アジア映画巡礼

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『きっと、うまくいく』ラージクマール・ヒラニ監督インタビュー

2013-03-17 | インド映画

以前の記事で冒頭だけご紹介したラージクマール・ヒラニ監督のインタビュー、あらためてご紹介します。お話をうかがったのは3月12日の午後、『きっと、うまくいく』のプロデューサーであるヴィドゥ・ヴィノード・チョプラの事務所でした。ムンバイの国内線空港があるサンタクルズという地区にあるのですが、住宅街の一画で、普通のお宅を事務所に改装したものです。ですので、入り口でみんな靴を脱いで中に入りました。冷たい床が気持ちよかったです。

前にも書いたように、約束の時間から2時間も遅れて着いたので、きっと怒ってらっしゃるだろうな、と我々は平謝りする心づもりで行ったのですが、監督はにこやかに出迎えて下さり、本当にありがたかったです。では、インタビューをどうぞ。

♪  ♪  ♪  ♪  ♪

Q:今インドを訪問中のドリームワークスのスピルバーグ監督が、「私が好きなインド映画は『きっと、うまくいく』『放浪者』だ」と発言し、大きく今日の新聞にも載りましたね。『きっと、うまくいく』は世界中でヒットしましたが、ヒットした理由は何だと思いますか?
 
ヒラニ監督:そうなんだよ、中国や台湾、韓国でもヒットしたからね。おそらく、世界中の人々に共通するテーマを扱っていたからだと思う。どこの国でも子供たちはすごいストレスの中で生活している。だからあの映画に描かれていることが、みんなの共感をよんだんじゃないかな。
そういえば日本では、ラジニカーントの映画が人気なんじゃなかった?

Q:ラジニの映画はですね、1998年に『ムトゥ 踊るマハラジャ』が大ヒットしたんですけど、その後数本公開されたものの、全部がヒットしたわけではないんです。

ヒラニ監督:劇場公開されたんだよね?

Q:そうです。今回の「ボリウッド4」の宣伝を担当している会社アンプラグドは昨年『ロボット』を劇場公開していて、結構好評でした。あと同社は、『ボス その男シヴァージ』も公開しています。

(監督の後ろの壁には、グル・ダット監督や女優ナルギスの写真が)

Q:『きっと、うまくいく』は、どういったことから作られるようになったんですか?

ヒラニ監督:私自身の人生経験からなんだ。これまでの人生で、私にとって一番大変だったのは12年生(日本で言うと高3。大学進学に向けての全国共通テストが行われる)の時だ。テストの点数のことしか頭になく、ひんぱんにあるテストで何点取れてるか心配で、夜もハッと目が覚めたりしたものだ。この年頃の子供にかかるストレスって、それは大変なんだよ。だから、教育がもたらすストレスに関して映画を作ってみたいと思ったんだ。
まあでも映画だからね、娯楽要素も入れなくちゃ、ということで楽しい部分も入れてるけど、私のいつもの映画と同じようにテーマ性を持っている作品だ。教育問題というテーマが盛り込まれてる。

Q:映画のキーワードである「うまーくいーく(AAL IZZ WELL)」はステキな言葉ですね。

ヒラニ監督:「アール・イーズ・ウェル」かい? アッハッハ、そうだね。

Q:この言葉はどこから?

ヒラニ監督:イギリス統治時代は、夜警がこの言葉を呼ばわりながら町を回っていた。「アール・イーズ・ウェル」、町は無事平穏ですよ、というこの言葉の力で、みんなは安心して眠っていたんだね。だから人生でも、「アール・イーズ・ウェル」と言いきかせておけば、心がそれに欺されてくれて、いつも安心していられる、というわけさ。

Q:前の作品『医学生ムンナ・バーイー』『その調子で、ムンナ・バーイー』はサンジャイ・ダットが主演でしたが、『きっと、うまくいく』ではアーミル・カーンを主演になさいましたね。

ヒラニ監督:サンジャイ・ダットは、大学生役には年を取り過ぎてるからね。アーミル・カーンだって、大学生にはちょっと無理な年だ。だから当初はもっと若い俳優を起用する予定で、主役の3人を演じる俳優を探したんだ。でも、結局見つからなくて、最終的にアーミルたち3人になった。
アーミルは、プロデューサーのヴィノード(ヴィドゥ・ヴィノード・チョプラ)に何かのことで連絡してきて、その時ヴィノードが「今はラージュー(ラージクマール・ヒラニ監督の愛称)のこんな作品をプロデュース中だ」と話したら、興味を示してくれたんだ。「僕がやってみたい。やらせてくれるなら、若く見えるように体を絞るよ」と言って、実際に24歳に見えるまでに変身したんだからすごい。撮影時は彼、44歳だったんだよ。

Q:俳優としてのアーミル・カーンはどんな人ですか?

ヒラニ監督:彼は驚くほど役に入り込む人だ。楽しんでやる俳優だね。朝からずっと撮影で1日に40シーンも撮ったりすることもあったが、全然イヤな顔をしない。とても仕事がやりやすい俳優だ。だから、次の作品でも一緒に組んでる。次作はもうほとんど撮影が終わって、あと1回ラージャスターン・ロケが残っているだけだ。主演はアーミルとアヌシュカ・シャルマで、サンジャイ・ダットも出ているよ。

Q:次の作品は何がテーマなんですか? タイトルは確か『P.K.』でしたね?

ヒラニ監督:次作は、神についての映画なんだよ。

Q:えっ、「神」ですか?! 「P.K.」というからサッカーのPK戦の映画かと思っていました。

ヒラニ監督:アッハッハ。『P.K.』というのは、アーミル・カーンが演じる主人公の名前のイニシャルだよ。主人公は神のことをいつも言うが、その実何も理解していない。そういう風刺をまじえた内容だ。ずっと前からやりたかったテーマで、実現した今回は、「神に感謝」というところかな(笑)。

Q:どんな映画か、楽しみです~。

ヒラニ監督:ところで私は、黒澤明監督の映画が大好きでね。国立映画・テレビ研究院時代にいっぱい見たよ。中でも『用心棒』が一番好きだ。忙しい棺桶屋とか、両方の勢力の対決に向けて緊張感が高まり、その後に勃発する戦闘シーンとか、いいよね、あの映画。三船敏郎もよかったし。

Q:そうなんですか~。では最後に、黒澤明監督の国、日本の皆さんへ何か一言お願いします。

ヒラニ監督:日本語で言った方がいいかな?(笑) 『きっと、うまくいく』をどうぞ見に来て下さい。この映画はきっと、あなたを笑わせ、泣かせて、ハッピーにしてくれますから。

Q:本当にありがとうございました。

(日活の宣伝プロデューサー大場渉太さんとヒラニ監督)

♪  ♪  ♪  ♪  ♪

ところで、一昨日の記事で写真を掲載した下の俳優さん、誰だかわかりましたでしょうか? 彼はドゥシャント・ワーグさんと言い、『きっと、うまくいく』に出ている俳優さんなのです。どこに出てたのかって? 映画をご覧になってない皆様にはネタバレになる可能性があるのですが、ラストのラダックの小学校シーンに出ていたのです。そう、ミリ坊主の成長した姿を演じた俳優さんなのですよ~。

すでに映画をご覧になっている方は、そのギャップに驚かれることでしょう。撮影時から約5年、こんなにハンサムな青年になりました。偶然が味方して実現したドゥシャント・ワーグさんへのインタビューは、4月に入ってから掲載しますね。お楽しみに!

 


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