幼少のみぎりより耳のこりする音のひびき。うたがいのはれぬまま残響するのは、はなはだ居ごこちがよろしくない。
森山加代子「メロンの気持」がそのひとつ。1960年(東芝レコード)。作詞:ホセ・しばさき。
〈わたしはメロン〉、〈あおくてかたい〉、けれどそれは外だけ、だから
〈だれかこっそり〉、・・・してね。

メロンとは、これかい。マスクメロン、うれた果肉にムスク(麝香 じゃこう)のかおりがするからという。
1960年代にマスクメロンは珍しかった。病院のみまい品くらいしか見かけなかったような気がする。りっぱにメロンと称する「まくわうり」はありました。はたけにもごろごろしていた。

うたのなかですから高嶺の花でも「高値の花」でもかまわない。メロンのきもち。
異国のもとうたを日本語にやきなおす「カバー」曲がはやった時代である。
原曲はいわゆる「インストルメンタル」うたのない歌謡曲で、これにスペイン語と英語のチャンポン詞をのせたのが、ローズマリー・クルーニーの
《Corazón de Melón》Rosemary Clooney and Pérez Prado Orchestra, 1959.
である。
作詞:Carlos Rigual, Pat Valando, and Ronnie Carson. 作曲:Carlos Rigual.
ペレス・プラード楽団、「う」っていう相のてみたいな声がかかるマンボ・ナンバー・ファイブでならした、にぎやかな楽団とのコラボレーション。この楽曲をおさめたアルバム『タバスコの味』がみつかりました。

《A Touch of Tabasco》1959.
この「メロンのこころ」Corazón de Melón をあらためてきいてみると、スペイン語のコラソン・デ・メロンのくりかえしのあと、英語のパートが
Your heart is a watermelon heart.
とはじまる。

ウォーターメロンとは、これかい。すいか(西瓜)。
歌詞のつづきはこうだ。
You're so sweet, it thrills me.
You're so cold, it chills me.
You're so cold, it chills me.
あまくて、つめたい、ぞくぞくしちゃう。
スペイン語でメロン melón はメロン。すいかは sandía とか、melón de agua とかいう。後者はウォーター・メロンの直訳のようにみえる。カリブ海域の方言というはなしもある。
それはさておきメロンとスイカはちがうぞなもし。すくなくとも日本語で「西瓜の気持」では、歌の文句にならないや。情熱も冷めてしまう。
作詞者が三人よれば香瓜(シアングワ)の智慧。音律にあわせるために英語はウォーターメロンをかりてくるほかないという結論に達したのであります。そうかなあ。半世紀をこえて、メロンのきもちはわからない。
(大井 剛)
〔あとからひとこと〕
現代漢語(中国語)にメロンをもとめると、かおりたかい香瓜(シアングワ xiang1gua1)、あまい味の甜瓜(ティエングワ tian2gua1)があり、ほかにも果瓜(グオグワ guo3gua1)、蜜瓜(ミーグワ mi4gua1)などいろいろでてくる。安直な字びきだと瓜 gua1 一字ですましていたりする。
〔ふたことめ〕
《Watermelon Man》Herby Hancock. Album:Takin' Off, 1962,
シカゴの通りをめぐりあるくスイカ売りのよび声や石畳にひびく荷車のリズムに感じて作曲したという、ハービー・ハンコックの「ウォーターメロン・マン」は1962年に世にでた16小節ブルーズ形式のジャズ曲である。(レナード・フェザーによるライナー・ノーツ)
"Watermelon Man" is written in a sixteen-bar blues form. Recalling the piece, Hancock said, "I remember the cry of the watermelon man making the rounds through the back streets and alleys of Chicago. The wheels of his wagon beat out the rhythm on the cobblestones."
《Watermelon Man》Mongo Santamaría. Album:Watermelon Man!, 1963.
翌1963年、詞をともなうマンゴ・サンタマリアのカヴァ曲がおもいがけず当たる(1998年グラミー殿堂入り)。
マンゴ・サンタマリアはアフロ・キューバン・パーカッショニストであった。その後発表されたジョン・ヘンドリクス Jon Hendricks のカヴァ「ウォーターメロン・マン」のなかに一節だけ
so sweet, so cool
ときこえる箇所がある。ライヴのいきおいかもしれないが、もしかしたら元祖「メロンのきもち」1959年の本歌どりではあるまいか。
ときこえる箇所がある。ライヴのいきおいかもしれないが、もしかしたら元祖「メロンのきもち」1959年の本歌どりではあるまいか。
もとより、あまくて、つめたいのが、ウォーターメロンの本領なのでしょうね。
なお「メロンのきもち」英語の歌詞との対訳は、山本リンダによる日本語訳を採用した。(ウソつけ)
〔もひとつ、おまけ〕
ウリ系の中途はんぱに甘く改良した味は、あおくさく水っぽくて好みではない。とりわけジュースはいただけない。シャーベットなら口なおしていどになるかも。野菜のキュウリにうらみはありません。個人的な感想でした。
(更新記録: 2024年11月21日起稿、2025年5月21日公開、5月22日修訂)