最近、エクスプローラーズ・クラブ(The Explorers Club)という、新しいビーチ・ボーイズのフォロワーが話題になっていますね
どこかコミカルな連中なんですが、音楽は清々しいまでにビーチ・ボーイズ。嬉しいことです
さて、ビーチ・ボーイズのフォロワー扱いをされている人は(一応)数多くいますが、トニー・リヴァースがその最高峰と言って良いでしょう
彼の場合、「フォローしていること自体がアイデンティティ」というレベルですからね
本名はトニー・トンプソンですが、歌手デビューしようと思った時、たまたまチャート上にあった、パット・ブーン(Pat Boone)の「ムーン・リヴァー」のタイトルを見て、インスパイアされ、拝借したんだそうな。
一応、“歌手”ということになりますが、メインは“ヴォーカル・アレンジャー”
スティーヴ・ハーレイ(Steve Harley)やピンク・フロイド(Pink Floyd)など、数多くのアーティストと関わってきました。
中でも、彼の音楽人生で最大の収入源となったと思われるのは、御大クリフ・リチャード卿(Cliff Richard)に見いだされ、ツアーメンバーにまでなったことでしょう。
他にも、廉価版カヴァー・オムニバス、「Top of the Pops」シリーズを手がけるなど、かなり有名な裏方ミュージシャンとして、イギリス音楽界を長く渡り歩いてきました
今回ご紹介するキャスタウェイズは、そんな彼のキャリアの第一歩
ビーチ・ボーイズやフォー・シーズンズみたいな音楽がやりたくて、そんな思いが爆発した英国ビートグループです
そう、いくらなんでも、最初から裏方を目指していたのではなく、表舞台を夢見て挑んだ訳です
結局、キャスタウェイズでは満足な結果が得られず、ハーモニーグラスでワンヒット成功します。
と言う訳で、今回はトニー・リヴァース&ザ・キャスタウェイズのシングルA面B面を順番に並べてみました
写真は、RPMレーベルが出した、トニー・リヴァースの再販シリーズ3連作の1枚目です。もうだいぶ在庫はないようですね~。
6、7年前、なぜかトニー・リヴァースの再販シリーズが充実していたんですけどね。
すっかり落ち着いてしまいました。・・・あの時に買っておいてよかった
・・・在庫がないと言っておきながらなんですが、下記のシングルすべて、そしてハーモニーグラス時代の作品を手に入れるには、やっぱりRPMの再販シリーズすべてをそろえないと無理っぽいですね
iTunesやAmazonのダウンロード販売も、網羅にはほど遠い状況ですね~。実は今、トニー・リヴァース冬の時代なんですね
・・・ヴォーカル・アレンジャーにそんなに安定して注目し続けてくれるほど、市場は甘くない訳です
じゃあアーティストとしてはどうか。・・・・・ええ、もう一歩足りないという感じです
しかし勿論、その中にキラリと光るものがあり、なんだかんだ、60年代音楽好きにはお勧めの、トニー・リヴァース&キャスタウェイズです。
もともと、チェリー・ツリーというパブで、日曜のランチタイムに歌手をしていたトニーを、カッタウェイズ(Cutaways)という連中が、スカウトしたのが始まり
だから結成当時は、トニー・リヴァース&ザ・カッタウェイズって名前だったそうな。
メンバーは、ギターのヴィック・ラーキンス(Vic Larkins)とミッキー・ジョンソン(Micky Johnson)、ベースのレイ・ブラウン(Ray Brown)(もちろん、あのジャズ・ベーシストではないです)、ドラムのブライアン・タルボット(Brian Talbot)。
※元々いたヴォーカルのボビー・リオ(Bobby Rio)さんが、出てってしまったのが、トニーがスカウトされたきっかけ。後にジョー・ミーク(Joe Meek)作品をちらほら出す人です。
幸い、EMI系列のコロンビアが関心を持ってくれ、キャスタウェイズとしてスタートする頃、2人のギタリストが交代。ロン・ライオンズ(Jon 'Lon' Lyons)と、初期トレメローズ(The Tremelose)の一員だったスティーヴ・スコット(Graham 'Steave' Scott)が加入します。
こんなメンバーでスタートした1曲目がこちら
① Shake Shake Shake (Stevenson - Adams)
② Row Row Row (T.Vann)
63年A面B面合わしても、2つしか単語を使っていない
Row×3は、作者はテディ・ヴァン(Teddy Vann)という、R&B作品でのグラミーを受賞したこともある人だってことは分かりました。多分だけど、オリジナルはボベッツ(The Bobbettes)。
