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xxの隠れ家

美術大学の日常や、その場にいて感じること、考えたこと、個人的な活動や作品をまとめて書き留めます。

「実物を見て描け!」論について

2014年06月13日 | 日記

よく絵を描いていると、写真に撮ったりせずに実物を見て描け、と言われる事があります。写真に撮れば、画面に置き直した時の大きさの見え方や、観念色にとらわれないリアルな色がわかりやすくなるように感じられたり、動いているものも止まって見えるので、確かに描きやすくなるようにも思われます。


では何故「絵は実物を見て描け」と言われるのでしょうか。


それは「良い絵とは何か」という問題と深く結びついています。絵を描くという事は、単に光の情報を正確に画面に写し込むことではありません。それはカメラの方が何倍も正確にできます。

絵を描くということは、見たものを描き手のフィルターを通して記号化し、画面に構成し直す作業を指します。面倒くさい話をすると、人間の認知と強く関わっていて、例えばリンゴであれば、目の前のリアルな輪郭線や色合いよりも、丸いこと、赤いこと、つるっとした質感、くぼんでいる形態など、直観的に意識される情報がまず優先されます。それが満たされた上でなければ、やや茶色身がかっている、傷がある、少し変形しているなど、下位の情報が付与されたときにソレがリンゴなのかなんなのか、何が描かれているのかがわからなくなったりします。従って、人間の視覚を大前提にした「絵」は、光情報をそのまま転写した「写真」とは全く異なるのです。


つまり写実絵画においては、人間の認知(感覚)を前提に綿密に組み立てられている画面だからこそ、写真以上のリアリティが”感じられる”ということがあり得るのです。


ここまでは美術をちょっと勉強した人なら、語るのもバカバカしいくらいの基礎中の基礎ですが、このように、良い絵は単純な光情報を転写したものではなく、人間の感覚を通して人間のために作られた画面である必要がある、からこそ、絵を描く時は実物を見ろ、と言われるのです。

実際の質感や見えない部分の形、重さ、写真ではそういった情報が削ぎ落されているため、写真から単純に転写された絵は(人間の感覚にとって有効な)情報量の少ない軽い絵になります。


しかし逆に、その削ぎ落された情報さえ補えれば、別に写真を元にしても構わないということでもあります。現物がなくても、複数の写真や文章等から情報を補ってリアルに描くこともできるかもしれません。問題は何を描きたいか、ということですね。

何を、とはこの場合描くモチーフのことではなく、もっと抽象的なテーマを指します。リアリティを追求するのではなく、想像を膨らませてイメージの世界を描きたい場合、必ずしも現物を見る必要はありません。またもっとアート性の強いコンセプチュアルな作品を描く場合も同様です。


基礎勉強としては確かに有効だと思いますが、実物を見て描く、ということを絶対視する必要はないと私は思います。まあ、ある程度負荷が掛からなければ面白い絵にならないという所はあるかも知れませんが、どう描くべきかはそれぞれが葛藤しながら考えて行けば良いのではないでしょうか。

嫌いな音楽を好きになる方法

2014年05月01日 | 日記

 すごくどうでもいい話ですが、音楽で苦手なジャンルってないですか。というかむしろ、特定のジャンルしか聞かないとか、もはや自分の聞いてるジャンル以外は音楽じゃないとか思っている人もいるかもしれません。




 しかしながら、そうは言っても友達や周りの人が聴いて、「良い!」「最高!!」と言っている音楽。自分には全然わからないし、退屈だし下らないし、全く聴いていられない音楽でも、興味がわくことってあると思います。聴けるジャンルを広げたい、ちょっと敷居の高そうなジャンルを知って自分に箔を付けたい、まあ、いろいろあるでしょう。



 しかしそれでも聴いてみるとやっぱりつまらない。結局、借りたCDも大して聴かないうちに返してしまって、それっきり。



 よくあることです。




 運良く自分の好きなジャンルから、ちょっとだけずれたジャンルに好きなアーティストが見つかって、はまっているうちに幅が広がればラッキーです。ですが、全然違う世界の音楽となるとなかなか難しい。ヒップホップばかり聴いてた人が突然オペラを、アニソンばかり聴いてた人がレゲエを、V系好きな人が演歌を、…ちょっと考えにくいですね。





 これはそもそも、「音楽を聴く」という時に、その行為に求めている内容が全く違うことが原因です。単純に ”激しさ” とか "高尚さ" とかでは言えませんが、音楽ジャンルにはそれぞれが持っている世界観、空気感、人間観があります。アニソンにあるようなキャッチーさを求めてクラシックを聴いても退屈になりますし、メロディアスな旋律を求めてヒップホップやパンクを聴いても苛つくことでしょう。


 そこで今回は、私が昔やっていた方法で、あまり好きじゃないジャンル、むしろ嫌いなジャンルの音楽が、好きになれる簡単な方法を紹介します。








■準備するもの
・苦手なジャンルの音源(CDでも何でも)



