排膿散及湯は読んで字の如く、化膿病変から排膿を促す作用が知られており、「漢方の抗菌薬」という呼び方もあるそうです。
しかし私はこの方剤を使用した経験がありません。
小児科分野で適用するとしたら、肛門周囲膿瘍の急性期や、中耳炎・副鼻腔炎反復例で他の治療が効かない場合でしょうか。
どんな風に使えるのか、私に使いこなせるのか、調べてみました。
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<排膿散及湯のポイント>
・排膿散(本格的炎症に用いる)と排膿湯(きわめて初期の炎症および排膿後の時期に用いる)の合方であり、吉益東洞が考案した。東洞によると「排膿作用のある桔梗に、枳実のしこりをとる働きを加味することが秘訣」とのこと。
・排膿散と排膿湯の原典は『金匱要略』。
・「使用目標は、急性または慢性の炎症に用い、炎症の初期から排膿後まで広く用いられます。すなわち排膿湯は炎症の初期で、皮膚表面からあまり盛り上がりがない時期に吸収を目的に用い、排膿散は皮膚表面から半球状に隆起して硬く腫脹する時期で、その名の示す通り、排膿を目的として用います。以上の合方ですから、いずれの時期でも使用は可能ということであります。」(石野尚吾先生)
・「小さな膿は消失し、大きな膿は噴火して治る」(中島俊彦Dr.)
・甘草・生姜・大棗で補気健脾して正気を高めることが、より排膿を容易にする(高橋浩子Dr.)。
・「外界と交通性のある」すなわち「表在性」の化膿性病変を指標とする。交通性がないと排膿できない。
・「排膿湯は小柴胡湯、排膿散は四逆散に相当する」(大塚敬節先生)
・副鼻腔炎に対する効果は? ・・・「期待外れであったのは慢性副鼻腔炎で、既往に手術を受けたこともある比較的重症例を含む3例では、不変2例、悪化1例であった」(秋葉哲生先生)。
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まず、生薬構成と基本的な解説を。
■ 「気管支拡張症の急性増悪に麻杏甘石湯と排膿散及湯が奏効した症例」より
(漢方スクエア、高橋浩子Dr.)
※ 排膿湯の「化膿しやすくする」という箇所は「排膿しやすくなる」の間違いだと思います。
排膿散及湯は桔梗・枳実・芍薬・甘草・生姜・大棗から構成される方剤で、『金匱要略』の
排膿散(桔梗・枳実・芍薬) ・・・清熱解毒、去痰排膿
排膿湯(桔梗・甘草・生姜・大棗) ・・・赤く腫れた局所の緊張をゆるめ、排膿しやすくする
ーを合わせた処方です。
排膿散+排膿湯の構成である排膿散及湯を、慢性化した肺熱疾患に投与すると、キキョウ(桔梗)で気管の分泌を促進して去痰、消炎、鎮咳し、枳実・芍薬と合わせて排膿を促進します。また、甘草・生姜・大棗で補気健脾して正気を高めることが、より排膿を容易にする方向に働き、喀痰が綺麗になってきたのではないかと考えています。排膿散及湯は、化膿したニキビや乳腺症、歯肉炎には一般的です。
桔梗(消炎、鎮咳、去痰)の清熱作用と枳実・芍薬の排膿作用をメインに、桂枝湯の構成生薬として有名な胃薬トリオ(甘草・生姜・大棗)を加えた方剤と捉えることができます。
でもこの胃薬トリオ、主薬が強くて胃腸がもたれる際にも加えられる傾向がありますが、桔梗は胃に触るのかな・・・。
■ 「化膿性疾患に対する排膿散及湯の臨床経験」
(四日市医師会東洋医学研究会、Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.40 No.3 2016)
・排膿散及湯は炎症初期から排膿後までの「外界と交通性のある」すなわち「表在性」の化膿性病変を指標とすることで臨床的な有用性が高まると思われる。
・排膿散及湯は吉益東洞が考案した配合剤である。すなわち「金匱要略」を原典とする排膿散(枳実・桔梗・芍薬)に排膿湯(甘草・桔梗・生姜・大棗)を合方したものである。きわめて初期の炎症および排膿後の時期に用いる排膿湯と本格的炎症に用いる排膿散を合方して、急性炎症の全期を通じて治療しようとした漢方薬である。
・排膿散及湯の特徴は清熱解毒、祛痰排膿、止痛および和胃である。その臨床上の使用目標は急性または慢性の炎症に用い、炎症の初期から排膿後まで広い。すなわち排膿湯は炎症初期の皮膚表面からあまり盛り上がりがない時期に吸収を目的に用い、排膿散は皮膚表面から半球状に隆起して硬く腫脹する時期に排膿を目的として用いる。
・排膿散は「金匱要略」の瘡癰腸癰浸淫病篇の薬方であり、瘡癰腸癰とは、現在の瘍(カルブンケル)や癤(フルンケル)などの化膿性疾患とされるが、 処方のみ記載され証が明らかでない。
・吉益東洞の「類聚方」に「瘡家、胸腹拘満、或は粘痰を吐し、或は便膿血の者を治す。また、瘡癰ありて、胸腹拘満する者これを主る」とあり、さらに「この方は諸瘡癰を排脱の効、最も速やかなり。その妙、桔梗と枳実を合わせたるところにあり」ということから、排膿作用のある桔梗に、枳実のしこりをとる働きを加味することが秘訣とされる。
