■ 概要
鶏卵(以下卵)は食物アレルギーの中で最も多い原因アレルゲンで、全年齢においては38%、0歳児の食物アレルギーの5〜8割を占めると言われています。
一口に卵アレルギーと云っても症状の程度は様々で、ショックを起こす重症例から生卵以外は食べても症状の出ない軽症例まで存在します。即時型アレルギー症状では、皮膚症状(77%)、消化器症状(32%)、呼吸器症状(24%)の順で多く見られ、消化器症状が比較的多い特徴があります。
治療の基本は症状が出る食品を食べない除去食療法です。医師の指示のもと、重症度に応じて適切な食物除去を行い、除去により不足する栄養を代替食品で補う方法です。
卵アレルギーは3歳までに50%、6歳までに70%が治ります(※)ので、医師と相談の上、適切な時期に食物除去を解除していきます。ただし重症例は危険を伴いますので、入院の上、食物負荷試験を行います。
※ 3歳までに30.9%、6歳までに73%が耐性獲得(資料㊱)
■ 卵の中のアレルゲンについて
・ 鶏卵のアレルゲンは主に卵白(白身)に存在し、「オボアルブミン」「オボムコイド」「リゾチーム」などのアレルゲン・コンポーネントが主犯格です。卵黄(黄身)がアレルギーを起こす力は実は弱いのです。
・「オボムコイド」は耐熱性アレルゲンと呼ばれ、加熱しても分解しません。残念ながら、オボムコイドの特異的IgE抗体陽性者は卵を加熱調理しても症状の出やすさは変わりません。
・最近、小麦や米といった副材料を混ぜて加熱調理すると、オボムコイドが水溶性へ不溶性変化し、抗原性が低下するという報告もあります(伊藤節子先生)。
※ 卵アレルギーの方が注意すべき医薬品(当院で処方されることはありません);
リゾチームは「塩化リゾチーム」として市販の風邪薬の一部に使用されていますので注意が必要です。
(処方薬の例)レフトーゼ® ノイチーム® アクディーム®・・・いわゆるジェネリックにも多数あり、薬剤名を挙げるとキリがありません・・・しかし、2016年に発売が中止になりました。
■ 卵アレルギーで注意すべきポイント
・アレルギー食品表示;
卵は特定原材料として食品衛生法によりスーパーなどで市販される加工食品への表示を義務づけられています。しかし、食堂や食品売り場でつくられた料理・総菜、ファーストフード、レストランには表示義務がないので注意が必要です。アヒル卵、ウズラ卵も表示対象ですが、魚卵や爬虫類の卵は対象外です。
・ゆで卵を食べて症状が出る人は、生卵を食べて症状が出る人の半分です。
・卵黄:生卵から卵黄だけ取り出すと卵白の混入が避けられないため、卵黄だけを使用した食品や調理も除去の対象とすべきです。
・鶏肉と卵白は交差反応しないので別のアレルゲンと考えます。鶏肉を食べて症状が出る人は卵アレルギー児の5%以下です。肉類は加熱による低アレルゲン化が起こりやすく、食肉の多くは加熱調理して摂取されるためアレルギー症状は出にくいとされています。鶏肉アレルギーの患者さんは他の鳥の肉にも反応する可能性が指摘されていますが、やはり加熱調理により低アレルゲン化する傾向があります。
・ニワトリ以外の鳥の卵(ウズラ、ダチョウ/ガチョウ、アヒル、カモ、七面鳥・・・)は鶏卵と交差反応を起こします。反応の強さは鶏卵より弱い傾向がありますが、鶏卵と同じレベルの除去が必要です。
・魚卵と卵白は交差反応しないため、別のアレルゲンと考えます。魚卵に反応する鶏卵アレルギー児は希です(イクラでは3〜5%)。
・加工食品に添加されている「卵殻カルシウム」には卵の成分が微量混入している可能性がありますが、焼成・未焼成ともにアレルギー反応を起こすことは希で無視できるレベルです。ただし、鶏肉を食べると症状が出る過敏な方はやめておいた方が無難でしょう。
