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本と音楽とねこと

女の子はどう生きるか──教えて、上野先生!

上野千鶴子,2021,女の子はどう生きるか──教えて、上野先生!,岩波書店.(7.14.24)

「生徒会長はなぜ男子が多いの?」「女の子が黒いランドセルってダメ?」「理系に進みたいのに親がダメっていう」等々。女の子たちが日常的に抱くモヤモヤや疑問に、上野先生が全力で答えます!社会に潜む差別な刷りこまれた価値観を洗い出し、一人一人が自分らしい選択をする力、知恵や感性を磨くアドバイスが満載の1冊。

 上野センセは、「女の子」に優しい。
 このうえなく、優しい。

 そんな上野センセが、この「岩波ジュニア新書」にて、Q&A方式で、懇切ていねいに、「女の子」の悩み、疑問に回答する。

 東大には東大男子と他大女子だけが入れて、東大女子が入れないインカレ(インターカレッジ、つまり大学の垣根を越えた)のテニサー(テニスサークル)がいくつもあります。わたしが学生だった半世紀まえにもありましたが、今でも続いていると知ってびっくりしました。相手にする大学は、東女(東京女子大学)や聖心(聖心女子大学)のような女子大が多いようです。つまり世間一般の平均よりはちょっと上を行っていてほしいけれど、ボクを凌駕しないでくれ、って、下心が見え見えですね(笑)。
 東大男子は東大女子が苦手です。なぜって、自分と同じぐらいかそれ以上優秀かもしれないから。なぜ男子は女子が優秀だと困るんでしょう?これも答えはかんたんです。「オレサマ」になれないからです。その点、他大女子は、「東大生、すごいわねえ」と目に♡を浮かべて「オレサマ」を見あげてくれるでしょう。
 こういう男性を、オッサン、と呼びます。そのとおり、東大男子は若いうちからオッサンなんです(ここでいうオッサンとは、中高年のオヤジのことではありません。自己チューでオレサマ度が高く、オンナコドモや立場の弱いひとを差別する、想像力がなくて鈍感力の高いひとを言います。年齢も性別も問いません。女のひとのなかにも、たまにいます)。おばあちゃんはまわりにオッサンばかり見てきたから、お姉ちゃんに「オッサン受け」するには東大へ行くと不利だよ、とアドバイスするのでしょう。
 ですが、おばあちゃんのアドバイスがクソバイスである理由は、世の中はオッサンばかりではないからです。心配しなくても東大女子の婚姻率は高いですし、むしろ女子が少ない分だけモテるともいえます。それにそんなオッサン度の高い男子に選ばれてもうれしいですか?オッサン男子と結婚したら、一生「オレサマ」の自尊心のお守り役をしなければなりませんよ。
(pp.44-46)

 いやはや、痛烈だ。

 もうひとつ、女子の高等教育をきらう理由があります。「高等教育を受けると女は生意気になってろくなことにならん」と思われているからです。これが「東大行くとお嫁にいけない」神話のもとです。男が主、女が従の男尊女卑の社会では、女は男より何につけても劣っているほうがよい、なぜって?その方が男が女を扱いやすいからです。夫が妻に「おまえみたいなバカなヤツが・・・・・・」と罵る。そんなら「なんでバカなヤツを妻に選んだの?」って言えば、「(オレより)バカなヤツ」だからこそ、選んだのでしょう。なぜって、ずぅーっと一生、相手をバカにしていばれるからね。男って単純なヤツ。こういう単純なヤツは上手にあやつって「バカのふり」をしなさい、って親切に「忠告」してくれるオバサンやオネエサンもいます。だから東大女子は、男子より賢くても「バカのふり」をします。
 でもね、「単純なヤツ」をころがして、「バカのふり」をしながらつくる関係って、おもしろいですか?一生のあいだ、そんな関係を続けたいですか?
 もしあなたが相手の才能や努力をリスペクトできるような男性とつきあいたいなら、相手の男性からもあなたの才能と努力をリスペクトしてもらいましょう。お互いにリスペクトしあえる相手との関係ができるほうがずっといいですよ。
(pp.51-52)

 男との付き合い方、関わり合い方に不安をもちがちな「女の子」に、自信と勇気を与える、これほど強い言葉があるだろうか?

