「悟くん、座っても良いのよ?」
俺はその言葉を聞き、ソファーに力なく座り込んだ。
ショックと絶望。
その二つが身体を駆けめぐっていて・・・怠い。
「悟くん、夏蓮さんと何かあったの?」
座ったまま俯いている俺に、先生が話しかける。
俺は答えない。
否、答えたくても答える気力すらない。
長い沈黙が、二人の間に流れる。
「夏蓮さん、私のことも何も分からないの。」
ポツリポツリと言葉を紡ぎ出すように、先生が話し始めた。
黙って聞いていた。聞くしかなかった。
「私が部屋に入ったとき、夏蓮さんはさっきのような虚ろな目で私を見てきたわ。
昨日の帰りに「さようなら。」って挨拶してくれた夏蓮さんとは大違い。
違いすぎていて・・・最初は同一人物だと信じられなかった。
・・・ご両親は夏蓮さんを諦められたの。
「親のことが分からない娘がいるものか。
こんな奴は娘でも何でもない。汚らわしい、寄るな!」
「この子が私のお腹から出てきた?
ふざけた事を言わないで頂戴、このダメ教師。
あなた、早く行きましょう。こんな子、私たちは知らないのですよ。」
酷い言われようだったわ。
私も酷いことを言われたけど・・・夏蓮さんのショックは一番大きいと思うの。
ご両親に見放されるほど、子供にとって悲しいことは・・・無いわ。」
俺は聞いていて、ただ驚くばかりだった。
夏蓮と親の話はあまりしなかった。「厳しい親」としか聞いていない。
まさか、そこまで酷いなんて・・・
何も知らないでのほほんとしていた自分が恨めしい。
何で、もっと早く気づいてやれなかったのだろう。
「夏蓮さんに、貴方のことは言っていないわ。」
声が震えている。
「私に出来ることなら何でもしたつもりよ。」
必死で何かを堪えている。
「でも、夏蓮さんは何も変わらなかったの。だから・・・」
早く、助けてあげて。
俺は黙って部屋を出た。最後に見た先生の頬には、涙が一筋。
目から溢れそうになっていた大粒の涙に・・・俺は誓った。
夏蓮を助ける、と・・・―――