、サグヌークが伸びて、螺旋形に輪をいくつも作ると、

   マルルの身体を取り囲んで、容赦なく縛り上げたのだった。「俺は跳べない

   から、この小僧を副隊長の所へ持ってゆく」と、曲げられた?サグヌークに

   グルグル巻きにされたマルルは、もがいたが、どうにもならない。

   セプテムに軽々と持ち上げられて、運ばれていこうとした。その時、急に

   影が現れたのだった。それはすぐに若い女の子の姿になった。もちろん、

   マリアだった。全身にまだ疲労を覚えているマリアだったが、レドン・

   ケルテーカにもらった?黒皮のメビウス・グローブのおかげか、何故か?

   右手首から先だけは、力が漲っていた。しかし、勝てるとは思えない。だが、

   我が身に代えても、マルルだけは生き延びさせてあげたいと、思うマリア

   だった。マリアを視た、セプテムの顔が、驚愕の表情に変わっていた。

   「一体?今まで何処に雲隠れしていたんだ。我が愛しき娘!ユジャーヌよ。

   どれだけ心配したことか」と、マルルを縛り上げたサグヌークを、背後の

   兵隊4人に持たせた。4人は必死に持った。足早にその巨体で、マリアを

   抱き上げ、強く抱きしめたのだった。マリアは状況がわからないまま、

   ただ、セプテムにされるままでいた。何故なら、今、目の前の黒鬼・セプテム

   は、まるで、無邪気な子供のように、全身に喜びが溢れていて、その

   瞳には、正に鬼の目にも涙で、熱いものが流れていて、マリアには、

   全然、害意を感じられなかったからだ。しかし、背後の森の中から、

   ひづめの音が、近付いてきていたのだった。

     ((又、体調を崩していましたし、身内の法事も重なって、とても、

    シンドかったです。お待たせして済みません。なるべく、間隔を空けない

    ように頑張りますから、応援をお願いします。それでは又ね。

    次回に続く。))

プライドとプライド 改

2012年05月05日 21時46分02秒 | Weblog

       第8章 大乱戦2。生か死か?それぞれの選択(9)

          「楽しみにしているぞ。鬼姫。お前が強運の持ち主なら、

   かならず又会える。その時はこの借りを、存分に返させてもらう。地獄の底

   から、這い上がって来い。待っておるぞ」と、微笑みさえも浮かべていた

   レドン族(頭部外殻族)のケルテーカだった。連絡を貰って、駆けつけた

   銀の大鷲隊(ギーグル隊、隊長はケレト族(立て髪族)のクレラ・

   ナンディーラ)の小隊100名は、もぬけの殻の洞窟に、仕方なくすごすごと

   引き上げるしかなかった。ナンディーラは、すぐにケルテーカを呼び出して、

   問い正したが、「お前も聞いたことがあるだろう。若い女ながら、凄腕の

   戦士、イリアスの鬼姫、エヴィータを。見た目、いい女だが、噂にたがわぬ、

   剣士、術師だ。なにしろ、このわたしが、遅れをとったのだからな。だが、

   安心しろ。ガキは殺し損ねたが、ブルーノとその妻は始末した。それとも

   何か。このわたしを敵に回す心算か。ナンディーラ。それならそれで

   面白い。いつでも相手になってやるぞ」と、その青紫色の瞳で、ナンディーラ

   を睨みつけるケルテーカ。内心、身震いしたナンディーラは、急に、表情を

   穏やかに変えて、ご機嫌取りに回った。「済まない。そういう心算は毛頭

   無い。文句を言ったのでは無い。わかってくれ。ただ、信じていた部下に、

   裏切られて、頭に来ていただけだ。むしろ、感謝しているくらいだ」と、腰を

   下げて、哀願の顔をするナンディーラ。「そうか。詰まらん。まあいい。

   じゃあ、わたしはこれで消える。当分はお互いに会わない方がいいだろうな」

   と、にやけた顔付きで言ったケルテーカは、そのまま跳んで消えたの

   だった。大きく息を吐いたナンディーラ。しかし、しばらくして、腰の大剣を

   引き抜くと、横の大きな柱を、数回斬ったのだった。硬い石を組み上げて

   造った柱が、すぐに大きな音とともに、崩れ落ちたのだった。侮れない、

   中々の腕前で、その愛刀・ラマーイも刃こぼれ1つなかった。だが、

   そんなナンディーラでさえも、人の心を操る心理操作師のケルテーカは、

   とても、不気味で怖かったのだ。(おのれ。いつか、この屈辱は倍返しに

   してくれる。)と。歯噛みしながら、「おい、さっさと、この邪魔な石どもを

   片付けろ!もたもたするな!そして、すぐに修復しろ。さもないと、ラマーイの

   餌食にするぞ。急げ!」と、自分の執務室の中、辺りに控えていた部下に、

   当たり散らすナンディーラだった。

    一方、なんとか生き残りを賭けて、ブルーノ、イユエラ、2人の遺体と、

   その子、マルルとともに、跳んだマリア。目指したのは、もちろん、イリアス・

   オレオ王国の病気や怪我の治療の一番の中心地、パロダムス診療院

   本部へ。そこが今、最も危険な地帯とも知らずに。だが、運悪く?マリア

   たちは、本部には辿り着かなかった。というか、力不足で跳べなかった

   のだ。それは走り幅跳びの選手が、踏み切りを間違えて、空中でバランスを

   失い、手前に落ちてしまったのと、同じみたいだった。距離が足りないで、

   マリアたちは、パロダムス診療院本部よりも、もっと手前の北側のイリアス

   と、南側のクトールの国境地帯の森、ユイルドの森の真ん中地点に、跳んで

   いたのだった。すぐそばには、クトールの一部隊が潜んでいる、危険

   区域に。大きな樹木の下に、たどり着いたマリアたち。見慣れない薄暗い

   森の中、辺りをキョロキョロと見渡したマリアは、内心絶望した。もう一度、

   跳ぶだけの力はもう残っていない。しかし、このまま、死ぬのを待つわけ

   にはいかない。せめて、両親を喪ったばかりのこの少年、マルルだけは、

   生き延びさせてあげたいと、切に願うマリア。そのためにも、なんとか手立て

   を考えないと。「いい。ここにいて。もし、わたしが10分程して、戻って

   来なかったら、マルル。あなたは、1人で逃げてね。おとうさん、おかあさん

   のことは、わたしに任せて。絶対よ。右手の小指を、こういう風に折り

   曲げて出して」と、ケルテーカに貰った?黒皮のメビウス・グローブのまま、

   マルルと、小指同士を絡ませて、「指切りげんまん!嘘ついたら、針千本

   飲~ます。指切った!」と。マルル。そのオレンジ色の目で、不思議そうに

   マリアを見ながら、同じように手を動かした。マリアの優しげな青い目が、

   マルルの恐怖の心を、まるで癒すように包み込んだ。指が離れると、

   「じゃあ、行くね」と、駆け出すマリア。一度だけ、振り返って、「絶対に

   逃げてね!」と言いながら、後は一目散に、木々の中に入っていって、

   マルルの視界から消えたのだった。マルルは、心の中で詫びた。

   (ごめんね。おねえちゃん。でも、僕は誇り高き戦士、リザ・ブルーノと、

   愛の化身、イユエラの子、マルル。2人の血が、この身体には、流れて

   るんだ。だから、敵わないまでも、せめて、一太刀でも。)と、父・ブルーノの

   亡骸に、ひざまづいて、その腰の小刀を抜いたのだった。敵と戦う、

   自分の武器にするために。((急に暑くなりました。皆さん、お互いに体調

   管理に、気をつけましょうね。それでは又。次回に続く。)) 

   

プライドとプライド 改

2012年05月01日 22時42分20秒 | Weblog

      第8章 大乱戦2。生か死か。それぞれの選択。(8)

           イリアス・オレオ王国の建設の礎は、今の王、アンディスを遡る

   こと、38代前、今から1052年前(今はイリアス暦・1052年だから。)

