クタバレ!専業主婦

仕事と子育て以外やってます。踊ったり、歌ったり、絵を描いたり、服を作ったり、文章を書いたりして生きています。

銀の羽根と言葉を失ったカラスのカルマ

2023-04-12 00:29:13 | ポエトリー

私以外に私を“感じている人間”はいない。

 

気持ちよくこの身体に存在していられる日はそう多くはない。はみ出す人をドアに押し込んで閉じる車掌のように、自分を自分の身体の中に無理やり押し込んで生きている。

 

私が歌う時、私はこの躰の外へと飛び出すことができる。目が潰れそうな光が、そこに向かって咲く花や緑が、虫や鳥や土の匂いが、私の声を知らずにそこに在る。風に揺れてしなり、耳元の羽音に驚いて転ぶ。水が煌いて流れ、サギが糞を落としながら飛んでいく。仲間にもなれず、追いやられもせず、影がそれを証明している限り、私はここに存在している。

 

「愛している」をもっと簡単に言えたら、この苦しさから抜け出せるだろうか?「大好きだよ」と声にするだけで、どうして涙は流れるのだろう?愛する感情は私を不安定にさせる。柔らかすぎて手に持てないゆるいゼリーのように、持ち上げようとすると崩れてしまう。だから誰かを責めることで、人を憎むことで、自分の存在を安定させている。

 

人は人がただそこにいることを許してはくれない。存在するための「条件」がたくさん要る。電車に飛び込んでいく人を、ビルから飛び降りる人を、私は想う。見たことのない命を、いつか消えるための命を、ただ見ている。人が作った神を信じない。人を救うための神を私は信じたりはしない。動物の眼の中の宇宙に神を見る。季節と雨の匂いに神を見る。自然の在る姿に神を見る。その為だけに神は存在すると信じている。だから私は、母が信じる神を信じない。

 

電線の上のカラスに話しかける。糞を落とされる。草むらから飛び立つスズメの群れに話しかける。近所のよく吠える犬に話しかける。ねぐらを探す夕方の猫に話しかける。逃げられる。どぶ川を泳ぐ鯉に話しかける。餌を乞う。ひっくり返ったコガネムシに話しかける。車のキーに乗せて運ぶ。息絶えそうなミツバチに話しかける。尻の針を眺める。満員電車の中の私は、流れる景色に話しかける。今日も生きていていいのかと、無謀な問いかけを繰り返す。

 

夕陽が落ちる。肌が冷える。月も星も平等に輝く空を見る。点滅しながら飛行機は飛んでいく。轟音が命を運んでいく。鳥と虫以外の命が飛んでいる。世界はまるで美しい。父にも母にも愛にもなれなかったけれど、私はまだ人を続けている。

 

残業続きで無言で玄関を開けて帰ってきた夫に、私は声を掛けたくはない。部屋の向こうから床を足でドンドンと踏む音が聞こえる。疲れているのがわかる。「おかえりなさい」が言えない。リビングのドアが開く。夫が私の顔を覗き込み、「ただいま」と笑う。フラッシュバックが鳴り止む。遠い宇宙の彼方から、うさぎの眼の奥から、私はこの小さな光を見つめている。

 

― THE Lady back Orange ―



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