ザッと俯瞰できるわかりやすい記事を見つけました。
<鼎談:便秘と下痢の漢方治療> 「漢方と診療」Vol.2 No.1(2011年2月ツムラ発行)
熊田 卓 先生(大垣市民病院消化器科部長)<司会>
千福 貞博 先生(センプククリニック院長)
飯塚 男 声男 先生(山口大学医学部附属病院漢方診療部准教授)
小児科医の私がふだん子どもたちに処方する漢方薬と、大人に使う方剤はちょっとラインナップが異なりますね。
参考になった箇所を抜粋;
□ 便秘の西洋医学的捉え方
健康な成人では 毎日 1 回有形の排便があることが多く、80 ~ 200 gくらいの重量があり、そのうち 70 ~ 80%は水分である。排便間隔に関しては個人差が大きく、便秘を自覚する感覚も人によって差がある。例えば毎日排便がある人が 3 日に 1 度になった場合には便秘と感じるし、もともと 1 週間に 1 回しか出ない人でもそれで不快でなければ便秘とはいわない。したがって西洋医学的に便秘を定義するのはきわめて困難である。便が固いとか残便感があるものが一般的には便秘ということになっており、女性や高齢者に多い。 そして全人口からみた有病率は、定義の仕方によって異なるが、約 5 ~ 20%。しかし、ほとんどの方は医療機関を受診せず、近くの薬局などで下剤を買って対応しているのが現状である。
便秘の成因、器質性・薬剤性・症候性・機能性の4つに分けられ、発症の経過からは、急性と慢性の 2 つに分けられる。
腸管狭窄・閉塞・大腸がん・捻転・先天的な筋層間神経叢の欠如などの器質的な疾患については、西洋医学的な治療を行うことになるが、補助として漢方が使われる場合もある。最近は薬剤性の便秘が多く、神経系の作用薬・抗精神薬・麻薬・抗コリン剤などが原因で便秘になる方もたくさんいる。また内分泌・代謝・中枢性疾患などが原因で症候性便秘になる方もいる。
しかし、なんといっても一番多いのは機能性の便秘である。生活習慣や環境の変化、精神的な要因で起こるもので、急性で一過性のものと慢性のものに分けられるが。問題となるのは慢性の方。慢性の便秘は痙攣性便秘・弛緩性便秘・直腸性便秘の 3 つに大きく分けられ、西洋医学では、さまざまな下剤・坐薬・浣腸・腸管運動亢進剤などを使って治療している。
□ 腹診から選ぶ便秘に対する漢方薬(千福による)
(腹診の所見) (方剤)
胸脇苦満 大柴胡湯
胸脇苦満+臍上悸 柴胡加竜骨牡蛎湯+大黄甘草湯
瘀血 右 大黄牡丹皮湯
左 桃核承気湯
両方 通導散
腹皮拘急 桂枝加芍薬大黄湯・小建中湯合大建中湯
□ 弛緩性便秘には麻子仁丸か潤腸湯
弛緩性の便秘で一番よく使うのは麻子仁丸である。麻子仁丸はお腹が痛くならずに便が出るので患者さんに喜ばれる薬の1つ。また、同じ目的で潤腸湯もよく使うが、これは皮膚がカサカサしているかどうかを決め手として麻子仁丸と使い分けている。したがって、アトピー性皮膚炎で便秘の方などにはファーストチョイスとして潤腸湯を使う。潤腸湯の代わりに、麻子仁丸と四物湯を合わせると同じような処方になるので、そういう使い方をしてもよいかもしれない。
高齢者の弛緩性便秘は、体力としては弱く虚証の人が多いと考えてよい。
比較的若い患者さんに対しては、弛緩性便秘でも大黄甘草湯や承気湯類などの大黄製剤を使うことが多い。ただしあまり大黄製剤を使いすぎると大腸メラノーシスで効かなくなってくることもあるので、注意しながら使うように 。