   西暦よりはマイナス950年の差がある。)(現王・アンディスは、イリアス

   第38代目の王である。)後の初代王となる、アンギウスとその仲間の男達

   が、群雄割拠で、戦国の世のこの時代、四方八方周辺の国々を各個撃破

   しては、次々に投降させ、支配下に治めていった。アンギウスの減税、減罪

   の寛大なる処置、善政に人々は次第になびいていって、イリアスが建国

   される運びとなった。もちろん、男達だけが、新しい国を支えたわけでは

   なかった。陰のちからとして、女性達の役割も大きかった。後の妃となった、

   マリウス。そして、もう1人、英雄、色を好むではないが、アンギウスには、

   王妃・正妻のマリウス以外にも、たくさんの愛妾がいたと、言われている。

   その1人が、身も心も、絶世の美女と賞賛されていた、イリアーヌだった。

   イリアーヌは別の顔もあった。戦士として、父・エディオンから厳しく育て

   られたのだった。この時代、女も自分で身を守れなければ、命を落とし

   かねない大変な日々だったのだ。だから、エディオンが戦に破れて、

   アンギウスの軍門に下った後、アンギウスの愛を受けながらも、その愛情

   ゆえに、戦場に立ち続けたイリアーヌ。だが、それが悲劇となった。父・

   エディオンは、より、高い地位を望んで先走り、任せた兵を消耗させた。

   その償いとして、降格された。しかし、それを逆恨みしたエディオンは、

   敵に通じ、味方の城内に招き入れたのだった。その乱戦の中、イリアーヌ

   は、敵の刃に倒れたのだった。そして、マリウスも乱戦の中、敵の手に

   落ちたのか?行方不明になってしまっていた。アンギウスは、傷を負い

   ながらも、わずかな手勢で脱出に成功。後の戦いで、エディオンと、

   イリアーヌを殺したクトー・デジリオという男の首を、上げたのだった。2人の

   女性の死を?悼んで、国名をイリアス。国を守る女神としてのマリウス像

   を、職人たちに作らせたのだった。アンギウス本人は、王妃・マリウスと同じ

   くらいに、イリアーヌを愛していたことを知る者は、ごく少数の側近の者たち

   だけだった。

     そのイリアーヌの魂が、今まさに現れていた。もちろん、そんなことを、

   ケルテーカも、マリアも知る筈もなかったが。ケルテーカは、生まれて初めて

   の敗北感を味わっていた。まるで戦意が沸いてこない。首を横に振り

   ながら、苦笑いをすると、「チッ。我ながら情けないことだ。だが、新しい

   楽しみが出来た。おい、女。お前の名前を教えろ」と、訊くケルテーカに、

   ブルーノをかばいながら、「名は・・イリアス。イリアス・マリア・エヴィータ」

   「エヴィータ?!すると何か、お前があの有名な鬼姫と言われている、

   イリアスの姫か。なるほど。噂にたがわぬ。いや、それ以上の姫だな。

   残念だが、今回はここで、俺は手を引く。それでも逃げられはしないぞ。

   ここに来る前に、そこのブルーノの元あるじ、銀の大鷲隊・隊長、ケレト・

   クレラ・ナンディーラの配下の者たちに、ここの居場所を、知らせておいた

   からな。願わくば、姫よ。生きて又会いたいものだ。この屈辱を、晴らさせて

   もらうためにな。健闘を祈る」そう言い残して、レドン・ケルテーカを跳んで、

   消えたのだった。その足元には、黒い手袋が、残されてあった。「その・・

   手袋をはめろ。急げ・・」息絶え絶えに言うブルーノ。ケルテーカの凄い

   ちからは、完全には遮断できなかった。即死こそ免れていたが、ケルテーカ

   の強い念動力が、ブルーノの心の臓に、確実にヒットしていた。マリアは黒い

   手袋を拾って、右手にはめた。ケルテーカの唯一の置き土産だった。

   ブルーノが、最後のちからを絞るみたいに、眼でよしっと合図し、唇を

   動かした。「イ・・イリアスの姫様。厚かましいお願いですが・・こ、この子、

   マルルを・・た、頼みまする・・」と。その言葉を最後に、事切れたブルーノ。

   その遺体を背負うマリア。「マルル。おかあさんを抱き上げて。2人を背負う

   ちからは、今の私にはないから」と。マルルは、マリアに言われるままに、

   自分と変わらない華奢な身体のイユエラを、抱き上げたのだった。「こっちに

   寄ってきて。引っ付くくらいに。早く」言われるままに、マルルは、母・イユエラ

   を、ひきずるように抱いたままで、マリアと、ブルーノに近付いていった。

   4人は1つに固まったのだった。その瞬間、マリアが、念動移動力を発動

   させて、その場から跳んで、4人は消えた。だが、まだ、体力の回復が、

   完全ではないマリアに、どこまで跳んで逃げ切れるのかは、まるで自信が

   なかったのだったが。

       ((長らくお待たせいたしました。済みません。再入院や、身内の急な

   訃報など、いろいろ重なってしんどかったですけど、毎月、検査はありますけど、

   しばらくは娑婆にいますので、ボチボチ頑張りますので、これからもどうぞ、

   よろしくお願いいたします。それではまた。次回に続く。))

プライドとプライド 改

2012年04月04日 22時18分48秒 | Weblog

       第8章 大乱戦2。生か死か。それぞれの選択(7)

