マーケティング系の講座に限らず、様々なビジネスセミナーにおいて頻出するワードの一つとして「PDCA」があります。
その内容や講師は違えど、頻繁に提出されるという事は重要で有用な方法論に違いない!と、そう思ってしまうのですが… 一方では、時代遅れ、成果が出ない、実践できない、など散々な言われようで実務レベルの評価はさほど高くはない、という印象のワードでもあります。
事実、私たちもPDCAを持ち出す場面はほとんどありませんし、付き合いのある大手の売場統括責任者の方も「PDCAとは言いたくない」との発言をしていましたので、やはりその評価は低めなのでしょう。
教科書にある事が実践では役に立たないというのは、別に珍しくもありませんが、本当にただそれだけの事なのでしょうか? ビジネスセミナー講師先生たちは、揃ってアップデートが出来ておらず、時代に合わない教科書を信じて講座を続けている。と、そういう事なのでしょうか?
そこで今回は、自戒の意味を込めPDCAについて改めて考えてみたいと思います。
ちなみにPDCAとは事業(業務)の「継続的な改善運用手法」の一つです。
【今さらのPDCAって何?】
まずは各工程についてポイントをザックリと復習しましょう。用語は有名でも内実は意外と理解されていないって事も多々あると思いますので…一応です。
1:Plan(計画)
まずは計画作りです。そもそも「計画立案」自体が、非常に多くのカロリーを必要としそうですよね? まぁ、どの程度練り込んで策定するかにもよりますが…
ただ計画がお粗末だと、その後の工程が回らなくなる可能性が大と言えそうです。
別にPDCAに限った話ではありませんが、プランニングに際しての基本的な留意点は、以下の通りです。●5W1Hを明確に設定
いつ、どこで、誰が、何を、何故、どのように、を設定してその優先順位を決めましょう。ここが曖昧だと適切な戦術(計画)を組むことが出来ません。
● 情報を収集する
5W1Hの設定をもとに必要な情報を集めます。外に目を向け、可能であれば当事者(社内外)に意見を求めましょう。会議室で頭にある既成知識に頼っていると実情とズレた情報を優先選択しかねません。
● 実現可能な目標を設定
得られた情報から現状のリソースで実現可能な範囲の目標を設定します。
目指すべき具体的な目的、目標がないとプランも曖昧なものになってしまいます。
ありがちな目標設定として「競合が100だからウチは200!」のような安易な判断は禁物です。
◀計画作りは意外と難しい…
● 実施スケジュールを設定 目標に至るまでのフローとスケジュールを想定します。いきなり最終ゴールを目指すようなオペレーションではなく、複数の段階を踏んで最終目標に到達できるようにします。段階ごとに数値目標を盛り込むと、次のC(評価)で精度の高い評価が可能になります。
さて、既にこの時点で挫折しそうな人もいるのではないでしょうか?
恐らく、計画を単なる思い付き程度の感覚で済ませると、実践できない、成果が出ない、といった結論になる可能性は高いかもしれません。
つまり、それなりの計画に基づく運用が、PDCAを上手く回す前提条件になりそうです。
PDCAサイクルは日本の製造業において、品質管理の向上に貢献したと聞かされると、妙に納得してしまいます。
◀継続的な品質向上
2:Do(実行)
計画が整ったら、それを実行に移します。留意点としては、以下の3つです。
● 記録を残す
数値類はもちろん、業務行動やその結果の記録を取る事によって、次の工程の「評価」におけるデータとしての客観性を持たせる事が可能となります。逆に記録が無いと、心象や印象に偏ったり、恣意的だったりと、誤った評価を下す事態になりかねません。
● 計画の完成を目指さない
意外に思われるかもしれませんが、計画とは常に完璧ではありません。計画の不備を見出す事も重要となりますので、確実、着実な計画の履行を第一義とします。PDCAの目的は継続的な効率化なので、無理な計画の完遂行動はむしろ避けなければなりません。
● 計画の有効と無効を確認する
計画の何が有効で、何が無効なのかを確認しながら行動します。計画の過程での安易なシステム変更は厳に慎み、システムの修正は次のサイクルへと回します。でないと適切な評価・改善が出来なくなってしまいます。
3:Check(評価)
