<増補修正版 11> 昭和期の物品あれこれ
戦後のステータス「3種の神器」
今は見ない 痰つぼ・土つぼ・腰手拭
3種の神器 戦後5年の昭和25(1950)年頃「3種の神器」という言葉が生まれ、それらを備えることがステータス*とされた。そして、その中身はどんどん変遷していった。初期の神器は、我が家では父の仕事がようやく軌道に乗りかけていた頃なので、揃っていると満足していた。中身は“白黒テレビ・冷蔵庫・ミキサーだったと思う。これらのうち最も早く普及したのは白黒テレビで、逆に一番遅かったのは冷蔵庫とのこと。
*「ステータス シンボル」の略、階級・地位の象徴。
ただし、後になって気づいた。冷蔵庫というのは、電気冷蔵庫のことであり、我が家にあったのは毎日氷屋が氷を配達してきて入れ替えてくれる氷式冷蔵庫だった。無知にも電気冷蔵庫の存在を知らなかったための笑い話である。テレビ本放送開始は昭和28(1953)年―米国は1941年-で、それ以前は、電気釜(炊飯器)あるいは掃除機が代わりに入っていたこともある。これら3品目の家電は、努力すれば手が届く夢の商品(ネット上の言葉)であり、新しい生活の象徴だった。
神器の変遷 以下、ネットで「3種の神器」の変遷を調べてみる。
昭和30年頃には、ミキサーが洗濯機に変わった。昭和31(1956)年の経済白書が「もはや戦後ではない」と明記し戦後復興の終了を宣言した神武景気*以降、輸出拡大で日本経済が急成長した時期である。その31年秋には結婚し独立していたが、後に校内暴力事件が多発して、田中角栄首相(昭和47~49年)のもと、教員の待遇改善が行われるまで、世間と没交渉の私にはその風はそよぎもしなかった。とっくに3機器保有の淡い優越感の時代は終わっていた。
後年知り合った町工場の経営者から、その頃は三輪車を造って毎日バケツに一杯札が詰まったと何度も聞かされた。1万円札(聖徳太子)が初めて発行された昭和33年、物価が激しく高騰していった頃の話だ。
*日本の高度経済成長の始まりで昭和29(1954)年12月から昭和32年6月までに発生した爆発的な好景気のこと。日本初代の天皇とされる神武天皇が即位した年(紀元前660年)以来、例を見ない好景気という意味で名づけられた。昭和30年に数量景気とも呼んだとのこと。昭和25年~28年の朝鮮戦争中、朝鮮半島へと出兵した米国軍への補給物資の支援、破損した戦車や戦闘機の修理などを日本が大々的に請け負ったこと(朝鮮特需)によって、日本経済が大幅に拡大されたために発生した。31年末には景気が大幅に後退し、結局日本経済の上部だけを潤しただけということから「天照らす景気」と呼び変えられた。そのため、次の好景気は昭和34年~36年の岩戸景気*2となった。その間になべ底不況*3と言われたデフレーションの時期があった。昭和32年7月から33年6月にかけてのことである。
*2いざなぎ景気と並び、戦後高度成長時代の好景気の1つ。景気拡大期間が42ヶ月と神武景気の31か月をしのぎ、神武景気を上回る好景気から、神武天皇よりさらに遡って「天照大神が天の岩戸に隠れて以来の好景気」として名付けられた。
*3当初はなべ底の形のように景気が停滞したままであり、不況が長期化するのではないかと予想されたためにそう呼ばれた。しかし、不況の原因は在庫急増の反動という短期的な要因であったため、昭和33年から3回にわたる公定歩合の引き下げによって不況を乗りきることができた。なべ底不況の期間は昭和32年6月を山に33年6月を底とする12か月で終了した。
昭和40年末からのいざなぎ景気*時代には、カラーテレビ (Color television)・クーラー (Cooler)・自動車 (Car) の3種類の耐久消費財が「新・3種の神器」として喧伝された。これら3種類の耐久消費財の頭文字が総てCであることから、“3C”とも呼ばれた。中でも普及が早かったのは昭和39年の東京オリンピックを境に売れ出したカラーテレビで、一番遅かったのはクーラーである。
*昭和40年(1965)年11月から45年7月までの57か月間続いた高度経済成長時代の好景気の通称。
後、ソニーが昭和54年に発売開始した“ウォークマン”は3種並べることができないが、一時期若者の間で大流行した。世界的に大ヒットしたとのこと。ソニー製の携帯型ステレオカセットプレーヤーである。
本書の範囲を逸脱するが、小泉純一郎首相(平成13~18年)は、平成15年1月の施政方針演説で“食器洗い乾燥機・薄型テレビ・カメラ付携帯電話”を「新3種の神器」と命名し、「欲しいものがないといわれる現在でも、新しい時代をとらえた商品の売れ行きは伸びている」と述べた。
平成15(2003)年頃からは“デジタルカメラ・DVDレコーダー・薄型テレビ”を“デジタル3種の神器”と呼ぶようになり、最近少し前には“パソコン、腕時計、携帯電話”に変わって来ているとあった。流行には目もくれない筆者には腕時計がどんな物を指していたのか全く分らない。また。携帯電話は、今なら“スマートフォン”という所だろう。電車に乗ると,若者の殆どはこれをいじっている時代だ。一頃、“ウオークマン(WALKMAN)”*の時代もあったと思う。場所を選ばず、いつでもどこでも音楽を聴くことのできる製品は画期的で、世界的に大ヒットした。それ故に“ウォークマン”は長らくポータブルオーディオの世界的代名詞であったとのこと。
*ソニーが昭和54年に発売開始した携帯型ステレオカセットプレーヤーのブランド名。その後、ソニー製各種ポータブルオーディオプレーヤーのブランド名に引き継がれ、音楽性能を強化したソニーモバイルコミュニケーションズ製携帯電話の名称にも用いられた。
平成16(2004)年4月に松下電器産業(現パナソニック)が、白物家電の食器洗い乾燥機・IHクッキングヒーター・生ゴミ処理機を「キッチン3種の神器」と提唱しているのが一番新しいようだ。
1億総中流 昭和33(1958)年から始まった内閣府の「国民生活に関する「第1回世論調査」の結果によると、自らの生活程度を『中流』とした者が7割を超えた。同調査では『中流』と答えた者は昭和40年頃までに8割を越え、所得倍増計画のもとで日本の国民総生産(GNP)が世界第2位となった昭和43年を経て、昭和45年以降は約9割となった。中流意識は高度経済成長の中で1960年代に国民全体に広がり、1970年代までに国民意識としての「一億総中流」が完成されたと考えられる。
新3種の神器 平成15~22年にはデジタルカメラ・DVDレコーダー・薄型テレビとのことをそう呼んだ。これが一番新しい「3種の神器」ではなかろうか。4Kテレビが平成23年10月に登場はしているが、また新しい組合せが生まれるのだろうか。