<臨床報告例>
・小児外科領域では肛門周囲膿瘍に有効であったという報告が多く、手術導入症例を減少させることがよく知られている。
・皮膚科領域では掌蹠膿疱症に対する有効性の報告がある。
・眼科領域では内麦粒腫に対する排膿散及湯の有効性が報告されているが、これは日本東洋医学会の「漢方治療エビデンスレポート 2013」で排膿散及湯の唯一のランダム化比較試験とされている。
・婦人科領域では子宮留膿症に排膿散及湯が有効であったという報告がある。
・ウイルス感染症にも有効との報告がある。ムンプスウイルス感染症(野村信宏, 他. 日本東洋医学雑誌. 2008, 59 (別冊), p.193.)、尋常性疣贅や手足口病(松田三千雄.日本東洋医学雑誌.2008,59 (別冊), p.193.)、その他のウイルス感染症にも有効性が散発的に報告されており、排膿散及湯に IFN 誘導能がある可能性が示唆されている。
<基礎研究報告>
・歯科口腔外科領域で歯周病における排膿散及湯の抗炎症作用をin vitroの歯周病培養モデルで検討し、LPS 刺激による IL-6 や IL-8 の産生を増加させるなど、その有効性が確認されている。
・マウスを用いた実験研究でマウスに A群溶連菌を感染させ、排膿散及湯を投与したところ、IFN-γ や IL-12 産生促進によるマクロファージ貪食能の増強効果が認められた。抗菌薬以外のアプローチとして注目されるが、溶連菌は蜂窩織炎の原因菌の 1 つであり、有望な手段と思われる。
吉益東洞がどうして排膿散と排膿湯を合方したのかを知ると、この方剤の特徴と使い方がわかりやすいですね。
また、「外界へ通じる表在性化膿巣」というのもポイントと思われます。体内奥深くの化膿巣では排膿すべき通路がありませんから。
次は石野尚吾先生の総論。
■ 重要処方解説「排膿散及湯」
(北里研究所附属東洋医学総合研究所診療部長 石野尚吾)
この方は『金置要略』の排膿散と排膿湯を合わせたものです。その内容は枳実・芍薬・桔梗・甘草・大棗・生姜です。その薬用量は,『漢方処方集』(龍野一雄)によれば枳実・芍薬各5g、桔梗2g、甘草3g、大棗6g、乾生姜1gとなっており、『明解漢方処方』(西岡一夫)によれば、桔梗4g、甘草・大棗・芍薬各3g、生姜・枳実各2gとあります。
排膿散は『金匿要略』瘡癰腸癰浸淫病篇の薬方です。瘡癰腸癰とは、現在のフルンケル、カルブンケルなどの化膿性の疾患のことであり、浸淫病とは現在の何になるかよくわかりません。この処方は枳実、芍薬、桔梗、鶏子黄(けいしおう)の4味です。枳実、芍薬、桔梗を細末として,卵黄1個とよく混ぜて白湯で飲みます。これは『金匿要略』では方のみ記載され、証がありません。
排膿湯は甘草、桔梗、生姜、大裏からなり、排膿散の枳実、芍薬の代わりに大棗、甘草、生姜を配したものであります。
腫れもののごく初期で、皮膚からあまり盛り上がっておらず、少し熱を帯びて赤くなっている程度の時期には排膿湯を用い、局所が赤く腫れ上がって、圧痛のある場合には排膿散になります。
大塚敬節は「排膿湯は小柴胡湯、排膿散は四逆散に相当する」と述べております。
普通使われるのは排膿散で、排膿湯を投与する患者さんはわれわれのところにはあまり来ません。また大塚敬節は「排膿湯は排膿湯だけで単方で用い、排膿散を合方して用いない」と述べております。
◇ 古典・現代における用い方
【類聚方】
排膿散について吉益東洞の『類聚方』には「瘡家、胸腹拘満、或は粘痰を吐し,或は便膿血の者を治す。また瘡癰ありて胸腹拘満する者これを主る」 とあり、さらに「この方は諸瘡癰を排脱(押し出す、打ちのめす)の効、最も速やかなり。その妙、桔梗と枳実を合わせたるところにあり」とあります。 排膿の薬理として「その妙、桔梗と枳実を合わせたるところにあり」ということは、排膿作用のある桔梗に、枳実のしこりを取る働きを加味することが秘訣であるということでしょう。
【類聚方広義】
排膿散及湯としては『類聚方広義』排膿散の頭注に,「東洞先生、排膿湯と排膿散を合して排膿散及湯と名づけ、諸瘡瘍を療す。方用は排膿散の標に詳かなり、とあります。
【勿誤薬室方函口訣】
浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』排膿散の項には、「この方を煎湯に活用するときは排膿湯と合方して宜し」とあります。
以上を総合しますと、排膿散及湯の臨床上の使用目標は、急性または慢性の炎症に用い、炎症の初期から排膿後まで広く用いられます。すなわち排膿湯は炎症の初期で、皮膚表面からあまり盛り上がりがない時期に吸収を目的に用い、排膿散は皮膚表面から半球状に隆起して硬く腫脹する時期で、その名の示す通り、排膿を目的として用います。以上の合方ですから、いずれの時期でも使用は可能ということであります。
応用疾患
応用としては、副鼻腔炎、中耳炎、乳腺炎、カルブンケル、フルンケルなどです。抗生物質の発達した今日では、急性の化膿症にはあまり用いないと思いますが、慢性副鼻腔炎、中耳炎などには用いられます。
