11月7日(日)に終了した東京フィルメックスに続き、東京国際映画祭も11月8日(月)に閉幕しました。実はその日私は、見逃したコンペ部門のアジア映画などを自宅でガーッと見まくっていました。面白い作品も多かったので、自分のメモのためにここに記録しておきます。
『アリサカ』
2021年/フィリピン/フィリピン語/96分/原題:Arisaka
監督:ミカイル・レッド
主演:マハ・サルバドール、モン・コンフィアード
©TEN17P
よしだまさしさんに教えていただいて、「アリサカ」が「有坂銃」という旧日本軍の使っていた武器だと知り、どんな風に映画の中に使われているのかとても興味がわきました。ストーリーは、女性警官マリアーノ(マハ・サルバドール)ら警察官が3台の車に分乗し、ある事件の証人である地方政治家を守って田舎のハイウェイを行く所から始まります。途中で車が停まったかと思うと、前後の車から降りてきた警官たちが真ん中の政治家やマリアーノが乗っている車に銃弾を浴びせます。そして、誰も動かなくなったのを見届けて、2台は去って行きます。と、ここで私は「何だこれ?」と思ったのでした。公道に死体満載の車をほおっていく?? せめて崖下に車ごと突き落とすとかしないの?
©TEN17P
この後に続く、重傷を負ったけれど逃げ延びたマリアーノが、あとからやってきたマフィアのボス・サニー(モン・コンフィアード)と彼の手先の警官たちに追われ、森の中を逃げ惑う、そして先住民の少女に助けられて彼女の家で傷の手当てを受け...というストーリーを成立させるためとは言え、かなり興ざめでした。その後も興ざめはいろいろあって、先住民の家が野原の真ん中にぽつんと建っていたり(危険極まりない住み方で、まるでおとぎ話)、80年近くを経た有坂銃があの状態で錆びていなかったり(銃身はクロームメッキだそうですが、熱帯のフィリピンの洞窟に置かれ、錆や劣化が生じないとは考えられない)と、マンガを見ているようでその都度さめました。アクション&サスペンス部分は水準以上なので(特に銃撃される時のリアルな人体はVFXの鑑!)、細かいことは置いておこうになったのだと思いますが、コンペ作品それでいいのか、でした。
『四つの壁』
2021年/トルコ/トルコ語、クルド語/114分/原題:/英題:The Four Walls
監督:バフマン・ゴバディ
出演:アミル・アガエイ、ファティヒ・アル、フンダ・エルイイト
©MAD DOGS & SEAGULLS LIMITED
主人公はクルド人音楽家ボラン(アミル・アガエイ)。イスタンブールの小さなマンションの部屋を手に入れ、この家にトルコ内陸部に住む妻子を呼び寄せるのを楽しみにしていました。何せ、イスタンブールの家からは、マンションとマンションの間から海が見えるのです。海をまだ見たことのない妻や幼い息子は、きっと大喜びするに違いありません。そう思って車を走らせて妻子を迎えに行き、イスタンブールへ向かう途中で悲劇が襲います...。
©MAD DOGS & SEAGULLS LIMITED
ボランの音楽仲間が集まって、音楽を奏でるシーンがたびたび出て来ます。全員がクルド人というわけではないようで、漁師もいれば、ボランが「アザーンがうるさい」と文句を言いに行ったアザーン誦みの男があとで仲間に加わったりもします。今回のコンペの最優秀男優賞は、『四つの壁』のアミル・アガエイ、ファティヒ・アル、バルシュ・ユルドゥズ、オヌル・ブルドゥと発表されたのですが、ボランとその仲間たちに、ということのようです。名前が出ているのはボランと親友の漁師、アザーン誦み、あと煙草好きの警察官でしょうか。こんな受賞者も珍しいですね。
『オマージュ』
2021年/韓国/韓国語/108分/原題:오마주/英題:Hommge
監督:シン・スウォン
出演:イ・ジョンウン、クォン・ヘヒョ、タン・ジュンサン
©2021 JUNE Film. All Rights Reserved.
