ネコの餌箱

最近見たビデオや読んだ本など

列車に乗った男

2004年12月31日 | ヨーロッパ、他
監督 : パトリス・ルコント
出演 : ジャン・ロシュフォール、ジョニー・アリディ

銀行強盗のプロが、列車に乗って小さな避暑地の町に降り立つ。
町で偶然出会った孤独な大学教授の屋敷で決行までの3日間を過ごすことになる。
何の接点もない2人の男が出会い、語り合ううちに、奇妙な友情が芽生えていく。

二人の出会いから邸に招くまでのくだりは少々苦しい。
以後二人の気持ちが触れ合っていく過程のエピソードは抜群の上手さ。
パン屋をめぐるエピソード、年老いた教授がバーで暴力に立ち向かうシーン、そして初めて銃を手にするシーン、詩の一節を暗誦するプロの強盗・・・たがいに夢見た「もう一つ別の人生」

ラストのクライマックス、手術台と銀行強盗のカットバック。
どんでん返しの仲間の裏切りは説明不足。
もう少し軽妙な終わり方もあったのではないかとも思うが、好対照な二人を演じた役者がどちらも味があり、ヨーロッパ映画らしいしみじみ人生を感じさせる佳作。
「列車に乗った男」はどっちだったのか?

☆☆☆

守護者(キーパー)

2004年12月29日 | 海外ミステリー
グレッグ・ルッカ作(講談社文庫)

「ボディーガードという仕事はアンナチュラルな行動をするように訓練されている。誰かが拳銃を抜いた時、正常な人間なら決してその銃口の前に立ちたがらないものだろう。だがボディガードは、いつでもそうしたことができるように備えている人間なのだ」

陸軍で要人保護訓練を受けたプロのボディーガード、アティカス・コディアック。
妊娠中絶反対派の嫌がらせ攻撃を受けた女医からガードを依頼され、チームのメンバーと共に姿無き脅迫者に挑む。

今年の米国大統領選挙の争点の一つにもなった妊娠中絶問題という、社会的深刻な問題を背景にしながら娯楽アクション作品としても充分楽しめる。
主人公の若い正義感も清しいが、チームのメンバー一人一人の個性がきっちり描かれている。

当然映画化されておかしくないと思うが、妊娠中絶問題というデリケートなテーマを避けて描くわけにいかず難しいところか?

☆☆☆

ブラザーフッド

2004年12月25日 | アジア映画
監督 : カン・ジェギュ
出演 : チャン・ドンゴン ウォンビン

朝鮮戦争が勃発、貧しいながらも幸せに暮らしていた一組の兄弟が、強制徴用され戦場のど真ん中に立たされる。
弟思いの兄はなんとか弟を除隊させたいと願い、戦場で成果をあげるため危険な任務を遂行し続ける。やがて2人の間に大きな溝が…。

出だしの兄弟愛の描写がベタベタの大甘で嫌な予感がしたが・・・舞台が戦場になってからは迫力のある映像と、これでもかというリアルな描写で圧倒される。
(弾丸が主役の兄弟に遠慮して当たらなすぎ?)

ストーリーは『プライベートライアン』(スピルバーグ監督)のパクリだと思うが、ヒューマニズムという建前に縛られてグズグズになった本家より、兄弟愛一筋で貫いた本作の方が上。
同じ民族同士が殺し合うという内線の悲惨な現実が、兄弟愛というシンプルなテーマを際だたせている。

1200万人が泣いた?やっぱり戦争は韓国映画の財産だ。
☆☆☆

1980ハンター

2004年12月20日 | 海外ミステリー
デイヴィッド・ピース作 (ハヤカワ文庫)

『1974ジョーカー』に始まるヨークシャー四部作の三作目。
13人の女性を殺害した実在の殺人犯ヨークシャー・リッパーの逮捕まで。

エリート刑事ハンターが、連続殺人事件の特別捜査班リーダーとしてヨークシャーに乗り込む。
ハンターの捜査を妨害しようと謀る地元警察との対立。
友人である実業界の大物の汚職疑惑、そして警察組織の背後に潜む闇の正体。
混迷と狂乱の果てに自壊していくハンター。

例によって言葉の氾濫、反復される悪夢のようなイメージ。
酩酊と疾走感の果てにザラザラした不快感も含め奇妙なカタルシスに達する。
デイビッド・ピースのノアール世界にだんだん慣れてきた自分が怖い?