鑑別
・千金内托散:「化膿性の慢性疾患があり、虚弱な人や疲れやすい人に用いる」
・十味敗毒湯:「神経質で胸脇苦満のある人の体質改善に用いる」
・伯州散」「慢性に移行した時に用い、急性期にはあまり用いず、主に頓用して用いる」
・一貫堂の荊防敗毒散:「頭痛が多く、局所の発赤、腫脹や疼痛に用いる」
・荊芥連翹湯:「皮膚全体が黒ずみ、腹直筋の緊張があり、青年期の体質改善に用いる」
よく参考にさせていただく、
■ 「皮膚科疾患に用いられる方剤の医薬品情報」より
(桂元堂薬局:佐藤大輔、薬事新報:No.2565, 2009)
表を見ると、排膿散及湯(122)は「血虚」「化膿」「脾虚」と他の方剤とは少々性格が異なっています。
キーワードは「化膿」でしょうか。
他の方剤で「化膿」にチェックがあるのは柴胡清肝湯、荊芥連翹湯、清上防風湯の3つ。
この解説部分を抜粋;
「温清飲」の八味に柴胡、牛蒡子、連翹、薄荷、桔梗、括楼根、甘草を加えたものが「柴胡清 肝湯」であり「温清飲」の清熱・補血作用に加えて、去風邪・解毒排膿の作用が加わっており、風邪(ふうじゃ)の症状や、化膿しやすいといった症状がある時に使用する。そして「柴胡清肝湯」から牛蒡子、括楼根を除き、荊芥、防風、白芷、枳実を加えたものが「荊芥連翹湯」になるのでより去風邪・排膿の効が強くなる。
また、「清上防風湯」は生薬構成が黄岑、山梔子、黄連、桔梗、川芎、浜防風、白芷、連翹、甘草、枳実、荊芥、薄荷となっており、黄連解毒湯から黄柏を除いた三味と連翹による清熱解毒作用にその他の生薬による去風作用、解毒排膿の作用が加わっている。特に化膿しやすい皮膚炎,にきびなどには解毒排膿の作用を持つ生薬、「桔梗、枳実、白芷 」などを含む処方が多い。例えば「柴胡 清肝湯」「荊芥連翹湯」「清上防風湯」「十味敗毒 湯」「排膿散及湯」などがそうである。それぞれ特徴があるので使い分けると良いだろう。「十味敗毒湯」は風寒湿邪が原因である化膿性皮膚疾患に使用するので清熱作用のある生薬が入っていないのが特徴である。また「排膿散及湯」は桔梗、枳実、甘草、芍薬、大棗、生姜とシンプルな処方で、気血を充実させることにより排膿作用を促進させる処方になる。
次は小児の肛門周囲膿瘍に応用した症例報告から;
■ 肛門周囲膿瘍に漢方薬が有効だった 1 例(Kampo Square 2016 Vol.13 No.19)
なかしまこどもクリニック 中島俊彦
※ 「著名」は誤植で正しくは「著明」ですね。
排膿散及湯は『金匱要略』の排膿散と排膿湯を合した吉益東洞(江戸時代)創方による本朝経験方です。保険適応病名として、患部が発赤、腫脹して疼痛を伴った化膿症、瘍、 癤(フルンケル)などがあります。
(排膿散)化膿してもなかなか排膿せず、痛くてならない時に、迅速に排膿する効果がある。
(排膿湯)化膿性炎症のごく初期で、局所の発赤、圧痛はあるが、腫脹や緊張が少ない時期に用いる、
となっています。排膿散及湯は、これらの効果を併せ持っています。よって、『小さな膿は消失し、大きな膿は噴火して治る』となります。
臨床では、齲歯の疼痛、うっ滞性乳腺炎、慢性副鼻腔炎などにも応用できます。
引き続き小児の表在性感染症に適用した例から排膿散及湯の記述を抜粋;
■ 私の漢方診療日誌「小児の局所の感染症と漢方治療」
(たんぽぽこどもクリニック院長 石川功治)
・小児の肛門周囲膿瘍
(排膿散及湯)
肛門周囲膿瘍で発赤、膿み、腫れが特に著明な場合には十全大補湯よりもツムラ排膿散及湯(TJ-122)の方が良く効く場合があります。 排膿散及湯という漢方薬は、発赤があって膿みが溜まった状態の症状を改善させる桔梗や枳実といった排膿作用のある生薬成分が入っています。そのため、肛門周囲膿瘍だけではなく、局所に膿みが溜まって発赤のある状態であれば、排膿散及湯の方が良く効きます。例えば、扁桃腺やにきび、蜂窩織炎にも効きます。
・ニキビ
(排膿散及湯)
お子さんのなかなか治らない難治性のニキビや、ニキビ様皮膚炎には排膿散及湯が良く効きます。 使用の目標は、ニキビやニキビ様皮膚炎でみられる膿栓(膿みのかたまりが丸く集まったもの)が多発していて、皮膚に赤みがあれば排膿散及湯を使用するとよいでしょう。
排膿散及湯は、皮膚にたまった膿みを排出させる排膿作用をもつ生薬である桔梗や枳実を含んでおりますので良く効きます。もちろんミノサイクリン塩酸塩を併用しますと更に早く改善がみられます。
使用目標は、ニキビやニキビ様皮膚炎が完全に消失するまで、数カ月の長期内服が必要になることも十分あります。
・扁桃炎
(排膿散及湯)
排膿散及湯は、喉の痛みよりも扁桃腺に膿栓(膿みのかたまり)が多数みられる扁桃炎のお子さんに良く効く漢方薬です。構成生薬の桔梗と枳実に排膿作用がありますので、膿みがたまった扁桃炎に良く効きます。 使用目標は大体 1 週間です。
・面疔
(排膿散及湯)
