私が最初に手にした帯は、源氏香の図の織り込まれた綺麗な銀鼠の博多織。とある娘(むすめ)が選んでくれた。源氏香の図の、規則的なようでいて不規則な、不規則なようでいて規則的な五十二の幾何学模様。それぞれの図柄に源氏物語の「桐壷」と「夢浮橋」を除いた五十二帖の名が当てられている。雅(みやび)と幾何学という異質な組み合わせを眺めていると、こころざわめき、幻想の世界へと誘(いざな)われる。魔に逢うための仕掛けのよう。泉鏡花は、源氏香の「紅葉賀」を羽織の紋にしていたという。鏡花の師は尾崎紅葉であった。鏡花に近づきたく、「紅葉賀」を紋にとも思ったがやはり憚られ、娘との再会を果たす縁(えにし)となった文楽の「生写朝顔話」にちなみ、源氏香の「朝顔」を紋にと娘に伝えたところ、「紅葉賀」と「朝顔」とは鏡像の間柄よと涼しげに微笑む。奇しくも、鏡ごしに鏡花の魔と通ずることに。私はこの娘の底知れぬ力を信じている。
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