負晶入り水晶

2021-01-06 | インクルージョン

結晶内の風景 インクルージョン  透明な水晶の中に風景がある。木立があり、岩があり、草原がある。水晶にとっては不純物である他の微細な鉱物が、水晶の成長途中で降り積もり、庭園を思わせる景色を結晶内部にとじ込めた。ガーデン水晶である。 このように、鉱物内に別の鉱物が含まれ、景色を作らなくても独特の存在感を示している標本は包有鉱物、あるいはインクルージョンと呼ばれ、鉱物趣味の一分野とされている。日本の水石が持つ美観にも似ているが、違うのは、鉱物自身が造り出した自然のままの景色である。  鉱物が多くの不純物を包んでいることは、別の項でも述べている。純粋な鉱物など存在しない。結晶が透明で、その内部が観察できるということは、結晶の成長という長い時間を費やしてそこに閉じ込められた様々な要素を確認することができることであり、時を越えた楽しみにつながる。  また、結晶内に閉じ込められた鉱物は変質することなく、壊れることもなく永遠に私たちを楽しませてくれる。インクルージョン鉱物だけの魅力でもある。 例えば水晶は、必ずと言って良いほど小さな空隙を包有しており、空隙内部に流体が残っていることがある。コレクターに喜ばれている水入り水晶である。水、即ち鉱液には、様々な情報が含まれている。筆者は鉱物の研磨は行わないが、知人に、綺麗な石の研磨を業とする人物がいる。彼は、水入りの蛍石や水晶の研磨をしている際、ミスをして割ってしまった時には素早くその滴り落ちる鉱液を舐めて味を確かめるという。味覚で含まれている物質を想像する。たとえ判らなくても、わずかの情報でも得ておきたいという意識の表れである。鉱液は砒素や弗素などの有害物質を含んでいる可能性があり、決して真似をしてほしくないことだが、それほどに鉱物に対しての知識欲があるのだ。手の届かない鉱物内の鉱物に対する興味は尽きることがない。 元来結晶は形が定まっていて動くものではない。その中で包有物が動く要素を持つ、という点でも流体入り水晶は面白いし、流体と共に別の包有鉱物をそこに見付けたらなおのこと興味も増大する。  インクルージョンの母体となる透明な鉱物は水晶だけではない。緑柱石や蛍石なども他の鉱物を含んで独特の景色を成すことがある。ガーデン水晶のような自然風景は感じられなくても、個性的な、独特な鉱物ならではの景色や文様が見られる鉱物の組み合わせも楽しい。一方、含まれる鉱物種は頗る多い。角閃石類、緑泥石類、硫化物、酸化物、二次鉱物、時にはオイルなども取り込まれることがある。分かりやすさと美しさから、コレクション趣味の極致とも考えられている。  写真撮影する上で重要なポイントは、被写体である目的部分に焦点が合い、くっきりと綺麗に見えることであるが、すべてのインクルージョン鉱物の撮影では、母結晶を通して観察することになるため、どうしてもシャープさに欠ける結果となる。母結晶の表面に凹凸があれば屈折や回折が起こるし、水晶や方解石には物体が二重に見えるという複屈折が存在するため、画像がシャッターブレを起こしているように感じられる。だからと言って結晶の表面を研磨してしまっては鉱物標本の意味がない。複屈折によって二重に見えていて、それが鉱物の持ち味となる。だから逆に、主要部の前後のボケや多少の滲みは絵作りの一部として捉えると面白みのある写真が出来上がる。

 

水晶 負晶

鉱液Mineral solution・気泡Gas  福島県南会津町

 蛍鉱山 水晶の中に、先端が尖った柱状、あるいはr面やz面のある短柱状の、水晶の結晶形が空隙(負晶)として残されている標本。 蛍鉱山では蛍石の産出が知られている。この鉱山の蛍石は淡い緑色、あるいは淡い紫色を呈し、細かな針状の水晶で覆われていることが多い(微細な水晶が指先に刺さって難儀した方も多いだろう)。写真の水晶は、この鉱山としては比較的大きく、長さが40ミリほどで、無色透明な2ミリほどの大きさの蛍石が表面の一部に点在している。残念ながら蛍石のインクルージョンはない。 水晶内に取り込まれた空隙は、SiO2の供給の量、温度、圧力、即ち過飽和度の違いによって水晶の成長と共に形状を変化させてゆく。例えば、写真中の右上にある空隙のように、空隙の所々がくびれて細長く伸びている。多くの空隙内には鉱液があり、気泡も残されていて動くのが確認される。鉱液に溶け込んでいる物質は、温度と圧力の違いで液体から固体に相変化があり、空隙中には石英や塩化ナトリウムの小さな結晶が漂っている場合もある。 負晶とは、結晶内に閉じ込められた空隙の壁面に、母結晶の結晶形態をそのまま残している状態のこと。即ち、母結晶が水晶であれば水晶の形の空隙のこと。実は、水入り水晶、あるいは気泡入り水晶は珍しくない。ほとんどの水晶に少なからず微細な空隙があって水が含まれている。水晶の内部に白っぽい微粒子が流れのように含まれていたら、その多くは微細な空隙であり、水で満たされている。また、水晶の形態が鮮明な負晶は少ない。負晶の内面も、温度や気圧の変化によって、溶解‐再成長が繰り返された可能性がある。 一方、鉱液に含まれている気泡も、結晶の成長を物語る重要な要素。気泡を含む鉱液が残されている水晶を加熱すると、次第に気泡が鉱液に溶けてゆく。圧力も考慮しなければならないが、完全に気泡が鉱液に溶けてしまった温度が、結晶ができた温度(とみなされる)である。



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