お子さんの皮膚の局所に強い細菌感染を起こし、その炎症が強く、皮膚が真っ赤になって熱感と腫脹が激しい場合には、排膿散及湯が良く効きます。特に顔面に出来たお子さんの面疔には良く効きます。 使用目標は赤みが完全にとれるまで少し長目に 2 ~ 4 週間使用しても良いでしょう。
小児ではありませんが、皮膚潰瘍に対する漢方の記事に排膿散及湯が出てきました。
■ 私の漢方診療日誌「皮膚潰瘍に頻用される漢方の使いどころを知る」
(黒川晃夫 大阪医科大学皮膚科)
では最後に秋葉哲生先生の「活用自在の処方解説」より;
■ 排膿散及湯(122)
1.出典:
本朝経験方・・・『金匱要略』の排膿散、排膿湯を合した吉益東洞(江戸時代)創方による本朝経験方である。
2.腹候:
腹力は中等度前後(2-4/5)。発熱などのある急性期は、腹候によらずに化膿状態があれば適応される。腹直筋の拘攣があってもよい。
3.気血水:血水主体の気血水。
4.六病位:少陽病。
5.脈・舌: 全身性の発熱があれば浮大。
6.口訣:
●(本方の眼目は)桔梗と枳実と合したるところにあり。(浅田宗伯)
●桂枝茯苓丸と合して筋腫などの腫瘍性病変に適用される。(道聴子)
7.本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態(効能または効果)
患部が発赤、腫脹して疼痛を伴った化膿症、瘍、 、面疔、その他 腫症。
b 漢方的適応病態:化膿性疾患。
8.構成生薬:桔梗4、甘草3、枳実3、芍薬3、大棗3、生姜1。(単位g)
9.TCM的解説:清熱解毒・祛痰排膿・止痛・和胃。
11.本方で先人は何を治療したか?
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より:フルンケル、カルブンケル、蓄膿症、中耳炎、乳腺炎、痔瘻、潰瘍。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より:排膿散は、活動期の癰・疔・癤 ・瘭疽に用いられ、排膿湯は ・疔などのごく軽度のものか極期をすぎたものを治する作用がある。本方は二方を合方したもので、性格は排膿散にちかい。
<ヒ ン ト>
昭和60年ごろだが、著者らは自家製の排膿散を作って盛んに臨床応用したことがあった。
原方の排膿散は鶏子黄(卵の黄身)を混じて服用することになっているが、鶏子黄は省略して適応した。枳実、芍薬、桔梗の生薬末を混合して作成するのであるが、そのまま服用すると咽にイガイガした刺激があってなかなか飲みにくい。ところがあるとき原方通りに、鶏子黄をいれて浅い茶 わんに末を加えてスプーンでかき混ぜたところペースト状になり、試みに口に入れてみると刺激感はまったくなくて大いに飲みやすくなった。
合計で32症例の排膿散の経過をまとめて昭和61(1986)年の日本東洋医学会関東甲信越支部会で報告した。 急性疾患では身体各部分の (フルンケル)14例に、他の治療法を併用せず に本方単独で治療したところ有効11例、不変1例、悪化2例であった。6歳の男児の背中に多発したフルンケルは、成人量の2/3の排膿散4日間の服用で 一部は自壊し、一部は吸収された。
癤ではかなり手応えを感じたので、臀部に発する癰(カルブンケル)の2〜3例に用いてみた。しかし、これらは効果を示す前に苦痛が増大して切開排膿を余儀なくされた。
特筆すべき齲歯の痛みであった。これにはまことに有効で、1〜2服で痛みが頓挫することがよくあった。
うっ滞性乳腺炎は軽症例では本方のみで十分治療可能で、中等度以上の症例には抗生剤を併用して治癒している。
やや期待外れであったのは慢性副鼻腔炎で、既往に手術を受けたこともある比較的重症例を含む3例では、不変2例、悪化1例であった。
しかし私はこの方剤を使用した経験がありません。
小児科分野で適用するとしたら、肛門周囲膿瘍の急性期や、中耳炎・副鼻腔炎反復例で他の治療が効かない場合でしょうか。
どんな風に使えるのか、私に使いこなせるのか、調べてみました。
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<排膿散及湯のポイント>
・排膿散(本格的炎症に用いる)と排膿湯(きわめて初期の炎症および排膿後の時期に用いる)の合方であり、吉益東洞が考案した。東洞によると「排膿作用のある桔梗に、枳実のしこりをとる働きを加味することが秘訣」とのこと。
・排膿散と排膿湯の原典は『金匱要略』。
・「使用目標は、急性または慢性の炎症に用い、炎症の初期から排膿後まで広く用いられます。すなわち排膿湯は炎症の初期で、皮膚表面からあまり盛り上がりがない時期に吸収を目的に用い、排膿散は皮膚表面から半球状に隆起して硬く腫脹する時期で、その名の示す通り、排膿を目的として用います。以上の合方ですから、いずれの時期でも使用は可能ということであります。」(石野尚吾先生)
・「小さな膿は消失し、大きな膿は噴火して治る」(中島俊彦Dr.)
