ー 笹かま ー
お昼時、食事に出ようと先輩と並んで歩いていると、
エレベータの前でAさんに会った。
Aさんは食堂で買った定食を自分の部屋で食べようとしているのか
食器の乗ったお盆を手にエレベータを待っているところのようだった。
「あっ、Aさん こんにちは(^^)」と爽やかに挨拶する僕に続いて、
先輩が「なんやAのくせに昼ご飯か?」と声を掛けている。
Aさんは反射的に「すみません」と答えているが、どう考えても謝るのは先輩の方だ。
歩きながら「先輩、Aさんのこと嫌いなんですか?」と聞いてみると
まるでエリカ サワジリを思い出させるような一言『べつに…』
さらに先輩が言うには、Aさんはどっちか言うと好きな方らしい。
きっとこの人は皆にこんな態度で接しているのであろう。
昔から「人は良い行いをすれば良い報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがある」と言われており、きっと先輩は地獄に落ちるだろうが、地獄の魔王にもこのような話し方をするのかなと思ったらちょっとおもしろくなった。
そんなことがあった日の夜、
家に帰って冷蔵庫を開けると、以前どなたかにいただいた「笹かま」が入っていた。
僕は、個包装され高級感がただよう「笹かま」はかまぼこ界の王様だと常々思っている。
笹かまを手に取り、心が沸き立ち・身体が火照り・血圧が上昇を始めた時、
僕は興奮のあまり、個包装された袋から笹かま本体を床に落としてしまった。
世界共通の決定事項として3秒以内に拾い上げればセーフとの判例が示されてはいるが、落ちた笹かまの横に居るアリの姿に気がついてしまった。
僕の体温と血圧と心拍数が下がり始める。
なぜなら
『僕は虫がとっても苦手なのだ』
アリがいるなら、アリ以外の虫がいたかもと想像してしまう。
あんなに恋焦がれた笹かまへの想いが徐々に冷めていく。
他に好きな人ができた訳ではないが、笹かまとの別れを考えてしまう… 悲しい。
この別れをより有意義なものとする方法はないか、僕は必死に考えた。
そして1分後、いいことを思いついてしまった。
すぐさま笹かまを手に階段を駆け下り、
先輩の車のボンネットにそっと置いてみた。
そして踵を返して自室に戻る。
これは謀反である。謀反に良いも悪いもない。
織田信長流に言うと「是非もなし」
が、少しやりすぎたかなーと優しい僕は少し心を痛めつつ、眠りについた。
翌朝、僕の車の屋根で猫が寝ている。
ボンネットにはひっかき傷がついている。
???
なんで僕の車にキズが? なんで車に猫?
職場の廊下で先輩とすれ違う。その時ボソッと… 確かに聞こえた。
「因果応報」
やりやがったな。謀反返し!
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