ECOさんが帰る場所

(有)ビオプラス西條デザインのエコハウス♪
住宅誌『住まいネット北海道』内の連載のつづきです。

WEBでもECOさん!③ 阿部さんご夫妻

2010-12-26 | 日記
●WEB版 ECOさんが帰る場所③ 
◆あったかい。ムダがない。揺るがない。

この絶景をご覧あれ!


今回のECOさん宅は、こんな景色を望む、積丹岳のふもとの丘の上
に建つおうち。

教員生活にピリオドを打って新規就農し、
4年前、念願の自給自足的田舎暮らしに踏み出した、
阿部さんご夫妻のお宅です。


トントントン…と木の階段を上がり、
広々としたデッキを過ぎて


ドアを開けると…

こちらが玄関。
ふんだんに使われた道産材のやわらかな木肌が、
やさしく目に飛び込んできます。


2方向からの光を余すことなく取り込む個性的な丸窓で、
玄関先はぽっかぽかのサンルーム状態。


リビング側の広い窓からもサンサンと陽の光が差し込み、


玄関直結の住居スペースも、明るくてあったか。

吹きっさらしの丘の上に建つ一軒家にも関わらず、
「太陽の威力」×「天然無垢材の温もり」
×「セルロースファイバー(古紙利用断熱材)」のトリプル効果
で、
冬も薪ストーブひとつでOKとのこと。すごいです。


「外が吹雪でも、ひとたび玄関に入ると
 ホワッとあったかくてホッとするんですよ」
と、奥様の陽子さん。

「各階をつなぐダクトで暖気が家の中をめぐる設計にしてあったり、
 壁が珪藻土なのも、暖かさを逃さないポイントかな」
と、
だんな様の信哉さんもご満悦。
 (珪藻土は、ご自分たちで塗られたそうです)
 
 お二人は学生時代に体験した世界の旅で、
 モノのない環境で必死に生きる人々の暮しに触れ、
 自らもシンプルライフを目指すようになったとのこと。
 この家とライフスタイルは、長年の夢の結実なのです。


リビングダイニングに続くキッチンは、
「アイランド型」と呼ばれる、収納と調理スペースがたっぷりの設計。

各地から一定期間住み込みでやってくる援農者も受け容れているので、
農作業時期はフル回転のキッチンですが、
これなら誰が来ても使いやすく、ゆったり動きやすそうですね。

こちらは、信哉さんご自慢の図書室。

書棚は、建材の端材を利用した、信哉さんのお手製です。

新規就農する以前、教員だった信哉さんは、
ここから本を選び、地域の小学校で子ども達に
読み聞かせボランティアをしていらっしゃるとのこと。

児童書や絵本の名作に混じって、お二人のバイブルだという、
「自給自足の本」もありました。

以下は、リビングにつながる和室。

個性的な藍染め布の壁紙は、陽子さんのお見立て。
畳もオーガニックなので、安心で気持ち良さも格別です。

障子を閉めれば、丘のつらなりを見渡すひっそりとした和空間。
癒しの間にも客間にもなる、阿部家のスペシャルルーム。
こんなお部屋なら、ひときわグッスリ眠れそうですね。

そしてこちらは、薪炊き式の檜風呂
2方向の窓から見渡せる景色が、これまた格別です。

う~ん、薪で炊いたこんな湯船につかったら、
農作業の疲れも吹っ飛びそう!

でも、こんな農的田舎暮らしには、薪作りも欠かせないお仕事。
一冬分の薪を保管しておく薪小屋も必需品です。

「実はこの小屋は、
 山田さん(ビオプラス西條デザインの一級建築士)のお手製なんですよ。
 モリモリ働いてくれて、1日で建てちゃったんです」と、信哉さん。

「この家を建てる時は、西條デザインのみなさん総出で
 泊まり込みで働いてくださってね、ホントにお世話になりました。
 大変だったけど、楽しかったですよ~」と、陽子さん。

そしてこちらは、阿部家ならではのスペシャル小屋。
さ~て、いったい何が入っているのでしょう……?


ジャジャ~ン!