・甘草・生姜・大棗で補気健脾して正気を高めることが、より排膿を容易にする(高橋浩子Dr.)。
・「外界と交通性のある」すなわち「表在性」の化膿性病変を指標とする。交通性がないと排膿できない。
・「排膿湯は小柴胡湯、排膿散は四逆散に相当する」(大塚敬節先生)
・副鼻腔炎に対する効果は? ・・・「期待外れであったのは慢性副鼻腔炎で、既往に手術を受けたこともある比較的重症例を含む3例では、不変2例、悪化1例であった」(秋葉哲生先生)。
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まず、生薬構成と基本的な解説を。
■ 「気管支拡張症の急性増悪に麻杏甘石湯と排膿散及湯が奏効した症例」より
(漢方スクエア、高橋浩子Dr.)
※ 排膿湯の「化膿しやすくする」という箇所は「排膿しやすくなる」の間違いだと思います。
排膿散及湯は桔梗・枳実・芍薬・甘草・生姜・大棗から構成される方剤で、『金匱要略』の
排膿散(桔梗・枳実・芍薬) ・・・清熱解毒、去痰排膿
排膿湯(桔梗・甘草・生姜・大棗) ・・・赤く腫れた局所の緊張をゆるめ、排膿しやすくする
ーを合わせた処方です。
排膿散+排膿湯の構成である排膿散及湯を、慢性化した肺熱疾患に投与すると、キキョウ(桔梗)で気管の分泌を促進して去痰、消炎、鎮咳し、枳実・芍薬と合わせて排膿を促進します。また、甘草・生姜・大棗で補気健脾して正気を高めることが、より排膿を容易にする方向に働き、喀痰が綺麗になってきたのではないかと考えています。排膿散及湯は、化膿したニキビや乳腺症、歯肉炎には一般的です。
桔梗(消炎、鎮咳、去痰)の清熱作用と枳実・芍薬の排膿作用をメインに、桂枝湯の構成生薬として有名な胃薬トリオ(甘草・生姜・大棗)を加えた方剤と捉えることができます。
でもこの胃薬トリオ、主薬が強くて胃腸がもたれる際にも加えられる傾向がありますが、桔梗は胃に触るのかな・・・。
■ 「化膿性疾患に対する排膿散及湯の臨床経験」
(四日市医師会東洋医学研究会、Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol.40 No.3 2016)
・排膿散及湯は炎症初期から排膿後までの「外界と交通性のある」すなわち「表在性」の化膿性病変を指標とすることで臨床的な有用性が高まると思われる。
・排膿散及湯は吉益東洞が考案した配合剤である。すなわち「金匱要略」を原典とする排膿散(枳実・桔梗・芍薬)に排膿湯(甘草・桔梗・生姜・大棗)を合方したものである。きわめて初期の炎症および排膿後の時期に用いる排膿湯と本格的炎症に用いる排膿散を合方して、急性炎症の全期を通じて治療しようとした漢方薬である。
・排膿散及湯の特徴は清熱解毒、祛痰排膿、止痛および和胃である。その臨床上の使用目標は急性または慢性の炎症に用い、炎症の初期から排膿後まで広い。すなわち排膿湯は炎症初期の皮膚表面からあまり盛り上がりがない時期に吸収を目的に用い、排膿散は皮膚表面から半球状に隆起して硬く腫脹する時期に排膿を目的として用いる。
・排膿散は「金匱要略」の瘡癰腸癰浸淫病篇の薬方であり、瘡癰腸癰とは、現在の瘍(カルブンケル)や癤(フルンケル)などの化膿性疾患とされるが、 処方のみ記載され証が明らかでない。
・吉益東洞の「類聚方」に「瘡家、胸腹拘満、或は粘痰を吐し、或は便膿血の者を治す。また、瘡癰ありて、胸腹拘満する者これを主る」とあり、さらに「この方は諸瘡癰を排脱の効、最も速やかなり。その妙、桔梗と枳実を合わせたるところにあり」ということから、排膿作用のある桔梗に、枳実のしこりをとる働きを加味することが秘訣とされる。
<臨床報告例>
・小児外科領域では肛門周囲膿瘍に有効であったという報告が多く、手術導入症例を減少させることがよく知られている。
・皮膚科領域では掌蹠膿疱症に対する有効性の報告がある。
・眼科領域では内麦粒腫に対する排膿散及湯の有効性が報告されているが、これは日本東洋医学会の「漢方治療エビデンスレポート 2013」で排膿散及湯の唯一のランダム化比較試験とされている。
・婦人科領域では子宮留膿症に排膿散及湯が有効であったという報告がある。