□ 直腸性の便秘には補中益気湯などの補剤もよい
痔を合併しているときは乙字湯が一番よい。乙字湯で効かないとき、両側下腹部に瘀血の所見があれば通導散を使う。直腸の最後のところに便があって気持ちが悪いという人によく効く。
高齢者で便が直腸まで来ているのに出ないという方には、補中益気湯・十全大補湯などの補剤を使うことが多い。それで元気が出て、便が出やすくなったという方が大勢いる。ただし補剤単独ではなく、大黄が入っている処方を少し加えたり、大建中湯と組み合わせたりしている。
補中益気湯は、筋肉を吊り上げる働きがある升麻という生薬が入っているので、胃下垂にも脱肛にも効くし、子宮脱など骨盤底筋が垂れ下がっている場合にもよく効く薬。西洋医学では坐薬や浣腸などの局所的な方法を取りるが、漢方では補剤で元から変えていこうと考える。
□ 痙攣性の便秘には芍薬の入った方剤を
痙攣性の便秘のほとんどは腹直筋が緊張した実証型なので、芍薬を少し入れて腸管のスパスムスを緩めて便が出るような形にすればよい。ファーストチョイスは桂枝加芍薬湯か桂枝加芍薬大黄湯を考え、あるいは大建中湯でもよい。パーキンソン病の患者さんのなかには、ひどい便秘になる人がいて、お腹を触ると腹直筋の緊張が高いので、桂枝加芍薬大黄湯を使うことが多い。
痙攣性便秘で痛みが前面に出る場合は芍薬甘草湯を使う場合がある。腹直筋がピーンと緊張している状態があれば、やはり桂枝加芍薬湯や桂枝加芍薬大黄湯を、また大建中湯もよく使う。
□ 大建中湯の応用
モルヒネや SSRI、三環系抗うつ薬で便秘になっている人には、ファーストチョイスで大建中湯を使う。大建中湯は人参の働きのせいか、メンタルな面にも効いて、元気になることが多い。
弛緩性便秘のほとんどの方がセンノシドなどの薬を飲んでおり、それらの薬が効きすぎたときに大建中湯を合わたり、また、漢方薬でも桃核承気湯や大黄甘草湯などの大黄製剤が効きすぎて下痢をしてしまうような方には、大黄剤は止めて大建中湯を使ったり、大黄の量を少し減らして大建中湯を合わせたりすると、快便となる例がある。
□ 子どもの便秘には小建中湯
子どもの便秘には小建中湯をよく使う。この薬を嫌がる子どもさんはほとんどいない。というのは、大建中湯と同じで膠飴が入っているので、とてもおいしく感じるらしい。
不登校の初期にも小建中湯がとてもよく効くことがある。 月曜日の朝になるとお腹が痛いと言って来る子どもに、小建中湯が劇的に効いた経験がある。最近は学校でトイレに行きたくないから学校に行かないという子どももいるが、排便リズムをつけるのにも漢方はよい。
□ 女性の便秘には駆瘀血剤が合うことが多い
女性の便秘に桃核承気湯を使うことが多い。特に生理前の黄体ホルモンが出る時期に便秘になる人が多いので、そのときに桃核承気湯を半包か1包だけ飲んでもらうと、とてもよく効く。
最近、OTCの防風通聖散を、便秘の改善というよりも瘦せることを目的に飲まれている女性が多いのが気になっている。防風通聖散は虚実でいうと実 証に近い、がっちりした体格の方で、便が出ないことによって肌荒れや湿疹などの症状が出やすい方にはよいが、便通はよくなってもそんなに劇的に瘦せることはない。むしろ女性の肥満と便秘には通導散。瘀血の所見があるかどうかのチェックは必要だが。
□ 西洋薬と漢方薬の併用
