fieldアイ研的日々

fieldアイルランド音楽研究会を主催する管理人の日々

デイルラス ワークショップ byまんじゅう

2008-01-02 18:25:18 | Weblog
フィールドのおっさん「fieldでフィドルのワークショップあるけど、来ないか?」
自「イイっすけど、誰のですか?」
お「デイル・ラス」
自「デイル・ラスって、誰?」
最初はそんなところから始まりました。


音楽やるよりもセッションに行ってイロイロな人と出会い、会話で盛り上がっては楽しいことをして満足していた毎日。アイリッシュのバンドやフィドラーのCDを適当に聴いたり、ケビン・バークのビデオを観て憧れたり、ルナサとセッションして死にたくないけど死んでもイイと思ったり、と耳だけは肥えました(かな?)。
そんな感じでアイリッシュを始めてから1年半が過ぎ、最近では『上手くなりたい』と思い始めてフィドルを真面目にやろうと思ったり思わなかったり。
そんな折の店長のお誘いがこのワークショップでした。しかも、名前を聞くとどうやら外人らしい。
自「おー!遂に、本場の人から習える!!」
お「いや、本場じゃないで。スロバキア系アメリカ人でアイルランド人の血は入ってないらしい。」

なんて、うさん臭そうな。。。

そんなこんなで、僕は疑心暗鬼のまま初回のワークショップを迎えました。

しかし!!!!!!!!
ワークショップが始まった直後、そんなことはどうでもよくなりました。
おもむろにデイルが弾きはじめたのはアイリッシュで最もポピュラーな曲の1つの“The Humours of Tulla”。

これだ!オレはこれを求めていたんだ!!
この人からアイリッシュを学びたい。

ワークショップの日程は毎週木曜日の11/29、12/6,13の計3回、各講2時間で行われました。
最初は3回もあるんだから、1回だけでも出とけばイイやぁ?と思っていたんですけどイヤハヤ┐(´ー`)┌
基本的なワークショップのスタイルはreelとjigを1曲ずつ課題曲で出され“曲を覚えることよりもフレーズをどのように操るか”ということが最大の焦点でした。
今回、デイルさんは各回ごとにテーマを分けてわかりやすく教えてくれたので、僕もその流れで感想をまとめたいと思います。

最初の1回目のワークショップでは装飾音の重要性についてでした。
まず、デイルは装飾音がある通常バージョンで1曲演奏します。次に装飾音が無いバージョンで同じ曲を弾きました。
今までに、誰かのワークショップを受けられた方にはわかると思うのですが、『そうか。これがアイリッシュかどうかの違いなんだ。』と感じるかと思います。僕も最初はそう思っていました。
しかし、ふと、音色を聞くのを止めてリズムをとることに集中しました。

ん!?

両方ともリズムは合っていて、リズム感は伝わってきます。ただ、装飾音が無くなっただけでアイリッシュではないということに疑問を感じました。例えるならば、アイリッシュかどうかのレベルではなく、まるで“習いたての子供の演奏”になってしまったかのような感じです。
そして、次の2回目のワークショップを受けた時、その疑問はこれまでに自分が考えていた装飾音の概念だけではなく、アイリッシュの概念そのものを変えるキッカケを僕に与えてくれました。

次の2回目のワークショップでは装飾音の種類やそれを使った応用編です。
とりあえず基礎編として、タップ、カット、ロールとフィドルの醍醐味であるトリプレットを丁寧に教えてくれました。
特にトリプレットでは、僕もスピード感を出したくて見よう見まねで使ってたのですが、
デイル「そんなに力強くやってはいけない。もっと手首を柔らかく。ちなみに、どっちでもイイけど基本はダウンからだよ。ケビン・バークやほとんどのフィドラーはダウンからやっている。」

なるほど。勉強になるなぁ。

ただ、見つけたのはこれではありません。それは、次の装飾音の応用編を習っていた時です。
デイル「では次に、色々な種類のロールなどの装飾音を使って曲に応用していきます。」
自『色々な種類のロール?ロールにも種類なんてあるんだ。』
と、reelやjigのフレーズに載せて色々な装飾音を見せてくれました。

な、なんだこれは!!!

それは、同じリズム&同じフレーズでの装飾音でも、巧みにボーイングの入れ方や左手の指の押さえ方を微妙に変えたものでした。
そして、僕が注目したのは“同じリズム”でということです。(一応、ここで僕が言うリズムというのは曲のテンポやノリを表します。)
実際に習ったロールの種類を例に出すと、楽譜でソの音が3つ続く場合、
“1つ目のソ → タップを使って2つ目のソ → カットを使って3つ目のソ”
と、基本では一連の流れを1回のスラーで済ませてしまいます。しかし、
“1つ目のソ →○→ タップを使って2つ目のソ → カットを使って3つ目のソ”の○で弓を反してタップの瞬間にアクセントを入れます。
そうすると“同じリズム”でも、先ほどのロールよりもスピードが早くなったような錯覚が感じられるようになります。
他にも、どこでアクセントを入れるか弓を反すかによって感覚が変わるので、皆さんも試してみるとわかると思います。

