♪Tin Pan Alley♪

50~70年代のロック・ポップス、ソフトロック周辺についてのブログです

The Mamas & The Papas :US #4 /UK #24

2009-12-15 | 1曲ずつ一言
The Mamas and The Papas
1966.8
Produced by Lou Adler

デビュー・アルバムから半年経たずにリリースされた、まるでデビュー・アルバムのようなタイトルを持つセカンド・アルバム
今でこそ地味で目立たないアルバムですが、当時のママパパ人気に押され、デビュー作に続いて、特大ヒット

ゴタついた、と書きましたが、それは音楽とはあんまり関係のない話。
人間関係の方です
実はこのアルバムの作成中、ジョン・フィリップスの嫁さん、ミシェル・フィリップスが、こともあろうに、リード・ヴォーカルのデニー・ドハティと不倫しちゃったんです
(実は、同じ頃にジーン・クラークとも良い関係になっちゃうんですよね、ミシェルさん。まぁ、、、分かりますよね、こんな美人さんですし

ちなみに、キャス・エリオットは元々、デニーのことが好きでこのグループに加入していますので、この問題は「ママス&パパス」にとっては致命的な出来事でした

ジョンの怒りは相当で、ミシェルの代わりに、ジャン・ベリーやルー・アドラーの恋人、ジル・ギブソンを入れ、レコーディングを進めてしまいます

ジョン・フィリップスは、ショックを打ち払うかのように、妙にクリエイティヴになり、浮気や不倫をテーマに、暴走気味ながらも良質な曲を書きまくります
・・・このアルバム、大半がそんな曲です

失恋直後と言えば、ジム・ウェッブが『マジック・ガーデン』を、ポール・サイモンが『時の流れに』を仕上げるなど、負のエネルギーを創造力に変えていく方々が結構いますよね

結局、ファンの強い要望や、キャスのとりなしで、ミシェルは2ヶ月ほどで戻ることに

アルバム作成に関しても、大半がジルの声で録音済みだったのに、わざわざもう一度、ミシェルの声を入れ直したらしいのです

・・・何かジルも振り回されて、可哀想ですよね
どうやら、ジャケ写真まで撮ってたらしいんですよ??
どんなジャケットって、窓の中に3人が立ってて、窓枠にジルが座っているという、、、上の写真とまったく同じ構図の(笑)
違う意味で“遊ばれた女”、ジル・ギブソン

同じく可哀想なのが、ミシェルとデニーで、自分たちの不倫を下地に書かれた曲を歌いまくりですからね
自業自得なのかも知れませんが、・・・何と言いますやら、どういう感覚してるんですかね、この方々
多少人格崩壊していないと、アーティストは務まらないのでしょうか(笑)。

さて、肝心の内容なんですが、先ほど触れたように、ジョン・フィリップスは大変にクリエイティヴになっており、個性あふれるポップスを書いています

それらを見事にまとめ上げた意味で、ボーンズ・ハウの出世作的な見方をする人も多いようです

と言うわけで、パッと聴くと地味で、印象に残らないアルバムかも知れませんが、良い音環境などで、丁寧に聴くと、なかなか発見の多い好盤です

①No Salt on Her Tail J.Phillips
「ライク・ア・ローリング・ストーン」風のオルガンを筆頭に、演奏陣が複雑で繊細なサウンドを実現しています

“塩を尻尾にかける”ってのは、“簡単に捕まえる”みたいな意味ですから、“彼女を捕まえる手段はない”みたいな理解で良いのでしょうか
・・・あ、そっか被浮気ソングだもんね(笑)。

パワフル&ビューティフォーな演奏と、幽玄ヴォーカルが絡み合うのが、彼ららしい印象を残します。

・・・が、実はこの曲はカヴァー曲に近い作品なんです
原曲は、ジャズがポップスだった時代の名ライター・コンビ、ロジャース&ハートの「ヒア・イン・マイ・アームズ」

ママス&パパスのルーツ音楽はモダン・ジャズですので、これはライヴ・レパートリーだったようです

アルバム製作の最終版で、ジョン・フィリップスがボーンズ・ハウに、“ライヴで録った「ヒア・イン・マイ・アームズ」を元に、何か作れないかな??”みたいなことを尋ねたらしい
そこで、職人・ハウがコード進行いじったり、オーヴァーダブなどを加え、別の曲に仕上げた訳です

