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グラウンデッド・セオリー・アプローチ

 必要に迫られて、手許にあったグラウンデッド・セオリー・アプローチ(以下GTAと略記)の解説書4冊を通覧してみたのだが、この方法と限界とがとてもよくわかった。
 これまた必要に迫られて通覧した、ここ10年くらいの間の『社会福祉学』掲載の調査論文にも、GTAを用いた作品が散見される。そのどれにもほぼ共通するのが、「あまり発見はないが仮説として考えてきたことがGTAを用いた調査によってたしかに裏付けられている」ということである。
 インタビューや観察の記録から、コーディングを行い、順をおって抽象度の高いカテゴリー概念を生成させ、概念間の関係を説明する。その過程で、必要に応じて元データを参照(理論的サンプリング)し、このデータと概念の相互照合は、「理論的飽和化」に至るまで続けられる。
 少ない事例から、データを徹底的にに使い尽くす方法として、とくに、木下康仁氏らによるGTAは有効な方法だと思う。しかし、方法は所詮方法。GTAを用いない質的調査研究にもとても有意義でおもしろいものがあるわけで、類似したテーマで行われたGTAによる調査研究がほとんど無意味で何を言いたいのかさっぱりわからないこともままある。戈木クレイグヒル滋子らによる『グラウンデッド・セオリー・アプローチ 実践ワークブック』は、GTAをフォーマライズした調査マニュアルであるが、意味もわからずGTAを機械的に適用すると、無味乾燥な調査研究論文が量産されることになるだろう。同書の「練習問題」のあまりのつまらなさからも、ついそう危惧してしまう。
 データの「セグメント(切片)化」も「プロパティとディメンションの抽出」も、なんの問題意識もなしに行われるのであれば、なんら効果もない。ストラウス、グレ-ザー、コルビンらがどういうGTAを提示したかなど、最終的にはどうでも良い。木下氏の考えには共鳴できる部分が数多くあったが、「マニュアル化した方法」を機械的に適用するのではなく、なんのためのGTAなのか、じっくり検討したうえで適用していくべきだろう。



木下康仁.1999,『グラウンデッド・セオリー・アプローチ──質的実証研究の再生』弘文堂 (¥2,415)('13.12.23)

目次
第一章 グラウンデッド・セオリーの変遷
第二章 理論としてのグラウンデッド・セオリー
第三章 グラウンデッド・セオリー・アプローチの方法論的特性
第四章 グラウンデッド・セオリー・アプローチの具体的技法



木下康仁.2003,『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践』弘文堂 (¥2,100)('13.12.23)
目次
序章
第一部 質的研究とグラウンデッド・セオリー・アプローチ
 第一章 グラウンデッド・セオリーの理論特性
 第二章 修正版M-GTAと他のグラウンデッド・セオリー・アプローチ
 第三章 質的研究への関心の多様性
 第四章 数量的研究と質的研究の違い
 第五章 「わかる」という経験
 第六章 社会学における質的研究の系譜
第二部 修正版M-GTAのステップ別分析技法
 第七章 どんな研究に適しているか
 第八章 分析上の最重要点
 第九章 研究テーマの設定
 第十章 データの範囲と収集法
 第十一章 分析テーマの設定
 第十二章 分析焦点者の設定
 第十三章 修正版M-GTAの分析全体の流れ 
 第十四章 概念の生成法:オープン・コーディングの要点
 第十五章 分析ワークシートの作成
 第十六章 理論的メモ・ノートをつける
 第十七章 カテゴリーの生成法:選択的コーディング
 第十八章 分析のまとめ方
 第十九章 論文執筆の要点
 第二十章 適切な評価法の確立へ
あとがき



木下康仁編著.2005,『分野別実践編 グラウンデッド・セオリー・アプローチ』弘文堂 (¥2,415)('13.12.23)

目次
序章 (木下康仁)
一章 M-GTAを用いた社会福祉実践研究の実際と研究への助言―これからM-GTAを用いる人へ(三毛三予子)
二章 居宅高齢者の生活支援―生活場面面接のプロセスと技法の明確化のために
(小嶋章吾・嶌末憲子)
三章 乳幼児健診における保健師実践の明確化と実践モデルの構築―乳幼児健診で熟練保健師が用いた看護技術(都筑千景)
四章 老年看護学―高齢者の存在確認行動に関する研究(水戸美津子)
五章 作業療法―M-GTAとの出会いから投稿まで(佐川佳南枝)
六章 M-GTAを用いた「特別養護老人ホーム入居者の生活適応の研究―‘つながり’形成ロセス」(小倉啓子)
七章 学校保健(酒井都仁子・岡田加奈子)
八章 「修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ」を用いた「障害児の母親の意識変容プロセス」の研究(中川薫)

社会福祉・介護福祉・地域看護・老人看護・作業療法・臨床心理・養護教育・保健医療社会学など、それぞれの分野の専門家が、どのようにGTA(=グラウンデッド・セオリー・アプローチ)と出会い、研究や実践に生かすようになったか、GTAを使ってどのように論文をまとめたかなど、読者にはすぐに役立つ、体験者ならではの実践的なエピソード満載。



戈木クレイグヒル滋子編著.2010,『グラウンデッド・セオリー・アプローチ 実践ワークブック』日本看護協会出版会 (¥2,520)('13.12.23)

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