煩的ひとりごと

定期更新型ゲーム False IslandについてPL視点から呟きます。
煩悩が人より多いらしいです。

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2007-06-26 05:27:55 | 他キャラ様日記
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打ち寄せる波。いつもは穏やかな海が、今日は荒れている。
定期連絡船が停泊する港に常の賑わいは無く。
寂寥とした桟橋、寄せては砕ける波の飛沫が一層寒々しく。

辛うじて届く日光を受け止めているのは、白い影。
はためくマントとフード、少女の横顔がちらりと見える。
足元で見上げる白猫、心なしか髭が震えていた。
風が、また強くなる。

ごうごうと鳴る海。
遺跡を振り返る少女、その瞳には何が映るのであろうか。
地下へと続く階段は遥か先、暗い霧に覆われ見るものを圧迫する。
猫の髭が大きく揺れた。


ざしっ。
天が裂ける。


いや、それは幻想。
しかし何か、途方もない力によって、少女と遺跡とが引き裂かれたのだ。


ぎしっ。


桟橋が揺れる。船はもう、あと歌を一つでも歌い終わる頃には出るだろう。
ただ強く吹き荒ぶ風がそれを押し留めているのであった。

俯く少女。
浮かぶ、未練。
或いは孤独、か。

少女と猫を見送るものは誰もいない。
間に合わないのだ。
あまりにも急なこと。

魂を運ぶという青年の優しき羽も。
誇り高き貴婦人の美しき声も。
葛藤する少年の強き瞳も。

この時空を越えた島、その中で働く法則――という名の世界律には勝てぬのだ。


船の汽笛がなる。
もう、時間が無い。
少女のまだ細い肩が、小さく震えた。

これで、終わるのだ。
島で過ごした日々、そしてすれ違った人々。
互いに心を強く通わせるほどの時間を天は与えはしなかった。
ただ僅か一時、触れたものだけを残して。


少女が静かに一歩、踏み出した時。


風が、吹いた。

荒れる空から吹く冷たさではなく。
何かを斬るような、鋭い風。


振り向いた少女の、目に映ったのは。

紫色のスーツに包まれた男。

「………!」

少女が何かを訴える。
しかし、音は唇から漏れる前に掻き消えた。
そう、これが世界律。
見上げる猫の瞳に黒い雲が映る。

男は、静かに首を振った。

「お嬢さん、言いたいことはなんとなく判る。
 でもあんたの声は届かないんだ。それが、ここのルールだ」

ぽつ、ぽつ。
大粒の水滴が男の髪に落ち。

「しかしな、俺の声はあんたに届くかもしれない。
 なぜならな、俺はこの島と関わりがねえからだ。
 時間が無いから、聞いてくれ。」

空から滝が降ってきた。
激しい雨。
男の存在を否定するのだろうか。
鳴り響く雨音が、男の言葉を消し去らんとする。

男は喉を振り絞る。

「信じてくれ。
 あんたがこの島を出ても。
 ずっと忘れない奴がいる。

 あんたの思いが届かなくても。
 いつかは知る奴がいる。

 聞こえるか?
 あの、美しい踊り子の悲しみが。

 見えるか?
 あの、麗しいご婦人の嘆きが。

 感じるか?
 あの、愚かな弓使いの走る音を。


 もうすぐ、あいつが来る。いや、あいつだけじゃない。みんな来るんだ。

 確かに、時間は無い。
 来ても、話すことなんてできないかもしれない。
 間に合わないかもしれない。

 でも信じるんだ。
 いつかきっと、戻ってこれることを。
 或いは、ここではないどこかで出会えることを。


 だから、叫んでくれ。
 あんたの、思いの限りを。
 悲しみも喜びも苦しみも、全て。

 その声は、きっと届く。

 あのバカ息子だけじゃない、あんたを思う人全てに。

 そうだ、大きく、口を開けて、息を大きく吸い込んで―――」


 少女は、口を開いた。

 胸をいっぱいに膨らませて。

 お腹の底から、その小さな身体中の、命を漲らせて。

 轟く天を貫け、と。

 私を見てくれた人、知ってくれた人、声をかけてくれた人、皆に届け、と。


 真面目な新米騎士の、心配する顔が見えた。少し慌てていた。

 何故かキャベツを気にするエルフの少女が微笑んでくれた。

 斧を持つロボットが、まっしぐらにこちらへ向かっていた。

 エルフの少年が、一生懸命走ってきていた。

 帽子を被った青年の、「萌」という声が聞こえた。

 あの奇術師のスターが、弾けんばかりの笑顔を向けてくれた。

 煙管を持つ海賊が、こっちへ来いと手招きをしていた。

 動物を抱えたメイドさんが、可愛いと言ってくれた。

 眼鏡をつけたメイドさんは、頭を撫でてくれた。

 静かな金髪のお姉さんが、紅茶を用意してくれた。



全ては、幻だったのかもしれない。

しかし少女にとっては、それが真実だった。

そして、彼らにとっても。


空には青空が広がり、雨の香る桟橋からは虹の橋が――――






これから先は、何者も語る言葉を持たない。 


ただ、天は一つであり、大地は一つであり。

別れし天地はいつか、溶けて重なり。

一時の離別こそ、後の絆とならん。


それが夢に終わらぬことを、唯願うのみ。




(1277 ネル様 及び 集合絵で書かれていた 66 124 255 324 666 710 1359 1513 1617 の皆様
 そしてコメントされていた比和様をお借りしました 勝手なこと、申し訳ありません
 あまりにも寂しいので せめて文という形でも、と)