芍薬が入っている漢方処方とセンノシドを併用するとあまり腹痛が出なくなる。実際にはセンノシドを漢方とよく併用することが多い。どんなときかというと、少し大黄を増やしたいと思うとき。それはエキス製剤では難しいので、センノシドを 1 錠か 2 錠追加することによって、同様の効果を上げることができる。
大黄甘草湯などは切れ味がよい薬だが、西洋薬のセンノシドと一緒に漫然と使っているうちにだんだん効かなくなってくるというマイナス面がある。耐性ができてしまうといわれている。
□ 下痢の西洋医学的な捉え方
下痢の成因からの分類はなかなか難しいが、吸収過程で分類されることが多い。
1.腸粘膜からの吸収障害・・・ 例えば乳糖不耐症や下剤などを飲み続けた場合
2.腸管壁の滲出性の亢進・・・ 感染性胃腸炎などでよくみられる
3.腸粘膜水分の分泌亢進
4.腸管運動の異常・・・ この腸管運動の異常は、亢進と低下の両方があるが、亢進の場合は過敏性腸症候群(IBS)や甲状腺機能亢進症、そして低下の場合は糖尿病や狭心症などでも起こることがある。
また下痢の持続期間が 2 週間以内のものは急性、4 週間以上続くものは慢性と定義されている。
急性の下痢は感染性のものが多く、一般的には輸液・食事療法・抗生剤を含む対症療 法など西洋医学的治療が主体となる。
一方、慢性の下痢で最も多いのが IBS で、外来では 70 ~ 80%の方がそれに当たるといっても過言ではない。便秘と同様、一般成人の有病率が5~ 20%で、大腸疾患のなかでも圧倒的な割合を占めている。
□ 下痢の漢方的な捉え方
まず上腹部に水滞があるかどうかに着目する。水滞は、上腹部を揺さぶると振水音が聴取できたり、腫れた舌などの所見が特徴的。それから便通異常があるかどうかで分けて治療していく。こういった流れで下痢の患者さんを漢方的にみると、大きく2つに分類される。
1つは水滞によって水が出口を求めて水様性の下痢をするパターン。例えばお酒を飲みすぎて悪酔いし、上腹部に未消化なものが残っていて下痢をするような場合。
もう1つは水滞はなく、食傷(食べすぎ)などで消化不良を起こして熱性の下痢をするパターン。
つまり、冷たいイメージの下痢と、体の中に少し熱があって炎症が起きている下痢の2つに分けて考える。水滞性の下痢がある場合は、茯苓・猪苓・蒼朮など利水性の生薬が入った方剤を使って、腸管から血管の方に水分を再吸収させる。この場合は人参湯・六君子湯・五苓散などが適応となる。水滞の所見がなくて下痢をしている場合に私がよく使うのは半夏瀉心湯。少しムカムカがある場合は、半夏瀉心湯のエキス剤をお湯に溶いて、チューブ入りの練り生姜を足し生姜瀉心湯として使う。
急性下痢で、裏急後重(トイレに出たり入ったりを繰り返すようなとき)にはまず芍薬甘草湯を使って平滑筋の緊張を取ってあげるようにしている。それが少し落ち着いてきたら五苓散を使う。五苓散はあまり証に関係なく下痢には使える。腹診で心下痞鞕があれば、五苓散に半夏瀉心湯を合方する。胸脇苦満が強ければ五苓散に小柴胡湯を合方する。大阪でノロウイルスが流行ったときに、よく使っていたのが五苓散+半夏瀉心湯。ノロウイルスに感染すると、ほとんどの方に心下痞鞕が出る。それから腹診で上腹部が冷えている場合には人参湯を使う。大人の場合は少し桂皮の入った桂枝人参湯もよい。
□ 過敏性腸症候群(IBS)における桂枝加芍薬湯と半夏瀉心湯の使い分け
