♪Tin Pan Alley♪

50~70年代のロック・ポップス、ソフトロック周辺についてのブログです

Parsley, Sage, Rosemary and Thyme :US #4 /UK #13

2011-08-23 | 1曲ずつ一言

Simon & Garfunkel
1966.10
Produced by Bob Johnston

『ブックエンド』直前となる本作は、まさに“傑作誕生近し”との臭いを感じさせる、見事な楽曲ばかりです
このアルバムから、ロイ・ハリーが最初から最後まで徹底して関わることになります。

S&Gの音楽は、ポールとアーティとロイの3人がかりで作られていると言っても言い過ぎではないでしょう。
まさに3人目のS&G、ロイ・ハリーは、「サウンド・オブ・サイレンス」の電子録音の時から、エンジニアリングで関わり出しています

トム・ウィルソンやボブ・ジョンストンの片腕として働きますが、すでに大御所の地位に近づいていたトムとボブより、気鋭のロイの方が、ポールとアーティが望む音楽を、一緒に作ってくれる存在だったのかも知れませんね

歴史と実績にあふれたコロンビアが、60年代の音楽の急速な発展にあっても、堂々とその地位を保ち続けた、立役者の一人と言って良い、ロイ・ハリー。

こうして、ポールとロイという2人の完璧主義者が接近
折よく、世間のS&Gへの注目度も上がる一方

待望の3作目は、捨て曲なしの好盤で、S&Gらしい路線での、フォーク・ロックだと思います。
ビートルズの『ラバーソウル』、ビーチボーイズの『トゥデイ』に位置する、キャッチーと挑戦の入り混じるアルバム

3人がかりの魔法が、形になり始めた瞬間です

 

① Scarborough Fair/Canticle P.Simon - A.Garfunkel :US #11
恐るべき風格はまさしく代表曲。一番好きという人もいるのでは??
後に映画「卒業」の挿入歌として使われたこともあって、その地位を確固たるものにしました
ちなみに、シングル・カットはその時です。

2つの異なる曲を、それぞれ2声ハーモニーでハモりながら追っかけ合うという、超立体的なフォークソング

スカボロー・フェアは、スカボローという交流都市で行われるお祭りに関する歌詞。
吟遊詩人なんてFF的な人が、リアルに存在した16世紀頃からあった曲だそうで、S&Gが拝借したバージョンは19世紀頃に流布していたとか何とか。

詠唱部分は反戦歌。歌詞もメロディも、『ソングブック』の「サイド・オブ・ア・ヒル」の延長にあるんだろうなぁ、と感じさせます。

では、スカボロー・フェアの歌詞はというと、ちょっといびつなんですが、一応は色恋の歌詞です

古い伝統の恋歌と、反戦歌とが、(絡み合うと言うよりも)お互いがお互いを邪魔するかのように入り混じる、大変メッセージ性の高い曲
それをアルバム冒頭に持ってくる辺り、彼らの狙いや社会の位置づけを感じずにはいられないですね。

 

② Patterns P.Simon
こういうアルバムは、概して2曲目が方向性を決めてきますが、その意味で大変効果的な曲。
前曲の空気をまったく殺さず、ふくらましています

何と言っても「デス」の一言が怖いUntil the rat dies」のイフェクトも、ドキっとしますね。

 

③ Cloudy P.Simon
人気曲。結構カヴァーもあったと思ってましたけど、サークルぐらいでしたっけ

この前奏聴くと、次の④を書いている最中に思いついたのだろうか、なんて邪推してみたり

 

④ Homeward Bound P.Simon :US #5 /UK #9
それほどこの④の前奏は、短さの中にキレがあり、大変なインパクト

ビートルズの「ヘルプ」のような経緯で生まれてそうなタイトルですが、こちらも大ヒット
実はセカンドシングルなんですよね、これ。「アイ・アム・ア・ロック」(そういや、これの前奏とも近いですね)はサードシングルなのです。
まあ、それが1位、5位、3位だから凄いお話です

しかも、イギリスでもヒット UKでの受け入れられ方が早いのは、当時のフォーク・ブームの象徴でしょうかね。
さらに、S&G路線でイギリスで奮闘していたチャド&ジェレミーも、同年のアルバムで、この曲をカヴァーしています。

珍しく、ブリッジサビにスピード感があり、しかもここがアレンジし放題な場所。
ライヴでは、毎回独特な変形をしますが、何やってもしっくりくるという不思議さ
サビの終息部分も、色んなアレンジされますよね。

余談ですが、この曲はカラオケではあまりお勧めできません。
と言うのも、画面いっぱいに邦題がでるからです。
「早く家へ帰りたい」
って。一気に気まずくなりますよ

 

⑤ The Big Bright Green Pleasure Machine P.Simon
誰がどう聴いてもハル・ブレイン終盤にかけて、大盛り上がりのドラムが楽しい。

夢の中の世界」⑦のB面を飾ったこの曲。
現代社会の何か――メディアであったり、都会であったり、急進的な若者たちの運動であったりを、皮肉たっぷりに批判しているような歌詞は、洗濯機を見ている時に思いついたなんて、楽しいエピソード

 

⑥ The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy) P.Simon
一番愛されているS&G作品
そう言い切っても、誰も怒らないですよね

まさに、60年代最高の「愛くるしい曲」と言ってもいいような小曲
わずか1分40秒ちょっとで終わることが惜しいような、それがピッタリなような、でももっと続いて欲しいような・・・・・。

