実は最近は自動車通勤をやっておりまして、といっても15分かからないくらいなんですけど、まああまり混まない裏道をクネクネと曲り止まりしながら通っているのです。自動車のいいところって、運転しながら大声で歌えるところなんですよね。ここのところ窓を開けても蒸し蒸しした熱気しか入ってこないから閉め切ってクーラーをかけて走るのでなおさらです。
なあんていいながら、完全なインストロメンタルのジャズを聴いてみたりして。このベニー・カーターさんはサックス吹きなんですが、確か初めて好きになったジャズの人だったと思います。最初はね、お約束というかなんというか、ケルンコンサートだったんですが。繰り返し聴いていると、だんだん、なんか僕にピッタリ沿ってないな、ってのが分かってくるんですね。そうするとどうしても、あの「ぁぁぁ~」ってのが気になり始めて。そんで、、、どうやって見つけたんだっけなあ。最初はかなり行きあったりばったりにCD買ってた気がします。独りの時って、けっこう小遣い持ってたんだなぁ。そんな実感全然ないんだけど。
もうとにかく最初の曲のドライブ感ですうっと入る感じ。ベニー・カーターさんはサックスをとても丁寧に暖かい音色で吹く人なので、そんな早めのテンポの曲でもなんだかにこにこしながらピアノのソロを聴いている姿が見えてくるような雰囲気がとてもよいです。それから2曲目の頭で、何故かビールの栓を抜く音がすごくくっきり入っているんですね。これがまた、ライブの雰囲気を思いっきり出していて、いいんだなあ。
その後の3曲目が、哀愁のあるメロディでありながら、不思議と気持ちが落ち着いて安心してくる、とても好きな曲です。これを聴いてこの人好きになったんだよな。サックスの曲って歌に近くて好きな人がいろいろといるんですが、この人のは本当にアクがないです。夜、涼しい風とビールと人いきれと、この音楽。なんてことを考えていると、もうちょっと早く生まれてみたかったな、と本気で思ってしまいます。え、今ですか?スピッツ歌ってます。ひどいもんだよ。気持ちいいからいいけどさ。
BENNY CARTER 4「MONTREUX '77」PABLO LIVE OJCCCD-374-2(2308-204)
以前、出張で海外に行くことになって、ダラダラと飛行機で時間をつぶす羽目になったんですが、どういうわけか僕はこういう時に映画を見ないんですよ。とくに嫌ったりしてるわけではないし自分でもよく分からないのですが、面倒くさいのかな?それでまあ、ほかにやることなんてないし音楽チャンネルをカチャカチャ回して聴いていたんですね。60'sヒットなんてのもあって、ビーチボーイズとかミスター・タンブリンマンとか(誰だっけ?)聴いたり、80'sは「サム・ライク・イット・ホット」なんてやってましたね。懐かしい。なんかこういうのって、こんな時じゃないとなかなか聴かないんですよね。
あとジャズライブを聴いたりしてましたがだいたいどれも1時間程度なので一回りしちゃって、「スムース」みたいな、あまり好きじゃない言い方のチャンネルにしてみました。まあおおかた耳障りのよいフュージョンというか、だけどスーパーの階段とかトイレでかかってる気の抜けたヒット曲のインストみたいな非道いのはなくて、のんびりゆったりぼんやりと聴いていたのですが、途中でちょっと気になる曲があって、曲を覚えようと思ったのですがどの曲がどれとか説明がないからよく分からない。しょうがないから帰ってからネットで航空会社のサービスのページで調べてみたらこの「FreeTEMPO」というユニットでした。
ついでにネットで検索したところ、どうも仙台の人がひとりユニットでやっているらしい。仙台は僕が昔いたことのあるところなので急に親近感を覚えて、他の曲も試聴してみてまあいい感じなので買い、と。ピチカート・ファイブを見つけた時以来、ひさびさに自分の中で新しいジャンルが見つかった感じがしました。とか言って、積極的に開拓しているわけでは全然ないのだけれど、それはまあさておき。
そんでAmazonで注文しようとおもったら「期待はずれ。もっとエキサイティングなユニット知ってたら教えてくれ」みたいな厭味な感想が載っていて、不思議と知ったかぶりな雰囲気がその短い感想から透けて見えてネットって怖いなと思っていたら「i-depもダメ」とか書いてあるので、ついでにそれも探してみたのです。そしたらオフィシャルサイトがあって試聴ができるんで聴いてみたら、それがたまたま知ってる曲だった、と。衛星チャンネルのサッカー番組が終わったあとの穴埋めに、セリエAのスーパープレーをだらだら流しているのがあって、降格される前のユーベントスにいたイブラヒモビッチの逆向きトラップが物凄く印象に残っているのですが、そのBGMがこの「Rainbow」だったんですね。で、2枚買い。