            怒り狂うケレト族(たてがみ族)のクレラ・ナンディーラに、

   助太刀を申し出たのは、悪魔のささやき、心理誘導師のレドン族(頭部外殻

   族)のケルテーカだった。「誰の心の中にも、排斥や憎しみや恐れや疑惑

   の心がある。俺様はただ、それを利用しているに過ぎないのさ」とうそ

   ぶいたのだった。超嗅覚の持ち主でもあるケルテーカは、リザ族(高体温

   族)のブルーノの匂いが、染み付いているの采配棒をかいで、その匂いを

   記憶して、早速、捜索に出かけて、遠距離透視で、ブルーノの姿を発見し、

   その心にささやいたのだった。(騙されているぞ。お前の懐にいる妻と子供

   は偽者だぞ。騙されるな。気をつけないと、寝首をかかれるぞ」と。

   ケルテーカのしわざとは思えず、自分の心の内に湧き上がる疑惑を、何度も

   打ち消そうとしたが、その度に心にさらに疑惑の思いが、生まれてくることに

   戸惑うブルーノ。だが、消せない恐怖に負けたブルーノは、疑念の目を

   向けて、愛する妻の身に剣を振るったのだった。その瞬間、我に返った

   ブルーノは、おののきながら、剣を地面に落として、死相が表われている、

   妻・イユエラの身体を抱き起こした。「俺はなんということをしてしまった

   のだ。済まん。イユエラ。俺もすぐに行く」と。イユエラが苦しい息の中、

   微笑みながら、「いえ、気にしないでいいのよ。あなた。いつの日か、こういう

   時が来ることを予見していたの。あなたに結婚を申し込まれた時から。元々

   身分の卑しいわたくしが、同じ屋根の下、生活させていただいて、おまけに

   可愛い息子まで、授からせていただいて。それだけでもう充分幸せでした。

   だから、もう2度と騙されないでね。人の心を操る悪魔のささやき、

   ケルテーカの言葉に」そう言い残すと、イユエラは息を引き取ったの

   だった。急激に冷たくなった、その身体を抱きしめて、泣き出すブルーノ。

   しかし、別れを惜しむ時間はなかった。「お取り込み中のところ、済まない

   が、そう悲しまなくてもいいぞ。息子ともども、すぐに後を追わせてやる

   からな。まあ、少しくらいは待ってやってもいいがな」と、2人の背後に立った

   長身の男は、もちろん、ケルテーカだった。イユエラをゆっくりと、地面に

   寝かせて、手を合わせたブルーノの瞳は、深い悲しみから、憤怒の色に

   変わっていた。「我が命に代えても、お前だけは許さない!」地面に落とした

   剣を拾って、持ち替えると、ちからを込めて振った。並み居る力自慢が多く

   いる、クトール軍の中、剣の指南もするほどの一流の剣の腕前の

   ブルーノ。だが、その素早い動きを、ことごとく、かわすケルテーカだった。

   「中々の腕だな。さすがは指南役だけのことはある。しかし、残念だな。

   眼の前にいるのが俺様では、相手が悪すぎる。あきらめて、ハベスの元

   へ、迷わず行け!」と、ケルテーカの右手が上がって、閃光一閃、ブルーノ

   の額がザックリと割れて、赤い血が噴出して、その場に倒れ込んだ。

   筈だった。が、ケルテーカの右手に、かつてない激しい痺れが、走った

   のだった。「何が起こったのだ?」と、当惑したケルテーカ。その眼の前に、

   ブルーノをかばって立つ、若い女の子?が居た。「誰だ?お前は。俺様を

   邪魔する奴は、たとえ女、子供でも容赦はしねえ」と、睨むケルテーカを

   見返す強い光の青い瞳。それは新生、マリアの瞳だった。後ろには母、

   イユエラに付き添うマルルの姿があった。マリアの表情には、決意が漲って

   いた。同じ身体を共有したエヴィータ姫。祖国と、そこに住む人々を愛する

   その熱い思いを裏切れはしなかった。マリアの手には、亡きエヴィータ姫の

   愛刀・ルジェーヌ。その刃に血が付いていた。むろん、ケルテーカの右手

   から出た血だった。「若い女の子が、お行儀が悪過ぎるぞ。少し、調教して

   やらなければいかんな」と、みずからの右手から出た血を、嬉しそうになめる

   ケルテーカ。だが、そのオレンジ色の眼は、まるで笑っていなかった。

   ケルテーカの強力なテレパシーが、マリアの全身を包み込んだ。マリアの心

   の奥の奥まで、探ろうとしていたのだった。その瞬間、ケルテーカは今までに

   味わったことのない気持ちに、襲われていた。彼を哀れむイリアスの伝説の

   美しき女神・イリアーヌの澄んだ青い瞳に、逆に全身を見つめられる

   ケルテーカだった。 ((随分とお待たせして、済みませんでした。

   ですが、まだ、完全に治っていなくて、再入院の場合もありますが、

   それまで、少しの間だけでも、頑張りますので、応援して下さいね。よろしく

   お願いいたします。それでは又。天候不順のおり、気をつけて下さいね。

    次回に続く。))

プライドとプライド 改

2012年03月24日 22時56分22秒 | Weblog

        第8章 大乱戦2。生か死か。それぞれの選択(6)

         「おい、邪魔をするな。え~と・・」「ラース族(透明化族)の

   ヴァルーダです。ケレト・ロットラナー様」と、ロットラナーの大柄な身体を、

   小柄ながら、凄い力で抑えるヴァルーダ。「俺様の真の実力を見せてやる。

   安心して見ていればいい。離してくれ。ええい、離せ!」と、これも凄い力

   で、背後から羽交い絞めしている、ヴァルーダの両腕を、外そうとする

   ロットラナー。このままでは、埒が明かないと悟ったヴァルーダは、自分が

   今、聴いている遠隔の音を、自分の耳の奥で、コピーしてから増幅させて、

   (サウンド・アンピリフィー・プレイ・バック)ロットラナーの鼓膜に、その音

   を聴かせたのだった。「やれやれ。戻って来るかどうか?わかりもしない、

   あのろくでなしのロットの奴を見張って、捕まえなければならないとは。

   まったくつまらない任務だな」「まあ、そう言うな。生け捕りが一番いいが、

   手に余ったら、殺してしまってもいいという、お達しだから、面倒くさいし、

   あいつは、いつも偉そうだったから、ひと思いに殺してしまおうか。嫌な奴

   だったしな」「正にそうだな。それがいい。今までの腹いせに、ギタギタに切り

   刻んでやろうぜ」と。遠い2人の男の会話の声が、ヴァルーダのおかげで、

   ロットラナーの耳に届いていた。ロットラナーは、全身の血が逆流するほど

   の衝撃を受けていた。自分の意のままに動いていた、一番の部下と思って

   いた、2人の男、ダンケスと、ドグーレの声だった。(おのれ。すべては偽り

   で、芝居をして、陰で、この俺を愚弄していやがったのか。)と、はらわたが

   煮えくり返る思いだったが、「人の心とは、中々、その本心はわかりにくい

   ものです。おまけに彼らは、あなた様ではなく、あなたの背後にいる、より

   恐ろしい者たちに、おびえていた。それを実は、あなた様も、薄々は

   感づいていた。しかし、それを認めたくはなかった。そうではないの

   ですか?」と、痛い所を突かれて、何も言い返せなかった。「でも、大丈夫

   ですよ。誰でも、認めたくない現実はある。それを認める所から、人は

   大きく成長します。これからも、腹を割って、お互いに本心で、話し合い

   ましょう。同じ仲間として。お願いします。ロットラナー様」そう言われて

   しまっては、腹も立てられないで、ただ、同意のために、首を縦に振る

   ロットラナー。その動作を確認しつつ、「これからどうするべきか?早速、

   フォーデ様に、お伺いいたします。済みませんが、あの笛をお貸し下さい

   ませ」と、手を伸ばしてきたので、つい、反射的に、フォーデに渡されていた、

   木製の小さな茶色の縦笛・クホーンを、その手に載せてしまっていた。

   それを受け取ると、ヴァルーダをすぐに唇に当てて、後ろを振り返りながら、

   何回か、吹いたのだった。しかし、ロットラナーや、背後の領兵たちには、

   何の音も聴こえないでいた。「おいおい、ちゃんと吹けていないじゃないか。

   俺に貸せ」と、クホーンを奪い返そうと、手を伸ばそうとしたその時。「さっき

   聴いた筈です。僕が増幅させた音を。この特殊能力で、フォーデ様の耳

   にも、ちゃんと聴こえた筈ですから、何の心配もありません」と。

    持ってきていた自分のサリーを、地面に敷いて、その上に、高熱のマリア

   を寝かせて、さらにその上にむしろを掛けて上げているイユエラ。詳しい

   事情はよくわからないが、まだ若い乙女の身体の傷やあざ。それに疲労の

   色が濃い、その表情に胸が痛み、その回復を願って、かいがいしく介護する

   イユエラと、その息子のマルル。だが、時々は目覚めても、すぐに寝込んで

   しまっているマリアに、2人とも心配になっていた。自分たちの危険な状況

   さえも、忘れてしまって。油断はしていなかったが、そのせいで、心に隙が

   あったことは、否めなかった。3人が隠れている洞窟の外から、岩を叩く音が

   3つ。夫のリザ族(高体温族)のブルーノが帰ってきたのだろう。だが、

   一応はじっとして、外からの合言葉を待つ。すると、「シュヴァル(牡馬)」

   それを耳にして、「シュボレー(雌馬)」と返した。外の相手から、最後の

   3番目の合言葉を待った。すると、やや間があってから、「シュニー(仔馬)」

   との返事が返ってきた。心のヴァーリアを解除して、「お帰りなさい。

   ご主人様。何かわかりましたか?」と、外から、大岩をどけながら、入って

   来た夫・ブルーノを見上げたイユエラ。その姿は紛れも無く、ブルーノ

   そのものだったが、イユエラの直感が、危険を探知していた。「マルル!

   彼女を連れて早く逃げて!」と。しかし、そう言い終わらない間に、イユエラの

   背中は斬られていて、大量の赤い血が、辺り一面に、溢れ出していた

   のだった。((誠に済みませんが、又、来週から入院になるみたいです。

   喉の良性の腫瘍の切除手術のためです。最低、1週間から、10日ほど、

   お休みいたしますが、よろしければ、帰って来るまで、しばしの間、お待ち

   下さいませ。お願いいたします。それではそれまではさようならです。

   次回に続く。))

プライドとプライド 改

2012年03月20日 22時21分59秒 | Weblog

       第8章 大乱戦2。生か死か。それぞれの選択(5)

