毎日新聞社に対しては、記事の内容について、事実と違う点をすでに伝えてありました。下記の点です。
・タイトルの「東京から来ないで」は、だれがいったのか?
こっぽら土澤の住人はだれもその言葉をいっていない。
・なぜ、松尾さんの入居を取り扱っている、こっぽら土澤の運営会社、土澤長屋暮らしにきちんと取材をしなかったのか?
・記事中、「3月末、マンション住民の会合に参加すると雲行きが変わった・・・」とあるが、住民の会合など開かれていない。
3月半ばに、高齢者のお茶会に松尾さんを招いて一緒に歓談したことがあったので、そのことを指しているとしたら、その場の空気は書かれているようなものではなかった。コロナのことはまだそんなに深刻な話題になっていなかった。松尾さん自身、帰るときにとても楽しかったと話していた。
・記事中、「管理人の女性は『2週間はここに住まないで』と住民から話があった」と振り返る、と書かれている。しかし、管理人はここにはいない。週に3日事務をお願いしている方を指しているようだが、本人はそんなことはいっていないと語っている。
山田記者と会ったとき、緊急事態宣言が出たのだから、2週間の待機は当然でしょう、ということと、こっぽらの高齢者の方から不安の声が出ている、ということは語った。そして「取材は私ではなく長屋暮らしの担当者にしてほしい」と伝えたという。
・記事中、「マンションは国による高齢者家賃補助の対象となるため、松尾さんは、転入届を市に出して新しい住民票を早期につくる必要があったとみられる」とあるが、これも違っている。ここでは高齢入居者の方は、引越しを終えたあとで手続きをしている。入居した日付にさかのぼって補助が出るので、転入届のあるなしは関係ない。
・国「追い返しなら問題」、という見出しがついたところ。首相が発表した緊急事態宣言について、ここで触れていないのはなぜか?
国や自治体は2週間の待機期間を要請している。その場所や内容については、どのように考えているのか? 通常、自宅やホテルで待機と報道されていたが、今回のように新居に移ってくる場合は、国や自治体はどこを待機の場所と想定しているのか?
この宣言が、ここの高齢者を不安にさせ、移住しようとした松尾さんをも不安にさせた。
国や都知事がとどまるように要請を出した後、松尾さんは連絡なくやってきた。このような場合、どのようにしたらスムーズに入居してもらえるか。時間のないなかで考えた結果が、長屋暮らし代表の持ち家を無償で提供し、そこに2週間住んでもらってから、こっぽらに移ってもらうという方法だった。が、記事中には、それが理解できる内容はない。住民が「2週間はここにすまないで」といったので、大家はしばらく別の場所に住むように勧めた、となっている。記事の筋は、事実とは大きく異なっている。
以上の内容の文書を、毎日新聞盛岡支局長、そして東京本社編集局長宛に郵送で出していました。
毎日新聞盛岡支局長、有田浩子氏との面談記録
5月9日(土)の面談の最初に、土澤長屋暮らし代表の武政文彦から、次のように話しました。
「こっぽら土澤は、東京から来る人を追い返すようなところとは100%違うところ。いろいろな方が支え合って暮らしています。今回もいかにして入居者を安心して迎え入れるかということを基本に、さんざん考えた結果のこと。それなのに、タイトルからして「東京から来ないで」と追い返したようになっている。後追いの記事の週刊文春、週刊新潮も、コロナ村八分のような表現で、意図が違っている。だから、訂正の記事を載せてもらいたいというのがこちらの主旨です」
毎日新聞盛岡支局長の有田浩子氏の返事は、下記のものでした。
「記者本人にも事情は聞きましたが、来られた松尾さんをしばらくここには住めないということで、いろいろ奔走されて、住む場所を与えていらっしゃって、その意図を十分に汲んで書いているつもりですし、記事全体で訂正というか、事実を歪めているということは当たらないと思っています」
事実を歪めていない、というので、具体的にひとつひとつ聞いていきました。
以下は、有田氏の敬称略で書かせていただきます。
タイトルの「東京から来ないで」は、誰がいったのでしょうか? 住人は一人もいっていませんが。
有田「タイトルというのは、こちらの編集の方でつけるものではなく、本社の方でつけるものです」
? 勝手につけたんですか?
