イタリアの泉

今は日本にいますが、在イタリア10年の経験を生かして、イタリア美術を中心に更新中。

Villa La Quiete(クイエーテ宮)と第3の”廊下”-Firenze

2020年10月24日 17時08分00秒 | イタリア・美術

ここのところ、なぜかBotticelli(ボッティチェッリ)の話が続いてて…
あっ、そういえば!
ふとある作品のことを思い出した。
2016年9月、記事をちゃんと書いていれば良かったのだが、あの頃は殆どフィレンツェに居ず、見逃した国内外の作品を見るために飛び周っていた…というのは言いわけだが。

2016年7月から2017年1月にかけて、Capolavori a Villa La Quiete(傑作クイエーテ宮において)という特別展があった。

フィレンツェで一番大きなCareggiという病院のすぐ近く。
私が行った時はバスだったけど、今ならトラム1本でもSMN駅から30分強で行かれる。

写真:Wikipedia
Villa Quieteの全貌
ここは1992年年からフィレンツェ大学のものだったのが、2008年トスカーナ州に売却されたが運営は今も大学が負っている。
2016年のこの特別展は、Sistema Museale dell’Università di Firenzeが手がけた文化遺産の価値を見出すプロジェクトの最初のイベントだった。

とそのイベントの話をする前にこのお屋敷について少々。
このヴィラはフィレンツェの北西に建っている。
メディチ家の別荘Villa Petraia(ペトライヤ宮)とも近い。
最初は”農園”として土地台帳には載っていて(1427年)1432年には Niccolò da Tolentino、その後Pierfrancesco di Lorenzo de’ Medici(il Giovane)の手に渡り、1561年には Cosimo I(コジモ1世)のものとなる。
1627年Ferdinando I de' Medici(フェルディナンド1世・デ・メディチ)の妻Cristina di Lorena(クリスティーナ・ディ・ロレーナ)が購入し、彼女の意向で屋敷が整えられた。
1632年にGiovanni da San Giovanniにフレスコ画を描かせ、その タイトル” La Quiete che domina i venti(風を支配する静寂)”が屋敷の名前になったと言われる。

写真:https://www.historiaproject.com/capolavori-villa-la-quiete/
彼女は自分の困難な人生にを振り返り、平和を求め、この絵を描かせたと言われている。
またカテリーナはこのヴィラの近くに有ったIl monastero di San Giovanni Evangelista di Boldrone(ボルドローネの洗礼者ヨハネ修道院)と自分の住居であるこのヴィラを結ぶため、”小さなヴァザーリの廊下”、”il corridoio di Boldrone(ボルドローネの廊下)を作った。
この修道院は13世紀フランス人隠者Boldroneがこの辺りに住居を構えたことが始まりで、その後カマルドリ会の修道院となっていた。

この小さな”廊下”はクリスティーナの死後も役にたった。
1650年、la comunità laica delle Ancille Minime della Santissima Trinitàというフィレンツェの貴族階級の女性を教育する学校のような施設を設立したEleonara Ramirez de Montalvoに売却される。
このヴィラが選ばれたのは、既婚者や未亡人の為の宗教団体ではない団体の為の教会や祈祷所を望むことが非常に困難だったため、この俗世からブロックされたこの”廊下”が彼女たちの宗教行事に参加する事を容易にさせたからだった。
この”廊下”は1686年Ferdinando II(トスカーナ大公フェルディナンド2世)の妻、Maria Vittoria della Rovere(ヴィットーリア・デッラ・ローヴェレ)は屋敷内に礼拝堂を作らせるまで非常に役にたった。(現在は chiesa delle Suore Montalveとして知られている。)

写真:Wikipedia
これが”廊下”の残骸。
修道院はその後1700年終わりから1800年初頭に閉鎖され、建物は一般的な住居となった。

写真:Wikipedia
現在の元修道院の建物。
修道院の名前は通りの名前とil tabernacolo(壁龕) だけに残っている。

Tabernacolo di Boldrone
これがtabernacolo、壁龕…という感じではないけどと思ったら、六角形の小礼拝堂の中に壁龕が有る。正面の中央の2本の円柱と脇の半円柱はイオニア式、下の題はアッティカのものである。(そんな古く見えないんだけど…)