          歯がゆい思いを我慢しながら、リオンとゼーラは、先を急いで

   いた。テレポートはもちろん、出来るリオンだったが、さすがに、イリアスの

   人間でもない彼らが、まともに、パロダムス診療院の中に跳べば、さらに

   混乱が増して、敵兵扱いされて、余計な支障が生じるのは、絶対に避け

   なければならなかったので、仕方なく徒歩で、木々と平地の繰り返しの中、

   辺りの様子に、最善の注意を払いながら、少しずつしか進むしかなかった。

   (こういう場合に不謹慎かも知れないが、そろそろ、イリアスの兵の1人、

    2人、戦死してしまった遺骸はないものかな?そうすれば、その服装を

   拝借して、イリアスの兵士に化けられたら、すぐに診療院の中に跳んで、

   ヘーメラーを捜せるのに。)と。しかし、風雲急を告げているはず?なのに、

   辺り一面、怖いくらいに、静寂なままであった。

    20人の領兵を行きがかり上、率いている、ケレト族(たてがみ族)の

   ロットラナー。紫色の髪の毛、そのすぐ下、首元から、背中にかけても、紫色

   の馬のようなたてがみが、腰辺りまで一直線に生えていた。黒い瞳に、

   黒い肌。その身体を白いマントに、白い半袖シャツ。腰から下は薄黄色の

   短パンで、足先には、紫色の革靴を履いていた。ただ、彼は、左腕と右足を

   やられていて、金属製の精密な義手、義足を付けていた。素手の右腕には

   電気ムチを持っていて、腰紐に、小刀を差していた。ロットラナーは、はやる

   気持ちを、抑えながらも、自分が支配していた、北のイリアス、南のクトール

   の境界線地に急いでいた。境界の場所を任されていたし、部下も500人

   ほどいたから、自分が命令すれば、全部とは言わないが、ほとんどはすぐに

   寝返ってくれるものと、考えていた。彼は知らなかった。自分が捨て駒で、

   境界地をあてがわれていて、部下達も能力の低い者だらけが回されていた

   ことを。部下達はロットラナーを恐れて、言うことを聞いていたのでは、

   なかったのだ。彼の背後に控える、クトールの幹部達。その中でも、

   ロットラナーの領地を管轄している、ガッシュ族(鉄犬歯族)のドールレイ

   の眼を恐れていたのだった。部下達が、自分に従うのは、すべては、自分の

   統率力のおかげだと、勘違いしているロットラナーは、正におめでた過ぎる

   男と言えた。「みんな。頑張れ。後少しで、元我が領地に着く。そこにいる

   我が部下達をすぐに説得して、味方に加えてやる。そうなれば、内部から

   混乱させられて、わが方の優位に、事を運んでいけるぞ。このわたしに、

   すべて任せておけ」と、大口を叩くロットラナー。その時、今まさに、イリアス

   のパロダムス診療院本部の警備隊長、ザレックスの右腕、副警部隊長の

   ラース族(透明化族)のルーレック。その弟が、アル族(長眉族)のフォーデ

   から、ロットラナーの監視役に任命されて、つき従ってきた、超聴覚の持ち主

   、ラース・ヴァルーダだった。そのヴァルーダが、急ぎ足のロットラナーに、

   赤い手袋をしたままの両の手を伸ばしながら、その手のひらを開いて、

   強力なバキューム・サイコキネシス(吸引念動力)を発動させて、一瞬で、

   ロットラナーの身体を引き寄せた。その肩を、14歳の少年とは思えぬ、

   凄いちからで掴んでいた。「駄目ですよ。ロットラナーさん。これ以上は

   、前に進めそうもありません。この辺りに隠れて、少し様子を見ましょう。

   もし、僕の言うことが聞けないのであれば、あなたの命の保障はありま

   せんよ。もちろん、へたすれば、僕ら全員が全滅ですが」と。銀色の髪の毛

   に、紫色の瞳。白い肌で、全身を茶色のサリーでまとい、頭も茶色の頭巾

   をかぶっていて、足元には、黄緑色の草履を履いていた。ヴァルーダが

   はめている赤皮の手袋は、それをしている者の能力を数倍から、数十倍に

   増幅させてくれる、秘用具、メビウス・グローブと呼ばれる物で、ヴァルーダ

   の家の先祖代々の家宝で、父、ラース・コフィーが戦死した後、グローブを

   引き継いで、もらうべき、長男のルーレックから、次男のヴァルーダに、

   「俺は頭はまあまあだが、武芸の方はさっぱりだ。この腰に差したる剣

   さえも、護身用というよりも、所詮は、単なる飾りにしか過ぎないのだ。

   その我が家の宝は、ヴァルーダ。武術の才能が豊かなお前こそ、

   持つのが、ふさわしいぞ。お前に譲る」と、あっさりと頂いた物であった。

   両親はすでに亡く、お互いを思いやる情の厚い兄弟。それがルーレックと、

   ヴァルーダ。今、この時でさえも、みずからよりも、兄、ルーレックの

   動向が、気がかりなヴァルーダだった。((次回に続く。))

   

   

プライドとプライド 改

2012年03月17日 21時07分35秒 | Weblog

       第8章 大乱戦2。生か死か。それぞれの選択(4)

         まだ傷付き、疲れを感じていたリオン。だが、そんな悠長な気分

   には、なれないでいた。「ちきしょう。今から乗り込んで、ラヴァーニを奪い、

   ついでに、エム・ブラッド屋敷のエム・シャルミ公女とかいう主人ともども、

   屋敷の中の奴ら、全員を皆殺しにしてくれる。みんな、行こうぜ!こうなりゃ、

   トーレカ様の弔い合戦だ!」1人興奮して、立ち上がるリオン。だが、洞窟

   の中、誰1人、同意の声を上げるでもなく、寂しげな眼を、リオンに向ける

   のみだった。「おい、どうしたんだ?みんな。我がラックサップの頭領が、

   やられたんだぞ。仕返しをしないでどうするんだ?そうだろう?バラッシュ、

   ドミノス。ヘーメラー。お前の実のおとうさんが、やられたんだぞ。悔しく

   ないのかよ?ヘーメラー」と、ふらつきそうな身体を、必死で踏ん張って

   歩きながら、ヘーメラーに近寄るリオン。しかし、ヘーメラーは、悲しげに

   首を横に振って言った。「悔しいのは、みんな同じだよ。リオン。だけど、

   あんたもわかっただろう?雇い主には悪いけど、この仕事はあたいらには、

   荷が重過ぎるんだ。今から屋敷に全員で乗り込んで行っても、全員が全員、

   返り討ちに会うのが、関の山だよ。もちろん、あたいも。あんたもね。

   それでも行くというなら、いいよ。あたいは。2人であの世でおとうさん。

   いや、頭領に頭を下げるよ」と。実の娘のヘーメラーに、そこまで言われて

   しまえば、言い返す言葉もないリオン。急にちからが抜けたようで、

   その場に、そのまま座り込んでしまっていた。「もう仕事は終わったんだよ。

   リオン。仕事の途中で、ラックサップの内の誰か1人でも死んだりしたら、

   契約を解除するというのが、頭領が、始めから決めていた掟だ。もちろん、

   その時の弔い合戦も、一切無用。危険なヤマは乗るなよと、厳命されて

   いたんだよ」と、リオンの肩に、優しく手を置いた、副頭領のシャラ族

   (三つ目族)のカレワール。小柄だが、がっしりとした身体つきで、全身

   傷だらけで、褐色の肌に、禿げ上がった頭。黒く伸びた無精ひげに、通常の

   2つの黒い眼に、額の真ん中にも1つ、金色の眼がついていた。身体には、

   半袖の黒いチュニックに、足首の少し上までしかない、やや短めの焦げ

   茶色のズボン。足には、動きやすい、ゴム製の鈍い青色の靴を履いていた。

   背中には棍棒がくくりつけてあった。その3つの眼が、優しくリオンを

   見つめる。「危ない仕事だが、誰にも死んで欲しくはない。絶対にだ。

   だから、もしも、誰か1人でも死んだら、その仕事はそこで終わりだ。

   その後のことは、その時に考える。もし、抜けたいという者がいたら、

   抜けてもいし、解散するなら、それもいい。まあ、俺は義理もあるから、

   今更、止められない。1人になっても、危ない仕事を、死ぬまでやるだけ

   だがな。とは、頭領の・・生前のお言葉だ。今は、我がラックサップの

   生まれた場所に戻ろう。みんなに反対の気持ちがなければだが・・」と、

   カレワールの言葉で、決まったみたいで、全員の総意で、この隠れ家の

   洞窟を捨てて、出立の準備が始められたのだった。敵の追い討ちも警戒

   しながらの。手伝おうとする、リオン、ヘーメラーらは、カレワールの命

   (めい)で、何もしないように厳しく言われた。もちろん、2人の身体を、

   気遣ってのことだったが。そのやり取りを、リオンの右腕に移植された

   ばかりの左腕だけのゼラックス。その中の魂が、嬉しさに震えていた。

   一見、粗暴ながらも、そこに漂っている、人間同士の暖かいつながりが、

   感じられて、生まれて初めての心の安らぎを覚えたゼラックス。エム・

   ブレッド屋敷内での、ギスギスした緊張しっぱなしの悪夢のような日々とは、

   まるで真逆だった。ゼラックスは知らなかった。移植手術をしてくれたのが、

   若い頃に、親子2代の功績に免じて、死だけは許されて、屋敷を、

   永久追放になった、酒好きで、酒の神、ティオニースから、後に、

   ドクター・テオと名乗った、ササ族(動植物中間子族)のジェダンと、その

   父親、ゲレンダールのよって行なわれたことを。2人はむろん、ゼラックス

   のことを知っていた。元あるじの1人だし、彼だけには、厳しく咎められる

   こともなく、むしろ、最善を尽くした治療には、優しい感嘆の声を、掛けて

   くれたからだった。「ゼーラ。おい、ゼーラ!何を考え事をしているんだ?