・ウイルス感染症にも有効との報告がある。ムンプスウイルス感染症(野村信宏, 他. 日本東洋医学雑誌. 2008, 59 (別冊), p.193.)、尋常性疣贅や手足口病(松田三千雄.日本東洋医学雑誌.2008,59 (別冊), p.193.)、その他のウイルス感染症にも有効性が散発的に報告されており、排膿散及湯に IFN 誘導能がある可能性が示唆されている。
<基礎研究報告>
・歯科口腔外科領域で歯周病における排膿散及湯の抗炎症作用をin vitroの歯周病培養モデルで検討し、LPS 刺激による IL-6 や IL-8 の産生を増加させるなど、その有効性が確認されている。
・マウスを用いた実験研究でマウスに A群溶連菌を感染させ、排膿散及湯を投与したところ、IFN-γ や IL-12 産生促進によるマクロファージ貪食能の増強効果が認められた。抗菌薬以外のアプローチとして注目されるが、溶連菌は蜂窩織炎の原因菌の 1 つであり、有望な手段と思われる。
吉益東洞がどうして排膿散と排膿湯を合方したのかを知ると、この方剤の特徴と使い方がわかりやすいですね。
また、「外界へ通じる表在性化膿巣」というのもポイントと思われます。体内奥深くの化膿巣では排膿すべき通路がありませんから。
次は石野尚吾先生の総論。
■ 重要処方解説「排膿散及湯」
(北里研究所附属東洋医学総合研究所診療部長 石野尚吾)
この方は『金置要略』の排膿散と排膿湯を合わせたものです。その内容は枳実・芍薬・桔梗・甘草・大棗・生姜です。その薬用量は,『漢方処方集』(龍野一雄)によれば枳実・芍薬各5g、桔梗2g、甘草3g、大棗6g、乾生姜1gとなっており、『明解漢方処方』(西岡一夫)によれば、桔梗4g、甘草・大棗・芍薬各3g、生姜・枳実各2gとあります。
排膿散は『金匿要略』瘡癰腸癰浸淫病篇の薬方です。瘡癰腸癰とは、現在のフルンケル、カルブンケルなどの化膿性の疾患のことであり、浸淫病とは現在の何になるかよくわかりません。この処方は枳実、芍薬、桔梗、鶏子黄(けいしおう)の4味です。枳実、芍薬、桔梗を細末として,卵黄1個とよく混ぜて白湯で飲みます。これは『金匿要略』では方のみ記載され、証がありません。
排膿湯は甘草、桔梗、生姜、大裏からなり、排膿散の枳実、芍薬の代わりに大棗、甘草、生姜を配したものであります。
腫れもののごく初期で、皮膚からあまり盛り上がっておらず、少し熱を帯びて赤くなっている程度の時期には排膿湯を用い、局所が赤く腫れ上がって、圧痛のある場合には排膿散になります。
大塚敬節は「排膿湯は小柴胡湯、排膿散は四逆散に相当する」と述べております。
普通使われるのは排膿散で、排膿湯を投与する患者さんはわれわれのところにはあまり来ません。また大塚敬節は「排膿湯は排膿湯だけで単方で用い、排膿散を合方して用いない」と述べております。
◇ 古典・現代における用い方
【類聚方】
排膿散について吉益東洞の『類聚方』には「瘡家、胸腹拘満、或は粘痰を吐し,或は便膿血の者を治す。また瘡癰ありて胸腹拘満する者これを主る」 とあり、さらに「この方は諸瘡癰を排脱(押し出す、打ちのめす)の効、最も速やかなり。その妙、桔梗と枳実を合わせたるところにあり」とあります。 排膿の薬理として「その妙、桔梗と枳実を合わせたるところにあり」ということは、排膿作用のある桔梗に、枳実のしこりを取る働きを加味することが秘訣であるということでしょう。
【類聚方広義】
排膿散及湯としては『類聚方広義』排膿散の頭注に,「東洞先生、排膿湯と排膿散を合して排膿散及湯と名づけ、諸瘡瘍を療す。方用は排膿散の標に詳かなり、とあります。
【勿誤薬室方函口訣】
浅田宗伯の『勿誤薬室方函口訣』排膿散の項には、「この方を煎湯に活用するときは排膿湯と合方して宜し」とあります。
以上を総合しますと、排膿散及湯の臨床上の使用目標は、急性または慢性の炎症に用い、炎症の初期から排膿後まで広く用いられます。すなわち排膿湯は炎症の初期で、皮膚表面からあまり盛り上がりがない時期に吸収を目的に用い、排膿散は皮膚表面から半球状に隆起して硬く腫脹する時期で、その名の示す通り、排膿を目的として用います。以上の合方ですから、いずれの時期でも使用は可能ということであります。
応用疾患
応用としては、副鼻腔炎、中耳炎、乳腺炎、カルブンケル、フルンケルなどです。抗生物質の発達した今日では、急性の化膿症にはあまり用いないと思いますが、慢性副鼻腔炎、中耳炎などには用いられます。
