東京大学先端科学技術研究センター がん・代謝プロジェクトリーダー
感染の波を抑え込むには 精密医療が不可欠
大阪、旭川では医療者の不足が深刻化し、自治体の長から自衛隊投入が要請され、医療崩壊が現実となった。なぜこのような事態が生じたのか。そして私たちはいま、何をすべきか ーー 一緒に考えたい。
ーー 児玉プロジェクトリーダーは、まず感染が起きたクラスターを検査し、次に悪循環サイクルの介護施設などで希望者全員を検査し、そして感染拡大した地域の希望者全員を検査する、いわば点、線、面で防ぐことを提唱されています。検査対象は希望者だけでいいのですか。
東京・世田谷区では学校や施設を集中的に検査しましたが、モニタリングを積み重ねていくうちに、希望者だけの検査でいいということがわかりました。
ーー どういうことですか?
希望者だけでやると、およそ6割以上の人が来てくれます。クラスターが発生していたら6割やれば大体わかります。誰もが、自分たちのところで感染者が出るとは思っていないわけです。ただ、無症状感染者が発見されると、途端に「自分も検査をやりたい」となります。周りにすでに発生していると、ある種の安心感が出るのですね。
風評被害の問題
ーー 陽性になった場合、その人が悪いわけではないのに、非難されたりしますからね。
各人が新型コロナの感染管理の責任をもっと持ちなさいと言われたりするのですが、これは非常におかしな話です。私たちはガイドラインを感染の状況に応じて替えていきます。感染がないところでマスクをする必要はないですし、感染がある周辺地域でしたら、通常のマスクでも効果はありますが、ICU(集中治療室)などでは医療用N95マスクを装着していないと怖いわけです。つまり、自己責任と言っても、感染状況がわからなければ対応のしようがないし、責任もありません。
さらにひどいことに、いまは感染状況が隠されています。院内感染が起こっても、基本的に病院名は開示されません。
たとえばこんなことがありました。かかりつけの病院から東京大学医学部附属病院に転院する患者さんがいました。段取りをして、書類をもらってきた後で、その病院が院内感染を起こしていたと言われたのです。結局、東大病院は2週間受診できない状況になりました。
本来、PCR検査などを徹底的に行ない、その結果を匿名(とくめい)化で個人情報を守りながらきちんと情報開示して、対策を行なっていくことが大切です。
情報科学の利用も
ーー なかなかそれが実行できないのはなぜでしょう。
ジャーナリズムの問題も大きいと考えます。現場を取材しないで、ネット上の情報を集めたり、政府や都道府県知事の記者会見にいくだけで、現場の病院が何を困っていて、現実の患者さんがどんなに苦労しているかを伝えない。
その最たるものが「無症状検査否定論」でしょう。”街の中でPCR検査をやってはいけません。PCR検査で感染者が続出すれば病院医療が崩壊します”という論調ですが、本来、街の中に感染者がいることが問題であるのに、病院が崩壊するかしないかだけの視点から「病院にこられては迷惑です」と専門家が語る。それが堂々と報道されていたのです。
韓国でもイギリスでもどんどん検査をやっています。日本はPCR検査の自動化の技術・機械を海外に輸出しているのですよ。結局リーダーシップを取る人がいないということです。
もう一つ、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」を活用して感染経路の精密なデータをとることも必要ですね。COCOAは、日本全体で利用者が増えないと意味がないと誤解されていますが、そんなことはありません。先端科学技術研究センターでもCOCOAを活用しています。小さい施設でみんなが持っている方がいいのです。それに予想外の感染経路もわかります。
コロナ対策として最重要なのはゲノム解析、PCR検査を自動化・大規模化する計測科学に加えて、スマートフォンでの追跡をはじめとする情報科学を駆使した精密医療を行なうことです。それで波全体を抑え込むのです。
来年供給されるワクチン
ーー 予防ワクチンについて、ファイザー・ビオンテックが来年6月までに日本に6000万人分を供給予定で(12月8日から英国で接種開始)、モデルナも来年9月までに2500万人分を供給するとしています。
ファイザー・ビオンテックとモデルナのワクチンはmRNAワクチンで、人の細胞に組み込まれにくい特徴があります。mRNAワクチンは、接種したときに発熱などの副作用はありますが、それ以外の開発中のワクチンに比べると予想外の副作用は少ないと言えます。そうすると問題は持続性であり、違う変異への対応ができるかどうかです。