   俺にも教えろ。まあ、それより、これから、最前線に侵入するぞ。考え事は、

   後回しだぞ」と。リオンの威勢のいい声を聴きながら、あの日から、

   リオンに名を訊かれて、ゼーラと名乗って、ゼラックスを捨てたのだった。

   リオンの声を、耳にしながら、苦笑しきりのゼーラだった。

        (( 次回に続く。 ))

プライドとプライド 改

2012年03月14日 00時01分37秒 | Weblog

       第8章 大乱戦2。生か死か。それぞれの選択。(3)

         「フン。おい、おじさん。すこしは出来るみたいだが、僕を甘く

   見ない方がいいよ」と、エム・ゼノビアは挑発的な言葉を吐きながら、

   「大方、このラヴァーニを奪い取って、破壊する仕事を、頼まれたんだろう

   けど、そうはさせない。これはシャルミ公女からの預かり物なんだから」と、

   ラヴァーニを腰の鞘に戻したゼノビアは、「少しだけ、僕の本当の力を見せて

   あげる。出来るだけ、僕を楽しませてね。おじさん」そう言うと、両手を、前に

   突き出した。すると、両の手のひらから、たくさんの蝶が、飛び出していた。

   「バタフライ・タイト・ロープ!」昆虫発生師のゼノビアの力が発動して、

   色鮮やかな蝶の一群が、ジグザグに飛行しながら、真っ直ぐにトーレカの

   全身を包もうとしていた。「普通の蝶じゃないよ。羽根には毒が塗ってある。

   触れればひとたまりもない。まあ、これでやられるくらいなら、たいしたことも

   ないがな」姿が見えなくなるほどに、周りを囲まれたトーレカ。ドサッと大きな

   音がして、その場に倒れ込んだのだった。「やれやれ。たわいのない。只の

   見掛け倒しのおじさんだったか。あ~あ、詰まんねえな」と、溜め息をつく

   ゼノビア。毒の蝶たちが、四方八方に飛び去ると、そこに現れたのは、

   トーレカの身体ではなく、エム・ブレッド屋敷の警備兵の1人の死体が、

   そこにはあったのだった。辺りを見回すと、トーレカだけでなく、リオンや、

   ヘーメラー。そして、ユグドランの姿も、消えてしまっていた。「おのれ。

   すばしっこいおやじだ。追いかけて・・」「まんまと騙されたな。ゼノビア。

   まあよい。奴はすぐ戻って来る。その刀に用があるんだからな」と、ゼノビア

   の背後から、意志の強そうな声。この屋敷の主、エム・シャルミ公女の

   だった。絶大な力を持つ彼女は、しかし、その姿は、老練な高齢の女性など

   ではなく、幼い5,6歳の女の子、そのものだった。赤い頭巾をかぶって

   いたし、首から下も、赤色の上着に、膝上までのスカート。足元は、黒色の

   靴下に、赤色の布製の靴を履いていた。一目見ただけなら、可愛い女の子

   にしか見えなかった。もちろん、見た目はそうでも、中身は、まるで別物

   だったが。

    トーレカは、屋敷に忍び込んだ時に、警備兵の1人を捕まえていた。妖刀・

   ラヴァーニの行方を聞き出すつもりだったが、その必要もなかった。

   持ち主自身が現れたからだ。だが、傷付いたリオンや、ヘーメラーを、

   この場から救出することが最優先課題で、すぐに元の場所に戻る心算

   だった。だが、予定は狂わされた。背中に激痛が走った。油断していた。

   息もたえだえのユグドランが、実は演技で、今この時に、自分の命を、

   狙っていたとは、気付かないでいたのだった。トーレカの背中の真ん中に、

   長刀が突き立てられていた。もちろん、犯人はユグドランだった。

   「我が息子を、一人前の男に鍛え、育ててくれたみたいだな。トーレカ。

   礼を言うぞ。安らかに地獄で眠れ」と、長刀・クルビエラを無理やり

   引き抜くと、ひどい出血で、激しい痛みに悲痛な声を上げるトーレカに、

   お構いなしで、その首を刎ねて、とどめを刺そうとした。その刹那。

   それを止めようとして、出されたリオンの右腕を、容赦なく切り飛ばして

   いた。「馬鹿息子が、邪魔をしおって!」冷血非道なユグドランだったが、

   まだこの時は、息子のリオンに情が残っていた。「あんたは、俺のおやじ

   なんかじゃない。俺のおやじは、この人、トーレカだ。命を奪わせは

   しないぞ。やるなら、俺が相手だ」と、血が噴出している右手を、左手で抑え

   ながらも、フラフラと立ち上がるリオン。さすがのユグドランも、舌打ち

   しながら、「チッ。まあいい。もう、トーレカも助からまい。目的は果たした。

   だが、忘れるな。馬鹿息子。今回は許すが、次、俺様の邪魔をしたら、

   実の息子といえども、その命は無いと思え。いいな!」と、捨てゼリフを

   残して、ユグドランは跳んで姿を消したのだった。ヘーメラーの呼ぶ声を、

   耳元が聴きながら、意識を失ったリオン。どれくらい、時が過ぎたのか?

   わからないまま、気が付くと、失った右の肘から先に、グルグルと巻かれた

   白い包帯。そこにはエム・ブレッド屋敷内で、毒を盛られて、絶命した

   シャルミ公女の実の父親のゼラックス。その彼の左腕が、わけあって、

   リオンの右腕に移植されていた。彼の魂とともに。その驚きとともに、

   対面が叶わないまま、荼毘に付されたと聞かされたトーレカの遺体。

   その深い悲しみが、リオンの胸を覆い尽くしていた。ラックサップの隠れ家

   の1つの洞窟の中で、ヘーメラーや、ラックサップの仲間とともに。

          (( 次回に続く。 ))

プライドとプライド 改

2012年03月06日 21時56分52秒 | Weblog
 
        第8章 大乱戦2。生か死か。それぞれの選択。(2)