前も書いたかも知れませんが僕はいつも、まずは繰り返し聴いて、そのあとだんだん気に入った曲をつまむようになるんですが、曲調も似てるしと思ってそれぞれ2曲ずつのプレイリストを作って聴いてみたら、不思議なことにくっきりと印象が分かれて出ました。FreeTEMPOはメロディーが悲しげというか、翳があるんですね。i-depはなんか、明るい。Rainbowなんて、主題は悲しげとは言わないけど歌のあるメロディーだと思ってましたが、FreeTEMPOと並べて聴くとだいぶ明るく聴こえるんです。同じジャンルで、ボーカルも曲ごとに変えるとかジャズ、ボサノバ他いろんな所からアレンジを持ってきてるところとかすごく似てるように思えるんですが、ここまではっきり「陰/陽」という感じで対比が出るとは思ってませんでした。FreeTEMPOは一人でやっているから個性が出やすいとかあるんでしょうか。よくわからないけれど。聴く方としては気分で変えられるのは嬉しいですよ。ってなんかもう二つで一人みたいな扱いしちゃってますが。
FreeTEMPO「Oriental Quaint」forestnauts records POCE-3509
i-dep「Smile exchange」Aztribe AZT-003/TGCS-2753
最近は時間がなくてほとんどやらないんですが、一人暮らしの頃は意味もなく夜更かしをして深夜の音楽番組をボーっと眺めていたりしました。そんでその時にたまたま流れていたビデオクリップが気に入って、CDを買いに行ったということもたまにありました。野宮真貴のピチカートファイブ(高浪敬太郎がいた頃の、『トゥイギー・トゥイギー』とか)なんかそうでしたね。
これもそういう1枚です。比屋定という名前からすると沖縄とかの出身なんでしょうか。CDのラベル見たけど書いてなくてわからない。なんかスタジオライブみたいな所で歌ってました。えーと、声とか誰かに似ている気がするんだけど、、、まあ、普通に歌ってる様子と声と、あと曲のアレンジがボサノヴァ風に仕上がっていて歌声と合っているので「おっ」と思ってじっくり見てました。ホントのボサノヴァだとちょっと合わないんだけど『風』なのがよく合っている、っていう。にせもの、ってんじゃなくて、民族衣装の小物を借りてきてうまく着こなしちゃう感じ、って言えばいいでしょうか。
まあ1枚通して同じ調子と言ってしまえばそうですが、曲調は緩急織り交ぜていて1枚通して聴いても全然飽きない。少しだるめのボーカルと、歌いやすいメロディーと、アクセントをつけるブラジル楽器。本場嗜好の人には物足らないかもしれませんが、ソフトな感じでなかなかよいです。あとアナログ録音を売りにしてて、途中真ん中でレコード針を上げる時のような雑音をわざわざ入れています。凝ってますね。
Wikipediaで検索してみたらラジオのパーソナリティか何かをやってたにもかかわらず項目がない、という悲しい結果に。確かに、声も曲もいい感じなんだけど、細かいところで詰めてないというか引っ張り切れていないというか、あともう少しのところでブレークする予感に欠ける雰囲気がないこともない、とも思います。僕なんかはそういうちょい脇道っぽいところもまた好きなんですけどね。
比屋定篤子「のすたるじあ」Mint age ESCB 1857
高校のとき、部活の遠征で関東の町に合宿したことがありまして、民宿みたいなところに雑魚寝して、来る日も来る日も試合して負けて(たまに勝って)、という毎日だったのですが、ひとりわざわざラジカセを持ってきた猛者がおりまして。「これいいんだよ~みんな聴け~」と朝っぱらから流していたのがこのHelloween。聴いたことある人はご存知かと思いますがヘビーメタルです。
バスドラムという、リンゴ・スターがドラム叩くとき「The Beatles」って書いてあるこっち向きの一番でかい太鼓ね、あれを2つ並べて両足で叩くんです。ツーバスとか言うらしいんですが、ふつう拍子をとるために1~2回使うバスドラムを8回とかやるんですね。曲の間中通奏低音が「ドドドドドドドドドドドドドドドド」って。んでギターは唸るしボーカルは叫ぶし、寝てられるかっつーの。