 これまでのQで見てきたように、男性が学歴、成績、能力、収入、地位、身長などなどの面で自分と同じかそれ以上の女性を敬遠する傾向があるのはたしかです。優秀な女性は「生意気」と言われ、「かわいくない」と言われます。「かわいい」とモテる、といわれますが、「かわいい」ってなんでしょうか?「かわいい」って、「あなたを脅かすことは決してありません」ていう保証を相手に与えるようなもんです。「かわいい」うちはかわいがってもらえる。でもかわいくないと怖れられるオレサマ男のプライドって、それくらいで脅かされるようなケチなもんなんですね。そんなケチな男を相手にするとロクなことがありませんから、相手にしなければいいだけです。もしあなたが学歴、成績、能力、収入、地位、身長などなどの面で優秀な女性なら、ケチなオレサマ男たちがあなたを避けて通ってくれますから、かえってストレスがなくてラクでしょう。
 男がどんなときに自己効力感(オレサマ意識)を持つか、を測定する心理学のテストがあります。それによると「稼得力(稼ぎの大きさ)」という因子がもっとも高い効果があるといいます。つまりオレサマ意識を支えているのが、「オレはこれだけ稼いでいるぞ」ということなんだそうです。なあんだ、ことあるごとに「誰の稼ぎで食わせてもらっていると思ってるんだ」とオッサンが言う理由がよくわかりますね。
 男性が失業したり、自分のせいでなくても会社が倒産したりして、この稼ぎがなくなると、オレサマ・アイデンティティが危機に瀕します。能力や収入で相手より優位に立てないとわかると、問答無用で行使されるのが暴力。オリンピックで、女子の個人選手として史上初の四連覇を成しとげたレスリング選手、伊調馨さんを殴ろうと思う男性はいないでしょうが、たいがいの男性はたいがいの女性より腕力が強いですから。そこからDVが始まります。DV男性の研究によると交際の始めや結婚当初から暴力的だった夫はあまりいないそう。それなら最初から選びませんからね。結婚して「妻が逃げない/逃げられない」とわかってから、あるいは夫婦の力関係が変わったときに、暴力をふるいはじめるのだとか。卑劣ですね。オッサンになるかどうかはDNAで決まっているわけではありません。状況が変わるとオッサンに変化するのでしょう。しまった、と思ったら夫婦関係をキャンセルしましょう。
(pp.53-55)

 国民年金の第三号被保険者制度、税の配偶者控除、(働ける既婚女性の)扶養家族認定制度等、女性を男性に従属させる、かしずかせる制度のあり方に疑問をもつのも、大切なことだ。

 夫の立場を支えているのは、この「配偶者控除」の制度です。この「配偶者控除」の制度は、今でも働きたい女のひとたちの足を引っ張っています。既婚女性のひとたちが、正社員になりたくない、パートでいいわ、というのは、こういうからくりをよく知っているからです。それをあとになって、政治家は、「女性は正社員になることを望んでいない」って言うんです。働きたい女のひとを働くと不利なようにしておいて、老後は年金も医療保険もない女性に、第三号被保険者が受け取れるほんのちょっぴりの「基礎年金」と、後は夫が死んだあとに四分の三の遺族年金を保証する・・・・・・というのが、既婚女性に対する日本の税制・社会保障制度です。わたしはだから、これを「夫の看取り保障」と呼んでいます。ソントク勘定でいえば、オレを最後まで見捨てない方がトクだぜ、って制度をあげて妻を追いこんでいるんです。
(pp.71-72)

 上野センセ、これから「買われる女」になるかもしれない「女の子」への忠告も忘れていない。

(前略)そういう女の子のなかには、売れるならもっと高く売ればよかった、と交渉術を身につけて生き延びる子も出てくるでしょう。でも最初にそんな子に、「キミ、いくら?」と値段をつけたのは、オッサンたちの方です。若い女性の窮状につけこんで、自分の性欲を満足させようなんて、キモい男に決まっています。
 ちょっとキモいけど、このくらいならいいや、おカネになるんだし・・・・・・って、あなたの行動もエスカレートしていくでしょう。それであなたが得るものは何?
 たしかにおカネは得られるかもしれません。ですが、それはキモさをガマンして得たおカネ。その相手の男に対して、あなたは、男ってちょろい、男ってこんなもの、男って汚い・・・・・・って学習しませんか?そしてそのキモい男におカネで買われる自分が、イヤになりませんか?最後には、自分で自分をリスペクトできない結果になりませんか?
 JKビジスに限らず、あなたをリスペクトしてくれない相手とつきあうと、自分自身をリスペクトできなくなります。女子高生にしては手に入りにくいおカネを手にいれるためにあなたが支払う対価が、自分に対するリスペクトを持てなくなることだとしたら、その対価は高すぎませんか。
(pp.126-127)

 先に死んでいく運命の大人が、これから大人になっていく「女の子」に、かけがえのない経験知を伝えていくのは、とても大事なことだ。
 本書には、そうした知恵がぎっしり詰まっている。

目次
あなたたちはどう生きるか―女の子の翼を折らないために
1章 学校で、なぜ女子は男子の次?
生徒会長はなぜ男子だけ?
男らしくしてなきゃダメですか? ほか
2章 家のなかでモヤモヤするのはなぜ?
長時間労働の罪
授業だけではNG ほか
3章 リア充になるってけっこうたいへん?!
束縛彼氏
リア充=恋愛? ほか
4章 社会を変えるには?
大臣も議員も少なくないですか?
私が投票したい候補がいない ほか


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