モデルナの治験はブラジルなどで行なわれていますが、次のウイルスに対して有効かどうかの治験結果が出てくることによって、効果の持続性、変異に対する有効性がわかってきます。これが来年の前半くらいに明らかになり、後半からワクチン製薬が供給される可能性が出てくるということです。すると問題は、この冬をどうするかということになります。
ーー 治療薬についてはいかがですか。
アビガンの軽症例のデータが揃います。富士フィルム富山化学は治験において主要評価項目を達成し、薬事承認の申請をするとしています。(12月16日時点の報道では「新型コロナ薬アビガン、21日に承認可否判断 厚労省」)軽症例の重症化予防に期待されています。
現在のところ、無症状はアビガン(経口)、熱や咳ではレムデシベル(点滴)で、肺炎になるとアクテムラ(点滴)、呼吸不全に対してはECMOというのが一般的な治療法です。
「ウィズアウトコロナ」
ーー コロナ禍では、個人としてどう対処していけばいいですか。
自分たちのコミュニティの再建を目指すことが第一です。日曜日にPCR検査についての署名を集めて自治体に届けるような取り組みも行なわれています。「ウィズコロナ」という言葉がもてはやされていますが、介護施設などをみると、それはありえません。社会の中の声を知らない人たちが唱えているだけです。社会の動向もきちんと捉え、「ウィズアウトコロナ」で安全・安心な社会をつくるということが大切だと思います。
(終わり)
11月24日、東京大学先端科学技術研究センターにて
聞き手・まとめ 小林和子、秋山晴康(編集部)
こだま たつひこ 1953年生まれ。77年、東京大学医学部卒業。2018年6月から
東京大学先端科学技術研究センター名誉教授。同がん・代謝プロジェクトリーダー。医学博士。
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Ⅱ 内田樹 凱風快晴ときどき曇り 隔週連載 「金曜日」20年12月18日号
中国の「ワクチン外交」
Covid-19のワクチンの開発と承認が各国で進んでいる。英国では米独共同開発のワクチン接種が始まっている。高齢者と医療従事者が優先的に接種される。これで医療従事者の負担は一気に軽減するだろう。中国でも年内に国産ワクチンが承認される見通しである。すでに100万人が接種を受けたが副作用は起きていないと言う。中国国内では感染が収まっているので、治験は海外で行なわれる。ワクチン開発に協力した国々には当然優先的にワクチンが提供されることになる。
ワクチンを最初に開発した国がそれをどのように「外交カード」に使うのか、それがこれから注目される。米国は科学力では今も世界一だが、トランプ時代に「一国主義」を宣言して、グローバル・リーダーシップと国際社会に対する責任を放棄した。
バイデンが大統領に就任した後も、米国社会はしばらく分断と混乱のうちにあるだろう。だから、米国が国際社会に範となるべき「ワクチン戦略」を提示することは当分期待できない。
当然、この機会を中国は最大限に活用しようとする。習近平はすでに中国はワクチンを高額商品として扱わず、「公共財」として提供すると国際的に公約している。アジア、アフリカ、南米の国々は自前でワクチンを開発する能力はないし、製薬会社が開発コストを上積みして売りつける高額のワクチンを輸入する経済力もない。中国が「途上国優先」を掲げて、ワクチンを無償かそれに近い価格で供与した場合、恩恵を受けた国々は中国に大きな「借り」ができる。それは無為無策の米国に比較したときの中国のリーダーシップに対する信頼を相対的に高めることになる。だから、中国はこれからワクチン供給を外交的機会として最大限活用してゆくだろうと私は予測する。
長期的な世界戦略
欧州での感染拡大の初期に、イタリアでまず医療崩壊が起きた。マスクや防護服がなくなったのである。イタリアはただちにドイツとフランスに支援を求めたが、両国は医療品の輸出禁止措置を以て応じた。その時、イタリアを救ったのは中国である。それによりイタリア国民は「EU信じるに足らず」と言う印象を抱き、逆に中国に対する評価は一気に高まった。
日本ではあまり報道されないが、中国はすでにアフリカに大きな影響力を及ぼしている。北京の最優先の関心はレアメタルなど天然資源の確保であるが、そのために過去に植民地主義者がしたように軍隊を送り込んで暴力的に収奪するという方法も、ビジネスマンがしてきたような「札びらで頬を叩く」手荒な方法も採っていない。もっとリファインされた手を使っている。現地企業への投資や買収にとどまらず、いくつかの国ではすでに中国系金融機関が中央銀行を代行している(知らなかった!)。孔子学院は46カ国に61校を展開し、中国語学習を手厚く支援してアフリカ大陸に中国語話者を着実に増やしているが、それに今度は医療支援が加わる。
日本政府はこの成功を