IBS の患者さんは各駅停車症候群ともいわれ、通勤電車の中でいつ腹痛や下痢が起こるかと思うと不安で各駅で降りてしまうという、日常生活がきわめて困難になる現代病の 1 つ。漢方が非常に期待できる分野である。
よく「IBS に桂枝加芍薬湯を使え」と書いてあるのですが、半夏瀉心湯も有効 。
中医学では五臓という考え方があり、肝・心・脾・肺・腎に注目する。IBS は五臓でいう脾と心の両方が弱っている状態であり、簡単にいえば、脾は西洋医学の消化管にあたり、味でいうと「甘」が支配していて、人参や甘草が主な生薬になる。心は「苦」が支配するので、生薬では黄連が適応となる。その甘味と苦味が一緒に入っている漢方薬が半夏瀉心湯である。 お腹を触って腹直筋の緊張が強ければ、先に桂枝加芍薬湯にしている。
桂枝加芍薬湯はプラセボと比較したダブルブラインド試験で、エビデンスが出ている。ただ、腹痛では有意差があったが、全般の改善度では差がなか ったとされている。
桂枝加芍薬湯は腹皮拘急でお腹がピーンと張っている方に使うほうが効果的。半夏瀉心湯に比べて高齢者に使うことが多い。半夏瀉心湯は、心下部の痛みがあり、裏急後重があって渋り腹がある、便臭も少し強め、お腹がゴロゴロいって便と一緒に排ガスもある、というような人によい。
というわけで、桂枝加芍薬湯と半夏瀉心湯の使い分けのポイントは・・・心下痞鞕があったら半夏瀉心湯、腹直筋の緊張があったら桂枝加芍薬湯。
□ がん化学療法の下痢に有効な漢方
半夏瀉心湯はイリノテカンの下痢に対するエビデ ンスがある薬。確かによく効くが、半分くらいは効かない方もいる。漢方的な所見を取るとやはり冷えがあって、人参湯や真武湯の方がよい場合もある。人参湯は即効性がある。人参湯の構成生薬は 4 つで、生薬数の少ないものは非常に即効性がある。
もともと冷え症で下痢体質の方は化学療法でもっとひどくなる場合があるので、まず半夏瀉心湯を使ってもよいが、3 日くらい使って効果がなければ それ以上使ってもあまり期待できない。とにかく消化管から血管の方に水分を引き込む作用が必要なので五苓散などがよい場合もある。五苓散は幅広い利水効果をもっているの、虚実などの証をあまり考えなくても使うことができる。
<便秘によく使われる方剤> (本鼎談内容を中心に。〔 〕内は製品番号)
(分類) (方剤)
弛緩性便秘 麻子仁丸〔126〕・潤腸湯〔51〕(麻子仁丸合四物湯)・大黄甘草湯〔84〕・大建中湯〔100〕
直腸性便秘 乙字湯〔3〕・通導散〔105〕・補中益気湯〔41〕・十全大補湯〔48〕・大建中湯〔100〕
痙攣性便秘 桂枝加芍薬湯〔60〕・桂枝加芍薬大黄湯〔134〕・大建中湯〔100〕・芍薬甘草湯〔68〕・桃核承気湯〔61〕
薬剤性便秘 大建中湯〔100〕
小児の便秘 小建中湯〔99〕
女性の便秘 通導散〔105〕・桃核承気湯〔61〕
糖尿病の便秘 麻子仁丸〔126〕
<下痢によく使われる方剤> ( 本鼎談内容を中心に。〔 〕内は製品番号 )
(分類) (方剤)
急性下痢 人参湯〔32〕・六君子湯〔43〕・五苓散〔17〕・半夏瀉心湯〔14〕・芍薬甘草湯〔68〕
五苓散合小柴胡湯(柴苓湯〔114〕)
IBSの下痢 桂枝加芍薬湯〔60〕・半夏瀉心湯〔14〕・人参湯〔32〕・大建中湯〔100〕・真武湯〔30〕
がん化学療法の下痢 半夏瀉心湯〔14〕・人参湯〔32〕・真武湯〔30〕・五苓散〔17〕
