♪Tin Pan Alley♪

50~70年代のロック・ポップス、ソフトロック周辺についてのブログです

98.6/Ain't Gonna Lie :US #124

2010-04-22 | 1曲ずつ一言
Keith
1967
Produced by Jerry Ross

唐突にキースを取り上げます~
一般的にはちょっとしたワンヒットワンダー(一発屋)、ソフトロックファンにとっては、、、
フィラデルフィアの魔法使い、ジェリー・ロスのワークとして有名です

ロスは、Wikipediaに項目がないくせに(!)、ファンサイトが充実していて、割と情報が手に入りやすいです

音楽番組のアナウンサー出身というキャリアを持つ、ジェリー・ロス
プロデューサーやライターとして頭角を現すと、ポップ感たっぷりのソウル・ミュージックを、次々と世に送り出します。

ソフトロック系音楽を大量生産したのは、フィラデルフィアというより、ニューヨークのマーキュリーにいた時代
粘っこいヴォーカルにはドリーミーな曲を、柔らかな歌声には辛口メロディを、と、ロス作品には“ほどよいブレンド感”が漂い、聴く人を飽きさせない魔法を使う人

そして、今回のキースはまさに“粘っこい歌声”の持ち主

キースは本名を、ジェリー・バリー・キーファーというそうで、ロスと出会う直前までは、キース&ザ・アドミレイションズというグループで、コロンビアに所属していたそうです。

そこで、売れっ子DJのカル・ラドマンという人が、キースをロスに紹介したんだそうな
ロスはすぐに「この声はいける」と確信します

最初はコロンビアでレコーディングしてみるのですが、スタッフとウマが合わなかったようで、マーキュリー/フィリップスに移り、ロス・ファミリーがフル回転となって、曲作りに当たることになります

甘く優しいハスキーボイス(=どこか頼りなさげなダミ声)を披露するキースの作品は、ロスの仕事の中でも最高級にドリーミングな仕上がりになり、セカンドシングルの①が特大ヒットを記録

どうでもいいことですが、もし彼が日本に生まれていたら、絶対に歌手になんてなってないと思う
むしろ歌が嫌いになってもおかしくない??

っていうのは、彼の声は合唱が無理。「校内合唱コンクール」なんてあったらもう、彼は学校行きたくなくなる
全く透明感がない上に、一つの音をキープし続けることがしんどそうだし
何か“出しやすい音程”ってのがなさそう(笑)。

さて、①のヒットの後は、見事に何も続かず、アルバム2枚でマーキュリーをクビになってしまい、ロスとも別れてしまいました
RCAからアルバムを発表するも不発
以後、彼は細々と音楽活動を続けてきたようですが、最近YouTubeにこんな動画がありました


死神博士みたいだ(笑)。
まぁでも、元気に歌っている姿は感動ですね

ちなみに、彼は一瞬だけ、フランク・ザッパ卿に見い出され、リードヴォーカルに就任するんですよ
マザーズと新マザーズの隙間で(笑)。
そう、つまりは結局、ザッパ作品には彼の声は残っていないんだそうです
可哀想に

さて、デビュー作となったこのアルバムは、隅から隅までフラワーでサンシャイン
ソフトロック路線でのロス作品では最高傑作との呼び声も多く、①や②レベルのポップチューンが続く、素晴らしい出来栄えです
67年作品であるということが強烈。時代を読んでましたね。



①98.6 G.Fischoff - T.Powers :US #7 /UK #24
これほど心を惹きつけるオープニングも、そうはない
ゆっくりとしたピアノに、サックスが優しく絡み合ったと思ったら、急にテンポアップ
ちょっと感じさせる不自然さが逆に上手い

作者のジョージ・フィショッフとトニー・パワーズは、この頃のロスには欠かせないコンビ
ジョージ・フィショッフは後に、キャロル・ベイヤー・セイガーとの仕事も多い方で、トニー・パワーズはエリー・グリニッヂとコンビを組んで「カッコイイ子が見つかった(Today I Met~)」などを書いた人です。