「いつでも即座に世界に向けて投資する用意のある巨額な外貨準備金」と国営金融機関がもたらす強権的国家のアドバンテージだといささか悔しげに分析しているが、それ以上に日本になくて中国にあるのは国益増大のための長期的な世界戦略である。
中国はこれからワクチン外交を通じて、「中国に借りがある」友邦を増やして、それを香港や台湾や新疆(しんきょう)ウイグルなどに対する強権的なふるまいに対する批判の封殺とトレードオフするつもりでいる。これから先、多くの国が中国の提供する「公共財」か、欧米の製薬会社が差し出す高額医療商品のどちらかを選ぶことを迫られる。
日本はどうなることだろうか。
うちだ たつる 思想家。
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Ⅲ:
”差別がなかったと見ることは、同時代の史料を見る限り困難です。差別的な言動を伴う民族間の紛争は、戦時下の『特高月報』などで頻繁に報告されています”
なぜ、朝鮮人や中国人労働者は必要とされたのか 「金曜日」20年12月18日号掲載
日本の炭鉱労働史を俯瞰することで見えてくるもの 軍艦島めぐる「歴史戦」
外村大 とのむら まさる 東京大学大学院教授。著書に「朝鮮人強制連行」(岩波新書)など。
労働者の歴史抜きに「日本の産業遺産」を語ることはできない。どのような人々が、どのような環境で働いていたのか。戦時中の炭鉱で、朝鮮人や中国人労働者が必要とされた背景は何か。
強制労働があったか否か、差別があったか否か以前に、私たちが考えるべきことがあります。
それは、一部のエリートや技術者だけではなく、近代の工業を支えたのがどのような人々で、どんな環境で働いていたのかということです。それを考えて初めて、なぜ朝鮮人や中国人が動員されたのかを理解できるはずです。
なぜ炭鉱労働は人手不足になったのか
近代の初め、炭鉱では、囚人や、過酷な労働環境を受忍せざるをえなかった底辺貧困層、労働の実情を知らない日本人を集めて雇い、仕事に就かせていました。しかし、次第に過酷な労働実態が知られるようになり、人集めが困難になります。そこで、朝鮮人労働者の導入が企図されました。早い段階では、1898年に三井鉱山の港湾荷役の請負師が朝鮮での労働力を試みた記録があります(実現には至りませんでしたが)。
朝鮮人労働者が増加し始めるのは1920年代以降です。これは朝鮮農村から余剰の労働力がやってきたという要因(プッシュ要因)だけでは説明できません。日本(内地)の炭鉱で、日本人労働力だけでは必要な労働力が確保できなくなったことが大きい要因です。
それはなぜかというと、工業化の進展により、炭鉱よりも相対的に好条件の雇用先が増えたからです。そのため、タコ部屋まがいの労働管理が残っていた炭鉱などは日本人労働者に忌避されていきました。「炭鉱の労働はきついので、別の働き口があればそちらを選ぶ」ことが可能になったわけです。
戦時下で日本人の青年男子が出征して労働力が不足すると、この傾向はいっそう顕著になります。どこも人手不足の状況では「炭鉱よりも別の働き口を選ぶ」ことが可能ですから。戦時下でも「炭鉱に行くくらいなら、兵隊に行ったほうがましだ」と言う人が多かったという証言もあります。
ですので、「日本人青年男子の出征で労働力が不足し朝鮮人・中国人を入れた」という動員の経緯の説明は不十分です。多くの日本人が嫌がる劣悪な労働環境の改善をせず、安い労働力を他に求めればいいという政府・企業の考えが、朝鮮人・中国人への依存、矛盾の押し付けを生んだのです。軍需省燃料局の統計では、炭鉱労働者における朝鮮人労働者の割合は1944年には33%に達しています。
朝鮮人労働者の帰国で再び炭鉱は人手不足に
そして戦後、朝鮮人労働者が帰国した後、炭鉱は再度労働力不足に見舞われました。45年12月6日の『朝日新聞』には次のような投書があります。「坑内で不慮の災害のために死亡、または負傷したからとて、それを単に、本人の不注意だの一言で片づけたり真実の病気の者をして脅迫的に稼働させたり、、、いかに間扱いをしているかがわかる。
採炭することは国家的事業である。
賃金の大幅値上げも、主食の増配も作業衣や地下足袋の配給も、絶対必要には相違ないが、もっと根本的なものは、労務者を奴隷的に処遇することでなくして、いままでの奴隷的状態から解放することである。それが出来れば、危険極まりない炭坑労務といへども労務者の補充に困惑することはない」。これは、戦中に実際に炭坑労働を経験した日本人が語っている言葉です。
総じて言うと、労働基準法がなかった戦前から終戦直後の時代、日本の産業の根本を支える
炭鉱や港湾荷役などには「奴隷的労働」のごときものが残っており、それを誰かが担わなければならないのが実情でした。そして先に述べた要因から、その労働を次第に日本人でなく朝鮮人、さらには中国人が担うようになったわけです。