糖尿病の慢性下痢 清暑益気湯〔136〕
<鼎談:便秘と下痢の漢方治療> 「漢方と診療」Vol.2 No.1(2011年2月ツムラ発行)
熊田 卓 先生(大垣市民病院消化器科部長)<司会>
千福 貞博 先生(センプククリニック院長)
飯塚 男 声男 先生(山口大学医学部附属病院漢方診療部准教授)
小児科医の私がふだん子どもたちに処方する漢方薬と、大人に使う方剤はちょっとラインナップが異なりますね。
参考になった箇所を抜粋;
□ 便秘の西洋医学的捉え方
健康な成人では 毎日 1 回有形の排便があることが多く、80 ~ 200 gくらいの重量があり、そのうち 70 ~ 80%は水分である。排便間隔に関しては個人差が大きく、便秘を自覚する感覚も人によって差がある。例えば毎日排便がある人が 3 日に 1 度になった場合には便秘と感じるし、もともと 1 週間に 1 回しか出ない人でもそれで不快でなければ便秘とはいわない。したがって西洋医学的に便秘を定義するのはきわめて困難である。便が固いとか残便感があるものが一般的には便秘ということになっており、女性や高齢者に多い。 そして全人口からみた有病率は、定義の仕方によって異なるが、約 5 ~ 20%。しかし、ほとんどの方は医療機関を受診せず、近くの薬局などで下剤を買って対応しているのが現状である。
便秘の成因、器質性・薬剤性・症候性・機能性の4つに分けられ、発症の経過からは、急性と慢性の 2 つに分けられる。
腸管狭窄・閉塞・大腸がん・捻転・先天的な筋層間神経叢の欠如などの器質的な疾患については、西洋医学的な治療を行うことになるが、補助として漢方が使われる場合もある。最近は薬剤性の便秘が多く、神経系の作用薬・抗精神薬・麻薬・抗コリン剤などが原因で便秘になる方もたくさんいる。また内分泌・代謝・中枢性疾患などが原因で症候性便秘になる方もいる。
しかし、なんといっても一番多いのは機能性の便秘である。生活習慣や環境の変化、精神的な要因で起こるもので、急性で一過性のものと慢性のものに分けられるが。問題となるのは慢性の方。慢性の便秘は痙攣性便秘・弛緩性便秘・直腸性便秘の 3 つに大きく分けられ、西洋医学では、さまざまな下剤・坐薬・浣腸・腸管運動亢進剤などを使って治療している。
□ 腹診から選ぶ便秘に対する漢方薬(千福による)
(腹診の所見) (方剤)
胸脇苦満 大柴胡湯
胸脇苦満+臍上悸 柴胡加竜骨牡蛎湯+大黄甘草湯
瘀血 右 大黄牡丹皮湯
左 桃核承気湯
両方 通導散
腹皮拘急 桂枝加芍薬大黄湯・小建中湯合大建中湯
□ 弛緩性便秘には麻子仁丸か潤腸湯
弛緩性の便秘で一番よく使うのは麻子仁丸である。麻子仁丸はお腹が痛くならずに便が出るので患者さんに喜ばれる薬の1つ。また、同じ目的で潤腸湯もよく使うが、これは皮膚がカサカサしているかどうかを決め手として麻子仁丸と使い分けている。したがって、アトピー性皮膚炎で便秘の方などにはファーストチョイスとして潤腸湯を使う。潤腸湯の代わりに、麻子仁丸と四物湯を合わせると同じような処方になるので、そういう使い方をしてもよいかもしれない。
高齢者の弛緩性便秘は、体力としては弱く虚証の人が多いと考えてよい。
比較的若い患者さんに対しては、弛緩性便秘でも大黄甘草湯や承気湯類などの大黄製剤を使うことが多い。ただしあまり大黄製剤を使いすぎると大腸メラノーシスで効かなくなってくることもあるので、注意しながら使うように 。
