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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第16回東京フィルメックス:私のDay 2

2015-11-24 | アジア映画全般

昨日は書く時間がなかった23日の上映とイベントの報告です。この日見たのは、カザフスタン映画『わたしの坊や』。実はその後にあるフィルメックス恒例のイベント、「字幕翻訳セミナー」でこの映画が取り上げられると聞いて、見ることにしたものです。本当は、中央アジアもアジアの一部として、カザフスタンやタジキスタン、キルギスなどの国の映画もカヴァーしないといけないのですが、このあたり、旧ソ連領ということでまったく研究対象からはずしていた私は、これまで見るのを極力サボっていたのでした。というわけで、久々のカザフ語の映画です。

『わたしの坊や』

カザフスタン/2015/78分/原題:Bopem
 監督:ジャンナ・イサバエヴァ(Zhanna ISSABAYEVA)
 出演:ルスラン・アビブラエフ、ベカレィス・アブディガッパル


ジャンナ・イサバエヴァ監督(上写真)は1968年生まれ、現在47才の女性です。しかし、本作はかなりきつい作品というか、人を殺すシーンが何度か登場する、復讐劇なのです。舞台は、カザフスタンにあるアラル海沿岸の街。でも、アラル海自体がもう全面積の9割以上干上がってしまい、砂漠化しているので、元アラル海が舞台と言ってもいいかも知れません。干上がった土地には多くの船がうち捨てられているそうで、そんな船の1つを根城にする14才の少年ラヤンが主人公です。ラヤンは病院で余命宣告を受け、あと2、3ヶ月しか生きられないだろうと医者に告げられます。彼の中には、5才の時に亡くした母との思い出が色濃く残っており、その母を死に追いやった警察官を許すことができません。自分は間もなく死んでいく身だとわかったラヤンは、その警察官や恨みに思う人々を手に掛けて行きます....。

この復讐劇の合間合間に、幼いラヤンと母の回想シーンが何度か差し挟まれます。回想シーンによく登場するのは、芥子の花のように見える真っ赤な花が咲き乱れるの野原で、上映後のQ&Aでは監督が質問に答え、母親の存在した肯定的なイメージの世界を表し、母のいない厳しい世界と対比させるためにあのイメージを使った、と答えていました。回想シーンでは母と幼い息子のゆったりした会話が流れ、反対に現実のシーンでは死の宣告、見捨てられたような町、朽ち果てた廃船、ボロボロの赤旗、火事、殺人など、ひりひりするようなシビアなシーンが続きます。本作の物語は特にこういう事件があったわけではなく、オリジナルのストーリーなのですが、アラル海の環境問題は十分に意識して作った、と監督は述べていました。

それと、原題の「Bopem」はカザフスタンではよく知られた子守歌の歌詞で、日本語で言うと「ねんねんころりよ~」に当たるような、子守歌を象徴する言葉だとか。


そして、字幕翻訳セミナーのテキストに使われたのは、回想シーンのうちの一つ、母親がラヤン少年を抱いて歩きながら、彼の名前の由来を教えてやる場面でした。東京フィルメックスの字幕翻訳セミナーは、中国語映画の字幕翻訳家である樋口裕子さん(中国語通訳としては渋谷裕子さんのお名前で知られています/下写真左側)がプロデュースして数年前から始まったもので、当初字幕制作会社の方のお話などを聞いたあと、字幕翻訳家の斉藤敦子さん(下写真右)を講師にした講座がここ4年ほど続いています。過去のセミナーの紹介は、こちらをどうぞご覧下さい。斉藤さんがどんな方かというご紹介もしてあります。


テキストは毎回、みんながわかるように英語字幕台本が使われます。今回の『わたしの坊や』の英語字幕は、ジャンナ・イサバエヴァ監督自身が制作したそうで、斉藤さんはできるだけ監督の意図を生かして、英語字幕に忠実な訳を心がけたとのことでした。母親と幼い息子の会話ではもっぱら母親がしゃべっているのですが、「あの線は”地平線”と言うのよ」から始まって、「天国にはアル・ラヤン(ar-Rayan)という名の門があるの/天国の門から入る人は渇きに苦しむことはない/”ラヤン”は渇きを覚えない人のことよ/お前の名前は自分の運命を表しているの」というような会話でした。ここに書いた訳は私の訳ですが、21ある英語字幕を参加者が順番に訳していきます。そして、その都度斉藤さんがコメントし、会場からも意見が出て、議論が弾みます。最後の字幕などは、「子供に”運命”と言ってもわからないのでは?」というような異論も出て、斉藤さんが考え込む場面もあったりしました。


その後、斉藤さんが「仮ミックス」と呼ばれる段階で付けた字幕を見せてもらい、さらに本番用に付けた字幕も見せてもらえるという、実に贅沢なセミナーです。今回はそれに加えて、字幕のフォントの話なども出て、いろいろ勉強になりました。


なお、「ar-Rayan」は、あの時アラビア語の冠詞が付いた形の「al-Rayan」ではないか、と発言しておいたのですが、帰宅後調べてみるとその項目がウィキにありました。その項目では「Al Rayyan」となっていて、「灌漑の水源」「イスラーム教では天国の門のこと」となっていました。きっと英語字幕は、実際の音に合わせて表記されていたのですね。

字幕に興味のある方、映画の好きな方は、次の東京フィルメックスではぜひ斉藤敦子さんの字幕翻訳セミナーに参加してみましょう。映画がさらによく理解できて、面白いですよ~。



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