ECOさんが帰る場所

(有)ビオプラス西條デザインのエコハウス♪
住宅誌『住まいネット北海道』内の連載のつづきです。

WEBでもECOさん!④ 稲川さんファミリー

2011-03-26 | 日記
●WEB版 ECOさんが帰る場所④ 
◆いい音楽が、育つ場所。

あれ…?
どこかから、きれいなピアノの音色が……



あ、このお宅からだ……


「ごめんくださ~い……

うわ~すごい!」



「ここ、音楽ホール?!
 KITARAのミニ版みたい!

 明るくって、のびのびしてて、
 何だかとっても気持ちいい~」



「あら、ようこそ♪
 ここは音楽教室ですよ。
 ピアノ、エレクトーン、フルート、バイオリン……
 いろんな楽器が学べるんです」


……というわけで、こちらが今回のECOさん、
千歳市の住宅街に、こんなステキな「音楽ホールのある家」
をつくってしまった、稲川智恵子さんです。


このお宅は、今年で7歳。
でも、まるで、できたばかりのお家のようにきれいです。

建物全体が静かな優しさに包まれていて、
とっても丁寧に使われている感じ。


小さなお子さんも含め、教室の生徒さんや親御さんなど、
いつも人が出入りしている場所なのに、
こんなにスッキリ美しい空間なのは、

ここがとっても愛されていて、
いつもお手入れされている証拠ですね。


それにしても、どうです?
床にも天井にもふんだんに使われた、この無垢材!

壁は、北海道の土と植物の繊維が混ざった呼吸する自然素材
“珪藻土(けいそうど)”
を、ご家族みなさんで塗ったそうです。

「予算の都合もあって、自分たちで塗ることになったんです(笑)。
 西條デザインの方々に指導してもらってね。
 大変だったけど、そのぶん愛着がありますね。

 デザインも私がしたんです。どうしても丸い空間にしたくて、
 難しかったけれど、いろいろ相談しながら進め、実現できました。

 夢をカタチにするには、たくさんの難関がありましたけれど、
 西條デザインのみなさんは、ビジネスライクを超えて
 親身につきあってくださったので、
 結果的に、不満なところが一つもない家ができました



いっしょに思考錯誤を重ね、いっぱい話し合ってつくっただけあって、
お宅のすみずみに、いろんなアイデアが散りばめられています。

ここも、ほら、可動式の客席で、中はモノ入れ。

向こう側のオシャレな扉は、
実は一枚扉にする予算がなかったゆえの結果だそう。

「可動式の客席も、あの扉も、
 西條さんのアイデアなんですよ。

 私の希望を何とか予算内で叶えるための
 苦肉の策だったんです(笑)」


一枚扉にするより斬新でステキに見えるのに
予算は少ないなんて、知恵を働かせると、
オトクにステキが実現するんですね。


「うちの家族は化学物質過敏症でもないし、アレルギー体質でもないので、
 特にエコハウスにこだわっていたわけでもないんです。


 でも、教室の生徒さんには子どもたちも多いし、
 友人から西條デザインさんのことを聞いて、
 どうせなら自然素材の健康住宅に越したことないな、と思ってね。

 実際、生徒さんたちも親御さんたちも、みなさん
 “ステキ!” とか、“気持ちいいね” と言って、
 喜んでくださいます。

 家は、毎日過ごす空間だし、ずっと暮らす場所ですから、
 やっぱり自然素材にしてよかったですね。
 出かけて帰ってくると、ホッとします。

 この家で暮らすようになってから、
 化学物質の匂いに、ものすごく敏感になりましたね




念願の家づくりに全力投球し、こだわりデザインが
あちこちに散りばめられている稲川邸。

音楽ホールから出たところにある
ドアも、ほら、一枚一枚、違うデザイン。

なんとドアも全部、智恵子さんが
ご自身でデザインなさったとのこと。

音楽だけでなく、
デザインにも長けていらっしゃるんですね。

そう言えば、西條さんも、
学生時代はバンドのベーシストだったとか。

音のアートも、空間のアートも、
根っこは一つなのかもしれません。


ホールのお向かいのドアを開けると、そこは洗面所。
洗面台が2つとは、さすが、お客さんが多い場所ならでは。

楽器を弾く前には、みなさん手洗いするんですね。

発表会のときなどは、
ここにも子どもたちの元気な声が響くんだろうなぁ~



おや? 何やら、漢字にふりがながふってある貼紙が。

「おねがい。きを たいせつにしたいので、
 せんめんだいに みずがかかったときは、
 そなえつけの タオルで、
 だいのうえを ふいてくださいますよう おねがいします」


な~るほど!

