来年10月に0等級になると期待されている紫金山ーアトラス彗星C/2023 A3ですが期待外れになる可能性が出てきました。
吉田誠一さんのホームページを確認したところ、軌道要素が更新されていて離心率eが1を超えているのに気づきました。
こちらで紹介したように発見された当初の離心率eは0.9997501で楕円軌道となり、数千年周期で太陽の周りを何度か周回していることになっていました。
ところが最新の軌道要素では1.0001865で1を少し超えており放物線に近い軌道となっています。(正確には1が放物線軌道、1を超えると双曲線軌道です)
これは観測データが増えて軌道計算の精度が上がったことによるものです。
離心率eが1を超えているという事は初めて太陽に接近する彗星ということになります。
このような彗星で予測が大きく外れた例は1973年に発見されたコホーテク彗星C/1973 E1、1989年に発見されたオースチン彗星C/1989 X1などがあります。(先の記事でも紹介しています)
国立天文台の渡辺潤一先生の書かれた
にオースチン彗星C/1989 X1が明るくならなかった理由の解説があります。
紫金山ーアトラス彗星C/2023 A3もオースチン彗星C/1989 X1と同じような経過をたどる可能性があります。
オースチン彗星C/1989 X1の実際の明るさを示す光度式があれば類推してステラナビゲータでシミュレーションできるのですが見つかりませんでした。
太陽からの距離が1.5天文単位を切る来年、2024年7月20日以降の光度変化次第で明るくなるのかどうかが見えてきそうです。
また、オースチン彗星C/1989 X1と同じような素性であったとしても太陽接近時に核(中心の塊)が分裂するようなことがあれば明るくなる可能性があります。
私が中学生の時、初めて肉眼で見たウエスト彗星C/1975 V1は太陽最接近前に核が分裂し2等ほど明るくなったそうです。
核が分裂したことにより塵が大量に放出され、扇のような幅広い尾をもつ大彗星になりました。
北半球からは見やすい条件なので明るくなって欲しいものです。