スタッフで忘れてはいけないのが、アレンジャーのJoe Renzetti
ジェリー・ロスの片腕のような働きっぷりで、本作も全曲にクレジットがあります
レンゼッティは今はむしろ、映画音楽の人として有名なようですね

ところで、このタイトルは何なんでしょうね(笑)。
華氏だと98.6というのは“平熱”を表すようなので、「具合が悪いけど、彼女が戻ってくれれば平熱さ」って歌なんでしょうか??こりゃヒドい(笑)

それにしても本当に温かで優しいメロディ
「Hey, 98.6」で小さくなる音が、だんだん大きくなっていく箇所は、ベタな作りですが、誰もこんなに見事には仕上げてくれないでしょう

優雅なハーモニーを聴かせているのは、この頃スタジオミュージシャン的に働いていたトーケンズだからさっきの動画もトーケンズだったのです。
このアルバムでは、②と⑫にも参加してます。

②Ain't Gonna Lie G.Fischoff - T.Powers :US #39
本アルバムをお勧めする人は、かなりの確率でこの曲の邦題をオチに持ってきます。
文字通り「嘘はつかない」ですね!
とか

ロスとキースの共同作業では、これが一作目に当たります
強引にアルバムタイトルにも押し込まれていますが、その資格は充分
フラワーな陽気さに、ビート感も充分で、無敵のポップスワールドです

この曲の高いキーを出すキースのしんどそうな声、初めて聞いた時はちょっぴりガックリ来たのを覚えています
でも、すぐに、その柔らかさというか、か細さが大好きになりました
逆に、あの高さをきちんと歌える声だったら、多分この曲の魅力って出ないと思うな~。

③To Whom It Concerns C.Andrews
開始十秒で、「あ、このアルバム、①と②以外にも楽しめるのかも??」と思わせてくれます(笑)。
そう、このアルバム(というかCD)を聴いた人は、9割方「良い意味で裏切られた」という感想を残しているように思います。とりあえず①と②だけ期待しとこっと、みたいに聴き始めた人が多いから

その良い“裏切り”を演出するのに充分なウキウキポップスがこちら
メロディが階段をかろやかに上がっていくような感じがたまらない

作者はクリス・アンドリュースで、サンディー・ショウなんかに書いた曲が有名ですかね。

タイトルの意味は「関係各位」という意味ですが、「フミコさん」という音が気になる(笑)。

④Pretty Little Shy One M.Barkan - J.Ross
上述したような「おや、このアルバム良いのかも?」という思いを確信に変えてくれる、キースポップスの上澄み液みたいな曲
得意の歌声も、歯切れが良い

作者のマーク・バルカンは、息の長い名ライター兼プロデューサーで、マンフレッド・マンで有名な「プリティ・フラミンゴ」などがあり、この時期のロス作品にはよく登場します

コーラスが充実してますが、一応これはトーケンズじゃないようなんですよね
・・・本当なんでしょうか??

⑤You'll Come Running Back to Me C.Bayer - G.Fischoff
なぜか、出回っているキースのCDでは、ライターのスペルが2人とも違っているんですが、これはベイヤー&フィショッフ作品です
決してベア&ミショッフ作品ではございません

韻の踏み方が可愛らしい好曲
ブラスと歌声のからみ(中間部の終わり方が好き)も良いですが、ベースの力強さが心地いいですね
まさにロスの魔法が掛かっています
このアルバムの山場の一角を担う完成度の高さ

このタイトルフレーズ、ストーンズの「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」にも早口で登場してるせいで、そっちの印象が強いのは残念

⑥White Lightnin' M.Whitson
ちょっと流れを変える、甘さ控えめメロディ(笑)。
妙に焦った感じが楽しい

この曲の出自、僕はちょっとよく分からないんですよ~
66年の曲のようで、マリー・ウィットソンなる人物が書いたのですが、ローズマリー・ケーソンさんって名義だったのかな?
まぁ、カヴァーだったってことで良いのでしょうね
・・・分かる方、助けて下さいませ