・重症例では卵に触れたり舐めただけでも症状が出ることがあります。
Q. マヨネーズの原料は「卵黄」だから大丈夫?
A. いいえ。
生の卵黄に脂と酢を加えてできるマヨネーズですが、生の卵黄と卵白を厳密に分けることは不可能なので卵白も混入します。卵黄成分が油で守られたようになって長期保存が可能となりますが、アレルゲン性は強いのです。アイスクリームも同様に、卵黄が主原料ですが卵白も混入しています。
ただし、マヨネーズは酢(酢酸)と混じり合って変性しているため、生卵よりも食べられる可能性が高い食品ではあります。
Q. 鶏卵アレルギーと魚卵アレルギーは関係ありますか?
A. 関係ありません。
前述のように抗原性については科学的なデータから関連性は否定されています。
ただ、乳幼児では鶏卵アレルギーが多く、鶏卵アレルギーがないのに他の食物アレルギーがあることはほとんど無いという事実があります。そのため、イクラアレルギーはほぼ100%が鶏卵アレルギーの子どもに発症するのも事実です。
Q. 卵アレルギーの子どもが注意すべき予防接種は何がありますか?
A. 麻疹ワクチンとインフルエンザワクチンです(理論上は安全ですが)。
麻疹ワクチンに関しては、1990年代にアレルギー性副反応が多発して問題になりましたが、その原因は卵成分ではなく添加物のゼラチンであることが判明しました。重症の卵アレルギー児の中にはゼラチンにも反応する患者がいたということですね。現在製造されているワクチンからは除去されていますので問題ありません。
ワクチンに含まれるオボアルブミン(卵白アレルゲン)でアナフィラキシーを引き起こす濃度は600ng/回(ワクチン濃度としては1200ng/ml)以上と云われています。一方、麻疹ワクチンに含まれるオボアルブミンの濃度は1ng/ml以下、最近(2010年時点)の国産のインフルエンザワクチンに含まれるオボアルブミン濃度は10ng/ml以下です。つまり、理論上副反応は起こらないことになり、安全と考えられます。
少なくとも鶏卵でアナフィラキシーなど重篤な症状を起こさない児では、普通に接種して差し支えありません。微量でもアナフィラキシーを起こすような重症者では、接種に際して事前に皮膚テスト、プリックテスト、分割接種なども考慮します。どれも完全なものではないので、有事の際に対応可能な体制で行うことが必要です。
※ 予防接種総論「卵アレルギー児への予防接種」もご参照ください。
■ 卵アレルギーの除去食品と代替食品
卵入り食品をアレルゲン性の強弱順に並べ、その代わりになる食品を例示した表です。いろいろな書籍で作られていて比較すると微妙に異なるのですが、この表が一番整理されていると思われます。
この表は、制限食を解除する際にも利用します。医師の管理の下、一番下の欄の食品少量から開始し、症状が誘発されたら中止してまた数ヶ月後にトライし・・・これを繰り返しているといずれ症状が出ないときが訪れます。その後は量と回数を増やし、その食品がクリアできたら同じレベルの種類を増やし、その欄を制覇したら次の強度の食品を試す・・・この粘り強い繰り返しで解除を進めることになります。

(「食物アレルギー児のための指導マニュアル」診断と治療社、2008年発行より)
<こんなものにも注意!>
・外食用サラダ・・・ 乾燥防止の予防スプレー
・表面の光沢・・・ 味付け海苔、一部の和菓子、菓子パン
・卵白で濁りを取る・・・ こんにゃく、メープルシロップ、はちみつ、コンソメスープ、果実酢、みりん
・製造ラインで混入・・・パン、菓子パン、ベビーフードなど
・その他の卵・・・しらす干し(お腹がオレンジのもの)