薪の横にあるこれは、何と排水の浄化槽!
キッチン、お風呂、トイレの汚水を、ここで浄化しているのです。

「これは“BMW”と言って、バイオ、ミネラル、ウォーターという
 自然な物質によって汚水を浄化するシステムなんです。

 赤い網袋の中に、小石や炭や、微生物が生きている腐葉土が入っていて、
 それらの自然物と水が入ったいくつかのタンクに汚水を通し浄化して、
 また自然界に戻します。

 真水には戻りませんが、汚物はほとんど浄化され、
 匂いも問題もない状態に戻すことができるんですよ。

 この手法は農的田舎暮らしを勉強する過程で知り、ぜひ取り入れたかったので、
 西條さんや山田さんに相談し、資料をもとに、試行錯誤しながら作りました。
 作るのは大変でしたが、今のところうまくいっています」 と信哉さん。


「浄化槽を出た水は、穴を掘って作ったこの池に貯めてるんですよ。

 夏の猛暑で水が若干富栄養化して水面に少し苔が発生したりしたものの、
 特に問題はないようです。

 水辺に集まってくる虫を狙って鳥が来るようになったり、
 周りには草花も生えてきて、いろんな命が共生する場になっているみたい。
 今後が楽しみですね」 と、陽子さんも嬉しそう。

 自然の中で暮らすからこそ、
 できるだけ自然に負荷をかけないように。


 そんなご夫妻の理念が伝わってきます。

さて、階段を下りて、阿部家のもう一つの
ご自慢スペースにもおじゃましてみましょう。


メインの住居空間の下に広がるのは、
ひんやり広々とした農家ならではの作業スペース。
右に見えるのは、
大きなシンクや様々な道具が置かれた農産物の加工場です。

“加工”は、実りをムダにしない、という意味でも大切な作業。
こんな清潔で快適な加工場があれば、作業もはかどりそうですね。

加工室の向こうには、
外から車ごと直接作物を運び込める収納スペース。

冬は外の雪を入れ、気温0度・湿度100%の状態で、
ジャガイモやニンジンを美味しく保管する雪室にもなる、
スグレモノの保管庫です。

格別に美味しい「のんのんファーム」さんのオーガニック“雪の下”野菜。
秘密は、この雪室にあったんですね。

泥だらけでも気兼ねなく畑から直接入ってこれる作業場は、
農家には欠かせない空間ですが、
阿部さん宅はスッキリ清潔に整頓されていて、いい気持ち。


壁面には遊び心たっぷりの、こんなステキな飾り棚も。
思わず気持ちが和み、忙しい作業の励みにもなりそうです。


床にもこんな、お洒落なナチュラルモザイクが。

これは陽子さんのリクエストだそう。
ニクイ演出、ステキです。

阿部さんご夫妻のステキなオーガニックファームは、
都会暮らしの若者たちや、海外からの援農者にも人気。

「今まで行った農家さんの中で一番ステキ!」
という声が上がる、というのも、ナットクです。

ここはそんな助っ人たちの宿泊スペースにもなるという、ロフトスペース

こんなステキな空間と美味しい健やかごはんがあれば、
キツイ農作業もがんばれそうですね。

田舎暮らしは、やることだらけ。
 ある程度の年齢になってから取り組む生業としての農作業は、
 体力的にも経済的にも生半可ではありません。
 
 ここは丘の上なので水も電気でポンプアップしているし、
 街から離れているぶん、車も欠かせない。
 ここに家を建てるに当たって、まずは荒野を切り拓いて、
 丘の上への道を造ることから始め、電気などのインフラも引きました。

 そう考えると、田舎暮らしがエコだなんて言えないかもしれない。
 その責任を踏まえた上で、どう暮らすかだな、と思っています」

一言ずつ噛みしめるようにそう言う信哉さんの傍らで、
しみじみうなずく陽子さん。

なるほど、自然の中で暮らす、ということには、
キレイごとだけではない、こんな現実の側面もあるのですね。


家の前に広がる収穫が終わった冬支度前の畑は、
今でこそキレイになっていますが、

阿部さんご夫妻がここに住む前は、挫折した農家に打ち捨てられ、
土の中にはたくさんのビニールマルチが埋まっていたとのこと。

「それを掘り起こして片づけるところから始めたから、
 ただでさえ大変な農作業が、なおさら一苦労だったの。

 でも、農作業するようになってから心身ともに鍛えられて、
 風邪も引かなくなったのよ」
 と陽子さん。

「僕もずいぶん丈夫になって、体も引き締まったよね」
 と、メタボとは縁遠い信哉さんもニッコリ。

私たちが暮らす北海道をはじめ、
いま人間が暮らす土地はすべて、
もともと自然を切り拓いてつくった宅地。


どんな土地に暮らそうとも、肝心なのはその根本を忘れず、
恵みの源である自然界を壊さない生き方を考え、実践すること。

阿部さんご夫妻と積丹岳に、そう教わった1日でした。

◆取材:2010年11月 
◆photographer:蘒野孝行(GINO PHOTO WORKS)
◆writer:はらみづほ(旅するはらっぱ)


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