智恵子さんがおうちを大切にしている気持ちが伝わりますね。

きっとここに通う子どもたちは、音楽だけでなく、
自然のデリケートさや、モノを大切にする気持ちも、
自ずと学んいる気がします。



さてさて、洗面所を出て、いよいよリビングへ。
う~ん、やっぱりここも、デザイン違いの扉ですね。

何だか、おうち全体がアート作品という感じで、
ワクワクします。

リビングは、どんなかな~♪



うわぁ~ 広々、ゆったり、明る~い!

左側全体が窓だからかな、なんだかとっても開放的です。


向こう側の引き戸を開いたら、もっと開放的になっちゃった。

なるほど、奥は和室なんですね。
ほほ~ぅ、やっぱり、畳もオーガニックですか。

もし、そのまんま寝ちゃっても、
自然の草の上に寝てるみたいに、安心ですね。



さすが! ストーブも薪ですか。

「ありがたいことに、薪は近所の方がくださるので、
 燃料費がかからないんですよ(笑)」

なんと、それは うらやましい!

北海道は森林がたくさんあって、
木材を適切に使うことで森が元気になるとのこと。

薪ストーブや、木質ペレット燃料のストーブを使うには、
ことさらうってつけの土地柄なんですよね。

しかも、木質燃料は熱量が高いから、あったかさが違う。
これ一台でこの空間全部がまかなえるのは、魅力ですね。



リビングの向こうまで見晴らせるキッチンは、
導線を熟考した、これまた、智恵子さんのこだわり名所。

動作空間が135度の角度に開けているのが
最も動きやすいキッチンの形、
という説があり、
それを実現したそうです。



リビングからつながる2Fへの階段をのぼっていくと、
お子さんたちの部屋の手前に、ダンナさまの書斎空間が。

つくりつけの本棚も、アート作品のよう。
でもこれも、ちょっとした発想の転換による、
オトク設計なんだそうです。



ダンナさまは、体育の先生だとか。
ズラリと並ぶトロフィーは、スポーツマンの証なのですね。

廊下のスペースを書斎に、というのも、
空間を効率的に使う、智恵子さんのアイデア。

ここなら冬も、1Fの薪ストーブの熱が
そのままのぼってきて、ストーブいらずの暖かさですね。

う~ん、勉強になります。



一軒のお宅の中で、自然素材のアートな扉を開くたびに、
個性に富んださまざまな空間が広がる、稲川家。

でも、智恵子さんの心の中には、この空間がさらに輝く、
ステキなヴィジョンが潜んでいました。

この家を、この地域の文化の拠点にするのが夢なんです。

 地方は文化に触れる機会が少ないけれど、ここに来れば
 身近に文化に触れられる、という場所にしたい。

 
 回数はまだ少ないけれど、
 ここ何年かはプロの演奏家を招いて、
 親子で楽しめるコンサートも開いていて、
 地域のみなさんに喜んでいただいています。

 教室の発表会のときは、
 うちの家族にも総出で手伝ってもらって、
 簡単な食事も出し、ここが、音楽を通した
 地域の方たちとの交流の場
になります。

 そういうときはこのホール空間も、
 人でいっぱいになるんですよ」


智恵子さんは嬉しそうに、そう語ってくださいました。



心身にストレスを与えない自然素材と、
智恵子さんのアートセンスが、心地よく調和する空間は、
包まれているだけで、何だかほわっと楽しい気持ち。

まるで家全体が、優しい音楽を奏でているようでした。

森や山で何十年もの間、
風や鳥や虫たちの歌に寄り添い、
家と化してからも呼吸を止めない天然木材や土壁は、

人間よりずっと長く、深く、
自然の音楽とともに生きてきた、
言わば “長老アーティスト”。

そんな存在に包まれるこの空間で学んでいれば、
音楽センスが育まれるのも、
当然の道理かもしれません。



一方、一般の学校の音楽室では、
 
・有害物質を含む建材の多用、

・化学的な接着剤を使った
 合板や塗料を使用した楽器類、

・それらから出る化学物質やホコリを
 吸着しやすい遮光カーテン、

・天井の吸音板、

・防音用の機密性

……などが原因と考えられる
“シックスクール”の問題で、
具合の悪くなる生徒も多いとのこと。

大人の責任、本気で考えたいですね。

稲川さんのお宅のように、
いつの日か、この星のすべての建物が、
呼吸し、森の歌を歌う自然素材になって、

人と自然がお互いにストレスなく、
健やかなハーモニーを奏でられる日が、
訪れますように…!


◆取材:2010年10月28日 
◆photographer:蘒野孝行(GINO PHOTO WORKS)
◆writer:はらみづほ(旅するはらっぱ)

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