つまり、R&Bでデビューしているんですよね~。
このことからも、彼らが至極真っ当なブリティッシュ・ビートの道にいたことはよく分かりますなぁ。
バックコーラスをきっちり整えてきた辺り、後に“キング・オブ・ブリティッシュ・ハーモニー”と呼ばれる男のデビューとしては面目躍如
とはいえ、まだまだアレンジはシンプルです
③ I Love The Way You Walk (Smith)
④ I Love You (Thorpe)
同年のリリース。まだまだ似たような路線です。
A面は、スポットライツ(The Spotlights)という超マイナーなアメリカのドゥ・ワップ連中のカヴァー。
・・・興味深いのは、この曲、アメリカでもリリースしたのですが、スポットライツとほぼ同時リリースなんですよね
初期のトニーのお気に入りはB面。リサーチ力不足で、出自がまったく分かりません
マイナー調の好録音
ちなみにこの頃、ビートルズやローリング・ストーンズのサポートメンバーとして、一緒にステージに上がり始めています。
⑤ Life's Too Short (L.Bonner - P.Huth)
⑥ Don't You Ever Tell On Me (T.Rivers)
変てこなA面は、これまたマイナーな米国R&Rグループ、ラファイエッツ(The Lafayettes)から。アメリカサウンドばっかりですね。
こんなアメリカ音楽への関心の延長線として、ビーチ・ボーイズやフォー・シーズンズのスタイルへの憧れが芽生えてきたん出そうな
そしてついに B面にトニー・リヴァース作品登場です
処女作だけあって、まだまだ、とも言えますが、彼は作曲家としてはいつまでたって“まだまだ”な感じの人なんで(コラコラ)、逆に、後の作品の成長っぷりはたいしたもんだとも感じれます
「So bad」の繰り返し部分、どうしても頭の中に、初代タイガーマスクが浮かんでしまうのは、私だけではないですよね
⑦ She (P.Jones)
⑧ 'Til We Get Home (T.Rivers - J.Lyons - R.Brown -G.Scott)
さて、前曲のリリースが64年なのですが、その年末、信じられないような不幸が襲います。
メンバーを乗せた車が交通事故。全員が負傷しただけでなく、何と、ドラムのタルボットさんは亡くなってしまいます。
存続も危ぶまれましたが、事故を乗り越え、65年にこの曲をリリース。
演奏は臨時メンバーで補充したんだそうな。本当に、よく踏ん張りましたよね。
A面はご存知、マンフレッド・マン。
コーラスを目立たせ、彼ららしくカヴァーしていますが、特筆するほどのこともないような仕上がり。
そう、ここはB面こそ大注目 ついにビーチ・ボーイズのスタイルにグッと近づきます
ロンの自宅にメンバーで集まり、彼らの大好きなサウンドを、ああでもないこうでもないと、作り上げたん出そうな
どこか陳腐さは否めませんが、とってもサーフ・サウンドしていて、爽快なハーモニー・ロックンロール
ちなみに、歌詞がスクーターの話をしているようで、ホットロッド路線なのも確信犯
そういえば、この頃の録音と思われる未発表曲「Come on And Love Me Too」ってのもの面白い。
タイトルフレーズのメロディが、まったくもって「Two girls for every boy~」。そう、ご存知ジャン&ディーン(Jan & Dean)の「Sirf City」
ってな訳で、コーラスもだいぶ凝っては来たのですが、まだ何かが足りない・・・
正直、声の幅が狭いんですよね、彼らのハーモニー しかし、それはすぐに解消されることになります。
⑨ Come Back Baby (N.Newell - B.Fahey)
⑩ What To Do (T.Rivers - J.Lyons - R.Brown -G.Scott)
同じく65年リリースのこの曲辺りで、新ドラマーが固定されました。ブライアン・ハドソン(Brian Hudson)さんです
ギターも、スコットと交代で、トニー・ハーディング(Tony Harding)が加入。・・・でもスコットさんは、その後も時々混じっていたんだと思います。そんな写真がチラホラ
このハーディングさんは、コーラスのベース・パートを担当。そう、マイク・ラヴの役割を担うことになります。
そして、さらにヴォーカルを補充しました
ケニー・ロウ(Kenny Rowe)の登場です
そう、このA面曲最大の魅力でもある、思い切りの良い高音ファルセットを披露している方が彼です。
元々はジョー・ミークのグループでベース担当だったようですが、もっと有名なのは、ケニー&デニー(Kenny &Deny)というアーティスト名で出したシングル