屈託のない、弾んだウィスパリング・ヴォイスも、息をのむようなスキャット・コーラスも、まさしくタイトルの括弧内の通り

オールド・フレンズ・ツアーのDVD、大トリとなったこの曲の映像なんてもう、あれほど彼らへの愛情を感じた瞬間はなかったですね
一斉に立ちあがって踊り出した観客に混じりたかった
東京ドームでは演ってくんなかったんですよね

そういえば、古いベスト盤で、ライヴ音源の混じったやつがありましたが、あのフィーリン・グルーヴィは、終わり方が最高に良かったな~。
あれ、まだどこかで手に入るんだろうか・・・。

 

⑦ The Dangling Conversation P.Simon :US #25
意欲作。意欲的すぎて、戸惑う系

これが4枚目のシングルなんですが、ここから5曲ほど、トップ10に入れないんですよね。
ロイ・ハリーというすさまじいエンジンを手に入れて、うまくコントロールできなくなったかのような時期。
S&Gサウンドの第2次成長期とでも言うべき印象です。

この曲、僕も最初はとってもピンと来てませんでしたが、アンプラでのライブ音源聴いたら、何となく納得したような気になりました

 

⑧ Flowers Never Bend with the Rainfall P.Simon
ポールにしては珍しくポジティヴなメッセージソング。隠れた名曲

この頃のポールの作品には、フォークなサウンドで、重厚な“ロック”を聴かせることができるアイデアが詰まっているように思えますが、この曲の勢いも、まさにそんな感じ。
「ミセス・ロビンソン」的なサウンドへの、良いステップのように思えます。

サビの出だし、「So I'll continue to continue to pretend my life will never end」というフレーズが、(ポールの意図はともかく)個人的に、深く思うところがあり、妙に何度も聴いてた時期がありましたね~


⑨ A Simple Desultory Philippic (Or How I Was Robert McNamara'd into ...) P.Simon
これと②と⑧が、ポール武者修行中の「ソングブック」の残滓。
いやはや、どこか行き先不安定な印象を感じさせる当初のと比べると、本アルバムの段では、アーティスト「サイモン&ガーファンクル」の曲として、自信をか感じさせる音に変化してますな~。

歌の語り手は、色んな人の影響を受けてて、作家のノーマン・メイラー、軍人のマクスウェル・テイラー、作家のジョン・オハラ、マクナマラ国防長官、ローリング・ストーンズ、ビートルズ、思想家のアイン・ランドに感化され、続けて、フィル・スペクター、ルー・アドラー、バリー・サドラー軍曹にも惚れこみ、毒舌コメディアンのレニー・ブルース(後述)から真実を学んだという。

ディランと言ったら、ボブではなく、詩人のディラン・トーマスだと思っている奴を馬鹿にして、さらにはミック・ジャガーにもかぶれているそうで、V.U.で有名な画家のアンディ・ウォーホルの名も。

締めくくりに、ロイ・ハリーとアート・ガーファンクルにも影響されたと述べ、ちゃんとオチがつく訳です。
ありえそうな若者アメリカ人を歌ったようでもあり、ポールの政治スタンスをごまかしながら吐露しているようでもある、冗談めいた曲となっております。

 

⑩ For Emily, Whenever I May Find Her P.Simon
アート独唱の代表格。歌うたいアーティーの真骨頂。
このアルバムの中で、ひときわ薄い音づくりしているのに、この存在感ですからね

先進的なサウンドたちの中にあって、①や⑩の中にさらりと流れる牧歌的な空気が、彼らをフォーク・ロックの旗手たらしめています

 

⑪ A Poem on the Underground Wall P.Simon
巻き舌が耳に残る 力強いベース音が心地よいですね。普段はあまり出てこないパーカスも。

一応これもポールのイギリス武者修行時代の作品。思いがストレートです

“地下の詩”ってのは、ファーストのジャケットの撮影現場からインスパイアされたものだそうな。


⑫ 7 O'Clock News/Silent Night P.Simon
この終わり方
いかにもこの時代の“やり過ぎアルバム”にありがちな
「きよしこの夜」を背景に、ニュース・フラッシュが読み上げられるのです。

この年は5月に『ペット・サウンズ』、『ブロンド・オン・ブロンド』が出てますし、『リヴォルヴァー』も8月には出てます
ロイたちの創作意欲が向上して向上してしょうがなかったことでしょう。

ちなみに、ニュースの読み手はウォルター・クロンカイトという、実在のジャーナリスト。
(ケネディ暗殺の速報を、声を詰まらせながら読み上げた人)
内容は、全部その頃起きた現実の(割と辛い)ニュースで、この録音のために、わざわざポールがまとめ、ウォルターに朗読を依頼した、という流れなんだそうです

このニュースの中で、上述のレニー・ブルースさん死去の報もあります。
実はこのれニー・ブルースさんに捧げられたアルバムなんです。
過激で辛辣な皮肉やジョークを飛ばし続けた漫談家の死に、サイモン&ガーファンクルは何を思ったのでしょうね・・・。


さてさて、総じて見てみますと、このアルバムは、類を見ないほどの神々しさと、泥臭い現実社会とを、とことんまで並行させてしまっている訳です
“フォーク音楽の可能性を試してみた”と言ったらいいのか。
そんな彼らには、さらに次のステップが待っています



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