■手順

(1)方法は非情に簡単です。まずは苦手なジャンルの音楽を一週間、毎日聴きまくります。
 このときに曲の良さとか全然わかる必要はありませんが、そのジャンルが生まれた背景や、ちょっとした情報を同時に覚えておくと効果的です。

(2)頭にループして嫌になるくらい聴いたら、聴くのをやめてください。
 (無論、この段階で好きになれたらそれはそれでいいのですが。)

(3)それから半年間は何もしません。




 方法は以上です。








 非情に単純な方法ですが、個人的にはかなり効果がありました。

 上手くいけば半年くらい経って、嫌いだった曲が無性に聴きたくなるときがきます。来なくても久しぶりに聴き直せば、以前より格段に聴きやすくなっているはずです。







 結局のところ、食わず嫌いは慣れないもの、わからないものに対する本能的な防衛反応からきています。まずは慣れることが大事です。そして慣れてしまえば、次には聴き方がわかってきます。慣れないものを「理解して好きになる」というのは難しいので、「好きになってから理解する」という方法です。



 考えてみれば、自分が好きな音楽もそういうものではないでしょうか。これこれこう言う理由があって素晴らしいから好きになったのではなく、好きで聴いているうちに良さがわかってくる。好き嫌いというのはもともと感覚的なもので、一つの考え方だけで良し悪しを論じられるものではありません。



 私は最近はノイズ音楽というジャンルが好きで聴いていますが、ヒップホップも好きですし、ボカロも聴きます。もちろん演歌や声楽が聴きたくなるときもありますし、ジャンルというくくりだけで嫌いなものはありません。評価している人たちがいるということは、なにかしらの良さがあるはずのものなのです。



 無論、すべての音楽を網羅する必要はないですが、なるほどこういう良さがあるのか、ということがわかっていれば、好みの違う人とのコミュニケーションも取りやすくなりますし、何より自分が楽しめる幅が広がればそれだけハッピーになれます。

 もしも幅を広げたい、と少しでも思っているのなら、まずは自分が普段聴いているものとは全く違うところから、試してみてはいかがでしょうか。



美大生活について 《おもに油画科》

2014年02月18日 | 日記

 美術大学というと、どんなところか、あまりイメージの湧かない人も多いと思います。
 実際、私が美大に進路転換を考えた時、正直それほど具体的なイメージを持っていませんでした。

 自分自身の「やりたいこと」ができるのか、そもそもどんな大学があって、どうすればいけるのか。美術系に進路を考える人にとっては結構重要な問題ですが、近親者に美術系の人がいない場合、なかなか実感を持って知ることが難しかったりします。

 そこで、あくまで私個人の経験や見聞をベースに、美大ってどんなところなのか、もの凄く基本的なことから ざっくりまとめてみようと思いました。《おもに油画科》というのは私が油画生だからです。


■ファインかデザインか
■美大生の日常
■「油画科」とは
■漫画・アニメ等、サブカル表現について



■ファインかデザインか

 まず美大生活を考える上で、大前提として抑えておかなければならないことがあります。
 
 それは、学科がデザイン系かファイン系か、という違いについてです。

 デザイン系はその名の通り、デザインについて学ぶ科です。メディアデザインやプロダクトデザインなど様々ありますが、デザインについては詳しくないので細かい違いは割愛します。基本的には商業デザイン(企業やデザイン事務所での商品のデザイン等)方向に行くのに適した科ですが、イラストレーターやフリーのデザイナーを目指す人も多くいるようです。

 ファイン系は、簡単に言うと、アーティスト志望が集まる科です。ファインはファインアートの略で、油画科や日本画科、彫刻科など、作家になることを目的にした人たちが集まります。デザイン系からは世捨て人の集まりと思われているようですが、先のことは個人のモチベーション次第、といった感じでしょうか。



■美大生の日常

 では、美大生はどういうカリキュラムで大学生活を送っているのか。基本的には実技=作品制作の時間と、一般科目=普通の講義(座学)が毎日半分ずつ入ります。
 午前中が制作時間なら、朝 作品制作をして、午後から授業を受ける、人によっては授業後も作品制作をする、という感じです。


 作品期間は科やグループによって大きく異なりますが、デザイン系の科では、技術訓練のような課題が多いらしく、課題数も多めで一つの課題の製作期間が短いようです。対してファイン系は長期間での制作が主です。科によって違いますが、私のところでは だいたい二週間から一月半くらいあります。制作場所は科・グループごとにアトリエがあるのでそこで行います。

 製作期間が長い科で、それほどモチベーションも高くない人の場合、毎日暇な時間を持て余している人も少なからずいます。逆に、制作もばりばりやって、バイトして稼いで、あちこち展示を観に行ってと、忙しくしている人もいます。制作が自分に全てまかされるので、どうするのも自分次第です。




 私の場合は、自分なりに時間を大事にしようとあれこれ活動しているわけですが、ほとんど作品制作を中心にすべての生活が回っています。制作の実際は科によって全然違うので、他学科について適当なことは言えないのですが、油画科に関して言えば ”超フリー” です。