ちっとも売れなかったようですが、何と、かのジミー・ペイジ(Jimmy Page)が書き、演奏し、一緒に歌っていたために、後年、発掘されまくったそうな。この時もケニーの武器はファルセット・ヴォイス
キャスタウェイズの楽曲には、当時のビートグループにありがちな、ちょっと前のめりなリズム感があって、かえって平凡だったのですが、そこにハーディングの低音と、ケニーのファルセットが入ることで、俄然、そのリズム感が、特徴あふれるスタイルに感じられます。
なお、B面は皆でのオリジナルですが、印象に残るようなキャッチーさが特にないです(笑)。
ちなみにこのA面、「The Alphabet Murders」という、同年発表の映画(ABC殺人事件のパロディものらしい)の挿入曲の中に、同タイトルで、作詞作曲も同じって曲があるのですが、キャスタウェイズのが使われていたのか、それとも、そのサントラをカヴァーしたのかが分かりませぬ
いよいよ、トニー・リヴァースのアレンジが発揮される方向性が見えてきました
⑪ Girl Don't Tell Me (B.Wilson)
⑫ Salt Lake City (B.Wilson)
満を持して翌66年、ついにビーチ・ボーイズ ナンバーに手を出してしまいました
特にA面は快心のカヴァーです『サマーデイズ』収録。
勝手な想像ですが、ビーチ・ボーイズにしては珍しく、まったくコーラスの入っていないこの曲を聴いた時、トニーにとって、最高の教材が目の前にきたように思えたのではないでしょうか?
カヴァーではありますが、トニーの創造力をフルに発揮したコーラスアレンジは、キャスタウェイズ時代の最高傑作と言っても良いかと
キャスタウェイズらしく若干テンポを上げ、どっしりとしたベースコーラスで引っぱり、サビ直前には「パッパパー パッパパー パッパパララッパー」と抜群のファルセットが炸裂
また、サウンドも分厚くなっていて、エンジニアリングもかなりトニーの希望通りの働きをしてくれたようです
・・・気になるのは、この曲だけコロンビアじゃないんですよね。イミディエイト(Immediate)なんですよ。次はちゃんとコロンビアから出しているのですが、何ででしょ
同じく『サマーデイズ』から持ってきたB面は、逆に超々無難な好カヴァー
それでもちゃんとテンポを上げてくる辺りは、相変わらず
この頃の未発表曲には、さらに同アルバムから「The Girl From New York City」までカヴァーしているのですが、マイク役のハーディング、ブライアン役のケニーを手に入れてからのトニーの音作りは、成長著しい
⑬ God Only Knows (B.Wilson - T.Asher)
⑭ Charade (H.Mancini - J.Mercer)
そしてそして、そのカヴァー路線で『ペット・サウンズ』からも拝借しました、トニー先生
・・・のように見えますが、実はこの曲には独自のドラマがあります。
66年秋、ロンドンの片隅でキャスタウェイズがライヴを行っていた所に、何と何と、『ペット~』のプロモ(恐らく発表前)のため、渡英中だったブルース・ジョンストン(Bruce Johnston)が、ビーチ・ボーイズ好きで知られる、ザ・フー(The Who)のキース・ムーン(Keith Moon)に連れられ、ぶらりとやってきたんだそうです
ってな訳で、キース、ブルース、トニー・リヴァースという顔ぶれが同じステージに上がり、キャスタウェイズのレパートリーだった「The Little Girl I Once Knew」を即興で演ったんだそうな^^
そこで、ブルースが『ペット~』の曲を披露し、さらにこの「God Only Knows」のシングル・カットを勧めてきたんだそうなんですよ
もう何が何だかw
いずれにせよ、トニーはすぐにこの曲の凄まじさに気づき、たっぷりのコーラス・アレンジで、テンポも上げて(笑)、彼ららしく仕上げました。
演奏、とりわけ間奏部分の陳腐さは失笑しかねないレベルですが、その辺はご愛嬌
トニーにしてみれば、ヒットも期待していたこの曲は、無事に全英トップ50入りは果たしたようです詳細不明。
B面はケーリー・グラント(Cary Grant)とオードリー・ヘプバーン(Audrey Hepburn)で有名な、63年発表の映画のタイトル曲で、カヴァーも多い定番曲ですね
作者は、それこそ「Moon River」を書いたコンビですね。
ジョニー・マーサーはキャピトル・レコードの創始者の一人で、「ピンク・パンサー」のテーマなどで知られるヘンリー・マンシーニはアメリカ映画音楽界の大御所。
分厚いコーラスで、豪華に歌い上げています