女性監督役が『パラサイト』の家政婦役だったイ・ジョンウン、ということで、観客の皆さんの興味を引いたのでは、と思います。夫役が「冬ソナ」や最近では『新感染半島』でお馴染みのクォン・ヘヒョと、日本では知られた俳優が揃っているので、どこかがお買いになるかも知れません。どちらもアラフィフで、高校生の息子がいます。女性監督は1960?年代の女性監督の作品『女判事』の修復をフィルムアーカイブから依頼されるのですが、一部が欠落しているのと、あと音声がない部分があるため、その両方の穴を埋めるべく、いろんな人に聞いたり、脚本やプリントがないか調査に行ったりします。
©2021 JUNE Film. All Rights Reserved.
結局プリントは意外な所から見つかるのですが、うーむ、それはちょっと...と思ってしまいました。16㎜プリントでないといけなかったんでしょうか? むしろ35㎜プリントにして、内部に芯として使う、という方がよかったのでは、と思ったり、でも35㎜ならほんの短いフッテージしか残らないから、やっぱりここは16㎜かも...と思ったり。ご覧になってない方はおわかりにならないと思いますが、上のスチールがそれと関係しているシーンです。日本公開は...どうでしょうねえ。でも、私もこういう過去調査は大好きなので、結構ワクワクしながら見入りました。
『GENSAN PUNCH 義足のボクサー(仮)』作品公式サイト
2021年/フィリピン、日本/フィリピン語、英語、日本語/110分
監督:ブリランテ・メンドーサ
主演:尚玄、ロニー・ラザロ、南 果歩
配給:未定
©2021 GENSAN PUNCH Production Committee
実は、月曜日見た中では、この作品に一番惹かれました。これもよしだまさしさんのブログで教えていただいたのですが、「GENSAN」は「げんさん」ではなく「ジェンサン」=「ジェネラル・サントス」市の略なんだとか。というわけで主人公のボクサーは「なお=津山尚生」という名前です。小学生の時に片脚の膝から下を失い、以後義足生活をしている彼は、優秀なボクサーでもあります。ですが日本ではボクサーとしてのライセンスを発行してもらえず、フィリピンへ渡航して、フィリピンのライセンスを取ろうとします...。
©2021 GENSAN PUNCH Production Committee
ストーリー等はよしだまさしさんのブログを読んでいただければと思いますが、私が惹かれたのは、奇をてらわない演出と、まるで本人が出演しているようなはにかみや怒り、そして喜びを表現する、主演の尚玄の演技でした。寡黙なボクサーにぴったりの戸惑ったような表情など、演技か素かわからないぐらいで、引き込まれました。一方フィリピン人コーチ役のロニー・ラザロの方は俗っぽい演技なのですが、それがかえってホンモノに見え、南果歩よりずっとよかったです。ブリランテ・メンドーサ監督はそういえば、『ばあさん』などで見せたこういう饒舌でない演出もできる人だったんだ、とあらためて思った次第です。公開されるといいですね。
©2021 GENSAN PUNCH Production Committee
というわけでTIFFは終わったのですが、このあとFILMeXで見逃した作品を配信で見たいと思っています。今週は忙しいので来週になるのですが、FILMeXの配信は23日まで見られるようなので、ありがたいです。あなたもいかがですか? 詳しくはこちらのサイトをご覧下さい。インド映画『小石』も入っていますのでぜひ。
ちなみに、監督がこの作品を作るきっかけとなったのが、先住民が第二次世界大戦中の遺品を見つけてきては修復して使っているという新聞記事を読んだことだというので、それだったらあの銃もアユタ族が修復したものにすればよかったのにと思ったものでした。
アユタ族(Aetaと綴るんですね)のことを遅ればせながら調べてみたのですが、狩猟採集民で、弓矢やナイフの扱いに優れているとか。
それなら銃という武器も扱えなくはないので、おっしゃる通り彼らが戦後ずっと使っていたとか、大切に持っていたとかいう設定にすればまだしも、だったですね。
でも、坊主頭の警官が頬に銃撃を受けるシーンとか、ボスのサニーが首にナイフを刺される&引き抜かれるシーンとかは、すごいリアルでびっくりしました。
この緻密さが他方面にも発揮されるといいですね、ミカイル・レッド監督。