鑑別
・千金内托散:「化膿性の慢性疾患があり、虚弱な人や疲れやすい人に用いる」
・十味敗毒湯:「神経質で胸脇苦満のある人の体質改善に用いる」
・伯州散」「慢性に移行した時に用い、急性期にはあまり用いず、主に頓用して用いる」
・一貫堂の荊防敗毒散:「頭痛が多く、局所の発赤、腫脹や疼痛に用いる」
・荊芥連翹湯:「皮膚全体が黒ずみ、腹直筋の緊張があり、青年期の体質改善に用いる」
よく参考にさせていただく、
■ 「皮膚科疾患に用いられる方剤の医薬品情報」より
(桂元堂薬局:佐藤大輔、薬事新報:No.2565, 2009)
表を見ると、排膿散及湯(122)は「血虚」「化膿」「脾虚」と他の方剤とは少々性格が異なっています。
キーワードは「化膿」でしょうか。
他の方剤で「化膿」にチェックがあるのは柴胡清肝湯、荊芥連翹湯、清上防風湯の3つ。
この解説部分を抜粋;
「温清飲」の八味に柴胡、牛蒡子、連翹、薄荷、桔梗、括楼根、甘草を加えたものが「柴胡清 肝湯」であり「温清飲」の清熱・補血作用に加えて、去風邪・解毒排膿の作用が加わっており、風邪(ふうじゃ)の症状や、化膿しやすいといった症状がある時に使用する。そして「柴胡清肝湯」から牛蒡子、括楼根を除き、荊芥、防風、白芷、枳実を加えたものが「荊芥連翹湯」になるのでより去風邪・排膿の効が強くなる。
また、「清上防風湯」は生薬構成が黄岑、山梔子、黄連、桔梗、川芎、浜防風、白芷、連翹、甘草、枳実、荊芥、薄荷となっており、黄連解毒湯から黄柏を除いた三味と連翹による清熱解毒作用にその他の生薬による去風作用、解毒排膿の作用が加わっている。特に化膿しやすい皮膚炎,にきびなどには解毒排膿の作用を持つ生薬、「桔梗、枳実、白芷 」などを含む処方が多い。例えば「柴胡 清肝湯」「荊芥連翹湯」「清上防風湯」「十味敗毒 湯」「排膿散及湯」などがそうである。それぞれ特徴があるので使い分けると良いだろう。「十味敗毒湯」は風寒湿邪が原因である化膿性皮膚疾患に使用するので清熱作用のある生薬が入っていないのが特徴である。また「排膿散及湯」は桔梗、枳実、甘草、芍薬、大棗、生姜とシンプルな処方で、気血を充実させることにより排膿作用を促進させる処方になる。
次は小児の肛門周囲膿瘍に応用した症例報告から;
■ 肛門周囲膿瘍に漢方薬が有効だった 1 例(Kampo Square 2016 Vol.13 No.19)
なかしまこどもクリニック 中島俊彦
※ 「著名」は誤植で正しくは「著明」ですね。
排膿散及湯は『金匱要略』の排膿散と排膿湯を合した吉益東洞(江戸時代)創方による本朝経験方です。保険適応病名として、患部が発赤、腫脹して疼痛を伴った化膿症、瘍、 癤(フルンケル)などがあります。
(排膿散)化膿してもなかなか排膿せず、痛くてならない時に、迅速に排膿する効果がある。
(排膿湯)化膿性炎症のごく初期で、局所の発赤、圧痛はあるが、腫脹や緊張が少ない時期に用いる、
となっています。排膿散及湯は、これらの効果を併せ持っています。よって、『小さな膿は消失し、大きな膿は噴火して治る』となります。
臨床では、齲歯の疼痛、うっ滞性乳腺炎、慢性副鼻腔炎などにも応用できます。
引き続き小児の表在性感染症に適用した例から排膿散及湯の記述を抜粋;
■ 私の漢方診療日誌「小児の局所の感染症と漢方治療」
(たんぽぽこどもクリニック院長 石川功治)
・小児の肛門周囲膿瘍
(排膿散及湯)
肛門周囲膿瘍で発赤、膿み、腫れが特に著明な場合には十全大補湯よりもツムラ排膿散及湯(TJ-122)の方が良く効く場合があります。 排膿散及湯という漢方薬は、発赤があって膿みが溜まった状態の症状を改善させる桔梗や枳実といった排膿作用のある生薬成分が入っています。そのため、肛門周囲膿瘍だけではなく、局所に膿みが溜まって発赤のある状態であれば、排膿散及湯の方が良く効きます。例えば、扁桃腺やにきび、蜂窩織炎にも効きます。
・ニキビ
(排膿散及湯)
お子さんのなかなか治らない難治性のニキビや、ニキビ様皮膚炎には排膿散及湯が良く効きます。 使用の目標は、ニキビやニキビ様皮膚炎でみられる膿栓(膿みのかたまりが丸く集まったもの)が多発していて、皮膚に赤みがあれば排膿散及湯を使用するとよいでしょう。
排膿散及湯は、皮膚にたまった膿みを排出させる排膿作用をもつ生薬である桔梗や枳実を含んでおりますので良く効きます。もちろんミノサイクリン塩酸塩を併用しますと更に早く改善がみられます。