スキャット的な歌い回しも、なかなかな味を発揮しています
変な声ですけどね(笑)。

⑦Tell Me to My Face A.Clarke - T.Hicks - G.Nash US #37/ UK #50
何とかヒットをつなぐことができた3作目は、何とホリーズのカヴァー
シングル作品ではなかったので、乙な選択と言えそう。

元曲もエキゾチックな仕上がりですけど、ヘビでも出てきそうな演奏は、こちらのバージョンの工夫

キースの歌声と妙にマッチしていて、高ランクを記録できたのもうなずけますよね

⑧Sweet Dreams (Do Come True) G.Fischoff - T.Powers
再びフィショッフ&パワーズ作品

“語り”から始まるのですが、演奏の始まり方は①を彷彿とさせるような、ムードたっぷり

「All that sma---ile」のバックコーラスが、程よく違和感を発揮してて、このままマイナー調に走るかと思いきや、すぐにウキウキポップスに

ちなみに、そのままマイナー調に走ると、4番目のシングル曲(アルバム2枚目に収録)とほとんど同じになります(爆)。

⑨Mind If I Hang Around Goldberg - J.Renzetti
個人的にはベストトラック
何といっても、キースの声の調子が抜群

珍しく一定の音程を完ぺきにキープしているんですが(笑)、つくづく、彼の声が魅力的であることを思い知らされる心地よさ

I hope you find him. I hope you do. I hope you keeping. I hope you still do.(根拠のない耳コピです)
と駆けのぼっていくところで、その心地よさは最高潮
低音への着地の仕方もバッチシです

・・・冒頭に咳ばらいが聞こえるのは内緒です

⑩Our Love Started All Over Again N.Brian - J.Ross - J.Renzetti
この曲もクレジットが訳わかんないトコあるんですよね~。
ロスの名前の代わりにW.Frederikって名前が記されている場合があるんですよ
まぁ、こういう混乱はマイナーアーティストの定めですね

キースの声って、こういう曲に合わないんですよね(笑)。
重厚で大人な空気漂う、なかなかなポップスだと思うんですけど
「ウォ ウォーゥウォゥ」で笑ってしまう

ライチャス・ブラザーズ辺りがやってたら相当格好良かったと思うな~

⑪Teeny Bopper Song J.Ross - A.Wayne
とたんに子どもな空気漂う、陽気なポップス
「ウーワー ウーワー」ってコーラスが何か、“懐かしさ”すら感じさせてくれます(笑)。

・・・ポップス感が“こっち”に振れても、それはそれで、あまり似合わないキースの歌声

個人的な感想ではある訳ですが、、、曲を選ばなくてはいけない間口の狭さが、彼の成功を妨げてしまったんじゃないですかね。

とはいっても、それは単品で聴いた時の話

ジェリー・ロスの魔法がかかった本アルバムで聴けば、不思議と⑩も⑪も、存在感たっぷりなポップミュージックとして、リピートリスナーを楽しませてくれるんですよ

⑫I Can't Go Wrong J.Ross - A.Wayne
閉めにはバラード調を持ってきました
冒頭からトーケンズが良い仕事してますね

「Seem that when I meet the girl about saking kiss would turn…」みたいに(自身なし)歌っている箇所
Bメロと言ったら良いのか、サビの前というか、むしろ実はサビなのか、力強いこのパートが、まさにロスの魔法って感じ
良いメリハリです

低音をゆっくり出す時のキースは、何かちょっとしんどそうに歌うんですが、この曲では安定感があって素敵です

ラストの方で、何か変なことでも起きたのか、コーラスが吹き出すという珍しい現象が起きてます
(まぁ、最近ではリードだろうと、誰だろうと、録音中の雑音は珍しいですが)


と、言うわけで、例によって取りとめもないですが、キースのデビューアルバム、60年代の音がお好き中で未聴の方がいたら、是非アルバムで聴かれることをお勧めいたします


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