このようなことを理解した上で、戦前に強制労働があったか否か、差別があったか否かという議論がなされるべきでしょう。
「特高」資料でも朝鮮人差別は確認可能
もち論、厳しい労働ではあるが、それが産業の根底を支えるとして誇りをもって仕事をしていた人もいるでしょう。そして労働者とその家族同士の助け合いの雰囲気は炭鉱の街には確実に存在していましたし、時にそれは日本人と朝鮮人という境界を超えたものにもなっていたでしょう。また、行政や雇用者が差別を感じさせないように指示を出していたことも事実です。それはある意味当然のことです。紛争対立が生じたら生産にもマイナスとなり、さらには総力戦体制や植民地統治にも動揺が起こりかねませんから。
しかし、差別がなかったと見ることは、同時代の史料を見る限り困難です。民族間の紛争で差別的な言葉が発せられた例は、戦時下の『特高月報』などで頻繁に報告されています。例えば、八幡製鉄所の貨物積込作業場における日本人労働者による朝鮮人労働者への殴打事件では、「貴様は朝鮮人の癖に生意気だ」との言葉を伴ったものでした(『特高月報』1942年4月分)。
また動員した朝鮮人をどう管理するかの企業内部のマニュアルの書類では朝鮮人は「低級民族」「誠に憐れむべき劣悪民族」と記しているものもあります(住友本社鴻之舞こうのまい鉱業所「半島労務者統理要綱」(注1))。
たとえ仮に個々人の感情について問題にしないとしても、制度的差別の問題があります。動員された朝鮮人労働者は職場を変えることは許されず、運よく逃げることができたとしても、協和会手帳(注2)無所持で摘発される可能性がありました。また、新規徴用(完全に別な職場に動員する形態での徴用)は日本人の場合は官公署や工場などへの配置で、炭鉱への配置はありません。ところが、朝鮮人に対してのみ新規徴用同様の動員(募集・官斡旋)や新規徴用が実施されました(注3)。
付け加えれば、日本の炭鉱で自分も日本帝国の一員だと思い一生懸命働いていた朝鮮人がいたとしても、戦争終結後、日本の宣伝の虚偽性が明らかになった後、その人物は相当に傷つき後悔したはずです。さらに言えば、そもそも朝鮮を豊かにするために用いてしかるべき労働力がなぜ、そのように使われたのかという問題もあります。動員政策は、朝鮮人の意思とは無関係に決定されています。この時期に生きた人々が置かれた環境や心理を想像し本質的に重要な点を議論することが必要なはずです。
(注1)住友本社鴻之舞鉱業所 北海道紋別市。金・銀・銅を産出。1973年閉山。
(注2)協和会手帳 戦時下の在日朝鮮人統制組織である中央協和会が、1940年から日本在住の朝鮮人に配布した会員証のこと。在日朝鮮人は就労・列車乗車中検査・帰国・食糧配給などのとき、必ず協和会会員証を提示しなければならなかった。
(注3)1944年6月までの統計では、日本内地に送り出された朝鮮人労働者総数の62%が炭鉱に配置された(『朝鮮人強制連行』152頁)
写真キャプション (提供・時事)
世界遺産に登録されている三井鉱山三池炭鉱(福岡県大牟田市・熊本県荒尾市)の万田坑。「ヨーロン」と呼ばれた労働者(鹿児島県・与論島から集団移住して三池炭鉱の港湾荷役を担った労働者)、戦時下の労働力不足を補った朝鮮人労働者や中国人労働者などに過酷な労働を強いた歴史でもある。『荒尾市史』には多くのページを割いて三池炭鉱の労働者の歴史が記述されている。
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Ⅳ:
「一度中断するという決断を」
「GoToが感染を拡大させた証拠はない」
「勝負の3週間」
「これは後で検証する必要がありますが、前政権も含めた政府のコロナ対応の問題点は三つあると思う。いずれも、破滅的な敗北を招いた旧日本軍に共通しているんです」
「まず『情勢認識のゆがみ』です。菅首相ら政府首脳に上がってくる情報は、その異動対象になり得る役人たちが上げてきます。菅首相らの嫌う情報は小さく見せ、楽観的な情報は大きく見せる、といった『加工』が積み重ねられた、と見るのが当然です。つまりはそんたく。これはあの戦争で、日米開戦に至った経緯などにも共通します」
日米開戦の直前、「日本が勝つ」という目標に合うよう、陸軍省戦備課が「1対10」とはじいていた日米の戦力比を、同じ省の軍事課が「地の利を考慮」して「1対4」に改め、この報告を受けた首相の東条英機本人が「日本人は精神力で勝っているはずだから五分五分だ」と結論づけた、という有名な史話が思い起こされる。
https://bit.ly/38gSgCN
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