このHelloweenというバンドは、たしか日本では「Keeper of the seven keys」という連作で人気が出たと記憶していますが、クラシックの楽曲構成を意識したような作りだったりけっこう丁寧に作っていて、まじめに聴くとよく出来た内容なんですね。このCDは、それで売れたあとたしかヨーロッパで出してたデビュー前後のミニLPなんかをまとめて出したCDだったと思います。このCDではカイ・ハンセンというギターの人がボーカルもやっていて、時期的にはこの後になる「Keeper~」なんかとは(ボーカルが変わって、というのもありますが)ちょっと雰囲気が違います。僕はどっちかっていうとこっちの方が好きです。荒い感じが残るけど勢いがあって。あと、このカイ・ハンセンの歌がなんとなく悲しげなのも好きですね。「How Many Tears」なんて歌詞をちゃんと読むとヒッピー全盛の頃を思い出すような反戦歌で、このボーカルで聴くと涙が出そうになるくらいです。でもそんな悲しげなはずの曲でもバスドラムはずうっとドコドコ言いつづけるんだよね。
「うるせーな、やめろよそれ」と最初は不評だった朝のHelloweenでしたが、一週間くらいするとみんな慣れちゃって、帰ってからCD買った奴が僕も含めて数人いました。音楽を繰り返し聴かせて馴染ませてしまう「刷り込み」の技法が存在することをこの時初めて実感したのです。
Helloween「Helloween EP/Walls Of Jericho」Noise Records N0088
前出のクラシック好きの友人のおかげで、なんとなく聴いていたクラシック曲をひとつひとつ意識できるようになったのですが、これもそういう曲のひとつです。友人が持っていたのはカール・リヒターの全曲集で、最初僕はおまけ(?)で入っていたヴァイオリンとオーボエのための協奏曲の方が気に入っていて、ついでに、といってはあまりにナンですが本編であるこっちもまたよく聴くようになりました。
クラシックはあまり分けて聴いたりしないんだけど、この5番の第1楽章は別で、チェンバロのソロはロックンロールだと思います。って、こんな事クラシック好きな人は言わないか。いや、でもロック好きな人はこの曲は好きになれると思うよ。ダメ?5番はあとパブロ・カザルスの演奏のやつも持っているんですが、面白いのは同じ曲なのに全然違うの。当たり前なんだけど。カザルスのはカザルス色がばっちり出てるし、チェンバロじゃなくてピアノ使ってんだよね、印象がかなり違う。リヒターのはわざとテンポを崩さずにマシンのように音を刻んでゆく。クラシックじゃ言わないと思うけど、ドライブ感が強くてよい。タテノリ。なんかもうその友人に聞かれたら怒られるな。
で、スタンダードというかいわゆる「名演奏」というのも聴いてみよう、と思ってこのCDを買ったんですが、最初意外と5番第1楽章の印象は薄かったんです。とても丁寧に弾いていて、抑揚も必要十分でしつこくもなく物足りなくもない。ところが、全曲とおして聴いてみるとこれが凄い。演奏に何か風格のようなものがあって、曲の作りも丁寧でひとつひとつの音まで曲想を行き渡らせているのがありありと解るんです。リヒターの演奏でついノリで聴いてしまう癖をつけてしまっていた僕にはちょっとしたショックでした。「ああ、本当に綺麗なクラシック曲だったんだな」、って(そのまんま)。その後でもう一度5番を聴いてみると、やっぱり良い。曲が立体的に聴こえるというか、あらためてバッハって凄い人だったんだ、と思い知らされる感じです。良い曲と良い演奏。もちろん、リヒターのが悪い、ってんじゃなくてよ。たとえていえば、レオンハルトのは横綱。リヒターは前捌きが上手い売出し中の三役で、カザルスは型を持ったベテランの前頭(10枚目あたりにいた栃乃和歌みたいな)。
そのあとしばらくしてその友人は「ちょっとオレの印象と違うんだ」と言って持っていたそのリヒター/ミュンヘン・バッハのCDを売りに出していました。別の友人が「お得だ」と言って買ってましたが、今思うといいチャンス逃したな。結局僕は社会人になってからちゃんと定価で買ってしまいました。クラシックなんて特に、最初の演奏の刷り込みって強いんだよなあ、、、ってリヒター版の話しかしてないな。
J.S.BACH「BRANDENBURG CONCERTOS」LEONHARDT SONY SRCR 2107-8