鶏卵(以下卵)は食物アレルギーの中で最も多い原因アレルゲンで、全年齢においては38%、0歳児の食物アレルギーの5〜8割を占めると言われています。
一口に卵アレルギーと云っても症状の程度は様々で、ショックを起こす重症例から生卵以外は食べても症状の出ない軽症例まで存在します。即時型アレルギー症状では、皮膚症状(77%)、消化器症状(32%)、呼吸器症状(24%)の順で多く見られ、消化器症状が比較的多い特徴があります。
治療の基本は症状が出る食品を食べない除去食療法です。医師の指示のもと、重症度に応じて適切な食物除去を行い、除去により不足する栄養を代替食品で補う方法です。
卵アレルギーは3歳までに50%、6歳までに70%が治ります(※)ので、医師と相談の上、適切な時期に食物除去を解除していきます。ただし重症例は危険を伴いますので、入院の上、食物負荷試験を行います。
※ 3歳までに30.9%、6歳までに73%が耐性獲得(資料㊱)
■ 卵の中のアレルゲンについて
・ 鶏卵のアレルゲンは主に卵白(白身)に存在し、「オボアルブミン」「オボムコイド」「リゾチーム」などのアレルゲン・コンポーネントが主犯格です。卵黄(黄身)がアレルギーを起こす力は実は弱いのです。
・「オボムコイド」は耐熱性アレルゲンと呼ばれ、加熱しても分解しません。残念ながら、オボムコイドの特異的IgE抗体陽性者は卵を加熱調理しても症状の出やすさは変わりません。
・最近、小麦や米といった副材料を混ぜて加熱調理すると、オボムコイドが水溶性へ不溶性変化し、抗原性が低下するという報告もあります(伊藤節子先生)。
※ 卵アレルギーの方が注意すべき医薬品(当院で処方されることはありません);
リゾチームは「塩化リゾチーム」として市販の風邪薬の一部に使用されていますので注意が必要です。
(処方薬の例)レフトーゼ® ノイチーム® アクディーム®・・・いわゆるジェネリックにも多数あり、薬剤名を挙げるとキリがありません・・・しかし、2016年に発売が中止になりました。
■ 卵アレルギーで注意すべきポイント
・アレルギー食品表示;
卵は特定原材料として食品衛生法によりスーパーなどで市販される加工食品への表示を義務づけられています。しかし、食堂や食品売り場でつくられた料理・総菜、ファーストフード、レストランには表示義務がないので注意が必要です。アヒル卵、ウズラ卵も表示対象ですが、魚卵や爬虫類の卵は対象外です。
・ゆで卵を食べて症状が出る人は、生卵を食べて症状が出る人の半分です。
・卵黄:生卵から卵黄だけ取り出すと卵白の混入が避けられないため、卵黄だけを使用した食品や調理も除去の対象とすべきです。
・鶏肉と卵白は交差反応しないので別のアレルゲンと考えます。鶏肉を食べて症状が出る人は卵アレルギー児の5%以下です。肉類は加熱による低アレルゲン化が起こりやすく、食肉の多くは加熱調理して摂取されるためアレルギー症状は出にくいとされています。鶏肉アレルギーの患者さんは他の鳥の肉にも反応する可能性が指摘されていますが、やはり加熱調理により低アレルゲン化する傾向があります。
・ニワトリ以外の鳥の卵(ウズラ、ダチョウ/ガチョウ、アヒル、カモ、七面鳥・・・)は鶏卵と交差反応を起こします。反応の強さは鶏卵より弱い傾向がありますが、鶏卵と同じレベルの除去が必要です。
・魚卵と卵白は交差反応しないため、別のアレルゲンと考えます。魚卵に反応する鶏卵アレルギー児は希です(イクラでは3〜5%)。
・加工食品に添加されている「卵殻カルシウム」には卵の成分が微量混入している可能性がありますが、焼成・未焼成ともにアレルギー反応を起こすことは希で無視できるレベルです。ただし、鶏肉を食べると症状が出る過敏な方はやめておいた方が無難でしょう。