この話は、まさにその「ヒア・イン・マイ・アームズ」ライヴ・バージョンが収められていた、ボックスの付録解説で明らかにされましたね。

②Trip Stumble and Fall J.Phillips - M.Phillips
これまた演奏陣がカッコよく決めてます
ハル・ブレイン、ジョー・オズボーン、ラリー・ネクテルなど。

しかし、展開は結構ヒヤヒヤしませんか
“どこへ行くんだ”みたいな曲

追っかけコーラスや、アカペラが効果的で、何だかんだ、良い感じに終わりますが。
ママパパ・サウンドの特徴を説明しやすい曲ではないかと思ってます

③Dancing Bear J.Phillips
・・・このタイトル見て、何人の人が「あ、キャスのことね」って思ったことでしょう(笑)。失礼。

楽しそうなタイトルからは予想もつかないほど暗い曲
ビートルズの「ガール」のように、ギリシャ系伝統音楽へのオマージュっぽい仕上がり。

こんな退屈な曲が4分も続くだなんて、ジョンはよほどこういう曲がやりたかったんでしょうね。
2分30秒ぐらいで登場する4声コーラスは見事

ちなみにこれ、次のアルバム後にシングル・カットします

④Words of Love J.Phillips :US #5
このアルバムの、ちょっと後にシングルカットして大ヒットした代表曲。
キャスの表情豊かなヴォーカルは本当に素晴らしい
「No!」の可愛らしさと、「a----nymo----re!」の力強さがまた何とも。

前奏のドラムとピアノの掛け合いは大変に陽気で、前曲からのギャップでホッとします

・・・ですが、ビートルズのカヴァーでも有名な、バディ・ホリーの同名曲と違い、愛の言葉が届かない、という暗い内容
何かもう、コンセプト・アルバムですね、これ。

⑤My Heart Stood Still R.Rodgers - L.Hart
レコードA面のラスト2曲に、抜群のカヴァー曲を持ってきました

まずこちらは彼らの原点、①で触れたロジャース&ハート作品
40年近く前のジャズを、見事にフォーク・ロックにしてしまう辺りはさすがママス&パパス、さすがボーンズ・ハウ
特に、「My Heart Stood Still」というタイトル・フレーズのアレンジが最高で、
非常に爽快な終わり方です

この曲が大好きだったのがミシェル。
確かに、ペギー・リーがこの歌を歌っている動画を見ると、ソロ時代にはミュージカルもこなしていた、ミシェルの憧れが分かるような気がします

“ドキドキしすぎて、心臓が止まるかと思った!”という、この歌の録音こそ、ジョンとミシェルの仲直りの証明なのかも知れませんね

⑥Dancing in the Street M.Gaye - I.J.Hunter - W.Stevenson :US #73
もう1曲のナイスカヴァーがこちら
ヒットしているのは④のB面としてです。

ランキング好きな「レココレ」が、今年の夏に行った「初期米国ロック/ポップの名曲100」で、見事10位を獲得したオリジナルは、マーサ&ザ・バンデラス

モータウンらしさを充分に残した、弾むイントロは“そう来たか”って感じ
間奏の電子ピアノはラリー・ネクテルでしょうが、これまたジャジーな良い空気です

⑦I Saw Her Again J.Phillips - D.Doherty :US #5 /UK #11
「マンデー・マンデー」に続く、このアルバムの先行ヒット・シングル

期待感たっぷりのイントロに、スリリングな掛け合いコーラス、、、僕の趣味のど真ん中です
「And it make me (a---nd it make me) feel so good to know she'll never leave me.」
なんてマジ最高

例によって賛同者の少なさが懸念されますが、僕の中ではママパパ最高傑作です

なんでか、デニーはちょいちょい歌い間違えてて、中途半端な消え方をする場所や、最後に至っては、ワンテンポ早く始めてしまう箇所がありますが(そう、アレは実は間違いなのだそうです)、ハウはそれを活かす方向にしたようです
確かに、そっちの方が迫力ありますよね。

歌詞はもちろんコンセプト通り
ようは、
“別れたー、人に会ーった
ってことです

・・・え共作者にデニー??