          リオンは体力の激しい消耗が起こるであろうことを、自覚しな

   がらも、ヘーメラーを、この窮地から救うために、自己犠牲を決めたの

   だった。手にしているアイシクル・ソード(氷柱剣)に意識を集中させて、

   針だらけの狼の群れを斬りながら、剣を次第に大振りにしていった。

   「アイス・ヒュドラ・アタック!」氷の形をした、伝説の9の首を持つ、大水蛇

   のモンスターが具現化されて、首が9の方向に伸びて、それぞれが、

   針だらけの狼たちに巻きついて、それぞれが一瞬で、凍死した。だが、

   体力、気力の消耗の激しさは凄まじいものがある。ヒュドラを具現化

   させて、3分少々した時、リオンはバッタリとその場に倒れ込んでしまって

   いた。しばらくは手の指さえ、動かせそうもない激しい疲労が、全身を

   襲った。右手に持った氷柱剣も手離して、そのまま、ヒュドラとともに消えて

   しまっていた。「リオン!」と、驚いて駆け寄るヘーメラー。たくさんいた針

   だらけの狼は、そこらじゅうに倒れていて、絶命していた。心配そうな

   ヘーメラーに抱き寄せられたリオンは、必死に声を絞り出すように言った。

   「俺のこといいから、逃げろ。逃げるんだ。ヘーメラー」「嫌よ。絶対に。

   いつも一緒だよ。リオン」と、2つの小刀・ベー・チェールを腰の鞘に、

   それぞれを納めると、動かないリオンを抱き上げようとした。が、まるで、

   力の入らない成人男性のリオンは、あまりに重くて、華奢なヘーメラーでは

   起こし上げることさえ出来ない。「行け。ここを離れろ。早く」と。しかし、

   それを遮る声が。「せっかくのいい所を、邪魔して悪いが。まあ、2人仲良く、

   地獄のハベスの所に送ってやるから、それで勘弁しな」と、2人の背後に、

   1つの影が立っていた。エム・シャルミ公女の創設されたばかりの裏部隊

   ・シャラーズの隊長、エム族(長耳族)のゼノビア。身体の造りは女だが、

   見た目は筋肉隆々としていて、背も高く、男と見間違う程だったが、紫色の

   腰まである長い髪を、いくつかの赤いリボンで、数珠つなぎのように、長く

   垂らしていた。まるでうさぎのように、白く長く立っている、ピンク色の両耳。

   そして、オレンジ色の瞳に、白い肌。高い鼻梁に赤い唇。たわわに実って

   いる2つの乳房を、胸が開いた焦げ茶色の皮の服の下で、白色のさらしで、

   きつく巻きつけて抑えていた。両腕も、焦げ茶色の肘当てのみで、

   ノースリーブで、肌をさらしていた。腰から下は、白色のスカートに、両の

   足首から、膝に向けて、軍隊用の焦げ茶色の皮のゲートルを、巻きつけて

   いた。足元には赤色の革靴を履いていた。そして、その手には、あの妖刀・

   ラヴァーニを携えていた。そのかたわらには、魔人と恐れられていた、

   ササ・ユグドランが、身体のあちこちから、血を流しながら倒れていた。

   「クソッ。その刀は、俺様が名刀工のエント・ブリューエの一番弟子、グミ・

   パラケルスに造ってもらった物だぞ。返しやがれ」「うるせえ!僕が

   持つのが、一番ふさわしいんだよ。後で始末してやるから、大人しく

   しやがれ!」と、言いながら、倒れたままのユグドランの脇腹を、容赦なく、

   革靴の尖った先で数回蹴ったのだった。「ゲボッ」と、血を吐きながら悶絶

   するユグドラン。「お前は弱すぎて飽きた。まあ、こっちの新しい獲物で

   遊ぶわ。でも、こっちも弱そうで詰まらなさそう」と、冷たい視線を向ける

   ゼノビア。リオンをかばうように立ち上がった、ヘーメラー。意識を集中

   させて、両の手のひらを、前で組んで、少しだけ隙間を作った。その隙間

   から、「ファイヤー・イリプス・キャノン!」と、炎放出師のヘーメラーの

   両手のひらの隙間の間から、楕円形の炎の盤が、複数飛び出していた。

   ゼノビアを標的にして。楕円形の盤は、空気抵抗の中、複雑な動きをして、

   ゼノビアに迫った。全部の盤が、ゼノビアに命中して、凄い炎が舞い

   上がったのだった。しかし、その炎の中から、「チッ。詰まらん」と、余裕の声

   が聴こえてきて、凄まじい炎が一瞬で消え、ゼノビアが一歩跳躍しただけで、

   ヘーメラーの眼の前に立っていた。凄い跳躍力、脚力だった。

   「さっさと終わらせてくれる。喜べ。仲良く両断してやるから」と、妖刀・

   ラヴァーニを、ゼノビアが右手で、振りかぶった刹那、その右手首に、

   ピンポイントで、紐状の炎が、輪のようにからみついていた。「クソッタレ。

   アチチッ。誰だ!」と、あわてて、右手を振りながら、口からの凄い空気で、

   炎の輪を消したゼノビア。「俺の可愛い部下達に手を出すな。じゃじゃ馬

   女!」と、強い口調の声。もちろん、ササ・トーレカが、ユグドランを、

   横目で視ながら立っていたのだった。(( 次回に続く。)) 
   

プライドとプライド 改

2012年03月01日 22時51分26秒 | Weblog

       第8章 大乱戦2。生か死か。それぞれの選択。(1)

        それはなんと、妖剣・ラヴァーニからの閃光だった。エム・シャルミ

   公女が、実質的な所有者になっていた、エム・ブレッド屋敷内での出来事

   だった。あまりの眩しさに、一時、視力を失ってしまった、リオンはたまらず、

   その場にしゃがみ込んでしまっていた。周りの仲間たちも同様では

   あったが、ササ族(動植物中間人族)のリオンは、栄養を食べ物以外にも、

   光合成で吸収できるという特殊体質の者なので、その光を、瞬時に身体

   全体でも吸収して、幸運?にも、周りの誰よりも、閃光から解放され、

   いつの間にか、姿が見えなくなってしまっていた、頭首、同じくササ族の

   トーレカの後を、1人で追い始めていた。しかし、そのすぐ後ろから、

   これも同じくササ族のヘーメラーも、続いていることには、リオンは気付か

   ないでいた。赤色のレンガと、黒色のレンガが格子状にはめ込まれて、

   建てられているエム・ブレッド屋敷。その大邸宅の周りには、高さ3メートル

   くらいの同じ模様の塀が、囲むように造られていた。(ヤバイ。トーレカ様は、

   俺たち、部下の身を案じて、単身で屋敷に乗り込んで、命に代えても、妖剣・

   ラヴァーニを破壊するお心算だ。そうはさせない。なんとしてもお救い

   せねば。まるで実の父親のように、育ててくださった、その恩に報いる

   ためにも。いや、それ以上に、俺だけが、おめおめと生き残ってしまっては、

   ヘーメラーに会わす顔がない。)心焦るリオンは、なんのためらいもなく、

   「アイスクル・バー・ロンゲスト!」と、右手の中で、なが~い、4メートル程の

   棒状の氷の塊りを具現化させると、(リオンは水媒体師。)棒高跳びの

   要領で、その高い塀をなんなく飛び越えていた。そんな芸当の出来ない

   ヘーメラーは、咄嗟に、宙を飛ぶ、リオンの右足首にめがけて、「ラバー・

   ストラップ・タイアップ!」と、ゴム状の細い紐を、具現化させて投げ付け、

   括り付けていた。ヘーメラーは、炎と、ゴム媒体師だった。その反動で、

   引っ張られるように、ヘーメラーも、飛ぶ様に宙に浮いていた。その感覚に

   驚きながらも、塀の内側の地面に、着地したリオン。後から落ちて来た、

   ヘーメラーを前で受け止めていた。「ヘーメラー!なんで?ついて来た。

   さっきの男は?」「大丈夫。バッシュとドミノスに任せてきた。それより、父、

   いえ、頭首様と、リオン。あなたが心配だから、ついて来たの」と、リオンの

   眼を、下からまっすぐに見返すヘーメラー。リオンは心の動揺を隠す

   ように、ゆっくりと地面に降ろすと、「悪いことは言わない。ここは相当

   ヤバイ。今すぐ、消えてくれ。頼む。ヘーメラー」と、強い口調で、

   言い放った。だが、そんなことで引き下がる娘ではない。気の強さは、

   並みではないのだった。「失礼ね。あたしは弱くないわよ。なんなら、今ここで

   勝負してみる?」と。吸い込まれそうな、綺麗な緑色の瞳。ドギマギする

   リオン。しかし、彼女を守れる自信もない。この場を離れてもらうしかない。

   「だめだ!帰れ!今すぐ」と。「何よ。それ。絶対に・・」ヘーメラーが、

   言い終わらない内に、多くの唸り声が響いてきた。身体中の大きな針が

   ついた、犬か狼のような獣が、たくさん、牙をむいて、襲い掛かって来た。

   リオンもヘーメラーも、視た事も聞いた事もない生き物の群れだった。

   「気をつけろよ。牙には菌もついてるかも。噛まれたらヤバイ」「わかってる。

   そんなヘマはしないよ」と、2人とも、緑色の眼に、緑色の髪の毛に、

   白い肌。リオンは赤い山高帽に、黒色のマントに青いシャツ。下は赤い

   ズボンに、茶色の革靴を履いていて、右手にアイスクル・ソード(氷柱剣)を

   具現化させて、流れるような動きで、異型の獣たちを、斬っていった。

   ヘーメラーはというと、長い髪の乱れを抑える様に、青色のカチューシャを、

   頭にして、赤色の肘、膝当て。赤いマントに、紫色のチュニックに、白い

   短パン。足元には黄色の草履を履いていた。その左右の手に、1本ずつ、

   小刀・ベー・チェールを逆手に持って、こちらも舞うように、次々と獣を、

   切り刻んでいった。赤い血が辺りに飛び散り、獣たちも悲鳴を上げて、

   倒れていった。だが、きりがなかった。倒しても倒しても、屋敷の奥から、

   続々と獣が、数珠繋ぎのように、襲い掛かって来たのだった。リオンは

   焦っていた。まるで余裕が、なくなりつつあったからだ。しかし、それ以上に、

   すぐ傍らのヘーメラーの体力が、いつまで持つかが、気がかりで、

   ならなかったからだった。(( 次回に続く。 ))