・重症例では卵に触れたり舐めただけでも症状が出ることがあります。
Q. マヨネーズの原料は「卵黄」だから大丈夫?
A. いいえ。
生の卵黄に脂と酢を加えてできるマヨネーズですが、生の卵黄と卵白を厳密に分けることは不可能なので卵白も混入します。卵黄成分が油で守られたようになって長期保存が可能となりますが、アレルゲン性は強いのです。アイスクリームも同様に、卵黄が主原料ですが卵白も混入しています。
ただし、マヨネーズは酢(酢酸)と混じり合って変性しているため、生卵よりも食べられる可能性が高い食品ではあります。
Q. 鶏卵アレルギーと魚卵アレルギーは関係ありますか?
A. 関係ありません。
前述のように抗原性については科学的なデータから関連性は否定されています。
ただ、乳幼児では鶏卵アレルギーが多く、鶏卵アレルギーがないのに他の食物アレルギーがあることはほとんど無いという事実があります。そのため、イクラアレルギーはほぼ100%が鶏卵アレルギーの子どもに発症するのも事実です。
Q. 卵アレルギーの子どもが注意すべき予防接種は何がありますか?
A. 麻疹ワクチンとインフルエンザワクチンです(理論上は安全ですが)。
麻疹ワクチンに関しては、1990年代にアレルギー性副反応が多発して問題になりましたが、その原因は卵成分ではなく添加物のゼラチンであることが判明しました。重症の卵アレルギー児の中にはゼラチンにも反応する患者がいたということですね。現在製造されているワクチンからは除去されていますので問題ありません。
ワクチンに含まれるオボアルブミン(卵白アレルゲン)でアナフィラキシーを引き起こす濃度は600ng/回(ワクチン濃度としては1200ng/ml)以上と云われています。一方、麻疹ワクチンに含まれるオボアルブミンの濃度は1ng/ml以下、最近(2010年時点)の国産のインフルエンザワクチンに含まれるオボアルブミン濃度は10ng/ml以下です。つまり、理論上副反応は起こらないことになり、安全と考えられます。
少なくとも鶏卵でアナフィラキシーなど重篤な症状を起こさない児では、普通に接種して差し支えありません。微量でもアナフィラキシーを起こすような重症者では、接種に際して事前に皮膚テスト、プリックテスト、分割接種なども考慮します。どれも完全なものではないので、有事の際に対応可能な体制で行うことが必要です。
※ 予防接種総論「卵アレルギー児への予防接種」もご参照ください。
■ 卵アレルギーの除去食品と代替食品
卵入り食品をアレルゲン性の強弱順に並べ、その代わりになる食品を例示した表です。いろいろな書籍で作られていて比較すると微妙に異なるのですが、この表が一番整理されていると思われます。
この表は、制限食を解除する際にも利用します。医師の管理の下、一番下の欄の食品少量から開始し、症状が誘発されたら中止してまた数ヶ月後にトライし・・・これを繰り返しているといずれ症状が出ないときが訪れます。その後は量と回数を増やし、その食品がクリアできたら同じレベルの種類を増やし、その欄を制覇したら次の強度の食品を試す・・・この粘り強い繰り返しで解除を進めることになります。

(「食物アレルギー児のための指導マニュアル」診断と治療社、2008年発行より)
<こんなものにも注意!>
・外食用サラダ・・・ 乾燥防止の予防スプレー
・表面の光沢・・・ 味付け海苔、一部の和菓子、菓子パン
・卵白で濁りを取る・・・ こんにゃく、メープルシロップ、はちみつ、コンソメスープ、果実酢、みりん
・製造ラインで混入・・・パン、菓子パン、ベビーフードなど
・その他の卵・・・しらす干し(お腹がオレンジのもの)
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