そうか、日本人はこれに騙されるんだな。

装飾音はアイリッシュで言うところの音のトリックだと感じました。わかりやすく言うと音でリズムを騙すみたいな。
装飾音は一定のリズムに疾走感を与えなければならないのに、つい音色の格好や心地良さに惹かれて、有名なプロの方でもそこでリズムを崩す人がほとんどです。多い場合だとリズムに遅れたり。
装飾音を使って曲を軽快にしたいのに、逆に重くなってしまう矛盾。
その解決策は最初にデイルが装飾音無しで曲を弾いた時に感じた“習いたての子供の演奏”のところにありました。

最後の3回目のワークショップでは、曲のコード、雰囲気や流れに合わせて同じ曲でもフリーに演奏しようというものでした。
もぅ、ここまで行くとJazzの領域なのでお手上げです┐(´ー`)┌
でも、デイルの演奏はアイリッシュの要素を残したままで、時にケビン・バークなどの名だたるフィドラーのエッセンスを垣間見れたりともの凄く面白いものでした。
そう、最初の回から感じていたことですが、デイルはメチャクチャ器用だったのです。
ワークショップも佳境になり、私は最後の質問としてボーイングのことについて尋ねてみることにしました。
自「アイリッシュをやっていて思ったんですけど、裏から(シンコペーションで)ボーイングのスラーを始めたりしてアクセントを付けたりするんですか?」
デイル「それは、一般的ではないよ。ボーイングは自由にやるものだから。例えばこういう風に。」
と、Dメジャーの音階を様々なボーイングで特にクラシックとアイリッシュの違いをわかりやすく表してくれた瞬間、

これだ!!!!

それは、アイリッシュで一般的にやるスラーのままアクセントを付けるものでした。
ただデイルの演奏は、去年、ルナサのショーン・スミスの演奏を見たときの“手首の柔らかさ”と“訳が分からないところで反すボーイング”を思い出させました。

もしかして!?

デイルのアクセント(強弱)の付け方はフレーズに装飾音を付けた場合のボーイングと同じなのです。わかりやすく言うと、体全体の動きは一緒で強弱の変わりに左手を加えると装飾音になります。つまり、

装飾音=アクセント(アクセントは音の強弱だけという意味ではありません。強調という意味です。)

でも、なぜアクセントの部分で装飾音が必要になるのか?
ボーイングのところで少し書きましたが、逆に言うとデイルはアクセントの部分で弓を反すことをあまりしませんでした。
デイルは器用ですが、装飾音が無くなっただけで“習いたての子供の演奏”のようになってしまうのです。
そこで、私が出した答えは“人間の運動能力の限界”です。
皆さんもフィドルのボーイングをやっていて難しいと思うところに“弓を反すタイミング”ということがあると思います。
なぜ難しいか?それは、リズムを崩す原因になりかねないからです。
遅い曲ならまだイイのですが速いテンポのreel等になってくると、もぅ大変大変。
例えば、2日目のロールの練習(同じ音が続く)のようなフレーズのある曲を速いテンポで演奏します。
ハッキリ言って、普通に弓を反して音を出していたら遅れます(この場合はメロディに忠実とするので、トリプレットは別として)。
そこで、ロールで音を切ります。
すると、どうでしょう。

なんて楽なのか!!

これで、ルナサのライブの時に感じたショーン・スミスの訳の分からないボーイングがわかりました。
そして手首が柔らかい訳は、弓を反す時に腕を使って大きな動きをしている余裕はないので、一番動きが少なくて早く動かせる手首だけを使うからです。
つまり、アイリッシュのボーイングや装飾音(アイリッシュだけではありませんが)はダンス・ミュージックの演奏には必要不可欠な合理的な手法だということがわかります。


最後にまとめで、今回の感想はほぼ私個人の主観で書かせていただきました。
実は、前々から感じていたことやアイ研月曜日練習会で疑問に思ったことも多少載せています。
どちらかというと、今まで感じていたモヤモヤをデイルの演奏を見ることによって具体的に実感できた感じです。
そういう意味で、デイルはとても分かりやすい私の被験者(失礼な言い方ですけど)でした。
ただ、私はリズムに注目してから話を広げていきましたが、デイルなどの外国人からみれば私たち日本人も“西洋のリズムを理解している”上で教えているので、今回もリズムに関してデイルは「リズムが大切」だけでした。ロックをやっている人と同じく日本人は西洋のリズムに弱いんですけどね。。。
もし、これを読んで実践したい方がいましたら、今までセッションで下手か普通の腕前だと思った外国人の方の演奏でもソっとリズムをとりながら聴いてみて下さい。
私もたまたまデイルのワークショップで普通の外国人の方と一緒にワークショップを受けて、その時、その人のこともファンになってしまいました。

長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
来年もデイルのワークショップが開催され、皆様と一緒に受けられることを願って。


byまんじゅう(下手っピfiddler)