プライドとプライド 改

2012年02月23日 23時16分42秒 | Weblog

   第7章 大乱戦。次第に剥がされてゆく真実のヴェール(20)(終わり)

         ゼーラ(本名はサージ・ゼラックス。エム・シャルミ公女(長女)

   と、その妹のシャループ(3女)の実の父親。次女のシャルーダだけは

   父親が違う、異父兄弟。母親は同じ、エム・シャローヌ。)彼はなんと、

   実の娘のシャルミに、邪魔者扱いされて、殺されかけたという、恐ろしい過去

   を持っていた。今から3年ほど前で、毒を盛られて、痺れたままの身体の

   ゼラックスが、そのままで、エム・ブレッド屋敷の裏手の河に捨てられて、

   後ほんの少しの時間で、溺死する運命にあった。そのガンディーヌという

   名前の河付近に、危険を承知で、ブレッド屋敷に忍び込もうとしていた集団、

   盗賊団のラック・サップで、初代頭領、ササ・リンド・トーレカとその一味の

   十数名が、偶然にも、そこに潜んで、屋敷の様子を伺っていたのだった。

   シャルミ公女が持っているといわれる、妖剣・ラヴァーニを奪って、その妖力

   を封じてから、粉々に処分してくれという、依頼主のたっての願いを、叶える

   ために。並みの悪党も恐れる屋敷に、接近しようとしていたのだった。

   (もちろん、その中に、リオンも居た。)その矢先に、河に流されてきた

   物が?どうも人みたいで、それがゼラックスだった。「ヘーメラー。バッシュ

   と、ドミノスと残って、その人を介抱しろ。お前のヒーリングなら、もしかして、

   その人を助けられるかも知れないからな。いいな。これは、正式な頭領

   命令だ。守れよ」と、実の娘のヘーメラーに、声を掛ける、頭領のトーレカ。

   正に渡りに船だった。どこまでもついてゆくという、本当は可愛くてたまら

   ない、愛娘を残らす口実が出来たのだった。頭領の命令には、絶対服従

   することが、ラック・サップの第一の掟だった。守らない者には厳罰を

   処すか、追放することを決めていたからだ。ヘーメラーは渋々頷くしか

   なかった。呼ばれたバッシュ、ドミノスも頷いた。それを確認すると、

   河に向けて、トーレカ自身と、リオンや、他の者が、河に飛び込んで泳ぎ、

   ゼラックスの身体を掴んで、岸辺に引き上げると、ヘーメラーと、他の2人を

   じっと視てから、「頼んだぞ。よし、行くぞ」と、言うと、これが最後の別れ

   かも知れないと、思いながらも、淡々とヘーメラーに背を向けたトーレカ。

   (達者で暮らせ。ヘーメラー。心配するな。頑固者のリオンはかならず、

   お前の元に、生きて返してやるから。いくら、鈍感な俺でも、お前のリオン

   への想いくらいは、わかっている心算だ。大人しく、待っていてくれ。)と。

   より多くの人間の魂を吸い取って、より切れ味、硬度が増すと言われて

   いる、妖剣・ラヴァーニ。その製作された過程、歴史はよくわかって

   いないが、怨念の大きい者ほど、その剣に魂を吸い取られやすくて、

   未確認情報ながら、最近まるで姿を見せない、クトール帝国の先代の王、

   クレードと、現王、クコンラも殺されていて、妖剣・ラヴァーニに、その魂が

   宿っているのではと、疑われていた。新たに、クトールでは新参者?の

   クトー・ディマーネと、その部下のヤーフ族(逆進成長族)イマンジーロが、

   台頭しつつあったからだ。彼らと、エム族(長耳族)シャルミ公女らが、

   結託して、帝国そのものを、我が物にしようとしているという、噂も風の便り

   のように、国の内外、あちこちに、流れてきていた。彼女の所有物らしい、

   妖剣・ラヴァーニは、帝国を追われた、2人の王の怨念で、より使い手の

   人格を、狂暴化?して、その威力がさらに増したのではないかと、信じられて

   いた。事の真偽はともかくも、ラヴァーニを盗み出して、破壊することを、

   事の断り切れない恩人から、依頼されたトーレカ。始めは、団のみんなには

   黙って、こっそりと1人で忍び込む心算が、リオンに覚られて、他の者にも

   ばれてしまい、仕方なく、選抜隊を組んで、ここにやって来たのだった。

   トーレカの戦いの勘が、ビンビンと、頭の中で響いていた。(行くな。

   これ以上、進めば、危ないぞ。命の保証はない。部下はもちろん、お前

   自身も。)と、これ程の恐怖を、全身で感じたことなぞ、今までにはない、

   トーレカだったが、後へは退ける筈もなかった。辺りに注意しながら、

   夜の闇の中、魔の館、エム・ブレッド屋敷に、歩を進めるトーレカ達。

   「頭領!危ないですから、俺が先行します」と、前に出るリオン。

   「でしゃばるな!リオン。俺が先頭でいいのだ」と、注意しようとしたトーレカ。

   その時、すぐ目の前で、凄い閃光が走ったのだった。

     ((済みません。ひどい風邪を引いて、間が空きました。なるべく、

   短い間隔で、ブログ更新が出来るように、頑張りますので、これからも

   よろしくお願いいたします。それでは又、早目に会いましょうね。

    この章、終わり。以下、次章へ。))

プライドとプライド 改

2012年02月18日 23時12分14秒 | Weblog

      第7章 大乱戦。次第に剥がされてゆく真実のヴェール(19)

