訳詞の森365

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Caminito

2022-11-17 | タンゴ歌詞(スペイン語)


芝は増上寺大門近くのタンゴスタジオ「Caminito」は、その名をタンゴの三大名曲の一と謂はれる同名の歌曲から取ってゐる。スタジオ内の装飾を、アルゼンチンのfileteado という様式(トラックや車両の装飾として始まったカラフルな絵画。ユネスコ無形文化遺産に登録)の画家であるJorge Muscia が手掛けており、小さいながら色彩感溢れる美しいスタジオとして知られてゐる。

ここに幾副も掛けられているMusciaの絵画のうちの一つに蒲の一叢が描かれてゐるのが気になってはゐたのだが、昨日その由来を初めて聞いた。これこそ”Caminito”の一節、”Bordeado de trébol y juncos en flor”(花咲くクローバーと蒲に縁どられ)を描いたものだった。



西英辞書でjuncoはreed(葦)と訳されてゐるが、ここに描かれてゐるのは葦ではなく蒲(reedmace)である。尤も、reedは水辺の草全般を差すこともあるらしい。アルゼンチンにも蒲があったとは。

Trébolはclover(白詰草、苜蓿 うまごやし)またはshamrock(白詰草、片喰など三葉の草の総称)と辞書に見える。この絵の花は白詰草でなく片喰である。当地にも片喰があるとは知らなかった。作詞者はどちらを思ってゐたのだらう。

ところで、蒲:juncoは、スタジオカミニートのオーナーで指導者の一人、順子先生の名前にも通じる。歌と名と絵の響き合ふ小世界である。

タイトルのCaminitoは、道を意味するcaminoの指小辞。Wikipediaによれば、アルゼンチンの La Rioja地方にある小村Oltaにそう呼ばれた田舎道があった。作詞者のGabino Coria Peñalozaが恋人と散策した思い出の小路だった。一方作曲者のJuan de Dios Filibertoが知っていたのは、ブエノスアイレスはLa boca地区にあった貨物鉄道の名前とのこと。いづれの「Caminito」も、こんにち文化的名所として記念されてゐる。

Caminito

作詞:Gabino Coria Peñaloza
作曲:Juan de Dios Filiberto
歌:Ignacio Corsini

カミニート、時に埋もれし野の小径
我ら歩むをまもりしその道
これを限りと訪れたり
わが哀しみを君に語らん

過ぎし昔の野の小径
路傍に花咲く片喰と
道を縁どる蒲の穂波
君は影にぞなりゆかん
我と同じきその影に

人は去り
我は嘆きに絶へ入りぬ
鄙の小径よ わが友よ
我もまた往かん

人は去り
復び還るよしもがな
彼の人往きし跡恋ひし
さらば懐かしき小径よ 

遠き昔の昼下がり
愛を歌ひし幸せよ
たとひ彼の人帰るとも
人にな告げそわが涙
君のみ土に灌ぐとは

薊に埋もれし野の小径よ
時に消えゆくその御跡
君の御許に身を投げて
共に露とは消え果てめ

人は去り
我は嘆きに絶へ入りぬ
鄙の小径よ わが友よ
我もまた往かん

人は去り
復び還るよしもがな
彼の人往きし跡恋ひし
さらば懐かしき小径よ


Caminito

Letra: Gabino Coria Peñaloza
Música: Juan de Dios Filiberto
Canción: Ignacio Corsini

Caminito que el tiempo ha borrado
Que juntos un día nos viste pasar
He venido por última vez
He venido a contarte mi mal

Caminito que entonces estabas
Bordeado de trébol y juncos en flor
Una sombra ya pronto serás
Una sombra lo mismo que yo

Desde que se fue
Triste vivo yo
Caminito amigo
Yo también me voy

Desde que se fue
Nunca más volvió
Seguiré sus pasos
Caminito, adiós

Caminito que todas las tardes
Feliz recorría cantando mi amor
No le digas si vuelve a pasar
Que mi llanto tu suelo regó

Caminito cubierto de cardos
La mano del tiempo tu huella borró
Yo a tu lado quisiera caer
Y que el tiempo nos mate a los dos

Desde que se fue
Triste vivo yo
Caminito amigo
Yo también me voy

Desde que se fue
Nunca más volvió
Seguiré sus pasos
Caminito, adiós