使用目標は、ニキビやニキビ様皮膚炎が完全に消失するまで、数カ月の長期内服が必要になることも十分あります。
・扁桃炎
(排膿散及湯)
排膿散及湯は、喉の痛みよりも扁桃腺に膿栓(膿みのかたまり)が多数みられる扁桃炎のお子さんに良く効く漢方薬です。構成生薬の桔梗と枳実に排膿作用がありますので、膿みがたまった扁桃炎に良く効きます。 使用目標は大体 1 週間です。
・面疔
(排膿散及湯)
お子さんの皮膚の局所に強い細菌感染を起こし、その炎症が強く、皮膚が真っ赤になって熱感と腫脹が激しい場合には、排膿散及湯が良く効きます。特に顔面に出来たお子さんの面疔には良く効きます。 使用目標は赤みが完全にとれるまで少し長目に 2 ~ 4 週間使用しても良いでしょう。
小児ではありませんが、皮膚潰瘍に対する漢方の記事に排膿散及湯が出てきました。
■ 私の漢方診療日誌「皮膚潰瘍に頻用される漢方の使いどころを知る」
(黒川晃夫 大阪医科大学皮膚科)
では最後に秋葉哲生先生の「活用自在の処方解説」より;
■ 排膿散及湯(122)
1.出典:
本朝経験方・・・『金匱要略』の排膿散、排膿湯を合した吉益東洞(江戸時代)創方による本朝経験方である。
2.腹候:
腹力は中等度前後(2-4/5)。発熱などのある急性期は、腹候によらずに化膿状態があれば適応される。腹直筋の拘攣があってもよい。
3.気血水:血水主体の気血水。
4.六病位:少陽病。
5.脈・舌: 全身性の発熱があれば浮大。
6.口訣:
●(本方の眼目は)桔梗と枳実と合したるところにあり。(浅田宗伯)
●桂枝茯苓丸と合して筋腫などの腫瘍性病変に適用される。(道聴子)
7.本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態(効能または効果)
患部が発赤、腫脹して疼痛を伴った化膿症、瘍、 、面疔、その他 腫症。
b 漢方的適応病態:化膿性疾患。
8.構成生薬:桔梗4、甘草3、枳実3、芍薬3、大棗3、生姜1。(単位g)
9.TCM的解説:清熱解毒・祛痰排膿・止痛・和胃。
11.本方で先人は何を治療したか?
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より:フルンケル、カルブンケル、蓄膿症、中耳炎、乳腺炎、痔瘻、潰瘍。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より:排膿散は、活動期の癰・疔・癤 ・瘭疽に用いられ、排膿湯は ・疔などのごく軽度のものか極期をすぎたものを治する作用がある。本方は二方を合方したもので、性格は排膿散にちかい。
<ヒ ン ト>
昭和60年ごろだが、著者らは自家製の排膿散を作って盛んに臨床応用したことがあった。
原方の排膿散は鶏子黄(卵の黄身)を混じて服用することになっているが、鶏子黄は省略して適応した。枳実、芍薬、桔梗の生薬末を混合して作成するのであるが、そのまま服用すると咽にイガイガした刺激があってなかなか飲みにくい。ところがあるとき原方通りに、鶏子黄をいれて浅い茶 わんに末を加えてスプーンでかき混ぜたところペースト状になり、試みに口に入れてみると刺激感はまったくなくて大いに飲みやすくなった。
合計で32症例の排膿散の経過をまとめて昭和61(1986)年の日本東洋医学会関東甲信越支部会で報告した。 急性疾患では身体各部分の (フルンケル)14例に、他の治療法を併用せず に本方単独で治療したところ有効11例、不変1例、悪化2例であった。6歳の男児の背中に多発したフルンケルは、成人量の2/3の排膿散4日間の服用で 一部は自壊し、一部は吸収された。
癤ではかなり手応えを感じたので、臀部に発する癰(カルブンケル)の2〜3例に用いてみた。しかし、これらは効果を示す前に苦痛が増大して切開排膿を余儀なくされた。
特筆すべき齲歯の痛みであった。これにはまことに有効で、1〜2服で痛みが頓挫することがよくあった。
うっ滞性乳腺炎は軽症例では本方のみで十分治療可能で、中等度以上の症例には抗生剤を併用して治癒している。
やや期待外れであったのは慢性副鼻腔炎で、既往に手術を受けたこともある比較的重症例を含む3例では、不変2例、悪化1例であった。