        イリアス・オレオ王国は、北側は山脈、中央は平原、西側と、南側の

   クトール大帝国との国境線づたいは、森林地帯に覆われていた。そして、

   イリアスの東側には、クトールと同じく、カシュ海の北側を占有していた。

   イリアスの南側と、クトールの北側、国境線を越えて、クトールの大部隊

   が、北上し、3部隊に分かれて、1部隊は、そのままで、北上、前進し、別の

   2部隊は、西回りに大きく迂回しながら、イリアスの西側に回り、1部隊は、

   東進を開始した。そして、残りの1部隊は、さらに大回りをして、イリアスの

   北側に回って、南進する計画だった。イリアスは、正に3方向から攻め

   られていた。ただ、時間差は大きかった。一番早く動けるのは、もちろん、

   北上部隊で、最も攻撃に入るまでの時間が掛かるのは、距離も長く、険しい

   山岳地帯を進む南進部隊だった。だから、北上部隊も、すぐに敵に遭遇

   するものと、覚悟を決めて、警戒していた。しかし、イリアスの軍は、彼らの

   眼の前には、1人も現れなかった。それは、今回、一番の標的にされて

   いる、イリアスの民、兵士の中央病院、パロダムス本部診療院。その場所の

   警備の重鎮、警備隊長、ユーコ族(調節眼族)のヴァーニ(領地名)の

   ザレックス。その右腕とされているのが、若いながらも副隊長に抜擢された、

   ラース族(透明化族)のルーレックだった。(彼はファルガーや、ミノメの

   従兄弟である。)彼は敵の裏をかいて、わざと南側の陣を退かせて、

   全体の3分の2の部隊を、北側の山岳地帯に向かわせていた。残りの

   3分の1を、2つに分けて、半分を西に向かわせ、残りを本部の護衛に、

   残したのだった。移動距離が最も長く、敵に遭遇するのはまだまだと、

   油断しているだろう、南進部隊を、まず先に叩くことを、優先させて、敵を

   動揺させて、情勢を有利に運んで、とにかく、時間を稼ごうと考える

   ルーレックだった。だが、わかっていた。イリアスの実質的な宰相といえる、

   グミ族(黄金毛族)のカミュエルが、壊滅的な危機になりかねない、この

   大事な局面のところで、まるで、姿を現さない。それはつまり、他の場所

   でも、これ以上の大事件が起こっているということで、それは、とどのつまり、

   イリアスという国の防衛力を、はるかに越える緊急事態が、続々と出て来て

   いて、遅かれ早かれ、この国が破滅への道を、走り始めてしまったということ

   を、意味していた。どこまで抵抗できるかは、わからないが、ルーレック

   自身は、たとえ、イリアスの最後の1人になっても、剣を取って、1人でも

   多くのクトールの悪魔どもを、地獄の道連れにしてやろうと、決意していた。

   ラース族自体が、先祖代々、流浪の民で、あちこちの小国を渡り歩いた

   後に、このクトールに落ち着いて、ある程度の財産、地位を築いた先祖。

   ルーレックが、まだ幼い頃、クトールの襲撃があって、ルーレックも、両親、

   兄弟、親戚をたくさん失っていた。悲しいことだが、ルーレックが、挫ける

   ことなく、成長できたのは、クトールへの復讐心が、その最大のものと

   いえたのだった。

    アル族(長眉族)のジモンから、逃げるように、あわてて跳んで消えた、

   ササ族(動植物中間人族)のリオンと、その右腕の包帯の中?のゼーラ。

   2人も相談して決めていた。ゼーラの謎の仲間たちからの連絡で、

   イリアスが、正に危機的状況で、その中でも、パロダムス診療院が一番

   危ないという情報をキャッチしていた。診療院の中に、負傷した、ササ・

   ヘーメラーも、担ぎ込まれて?紛れていることも知ったのだった。「たとえ、

   どういう状況であっても、ヘーメラーは兄弟同然に育った仲だ。絶対に

   見捨てることなんかは、出来ねえ。父親のトーレカは大恩人だし。お前が

   反対するなら、この右腕をひきちぎっても、助けに行くぜ。止めても無駄

   だからな」と、リオン。すると、ゼーラの反論の声が、右腕から、「わかって

   いるさ。お前の性分は。もう、随分と長い付き合いだし。正に命が終わろう

   としていたこの俺に、その右腕を提供してくれて、棲まわせてもらうと、

   決まったその時に、言ったろうが。これからは、いつまでも一緒だ。

   一蓮托生。俺の命は、お前のものだ。好きに使ってくれと。まさか、

   忘れちまったのか?」と。その言い方に、「もちろん、憶えているさ。じゃあ、

   いいな。正真正銘の死地に出向いても」と、返すと、「当たり前だ。お前に、

   任せるのに決まっているだろうが。一々訊くな」と。その言葉に、

   にんまりと笑うだけのリオンだった。((次回に続く。))

プライドとプライド 改

2012年02月11日 23時22分23秒 | Weblog

     第7章 大乱戦。次第に剥がされてゆく真実のヴェール。(18)

        恐れ多くも、王妃、エウロヴァの身体を抱き上げた状態のアル・

   ジモン。しかし、焦りの心しかなかった。両手に、ベットリとした血の感覚が

   ある。もちろん、斬られた王妃の背中から、流れ出している血だった。

   (マズイ。深手だ。このままでは命が持たない。急いで、手当てをしな

   ければ。だが、本部診療院は、敵の総攻撃がまもなく始まる。戻りに戻れ

   ない。どうする?猶予は無い。仕方ない。危険だが、やはり、診療院に戻

   ろう。)と、今まさに、エウロヴァ王妃を抱いて、跳ぼうとした、ジモンの心の

   中に、(ご婦人は、ひどい怪我をさせておる。動かさない方がよい。

   待たれよ。わしらは医者のはしくれ。敵ではない。待ってくれ。)と、

   テレパシーが送られてきた。ジモンがそのまま、振り返ると、その超視覚

   が、遠くの茂みの中から、息を切らしながら、駆け出して来る、3人の男の姿

   を、捉えたのだった。しばらくすると、やっと現れた男たち。ドクター・テオと、

   連れのティーチと、ローガンだった。「はあ、はあ、済まんな。年は取りたく

   ないのう。年々と走るのが億劫になってしまう。わしはドクター・テオと言う者

   で、見かけはこんなでも、妖しい者ではない。こいつらは、わしの弟子の

   者たちじゃ。悪いが、そのお方は危うい。今ここで、診よう」と、ジモンの返答

   を聞かずに、エウロヴァをそのまま、すぐ下の草むらに横たえた。ジモンは

   初見ながら、不思議と信頼の感情が湧いてきた。この者たちに、任せようと

   決めたのだった。すぐにテオの表情が曇った。研ぎ澄まされた医師としての

   感覚で、嗅ぎ分けた血の匂い。軽傷ではないと思えたが、ここまで酷い

   とは。一瞬だけ、唇を噛んだ。だが、一刻を争そう事態だ。「とにかく、

   すぐ、止血だ。ローガン。念動力を頼む」言われた禿げ上がった頭に

   モヒカンの髪型のローガンが、意識を集中させて、ピンポイントで、

   エウロヴァの背中に、パワーを送った。が、うまくいかないのか、中々、

   血は止まらないでいた。「クソッ。駄目か・・」と、ほぞを噛むテオ。その時、

   「そんな小さな目標に、しかも、微妙な力加減で念を送るのは、誰にだって

   難しい。至難の業だ。俺に任せな。みんな、少し離れろ」と、ササ・リオン

   の声。みんなが下がった瞬間、「エア・ハイ・スピード・ライン!」と、正に、

   背中の傷に合わせた細長い空気の波が、見事に当たって、血が飛び散った

   が、傷が閉まって、なんとか血が止まった。「一時的な止血だ。長くは

   持たない。後は、あんたらに任せたぞ」と、言うだけ言うと、リオンはすぐに

   跳んで、姿を消したのだった。背中に冷や汗が流れていた。(ゼーラ。俺たち

   の正体、見破られなかったかな?さっきの男は、間違いなく、イリアスの

   重臣の1人、アル・ジモンだな。親父か、誰かにやられたのか?たぶん、

   エウロヴァ王妃?俺がユグドランの息子だとばれたら、命は無いかもな。

   ドクター・テオや、あの女の子、メドルサとかの正体や、目的を知りたいが、

   ひとまず、ここは退却するしかないよな。ぜーラ。)(そうだな。あまり、目立つ

   行動は控えないとな。我らは敵が多すぎる。生きるためには、危なく

   なったら、逃げるが勝ちだ。)同意する、右手の中のゼーラだった。「今の

   若者も、あなたたちの連れか?」と、訊くジモンに、「まあ、その話は後で。

   今は、緊急事態なので」と、そう誤魔化すテオに、エウロヴァの容態が、

   心配なジモンは、口をつぐんだのだった。その彼らに、大型の男、ロコロが

   近付いていた。(あの若造め。人をおちょくりおって。ただでは済まさんぞ。)

   と、言いながら、どこか嬉しげな表情のロコロだった。

    「護衛隊長。敵、クトールの大軍が、海沿いを除いた三方向から、同時に

   攻めてきつつあります。どう配陣をされますか?」と、部下、ルーレックの

   伝達に、内心は肝が冷える思いのユーコ・ヴァーニ・ザレックス護衛隊長。

   だが、弱みを見せたら、余計に士気が下がって、味方が危うくなるのは、

   火を見るよりも、明らかだった。みずからの心を、奮い立たせる思いで、

   大声で命令した。「心配するな!ただちに、援軍を向かわせると、カミュエル

   様から、直々の伝言を頂いている。しばしの間だけ、持ちこたえればいい

   のだ。ルーレックよ。内部を固める主力は、我が地の領兵のみでいい。

   残りの部隊の編成は、お前の裁量に任せる。3分割して、それぞれの敵に

   当たらせろ。よいな!」と。頭を下げる忠義な部下、頭脳明晰だが、

   まだ若い、身体の色を変えられる、ラース族(透明化族)のルーレックに、

   心で詫びるザレックスだった。((次回に続く。))