有田「いや、こちらも目を通しております」
かっこがついているでしょう? 誰の発言ですか?
有田「だから、必ずしもそういうことではなく。これは二つの記事がありまして、二つの記事を見て、本社の編集セクションがつけているので、誰かがいったとか、いわないではないです」
二つの記事とは?
有田「花巻市の方で、事実上転入届を受け入れなかったということ」
花巻市のことと両方を兼ねていっているんですか?
有田「そういうことです。事実上はばんでいる、ということです」
それを勝手にだれかがいったことにして書いた。かっこ書きというのは、人がしゃべった内容ですよ。ここには、東京からきた人たちもいるし、みんなでつくっている共同住宅なんです。だれかが勝手にこんなことをいうなんて、ありえないです。きてもらわなきゃ困るんですから。
有田「はい、それはそうです」
そもそも新聞が報道している通り、国も自治体も2週間ということを言っているんですよね。だれがその2週間の担い手になるんですか?
有田「はい?」
記事のタイトルにも、コロナって書いてあるでしょ。コロナが関係しているんでしょ? 国も県も、移動するな、移動した人は2週間待機して、とか。みんな不安を抱いている中で、ここ土沢で悩みながら、一個人が不安で右往左往していることを取り上げなくちゃいけないんじゃないですか。その不安を解消するために奔走した、ということを取り上げるならともかく、来るな、とか、そういう文面になること自体、新聞社としておかしいと思いますよ。
有田「記事の中でも書いていると思いますが」
そう読めませんが、どこですか?
有田「大家さんが、住むところ、別のところを用意してくださっているという」
大家さん? だいいち、記事はほとんど一人の発言ですよね。なぜ、入居者に対応している土澤長屋暮らしに、きちんと取材しなかったんですか?
有田「お邪魔したと・・・」
まさにお邪魔でした。仕事場の薬局で、患者さんがいらしているところで、出たり入ったりするなかに来られて。私たちも昼間は忙しいけれど、夕方とか夜はちゃんと時間がとれるんですから。常識的に考えても、どの時間にお邪魔すればいいですか、とかそういうやりとりがあっての取材だと思うんです。それがまったくなかったことが残念です。
有田「そうですね」
一人の人の話だけで書く。裏をとるとか、ふつう上司だったら、もう少しここを聞いてこいとか、ないんですか?
有田「はい、上司はそのように指示しております。デスクというものがおりまして、もう一度確認させたり、そのような取材を」
でも、ほとんど一人の人の言葉ですが。
有田「その方だけでなく、住人にも取材をして」
だれですか? 住人はだれも受けていないのですが。
有田「私はわかりません。記者が・・」
入居者の担当をしている私に聞いてほしかったですね。思い込みやかたよった情報だけで書いているからこうなるんですよ。取材し直せば、まるで違う記事になると思いますよ。
有田「十分にできたとは聞いておりませんけれども」
それでもう記事にするわけですね。
有田「永遠に取材に時間をかけられるわけではないですから」
このやりとりでわかったことは、「東京から来るな」といった人はいないということでした。
取材で聞いた言葉ではないが、記事全体の内容を表すものとして、東京本社の編集局がつけたものだということ。記事は、記者が原稿を書く。デスクが見て追加取材などの指示を出す。できた原稿は支局長が目を通し、こういう記事があると本社に伝える。全国版にのせるかどうかは本社の裁量。載せることになったら、本社でタイトルをつける。という流れのようです。地方支局の記事が全国版に出るのは、月に数回とのことでした。
また、住人にも取材したというのですが、山田記者と話した住人はだれもいません。有田氏はわからないというので、山田記者に再度確認してほしいと伝えましたが、その後返答はありません。
おそらく、事務の人との会話から、「2週間はここに住まないで」と住民がいっているように書いたのだと思われます。繰り返しになりますが、住人は山田記者とは話していません。
有田「真意が伝わらないのはひじょうに残念ではありますけれども、この当時の取材に基づいてできるだけのことでやったもの」
では、真意はなんですか?