 油画科の制作は(うちの場合)、場所も時間も全く自由です。一応制作時間として時間割に振られている時間はありますが、その時間にアトリエに拘束されたり、出席を取られたりということがないので、講評日までに作品が出来てさえいれば、時間をどう使ってもかまいません。また、これはアートに詳しい人以外にはあまり知られていないことですが、油画科は別に油画を描かなくてもかまいません。アート作品としての説得力があれば、本当になんでもかまわないのです。

 なので、自分が作ろうとしている作品が、アトリエでなければ(スペース的に)作れないものの場合はアトリエで、小さくてアパートで出来るものの場合はアパートで制作しています。

 私はあまり利用していませんが、アトリエは申請すれば休日も使えます。それまでほとんど人がいなかったのに、講評日(締め切り)が近づくとだんだんと増えて来る、ということもままあります。




■「油画科」とは

 じゃあ油画科っていったいなんなのか。大学の外でよく聞かれますが、一言で言えば油画科は「現代アートを専攻する科」です。現代アートが西洋の油彩画に端を発しているので、歴史的な流れから一応「油画科」と呼ばれています。


 「現代アートを専攻する科」と言っても、「現代アート」大好きな人ばかりが集まるわけではありません。当然のことながら、「現代アート」なんてニッチなジャンルに、小さい頃から日常的に触れている人なんてそんなに多いわけではないですし、「現代アート」好きが必ずしも制作能力に長けているわけでもありません。受験は絵画の実技でほとんど決まるので、基本的には描けなければ入れません(なかにはうっかり受かってしまう場合もありますが)。油画科に集まる人の多くは、絵を描くのが好き、モノを作るのが好き、という普通の文科系男女です。

 なので、入ってから何をしたらいいか戸惑うこともしばしば。予備校時代にある程度 勉強しているとは言え、なかなか困惑している人も多いようです。

 「アート」ってなんだ、という問題には、油画科生のほとんど全員がぶちあたります。しかし教授陣も含めて、他人の口から明確な答えはほぼ出てきません。ただ、講評ごとにある自分や他の人の作品についてのディスカッションを通して、各人が各々考える、ということを繰り返すのが、美術大学という場所です。


 面白いことに、彫刻科では彫刻を、日本画科では日本画をやりますが、油画科は立体作品、映像、パフォーマンス、なんでもやります。もちろん油画を描く人も半分くらいはいますが、現代アートが油画離れを起こしている今、なにかもっと新しくて面白いことはできないかと模索する人もたくさんいます。講評はアトリエを片付けて行うのですが、みんなそれぞれ絵画、立体や舞台などを並べるので、講評ごとになかなか面白い空間になります。



 なかなか全体を包摂して語ることが難しい場所ですが、アートがなんだかよくわからないながらも好きなことをやっている、ということと、順位がつけられないということなど、とにかく自分のことが自分に丸投げされている状態なので、私はなかなかいいプレッシャーを感じて生活しています。講評にしても、他の学生や教授陣の眼にさらされるからには、適当なものは作れないので、毎回みんな相当の気合いを入れて臨んでいます。そして人によって表現方法が全く違うので、視野を広く保ちやすい環境でもあります。こう言った点は美大で制作を行うメリットと言えるかと思います。


■漫画・アニメ等、サブカル表現について

 このトピックは個人的な関心から作ったので、特に興味がなければ読飛ばしていただいていいのですが、何となく美大を考えてる高校生や中学生にとって、割と気になる点なのではないか、と思って作りました。

 漫画やアニメの制作をしたい場合に美術大学を目指す、というのは、全く普通のことですが、この場合、私はデザイン系の科に行くことをオススメします。ファイン系を選んでも悪くはないのですが、自分なりの表現をアートとサブカルの両方で模索するのは結構面倒くさいことです。それよりは、具体的な技術訓練やデザインの知識に重点を置いたデザイン系の科に行く方が、私はスマートだと思います。

(もしくはキャラクターデザイン科とか、アニメーション学科とか専門の科を設けている大学もあるので、そちらを探してみるのもいいかもしれませんが、私は詳しく知らないのでここでは書きません。)

 実際のところ、油画科にいてアニメーターになりたいと言う人もいなくはありませんが、周囲に技術を競う相手がいない場合が多く、技術的な面をあまり問われない油画科では、それを大学での制作に当てることが難しいので、課題制作とは別に個人的に勉強する必要がでてきます。もちろん、それでもいいという場合、必ずしもサブカル表現をしたいか自分でもどうかわからないという場合、自分にとっての正解を探す意味で、油画科に来ることもありだとは思いますが、油画科にすすむのなら、「世捨て人」のカテゴリーに入ってしまう覚悟は、ある程度もって来た方がいいかと思われます。















 ーーーと、好き勝手書いてきましたが、あくまで私個人の実体験から知り得たこと、感じたことをもとに書いたものです。もし本気で美術大学を目指すなら、まずは美大受験に対応した美術予備校を探すことから始めてください。美大受験は美術予備校で基礎勉強をしていることが大前提です。地方の美大等、場合によってはうっかり受かっちゃう場合もありますが、大学では基本的なことは何にも教えてくれないので、必ず探してみてください。