□ 直腸性の便秘には補中益気湯などの補剤もよい
痔を合併しているときは乙字湯が一番よい。乙字湯で効かないとき、両側下腹部に瘀血の所見があれば通導散を使う。直腸の最後のところに便があって気持ちが悪いという人によく効く。
高齢者で便が直腸まで来ているのに出ないという方には、補中益気湯・十全大補湯などの補剤を使うことが多い。それで元気が出て、便が出やすくなったという方が大勢いる。ただし補剤単独ではなく、大黄が入っている処方を少し加えたり、大建中湯と組み合わせたりしている。
補中益気湯は、筋肉を吊り上げる働きがある升麻という生薬が入っているので、胃下垂にも脱肛にも効くし、子宮脱など骨盤底筋が垂れ下がっている場合にもよく効く薬。西洋医学では坐薬や浣腸などの局所的な方法を取りるが、漢方では補剤で元から変えていこうと考える。
□ 痙攣性の便秘には芍薬の入った方剤を
痙攣性の便秘のほとんどは腹直筋が緊張した実証型なので、芍薬を少し入れて腸管のスパスムスを緩めて便が出るような形にすればよい。ファーストチョイスは桂枝加芍薬湯か桂枝加芍薬大黄湯を考え、あるいは大建中湯でもよい。パーキンソン病の患者さんのなかには、ひどい便秘になる人がいて、お腹を触ると腹直筋の緊張が高いので、桂枝加芍薬大黄湯を使うことが多い。
痙攣性便秘で痛みが前面に出る場合は芍薬甘草湯を使う場合がある。腹直筋がピーンと緊張している状態があれば、やはり桂枝加芍薬湯や桂枝加芍薬大黄湯を、また大建中湯もよく使う。
□ 大建中湯の応用
モルヒネや SSRI、三環系抗うつ薬で便秘になっている人には、ファーストチョイスで大建中湯を使う。大建中湯は人参の働きのせいか、メンタルな面にも効いて、元気になることが多い。
弛緩性便秘のほとんどの方がセンノシドなどの薬を飲んでおり、それらの薬が効きすぎたときに大建中湯を合わたり、また、漢方薬でも桃核承気湯や大黄甘草湯などの大黄製剤が効きすぎて下痢をしてしまうような方には、大黄剤は止めて大建中湯を使ったり、大黄の量を少し減らして大建中湯を合わせたりすると、快便となる例がある。
□ 子どもの便秘には小建中湯
子どもの便秘には小建中湯をよく使う。この薬を嫌がる子どもさんはほとんどいない。というのは、大建中湯と同じで膠飴が入っているので、とてもおいしく感じるらしい。
不登校の初期にも小建中湯がとてもよく効くことがある。 月曜日の朝になるとお腹が痛いと言って来る子どもに、小建中湯が劇的に効いた経験がある。最近は学校でトイレに行きたくないから学校に行かないという子どももいるが、排便リズムをつけるのにも漢方はよい。
□ 女性の便秘には駆瘀血剤が合うことが多い
女性の便秘に桃核承気湯を使うことが多い。特に生理前の黄体ホルモンが出る時期に便秘になる人が多いので、そのときに桃核承気湯を半包か1包だけ飲んでもらうと、とてもよく効く。
最近、OTCの防風通聖散を、便秘の改善というよりも瘦せることを目的に飲まれている女性が多いのが気になっている。防風通聖散は虚実でいうと実 証に近い、がっちりした体格の方で、便が出ないことによって肌荒れや湿疹などの症状が出やすい方にはよいが、便通はよくなってもそんなに劇的に瘦せることはない。むしろ女性の肥満と便秘には通導散。瘀血の所見があるかどうかのチェックは必要だが。
□ 西洋薬と漢方薬の併用