☆☆

めぐりあう時間たち

2004年12月14日 | ハリウッド映画
監督 :スティーブン・ダルドリー 脚本: デヴィッド・ヘ ア 
出演 :ニコール・キッドマン 、ジュリアン・ムーア  メリル・ストリープ  

1923年のロンドン郊外、『ダロウェイ夫人』をしたためる作家ヴァージニア・ウルフ。
1951年のロサンゼルス、『ダロウェイ夫人』を愛読する主婦ローラ。
そして、現在のニューヨーク、『ダロウェイ夫人』の主人公と同じ名前の編集者クラリッサ。
別々の時代、別々の場所に生きる3人の女性の一日が交錯する。

特殊メイクで鼻の形を変えヴァージニア・ウルフなりきりで第75回アカデミー賞主演女優賞をもぎとったニコール・キッドマン。
心の奥を隠しつつチラチラ現る風情演技に磨きかかるメリル・ストリープ。
それぞれ名演だと思うが、それ以上にジュリアン・ムーアがいい!

夫の誕生日に青いケーキを作ってしまう模範的な妻。
画面に映った平凡な家庭の光景がジュリアンムーアの存在によって緊張感を帯びてくる。
その何気なさがすごい!

前半ややかったるいが、難しい構成を飽きずに見せきる脚本と編集の上手さ。
ただし、音楽は少々しつこい。

☆☆☆

コールドマウンテン

2004年12月08日 | ハリウッド映画
監督、脚本:アンソニー・ミンゲラ
キャスト:ニコール・キッドマン、ジュード・ロウ

南北戦争末期、南軍兵士として戦場に送られたインマンは、重傷を負って病院に収容される。
彼の脳裏に浮かぶのは、故郷コールドマウンテンと、恋人エイダの面影。
インマンは、死罪を覚悟で脱走兵となり、故郷を目指して果てしない旅に出る。
一方ひたすらインマンを待ち続けるエイダの前に、流れ者の女ルビーが現れて・・・。

たった一度の口づけで、おたがいを運命の人だと確信する男と女。
この設定にのれるか?
残念ながら、インマンに死を賭して恋人のもとを目指すだけの説得力が全くなし。

おまけに、はるばる旅してやっと二人が再会する場面のお粗末なこと。
森の小路でただ偶然出会ったというのだから!
涙の再会を期待してハンカチ用意していた観客もアレアレアレとずっこけるしかない。

瀕死の重傷を負ったインマンを助ける老婦人のご都合主義といい、文芸ロマンの巨匠・ミンゲラ(『イングリッシュ・ペイシエント』)の名が泣くのでは?

相変わらず良い女っぷりのニコール・キッドマンと、お嬢様育ちのエイダに生きる術を教える流れ者の女役のレニー・ゼルウィガーが唯一拾いもの。


半身

2004年12月02日 | 海外ミステリー
サラ・ウォーターズ作 (創元推理文庫)

19世紀ロンドンに実在したミルバンク監獄が舞台。
女囚の慰問に訪れる未婚の貴婦人と美しき霊媒女囚との不思議な出会い。

前半は歴史物を読んでいるような辛気くささ、何とか我慢して読み進むうちにやがてゴシックホラー調の色彩を帯びてきて一転きっちりラストで落ちが付く。

サマセット・モーム賞受賞の評判作品。
監獄の暗くおどろおどろしい描写や幾つかの幻想的イメージは確かに巧いが、描かれている中味は黴臭い。

「呼吸をする時に空気を探すかしら?めぐり合えば半身とわかる。めぐり合えたら、愛する半身とひとつでいるためにどんなことでもする」

☆☆