この中にこのフレスコ画がある。(この場所にあるのはコピー)

作者はPontormo(ポントルモ)
1521年から22年の作品で本物はフィレンツェの中心街palazzo dell'Arte dei Beccai (sede della Accademia delle Arti del Disegno )に有る。
この近くにあるvilla di Poggio a Caiano(ポッジョアカイアーノ宮)のVertumno e Pomonaのリュネットに様式が似ている。

写真:Wikipedia

左は赤いマントを羽織り、剣を持つ聖ジュリアーノ(San Giuliano、307x127 cm)
中央は十字架に磔にあったキリストと聖母と聖ヨハネ(Crocifisso con la Madonna e san Giovanni 、307x175 cm)聖ヨハネは修道院の守護聖人
そして右が緑の司教の服を身にまとい、司教杖を持った聖アウグスティヌス(Sant'Agostino 、307x127 cm)
聖母のマントの色はプラム色で、ヨハネのマントは鮮やかな赤ーオレンジで、Dürerの版画を見たと思われるような北の特徴がみられる。これはこの時期のポントルモの作品、例えばCertosa del Galluzzoの回廊のフレスコ画にも見られる。
いつ制作されたかについては諸説あり、ヴァザーリ(Vasari)曰く、この作品はCertosaの後でCappella Capponi(カッポ―二礼拝堂)の前ではないかという。他にも1524-25年説(Clapp 1966)、1536年説(Goldschmidt 1911)、pala del Louvre(ルーヴルの祭壇画)との類似性から1528-30年説(GambaとCox Rearick 1964)、ヴァザーリの説を汲んで1524-25年とする人(Luciano Berti)などがいる。

フレスコ画は月日の流れで状態が非常に悪く、1956年壁から引きはがされた。
ちなみに中央部分は、小さなレプリカがベルリンの美術館とフィレンツェのロマーノ家のコレクション(collezioni dellafamiglia Romano)に存在する。

団体の創設者Eleonoraの死後も施設はメディチ家の中でも特に偉大な女性たちに庇護され続けた。
1724年メディチ家最後の直系Anna Maria Luisa de'Medici(アンナ・マリーア・ルイーザ・デ・メディチ)は、終の棲家をこのヴィラに移すと、Palazzo Vecchio(ヴェッキオ宮殿)やPalazzo Pitti(ピッティ宮)から家具を移し、宮殿のプライベートスペースを充実させ、Benedetto Fortiniにフレスコ画を依頼し、大きなイタリア庭園を造らせた。
この庭園は今でもメディチ家の残した庭園の中でも特に美しく、保存状態も良いとされている。

ボッティチェッリの絵の話をするはずが、ヴィラの方が結構面白くて、絵の話は次回ということで。

参考:http://www.wikiwand.com/it/Monastero_di_San_Giovanni_Evangelista_di_Boldrone
http://www.wikiwand.com/it/Tabernacolo_di_Boldrone



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2 コメント

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Quieteのボッティチェリ作品 (むろさん)
2020-10-24 20:47:02
ポスターに天使3人の顔と聖母の肩の部分が出ているQuieteの絵(Incoronazione della Vergine con tutti i santi)、ボッティチェリのカタログレゾネでは、1978年のライトボーンの2巻本と1989年のPonsの本では工房作として取り上げられています(ともにモノクロ図版掲載)。G.マンデルのRizzoli(邦訳集英社版)では扱いなし。J.Mesnilの仏語のBotticelliの本では作品カタログ頁にimitateur de Botticelliとして模倣者の絵となっています(図は掲載なし)。

リドルフォ・ギルランダイオに関係する作品とか、サン・マルコの聖母戴冠(現ウフィツィ)から派生した作品とされているようですが、あまり有名な作品ではないので、カラー図版は見たことがありません。次回の記事で絵全体のカラー図版を掲載されることを期待しております。

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御名答です。 (fontana)
2020-10-25 09:37:09
むろさん
先に言われてしまいましたね。この作品とサン・マルコの祭壇画の関係、御名答です。
詳細は記事で!
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