芍薬が入っている漢方処方とセンノシドを併用するとあまり腹痛が出なくなる。実際にはセンノシドを漢方とよく併用することが多い。どんなときかというと、少し大黄を増やしたいと思うとき。それはエキス製剤では難しいので、センノシドを 1 錠か 2 錠追加することによって、同様の効果を上げることができる。
大黄甘草湯などは切れ味がよい薬だが、西洋薬のセンノシドと一緒に漫然と使っているうちにだんだん効かなくなってくるというマイナス面がある。耐性ができてしまうといわれている。
□ 下痢の西洋医学的な捉え方
下痢の成因からの分類はなかなか難しいが、吸収過程で分類されることが多い。
1.腸粘膜からの吸収障害・・・ 例えば乳糖不耐症や下剤などを飲み続けた場合
2.腸管壁の滲出性の亢進・・・ 感染性胃腸炎などでよくみられる
3.腸粘膜水分の分泌亢進
4.腸管運動の異常・・・ この腸管運動の異常は、亢進と低下の両方があるが、亢進の場合は過敏性腸症候群(IBS)や甲状腺機能亢進症、そして低下の場合は糖尿病や狭心症などでも起こることがある。
また下痢の持続期間が 2 週間以内のものは急性、4 週間以上続くものは慢性と定義されている。
急性の下痢は感染性のものが多く、一般的には輸液・食事療法・抗生剤を含む対症療 法など西洋医学的治療が主体となる。
一方、慢性の下痢で最も多いのが IBS で、外来では 70 ~ 80%の方がそれに当たるといっても過言ではない。便秘と同様、一般成人の有病率が5~ 20%で、大腸疾患のなかでも圧倒的な割合を占めている。
□ 下痢の漢方的な捉え方
まず上腹部に水滞があるかどうかに着目する。水滞は、上腹部を揺さぶると振水音が聴取できたり、腫れた舌などの所見が特徴的。それから便通異常があるかどうかで分けて治療していく。こういった流れで下痢の患者さんを漢方的にみると、大きく2つに分類される。
1つは水滞によって水が出口を求めて水様性の下痢をするパターン。例えばお酒を飲みすぎて悪酔いし、上腹部に未消化なものが残っていて下痢をするような場合。
もう1つは水滞はなく、食傷(食べすぎ)などで消化不良を起こして熱性の下痢をするパターン。
つまり、冷たいイメージの下痢と、体の中に少し熱があって炎症が起きている下痢の2つに分けて考える。水滞性の下痢がある場合は、茯苓・猪苓・蒼朮など利水性の生薬が入った方剤を使って、腸管から血管の方に水分を再吸収させる。この場合は人参湯・六君子湯・五苓散などが適応となる。水滞の所見がなくて下痢をしている場合に私がよく使うのは半夏瀉心湯。少しムカムカがある場合は、半夏瀉心湯のエキス剤をお湯に溶いて、チューブ入りの練り生姜を足し生姜瀉心湯として使う。
急性下痢で、裏急後重(トイレに出たり入ったりを繰り返すようなとき)にはまず芍薬甘草湯を使って平滑筋の緊張を取ってあげるようにしている。それが少し落ち着いてきたら五苓散を使う。五苓散はあまり証に関係なく下痢には使える。腹診で心下痞鞕があれば、五苓散に半夏瀉心湯を合方する。胸脇苦満が強ければ五苓散に小柴胡湯を合方する。大阪でノロウイルスが流行ったときに、よく使っていたのが五苓散+半夏瀉心湯。ノロウイルスに感染すると、ほとんどの方に心下痞鞕が出る。それから腹診で上腹部が冷えている場合には人参湯を使う。大人の場合は少し桂皮の入った桂枝人参湯もよい。
□ 過敏性腸症候群(IBS)における桂枝加芍薬湯と半夏瀉心湯の使い分け