そうなんです、デニーの「何のことを書いているのかは分かっていた」という名言を生んだ、寝とられ夫と間男で共作(狂作?)した、“この度の不倫総括曲”なんですよね

こんなん有りなんか???

まぁしかし、そんな総括曲が明るく完成して良かったですよね
だからこそ、ママス&パパスももう2、3年ほど寿命が伸びたのではないかなーと思う次第です。

⑧Strange Young Girls J.Phillips
再び幻想的な曲
ミシェルの声がハッキリ判る珍しい曲です。
当時の西海岸の若い女性の間で、ドラッグが流行っていること歌ったようです。
「カリフォルニアの夢」を歌った彼らが、この歌を歌っていることは皮肉ですね。

何かこの辺りから、一層迷走し出す感じがあって、このアルバムがあんま聴かれてこなかった一因をなしていると思いますね

⑨I Can't Wait J.Phillips
何とも珍妙な印象を受ける始まり方
そこばっか頭に残りますね。

タイトル、何が待てないのかというと、、、浮気女を思いっきり傷つけてやることが待ちきれないっていう、男の根暗ソング

間奏のリズミカルなドラムが白眉。

⑩Even If I Could J.Phillips
これは唯一(?)、別れたことを悔いる歌詞が入っています

メリハリあるメロディに絡み合う、キャスとミシェルの、エコーたっぷりなコーラスが印象的

⑪That Kind of Girl J.Phillips
逆にこちらは、メロディにメリハリがなさすぎ(笑)。
あ、でもキャスが「Imagin...」と歌うフレーズは魅力的ですね。
何か左右の音の途切れ方が不自然な気がするんですが

イントロのベースのキレが良く、間奏も、ママパパにしては珍しいほど、“普通な”エレキギター・サウンドが炸裂していて、“おっ”と思わせてくれます
つくづくボーンズ・ハウがこのアルバムを見事に仕上げたことを感じさせてくれます

⑫Once Was a Time I Thought J.Phillips
ファンの間では人気曲でしょう
アコギでキーを取る、美事なアカペラ曲

何が素晴らしいって、強烈に高速な韻の踏み方
完全に早口言葉です

50年代に大人気を博した、ジャズコーラス・グループ、ランバート・ヘンドリックス&ロスのイメージがあったことは間違いないようです。

アルバムの終わり方としては、かなり締まった感じですね



何とか、最大の危機を乗り越えたようではありますが、結局、この亀裂が完全に修復されることはなく、「ママス&パパス」は、徐々に終焉に向かっていくことになります


4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いいグループです。 (240)
2009-12-17 00:09:20
こんばんは。
たまたま私も9月に彼等のファーストアルバムを記事にしていたのでTBさせて頂きました。
このグループ、やっぱりジョンの楽曲と、ハル・ブレイン、ラリー・ネクテル、ジョー・オズボーンの演奏なんかが聴きどころですね。
もっと評価されてもいいグループだと思います。
返信する
>240様 (ベンジャミン)
2009-12-17 00:20:43
こんばんはー。コメント&TBありがとうございます。

TB先の240様のコメント見て知ったのですが、「I Saw Her Again」がベストトラックと思ってらっしゃいましたか!!
240様と同じ意見だったとは嬉しいです!

ママパパって、“評価が低い”を超えて、音楽性の面についてはほとんど“評価ゼロ”って感じですよね~~。
返信する
Unknown (スワン)
2009-12-21 08:49:14
このアルバムは負のエネルギーでできた傑作だったんですね。そうとは思えないさわやかなサウンドが悲しみを増幅させますね。
返信する
Unknown (>スワン様)
2009-12-24 09:55:24
返事が遅れてすみません。

>そうとは思えないさわやかなサウンドが悲しみを増幅

まさしく(笑)。
さわやかに乗り越えて何より、と考えるべきか。。。
いずれにせよ、スタッフ陣の勝利ですよね。解散しなかったのですから。
返信する

コメントを投稿