苗木地方は今でも、そこここの山や川に水晶や雲母、長石が転っている。
(『日本希元素鉱物』より)(*補記、FM135_02 追記)

中津川市鉱物博物館*が苗木(なえぎ)の台地のうえにたつ。1998年開館。その正門である。(写真1枚目、岐阜県中津川市にて2022年5月6日撮影)
苗木を中心とする地方は、水晶やトパーズなど宝石となる鉱物がみつかることで有名である。女優 TM さんが石さがしを話題にするので(一部には)知られている(彼女の公式サイトに石のブログがある)。
長野県木曽郡南木曽町から岐阜県恵那市北部にかけて、木曽川の北岸にそった一帯は、「苗木‐上松(あげまつ)花崗岩」とよばれる花崗岩が分布していて、この岩体からさまざまな鉱物がみつかるのである。このような地域をまとめて「苗木地方」とよぶ。

博物館の建物は、ペグマタイト(巨晶花崗岩)中の鉱物にみたてて造られている。中央のエントランスが水晶、むかって左の黄土色の平面はカリ長石、右の暗緑色のガラス部は雲母や曹長石をかたどっているとのこと。

ペグマタイト(巨晶花崗岩)がさっそくお出むかえ。花崗岩体のなかにできた空洞に大きな結晶が成長している。
「晶洞ペグマタイト」の産地はいづれも中津川市で、中央が苗木井汲(いぐみ)、まわりの4点は蛭川(ひるかわ)。井汲は博物館から南西に1kmほどくだったところ。展示パネルの蛭川の行政地名は、恵那郡蛭川村(2005年2月中津川市に編入合併)になっていた。苗木地区の西方にあたる。

花崗岩のいろいろ。名称と産地をしるす。地名はどれも中津川市。
左から、「粗粒花崗岩(毛呂窪型)」北野、「細粒花崗岩(苗木型)」苗木並松、「さび石」苗木。毛呂窪は「けろくぼ」とよむらしい。

苗木の周辺の花崗岩。
手前「上松花崗岩」木曽郡上松町(あげまつまち)下川原、
左上「伊奈川花崗岩」下伊那郡阿智村(あちむら)(恵那山トンネル内)、
右上「木曽駒花崗岩」木曽郡南木曽町(なぎそまち)三留野(みどの)。
恵那山トンネルは中央自動車道が伊那谷から木曽谷へぬけるため木曽山脈(中央アルプス)神坂峠の下をつらぬくアナである。

「晶洞ペグマタイト」苗木地方。苗木地方といえば広域をさし(前述)、中津川市の苗木地区にかぎらない。

「脈状ペグマタイト」苗木西八幡。

勢ぞろいした全国代表、花崗岩のかずかず。

「黒雲母花崗岩(万成石)」岡山県岡山市北区谷万成(まんなり)。
(万成石 ⇒ FM119「不思議がナチュラル◇つやま自然のふしぎ館 2020/11/25」2021年06月06日 へ)

「黒雲母花崗岩(苗木みかげ)」中津川市瀬戸(阿宇坂)。瀬戸は苗木地区のうち字(あざ)苗木の東にある字。阿宇坂は「あうさか」とよむらしい。じっさいにはオーサカと発音するかもしれない。

「片麻状石英閃緑岩(幡豆石)」愛知県西尾市東幡豆町(はずちょう)。蒲郡のミュージアムに「名古屋城天守台の石垣にも使用されている」と展示されていたあの幡豆石である。
(幡豆石 ⇒ FM113「竹島から日本列島にせまる◇生命の海科学館 2020/08/03」2020年09月03日 へ)

「黒雲母花崗岩(本みかげ)」兵庫県神戸市東灘区住吉台。

「角閃石斑れい岩(須佐石)」山口県萩市須佐(高山)。斑糲岩である。

ようやく頭をあげて館内をみまわす余裕がでてきた。

地質模型「中津川地方の地質」。

模型は動かして断面がみられるところがある。この断面の中央に二つのピークがあり、その右の頂に二ッ森山と標識がたつ。山の右側、東斜面をくだった谷あいが福岡地区である。
(福岡地区、二ッ森山 ⇒ FM134「電車のかよい路◇中津川 付知川溪谷」2022年05月06日 へ)

阿寺(あてら)断層。光の点線で示されている。

屏風山断層。この光の点線のむこう側、すなわち北側にそって中央自動車道、鉄道の中央本線がはしり、木曽川がながれている。写真の中央あたりが蛭川地区、福岡地区である。

赤河断層。断層帯の北に笠置山、蛭川地区(模型の標識は「旧蛭川村」)。光の点線の右はじに恵那市の市街地がある。

この断面の光の点線は地中を横断している。中央自動車道の恵那山トンネルをしめす。「恵那山」の標識が右てまえにみえる。

福岡地区(模型の標識は「旧福岡町」)。中央やや左に縦むきに、すなわち南北に付知川がながれる。てまえに横むきに木曽川。左下のはじに「旧蛭川村」の標識がある。

福岡地区、付知川の断面。赤い部分が花崗岩。地下から貫入したのであった。
断面の地下ふかくが灰色なのは、そこに別の地質構造があるわけではなく、表示しきれなかった部分であろう。文字通りのグレー・ゾーン。
中津川市鉱物博物館*ウェブサイトは、「WEBミュージアム」*を充実させつつある。過去の企画展示とその図録を基礎におき、テーマごとに簡潔にまとめてくれる。本稿に直接かかわる参考資料として、つぎの画像をあげておく。
テーマ「鉱物産地・苗木地方と花崗岩」(2021年5月9日更新)には、
「苗木花崗岩」粗粒部の拡大写真 (2021年4月1日更新)
「苗木-上松花崗岩分布図」(2021年5月7日更新)
がある。
「苗木花崗岩」粗粒部の拡大写真 (2021年4月1日更新)
「苗木-上松花崗岩分布図」(2021年5月7日更新)
がある。
テーマ「活断層と地震」(2021年4月1日更新)には、
「中津川市周辺の地質模型」(2021年5月7日更新)
「中津川・恵那地域の地形区分図」(2021年5月7日更新)
がある。
「苗木みかげ」をはじめ世界の花崗岩の拡大写真が、岐阜大学の「理科教材データベース」*にある。
http://chigaku.ed.gifu-u.ac.jp/chigakuhp/html/kyo/chisitsu/granite2/index.html
地名のよみかたは「中津川市の地名一覧」*による。この一覧表は同市ウェブサイトの「税務課」内にある。
たまには脚注ぬきでいきたい。後半につづく。
(大井剛)
【見出し写真】 中津川市鉱物博物館ウェブサイト「WEBミュージアム」のテーマ「活断層と地震」から画像「中津川市周辺の地質模型」を拝借した。解像度が高いから。ストロボなしの現場写真とは差がつく。
(更新記録: 2022年5月6日起稿、7月9日公開、2023年3月18日修訂・補記)