IBS の患者さんは各駅停車症候群ともいわれ、通勤電車の中でいつ腹痛や下痢が起こるかと思うと不安で各駅で降りてしまうという、日常生活がきわめて困難になる現代病の 1 つ。漢方が非常に期待できる分野である。
よく「IBS に桂枝加芍薬湯を使え」と書いてあるのですが、半夏瀉心湯も有効 。
中医学では五臓という考え方があり、肝・心・脾・肺・腎に注目する。IBS は五臓でいう脾と心の両方が弱っている状態であり、簡単にいえば、脾は西洋医学の消化管にあたり、味でいうと「甘」が支配していて、人参や甘草が主な生薬になる。心は「苦」が支配するので、生薬では黄連が適応となる。その甘味と苦味が一緒に入っている漢方薬が半夏瀉心湯である。 お腹を触って腹直筋の緊張が強ければ、先に桂枝加芍薬湯にしている。
桂枝加芍薬湯はプラセボと比較したダブルブラインド試験で、エビデンスが出ている。ただ、腹痛では有意差があったが、全般の改善度では差がなか ったとされている。
桂枝加芍薬湯は腹皮拘急でお腹がピーンと張っている方に使うほうが効果的。半夏瀉心湯に比べて高齢者に使うことが多い。半夏瀉心湯は、心下部の痛みがあり、裏急後重があって渋り腹がある、便臭も少し強め、お腹がゴロゴロいって便と一緒に排ガスもある、というような人によい。
というわけで、桂枝加芍薬湯と半夏瀉心湯の使い分けのポイントは・・・心下痞鞕があったら半夏瀉心湯、腹直筋の緊張があったら桂枝加芍薬湯。
□ がん化学療法の下痢に有効な漢方
半夏瀉心湯はイリノテカンの下痢に対するエビデ ンスがある薬。確かによく効くが、半分くらいは効かない方もいる。漢方的な所見を取るとやはり冷えがあって、人参湯や真武湯の方がよい場合もある。人参湯は即効性がある。人参湯の構成生薬は 4 つで、生薬数の少ないものは非常に即効性がある。
もともと冷え症で下痢体質の方は化学療法でもっとひどくなる場合があるので、まず半夏瀉心湯を使ってもよいが、3 日くらい使って効果がなければ それ以上使ってもあまり期待できない。とにかく消化管から血管の方に水分を引き込む作用が必要なので五苓散などがよい場合もある。五苓散は幅広い利水効果をもっているの、虚実などの証をあまり考えなくても使うことができる。
<便秘によく使われる方剤> (本鼎談内容を中心に。〔 〕内は製品番号)
(分類) (方剤)
弛緩性便秘 麻子仁丸〔126〕・潤腸湯〔51〕(麻子仁丸合四物湯)・大黄甘草湯〔84〕・大建中湯〔100〕
直腸性便秘 乙字湯〔3〕・通導散〔105〕・補中益気湯〔41〕・十全大補湯〔48〕・大建中湯〔100〕
痙攣性便秘 桂枝加芍薬湯〔60〕・桂枝加芍薬大黄湯〔134〕・大建中湯〔100〕・芍薬甘草湯〔68〕・桃核承気湯〔61〕
薬剤性便秘 大建中湯〔100〕
小児の便秘 小建中湯〔99〕
女性の便秘 通導散〔105〕・桃核承気湯〔61〕
糖尿病の便秘 麻子仁丸〔126〕
<下痢によく使われる方剤> ( 本鼎談内容を中心に。〔 〕内は製品番号 )
(分類) (方剤)
急性下痢 人参湯〔32〕・六君子湯〔43〕・五苓散〔17〕・半夏瀉心湯〔14〕・芍薬甘草湯〔68〕
五苓散合小柴胡湯(柴苓湯〔114〕)
IBSの下痢 桂枝加芍薬湯〔60〕・半夏瀉心湯〔14〕・人参湯〔32〕・大建中湯〔100〕・真武湯〔30〕
がん化学療法の下痢 半夏瀉心湯〔14〕・人参湯〔32〕・真武湯〔30〕・五苓散〔17〕
糖尿病の慢性下痢 清暑益気湯〔136〕