有田「一人の男性が焼死したということ。コロナがなければ、そもそもこういった悲劇は起きなかったでしょうね、ということを。警察の取材から始まり、火事で死んだ方が東京の方で、たまたまこちらに移住してこようとした方だったというところから取材が始まって」
そういう興味ですか?
有田「終の住処にしようと思った方が、終の住処でないところで亡くなったということですよね」
この方は、この土地が終の住処だと思ってきているわけですよ。それがこのコロナの問題があったので、2週間をうちの部屋で過ごすことになった。2週間後にはこっぽらに移ったわけで、こっぽらの部屋であろうが、うちの部屋であろうが、終の住処なんですよ。
毎日新聞盛岡支局長との面談は、こっぽら土澤の集会室で行い、1時間半ほどでした。内容的には、上記に引用したものの繰り返しでした。
毎日新聞社の関心は、東京からの移住者が焼死した、ということにあり、まず警察から取材を始めたということでした。それにしては、警察から聞いた言葉は、記事中どこにもありません。移住先の住民から2週間住むことを拒否されて、のがれるように別の家に住み、そこで亡くなった、との筋立てで記事はまとめられています。
移住先のこっぽら土澤では、国や東京の緊急事態宣言後の移動であったため、自粛要請と待機を受けて、高齢者施設ということを考慮し、個人宅を提供して2週間の待機期間をとる措置をとりました。しかし、そのことと、偶発的に起きた火事とを結びつけることは、でっち上げのたぐいではないでしょうか。私たちからみると、明らかに事実とは違う記事内容です。この記事を読んだ人がどう受け取るか、それはその後に出た週刊誌の内容を見ればわかります。
私たちは、その方にこっぽらに入ってもらうために、その措置をとったのです。記事にある「来るな」ということと反対のことです。
その方が火事の延焼で亡くなられたことは、私たちとっても言葉では表現できないほど深く悲しいできごとでした。そして、それに追い打ちをかけるような記事でした。
こっぽら土澤には、ほぼ同時に東京から入居予定の方がありました。
昨年すでに契約も済ませ、この春入居予定でした。しかし、今回の緊急事態宣言があったため、その方はまず花巻市に連絡をとり、どうしたらよいか相談されたということです。そして、こっぽら土澤にも連絡があり、緊急事態宣言で自粛要請が出ているので、その後の経緯を見てから移転の時期を相談しましょうということになりました。
その方は、6月に入居予定となりましたが、4月の毎日新聞報道に大きなショックを受けたということです。
毎日新聞記事については、インターネット上にも出ており、今も多くの人が見る機会があります。こっぽらの住人も、家族、親戚、関係者からこの報道についてたくさんの連絡をもらい、その説明に苦労しています。そこで、こっぽら土澤としてのブログを通して、何があったのか、その経緯を伝えていく必要性を強く感じました。
こっぽら土澤には、東和町土沢の地元で生まれ育った人、花巻の人、若い頃は都会に出て働き戻ってきた人、また近在の町や東京から移住してきた人、さまざまな人たちが助け合い、支え合いながら暮らしています。こっぽら土澤をつくった当時から今まで、その精神は変わらず受け継がれています。今回、それと正反対の記事を書かれたことに、大きな憤りを感じています。
私たちは、毎日新聞社に今も訂正を求めていますが、まずはこのような経過を多くの皆さんにお伝えしたいと思っています。
長い文章を読んでくださって、ありがとうございました。