計画行動の結果分析と解析です。この工程の精度いかんで改善策の効果が大きく変わる事になります。留意点としては2つです。
● 結果の良し悪しで判断しない
良い結果であれ、悪い結果であれ、何故そうなったか?という「理由」を求めます。
仮に良い結果の理由が計画の中に見つからないならば、それは計画不備になります。
● 定量データを優先しない
評価軸として数値は必要ですが、数値での成否の判断は避けましょう。
定性的な結果、例えば、行動しやすかった、意欲が増した、顧客が喜んだ、などのその裏付けとして数値を使用します。
行動がスムーズ(効率的)で売上が上がった場合と、ひどく手間取った(非効率)結果としての売上では、数字が同じでも行動評価は真逆になるはずです。
4:Action(改善)
評価で見出された課題(問題点)を踏まえ、計画(行動)内容の改善点を決定します。
留意点は2つです。
● 複数の改善点を一度に解決しない
見出された問題の原因が常に明確であるとは限りません。むしろ多くの場合で、複数の要因(行動)が関係していたり、あるいは原因の切り分け作業が必要だったりします。その場合、考え得る全てを一時に修正してしまうと、起因不明となり、再び同種の別問題が発生する可能性が生まれます。
● 改善点に優先順位を設定する
複数の改善点に対しては、得られる今後の成果を踏まえた優先度を検討しましょう。
ちなみにですが Action=改善 と言われてもイメージしづらくないでしょうか?
「A」の元ネタは、Act(演じる)で「評価に従った行動」って事らしいです。
昔々、日本のとある先生がActionとしてPDCAの講義を行い、以後Actionとして世に広まったようです。そして評価に従った行動を、より分かり易く意訳し「改善」となったようですね。
しかし、ザックリと復習のはずが、もうかなりお腹一杯な感じじゃないでしょうか?
◀運用できる気がしない?
【PDCAは誰のために?】
ここで、あえて結論めいた事を言わずとも、何故PDCAが実務者レベルであまり評価されないのか?
その理由がお解りいただけたのではないかと思います。
そもそもマネジメント管理の継続的な改善を目的としたPDCAは、非常にカロリーが高く、しかも有効実践には、それなりに専門的な複数のスキルを必要とします。
大きな企業ならともかく、小規模の事業体が自力で実践するには厳しいものがあるでしょう。
もちろん専門のコンサルを入れるなどすれば、その限りではありませんが…
もう一つの問題は時間です。
PDCAはサークルを何度か回さないと成果が得られません。短期的な事業修正には向かないのです。また、導入時の制度設計(計画)にもそれなりの時間を要する事になるでしょう。
ただ逆に言えば、中長期的な事業運営には、現在でも非常に有効性の高いマネジメント管理手法であると言えます。
PDCAのロジックは非常に合理的で隙が無く、継続的な成果を上げ続ける企業では、PDCAサークルなどといったものを意識せずとも、結論として、必ず同種のマネジメントシステムを社内に構築しているはずです。
ビジネスセミナーの先生たちが今もPDCAを持ち出すのは、その導入の推奨ではなく、常にプランを持って行動し、必ず見直しをする、というビジネスにおける基本を伝えたいのだと想像できます。
そうした思いの根底には、計画も、検証も、見直しもないままに、ただひたすら同じ行動を繰り返し、成果のない理由を外的要因に求め続けるといった事例が、相当に多いからなのかもしれません。
◀PDCAが紹介し続けられる…
【カジュアルなPDCA?】
世の中にはPDCA以外にも、OODAや、STPDなど、様々なマネジメント手法が存在します。
どのような手法を採用しようとも、要点はほぼ同じで「周りを見て、考え、そして行動せよ」という事なのだと思います。
仮に天才であればこうした手法は必要ありません。
考えずとも「勘」や「感覚」「感性」で行動し、すぐに成果を得るでしょう。
ただし継続性の獲得には、必ずロジックが必要になります。どんなに優れた才能も永続はありませんし、多くの場合、その有効性は短く有期限なのですから。
それがビジネスである以上「継続」は、最も重要な目的の一つでもあるはずです。
何も既製品であるマネジメント手法を導入する必要などありません。
皆さんも自分に見合ったカジュアルなPDCA(事業継続運用手法)の構築を目指しましょう。
次回は「バイアスの恐怖」です。