
埼玉県立近代美術館は今年の1月に続いて2度目になる。北浦和公園は、上野公園ほど広くはない小さなところだが、それでも緑にあふれていて、芸術的な雰囲気を感じるところ。
1. まち・ひと・ひかり
西洋絵画と、日本洋画で構成されている部屋。前回に続いて、”印象派”。カミーユ・ピサロの『エラニーの牛を追う娘』(1884年)、クロード・モネの『ジヴェルニー・積みわら、夕日』(1888-89年頃)を見ることができた。椅子に座って、すこしボーっと見ていたい絵。佐伯祐三、モーリス・ユトリロなどの絵が並ぶ。
◆ 『積藁』 林倭衛 1935年
クロード・モネの『ジヴェルニー・積みわら、夕日』(1888-89年頃)の隣に架けられているもう1枚の”積みわら”に惹きつけられる。日本人の描いた”積みわら”も展示されていた。この絵は左側の物(積みわら)の部分と特に右側から全体に及ぶ風景部分の技法の対比がとても面白い。林倭衛(はやししずえ)と読むようだ。
モネと比べても見劣りしない。日本人の印象派作風の画家を見つけると、結構しびれる。かなりの時間、この絵の前に。
◆ 『フランス風景Ⅱ』 斎藤豊作 1910年頃
この展覧会で1番見たかった1枚は斎藤豊作。
かなりカラフルな点描・風景画。村の風景だろうか。家屋はべタっと塗ってあるが、それ以外は、はっきりとした点描で描かれている。カラフルな色彩とそういった人工物と自然なものとの描かれかた対比。
モネやルノワールが好きな自分が、斎藤豊作に惹かれているのは何より”色彩家”としての側面が非常に大きいのかもしれないと、この絵を見ながら、ふと思う。
◆ 『路傍初夏』 岸田劉生 1920年
前回も見た絵だが、岸田劉生の風景画。子どものころ家に画集か複製画などで『麗子像』を目にしていたせいもあって、実際は風景画も普通に描くとは思うだが・・・、岸田劉生、風景画、それが意外に少し珍しく感じてしまった。
◆ 『リタ・ヴァン・リアの肖像』 モイーズ・キスリング 1927年
キスリングは、ホテル・オークラでの展覧会や先ほどのサトエ21世紀美術館など、ここのところ何枚か見ているせいか、目が慣れてきている。
前回見た『赤いテーブルの上の果実』(1944年)と同様に、キスリングの絵は整った曲線美で、一見して写実的にも見える。でも、何かが”ほんのちょっと違う”感じ。その”引っ掛かり”が、くせになっていくのかもしれない。
絵の印象は違うが、”引っ掛かり”という意味では、マネが描く、肖像画・静物画に似ていると感じる。

4. リサーチ・プログラム ドラクロワをめぐって
丸沼芸術の森から寄託されているウジェーヌ・ドラクロワの『聖ステパノの遺骸を抱え起こす弟子たち』(1860年)を見ることができるのも、この美術館のひとつの目玉。
1853年に同様の構図の作品があることは前回見に行った後に調べて知っていたが、さらに別のパターンが1つ、習作が1つとドラクロワがこのテーマをこだわって描いていたことを知ることができた。
この企画ために、パリからいくつかの資料を借りてきたりしているようで、展示してあった。このように、1枚の絵画に関して、こだわりをもって、バックグラウンドを深く掘り下げていくというのは、個人的には好きで、収蔵品の数より質で見せていく展示は、ドラクロワを知るうえで、とても素晴らしい企画だと思った。
こういう展示や調査の結果って、展覧会で終わってしまうのは勿体ない。これだけの内容だけに、書籍や冊子という形で資料に残らないものかなぁと。
2. 生誕100年記念 点描の詩情 高田誠の世界
先ほどのサトエ21世紀美術館にも5点くらい展示してあったが、高田誠は浦和に住んでいた郷土の点描画家ということで、生誕100年を記念した企画ブースがあった。1929年から1980年ころまでの作品17点が展示してあった。