総じて見れば、飛びっきりのカヴァー曲ですら中途半端なヒットで、結局鳴かず飛ばずのキャスタウェイズ
ここからメンバーが再び出たり入ったり
未発表曲も数多くあるようです。
モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」をパロディった、「Einer Kleiner Miser Musik」なんて秀逸ですよね
⑮ I Can Guarantee You love (B.Potter - G.Dee)
⑯ Pantomine (T.Rivers - K.Rowe)
そんな中、キャスタウェイズ名義最後のシングルは、68年発表のこちらポリドール(Polydor)から。
なんと言うか、トニー・リヴァース個人として、シングル発表の機会がやってきたけど、とりあえずキャスタウェイズ名義で出しちゃった、みたいな流れ
実質的には完全に次のステップである、ハーモニー・グラスのサウンドに近づいています
だから、トップ画像の、キャスタウェイズ作品集には漏れていて、次作のハーモニー・グラス作品集に収まっているんです。
メンバーも、この曲の段階では、レイ・ブラウン以外は総取っ替えしてしまってます
んで、肝心の曲の出来なんですが、半端無く良いんです(笑)。上記の中でぶっちぎった好録音
印象的な前奏は、サークル(The Cycle)にインスパイアされたものだとか。
追っかけコーラスが、以前よりも複雑に構成されていているのが一番の特徴
出典は何かと言うと、セッション・マンとして活躍していた、作者のグレアム・ディーさんが、同じくポリドールからミュージシャンとしてデビューする際に、準備していた曲で、何らかの流れでトニーに上げちゃったみたいですね。結局すっげー分かってない。
間もなくやってくる、ハーモニー・グラスの超名盤『This Is Us』の香り漂う仕上がり
B面もまさしく『This Is Us』の香りに包まれています
この段階では去っている、ケニー・ロウとの共作。ケニーはハーモニー・グラス結成の際には、正規のメンバーとして戻ってきます
本当に、コーラス作りのレパートリーが急激に増えてきたトニー・リヴァース。
「Hun」「Hun」と連続で重ねてくるスタイルも、後の彼の得意技
結局、新たに名前を付けた方が良いよ、ということになり、メンバーもある程度固定され、次なるステージへと進み出す訳ですが、その前後のことはまた別の機会に~。
ひさびさの大長編記事きましたねw
じっくり読ませていただきました!
キャスタウェイズって初耳です。
③④あたりはアメリカのオールディーズっぽい感じですけど、
なんとなーくイギリスな雰囲気もありますね!
それで
ビーチボーイズらしいという
⑧の'Til We Get Homeってやつ、聞いてみたかったんですけど
youtubeにもない・・・みたいです
マイナーなんでしょうね・・・
ここで紹介されてる曲が全然みあたりません
機会があれば聴いてみたいです!
キース、ブルース、トニー・リヴァースが一緒に舞台上がったってのは、
どこかで読んだことあるような気がするんですけど・・・
どこだったかな
やっぱり大物のコラボというか、大物が一緒にでてくるのって、ワクワクしますよね。
僕大好きです、そういうシチュエーション
それにしても管理人様の知識量すごいですね
一冊書けちゃうんじゃないですかw?
いつもありがとうございます!
数ヶ月かけて、ちまちま書き溜めておりました
形になってよかったです。
YouTubeと言えば、過去の「オススメ」カテゴリの中で、⑪を貼っておきましたので、是非ご一聴を
>知識量
恐縮です
いや、その場で調べていることをメモするような機能も、このブログに持たせていますもので、マニアックになりがちなんですよね。
アナログにコピー&ペーストしているだけです
ビーチボーイズ以上にオールディーズな感じに仕上がってる感じですかね?
ビートルズっぽい曲だったのに、そのテイストが結構控え目なのかな
コーラスのアレンジが面白いですね
最後の方にはフォーシーズンズのコーラスも入れちゃったりして!
たぶんwalk like a manのコーラスだと思いますけど、
ビーチボーイズもなんかの曲に挿入してましたよね
なんの曲だったかな・・・忘れちゃったけど
「Walk Like A Man」のフレーズが入るってこと!
やっぱり、トニー・リヴァースはビーチ・ボーイズだけでなく、シーズンズへの思い入れも深いんですよね~。
ちなみに、ビーチ・ボーイズであのコーラスが入ってたのは「Surfer's Rule」でしたかね。
色々ありがとうございます
ありがとうございました、すっきりです