アジア映画巡礼

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週一『SANJU/サンジュ』<1>ラージクマール・ヒラニ監督とサンジャイ・ダット

2019-04-15 | インド映画

ラージクマール・ヒラニ監督最新作『SANJU/サンジュ』6月15日(土)から公開されます。作品情報等は以前こちらでお伝えした通りですが、ちょっと残念なのは、『SANJU/サンジュ』はマスコミ試写が行われないことで、第一報がネットの映画サイトなどに一斉に出たものの、その後の露出が極端に少なくなりそうです。特に新聞、雑誌等の紙媒体にはほとんど取り上げられないまま初日を迎えるのでは、と思われ、こんないい作品なのに本当にもったいない限りです。そこでせめてこのブログだけでも、しつこく取り上げて皆様の注意を喚起しようと思い、本日から毎週1回、『SANJU/サンジュ』の紹介にページを割くことにしました。まず本日は第1回、「ラージクマール・ヒラニ監督とサンジャイ・ダット」です。


日本で大ヒットした『きっと、うまくいく』(2009)の前に、ヒラニ監督は2本の作品を撮っています。2003年のデビュー作は『Munna Bhai M.B.B.S.(医学生ムンナー・バーイー)』、そして2006年に撮ったのが『Lage Raho Munna Bhai(その調子で、ムンナー・バーイー)』でした。タイトルからもわかるように、Munna Bhai(ムンナー・バーイー/ムンナー兄貴)を主人公にした正・続編です。ムンバイの下町を仕切るヤクザのムンナー(サンジャイ・ダット)と、その片腕サーキット(アルシャド・ワールシー)が活躍する物語で、「バーイー」というのは「兄」という意味ですが、ここでは特にヤクザの兄貴分や親分を呼ぶ時に付ける敬称として使われています。

『医学生ムンナー・バーイー』では、恐いものなしのムンナー・バーイーが唯一怖がるのが田舎にいる父親(スニール・ダット/サンジャイ・ダットの実際の父親が演じています)。その父親がムンバイに出てくるというのでさあ大変、実はムンナー・バーイーは父親に、「医者になるために医大で勉強している」と偽っていたのです。あわててニセ学生として医学部に潜り込むムンナー・バーイーでしたが、中に入ってみると、医学部や大学病院の矛盾がいろいろと見えてきます。父の旧友の医師(ボーマン・イーラーニー)と対立したりしながら、ムンナー・バーイーは医学部の改革に乗り出しますが...、というのがストーリー。『その調子で、ムンナー・バーイー』の方は、ムンナー・バーイーに憧れの女性DJ(ヴィディヤー・バーラン)ができ、彼女が祖父やその友人たちと暮らす建物を手に入れようとする金持ち(ボーマン・イーラーニー)と闘うことになりますが、祖父たちとマハートマー・ガーンディーについて語るためガーンディーについて調べたムンナー・バーイーは、なぜかガーンディーが実際に眼前に見えるようになってしまいます....という、寓意あふれる物語です。『その調子で、ムンナー・バーイー』の方は、脚本本も出版されています。


この2作により、ヒラニ監督はサンジャイ・ダットという人物に強く惹かれたようで、その後『PKピーケイ』(2014)でもサンジャイ・ダットを起用し、主人公である宇宙人PK(アーミル・カーン)が「兄貴」と慕う村人を演じさせました。そして続いて、今回の『SANJU/サンジュ』が世に出たわけですから、ヒラニ監督は「サンジャイ・ダットという生き方」によほど魅力を見出したようです。

1990年代のサンジャイ・ダット(Photo © R. T. Chawla)

サンジャイ・ダットに関する詳しい紹介は次回に譲るとして、この伝記映画は「意思が弱かったが、自分に正直に生きた人間サンジャイ・ダットと、彼を支えた人々の物語」と言うことができます。キャスティングも実に巧みで、サンジャイ・ダットには、『PKピーケイ』の最後でPKと共に地球にやってきた青年を演じたランビール・カプールが起用されました。最初に付けたポスターのように、『Rocky(ロッキー)』(1981)でデビューした20代の頃から、50代になった今日までのサンジャイ・ダットを、見事なメークと演技力で見せてくれます。ランビール・カプールの出演作は、『バルフィ!人生に唄えば』(2012)と『若さは向こう見ず』(2013)、そして『PKピーケイ』が日本で公開されていますが、『SANJU/サンジュ』はこれまでのイメージを一新してくれることでしょう。

©Copyright RH Films LLP, 2018

ご存じの方も多いと思いますが、ランビール・カプールの祖父で監督、俳優、プロデューサーだったラージ・カプールは、サンジャイ・ダットの母ナルギスを自分の作品のミューズとしていた時期があり、多くの作品で共演すると共に、私生活でも深い関係にあったのでした。そんな因縁のナルギスを、そっくりさんメイクでマニーシャー・コイララ(上写真前列の真ん中)が演じています。また、ラージ・カプールと別れたナルギスの心を射止めたスニール・ダット役は、名脇役パレーシュ・ラーワル(同後列真ん中)によって演じられており、こちらもギロッとした目、悠揚迫らぬ歩き方など、よく似ています。スニール・ダットが『Rocky』などの監督をしていたことは知っていたのですが、映画の中ではセンスのいい監督として描かれていて、認識を改めました。前列のナルギスの両側に座っているのは、サンジュの2人の妹です。

ほかに、以前にも書いたように親友カムレーシュにはヴィッキー・カウシャル(上写真後列左端)が扮していますが、一方悪友というかサンジュにクスリを教えるズービン・ミストリー(パールシー教徒の名前ですね)役にはジム・サルブが起用されています。ジム・サルブ、『パドマーワト 女神誕生』(2018)にも出演していますし、以前映画祭上映された『ニールジャー』(2016)のハイジャック犯テロリスト役でデビューして以来、日本での紹介率の高い俳優となっています。

©Copyright RH Films LLP, 2018

他の出演女優は、サンジュの妻マニャター・ダットにディヤー・ミルザー、サンジュに伝記本の執筆を頼まれるライター、ウィニー・ディアス役にアヌシュカー・シャルマーが顔を見せています。アヌシュカー・シャルマーは『PKピーケイ』でお馴染みですが、今回は上写真のようなカーリーヘアのセミロングで、ぐっとフェミニンな感じのファッションで出てきます。導入部のガイド役となるのが彼女なのですが、サンジュとのやり取りは面白く、ラスト近くでも再び登場して素晴らしい場面を演出するという、とってもいい役です。ファンの方はお楽しみに。また、もう1人、重要な登場人物がいるのですが、ソーナム・カプールが扮する彼女の紹介は後日詳しくすることにしましょう。

ほぼすべての登場人物が実在の人物で、かつほとんどが存命ということから、作りにくかったのではと思われる『SANJU/サンジュ』ですが、ヒラニ監督の演出の冴えはそんなことをまったく感じさせません。ボリウッドの内幕もちょっぴり覗かせてくれるものの、それ以上に人間の真実を見る者に突きつけてくれて、ハッとさせられます。あと2カ月、公開をどうぞお楽しみに。

 

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