同じ点描でも、画風は、斎藤豊作の方が自然な感じの印象主義的で、高田誠のほうは計算されたグラフィック的という印象を持った。この展示は、年代順に展示してあるので、最初は点描ではない一般的な写実的油彩画を描いてい画家が、どのタイミングで点描に入っていったのかが、よくわかるようになっている。
◆ 『秋の静物』 高田誠 1940年
このころから、高田誠が点描に入っていったとされる1枚。とても、丁寧に様々な「点」を敷きつめられた静物画。「点」を使って、花瓶の立体感や、葉の曲線も表現している。
特に、興味深いのは、よく見ると、右下の机の脚の付け根の部分だけは点描ではない。ほんの少し写実的要素が残っていた。これだけ丁寧に敷きつめた点描画の全体から見ると、”下書き”や”描きの残し”のようにも見える。画家には、何か意味があったのだろうか。
これ以後の作品は、こういった傾向ような感じがなかったので、まさに点描に入るターニング・ポイントの印象を受けた。
3. ユーモアとリアリズム
戦後、現代アートの要素の強い油彩画を集めたブース。昭和後期やや平成初期の絵が多いが、現在見てもまったく時代を感じさせない新鮮さがある視覚的にも面白い絵が多かった。
◆ 『ジェリーにスプーンC』 上田 薫 1990年
とても、面白く、すごい作品。視覚のトリックというか・・・。まず、これは「写真ではない」ということを再確認。銀のスプーンでゼリーをすくった時に、人間の視覚に入ってくる光景というものを、とてもリアルに表現している。
ゼリーの立体感や銀のスプーンの光沢も美しいが、特に、スプーンに反射して部屋が見える”別の世界”をうまく描いていて、これが作品に奥行きをもたらしている。
想像力と観察力、リアリティをもってイメージを表現できる凄さがある。
◆ 『水滴 J.T.83002』 金 昌列 1983年
あれ・・・?麻布に油彩で水滴を描いている絵なのだが・・・。これも視覚的に混乱させられる。この絵、とても不思議。平面に描かれている2次元的な絵のはずなのだが、視覚的には立体的に水滴浮き上がっていて、3次元で見えてくる。
凄く目を凝らして、よ~く見ると、もちろん、平面の絵。水滴の光は白い絵の具をうまく使っている。これは、ルノワールの『タマネギ』(1881年、クラーク美術館 所蔵)の光沢に使われた白い絵の具の置き方にとても近いイメージだった。
画家の、2次元的な要素を、3次元に変換して表現する能力というのは凄まじいものがある。
美術館全体の感想

さいたまの画家、高田誠の企画展も、年代ごとに作品を追えてとてもよかった。
斎藤豊作に関しては、なかなか全国的、一般的には知名度のある画家ではないかもしれない。また、埼玉出身といっても、ただ、日本の洋画と西洋絵画のつながりを見ていく上で、知名度以上の活躍をしていたようにも思うので、このような形で回顧展のような企画をと期待している。
埼玉県立近代美術館は平成25年の4月まで施設の改修で一時休館になるが、また斎藤豊作や日本洋画家の展示など、楽しみにまた足を運んでみようと思う。
ミュージアムショップで『斎藤豊作と日本の点描』(1987年)という図録を見つけてしまった。調べた範囲では「斎藤豊作」と名のつく書籍はほとんどなく、存在は知っていたが、30年近く前のものなので、探していたというより、まずあきらめていたが・・・。しかも、カラー図版でこの前ホテルオークラ東京で見て、斎藤豊作を知り、興味を持つきっかけとなった『残れる光』(1912年)が先頭にカラー図版で!
斎藤豊作の2枚の絵を見に2つの美術館で半日費やしたご褒美だろうか。
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