地域主導型科学者コミュニティの創生

 『地域主導型科学者コミュニティの創生』(代表:長野大学 教授 佐藤哲)Web Forum

「千年の森セミナー」と「地域環境JSTミニ研究会」のご案内

2008-12-16 16:22:05 | Weblog
住民協働による森づくりの先進地「とくしま高丸山千年の森」について,その活動を紹介するセミナーが開催されます。これにあわせて,地域環境JSTミニ研究会も開催します。

興味をお持ちの方は,どうぞご参加ください。なお,セミナー終了後に懇親会も予定されています。懇親会には参加申し込みが必要です(最下欄)。

◆◇1月25日(日) 徳島大学工学部 工業会館◇◆
   http://www.e.tokushima-u.ac.jp/article/0012895.html
   http://www.e.tokushima-u.ac.jp/article/0012897.html

● 地域環境JSTミニ研究会 [予定](9時20分~12時)
  9時20分~9時30分
   趣旨説明  鎌田磨人(徳島大学)
  9時30分~9時50分(15分発表,5分討議)
   関西サブ研究会[12月23日]の報告
  9時50分~10時30分(25分発表,15分討議)
   ハス田周辺水路に生息するカワバタモロコ保護の枠組みづくり
   農家-行政-研究者の協働は可能か?
     田代優秋(徳島大学)
  10時30分~11時10分(25分発表,15分討議)
   佐渡における自然再生―トキ野生復帰に向けた協働のシナリオ
     河口洋一(九州大学)
  11時10分~12時(30分発表,20分討議)
   「高丸山千年の森づくり」の歩み‐自立的運営に向けた動きと苦悩
     勝瀬真理子(千年の森)


● 第3回 千年の森セミナー 「地域に根ざした自立協働型森づくり」
主催:徳島県立高丸山千年の森指定管理者 かみかつ里山倶楽部
後援:上勝町(予定) / 徳島県農林水産部林業振興課(予定)

 徳島県立高丸山千年の森の活動テーマである、「森に親しみ・森を育て・森に学ぶ」を実現するためには、山とともに暮らした地域の意識、自然観から学び、実現することが必要です。指定管理者「かみかつ里山倶楽部」は千年の森での森づくりを通して、広く県民に機会を与え、これらを次世代へ引き継ぎ、山と人が共生できる持続可能な社会を実現したいと考えています。
 本セミナーでは、「かみかつ里山倶楽部」が実践してきた3年間の活動をご紹介するとともに、活動に至るまでの地域住民とともにすすめた運営の苦楽とコツをお伝えします。また、地域に根ざした自立型の自然学校を運営する先進地である「大杉谷自然学校」から講師をお迎えし、地域での活動をより楽しく、よりまじめに取り組むためのヒントをいただきます。

13:00~13:10  開会の挨拶 統括責任者 米田潤二
             本日のセミナーについて 事務局長 澤田俊明
13:10~14:25  「かみかつ里山倶楽部」の活動報告
  ・「チェンソーアート作品コンクール大会」で100人集まった!報告
          参加交流部会副部会長 武市功
  ・「かみかつ里山倶楽部」のあの手この手奮闘報告
          事務局 勝瀬真理子
  ・何より「森づくり」の奮闘報告‐森づくりボランティアより
          生山会/東亞合成株式会社徳島工場
  ・「森づくり」を評価し見直すための「調査」からの報告
          森づくり部会部会長 鎌田磨人
  ・徳島大学との連携~学生実習発表~
          徳島大学工学部学生代表
14:25~14:40  休憩
14:40~15:50
   【基調講演】
   「地域に根ざした自立協働型活動運営の苦楽とコツ」(予定)
          NPO法人 大杉谷自然学校校長* 大西かおり氏
   「地域の財産 山の魅力」(予定)
          大杉谷自然学校 森 正裕氏
15:50~16:25  全体ワークショップ

16:25~16:30  閉会の挨拶
             高丸山施設管理責任者 西利一

18:00~20:00  懇親会(予定) ※事前申込み要(1月18日〆切)
             徳島駅周辺(予定)
             参加費 5,000円程度

★☆ 千年の森セミナーに関する問い合わせ・申込み ☆★
 徳島県立高丸山千年の森 千年の森ふれあい館
 〒771-4502 勝浦郡上勝町大字旭字中村66-1
 TEL 0885-44-6680
 E-mail sennennomori@quolia.ne.jp
 ●申込み表
  名前
  所属
  電話
  懇親会  参加 ・ 不参加

予防原則と順応的管理、回復力活用の原則

2008-12-11 20:46:59 | Weblog
Date: Thu, 11 Dec 2008 10:53:02 +0900
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学会がお目付役・ご意見番の役割を演じなくてはならないこともあるでしょう。
・・・釘を刺すだけでも問題は解決しないはずです。「なかに入っていって一緒に考える」人はそれほど多くないかもしれません。
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 ご意見番というのは解を示さねばなりません。釘を刺すだけでは、たしかにいけませんね。どこまでなら当事者たちが納得するかを見ながらいわないといけません。知床では「新たな漁業規制はしない」という環境省と北海道の公文書(いまだに科学委員会に配布しない)とIUCNの「海域の保全水準を高めること」の両者を満たす解が必要になりました。そこからでてきたのが漁業者の自主規制強化です。http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2004/Shiretoko.html#050223 
最初は手探りで、そこまで意識していなかったのですが、結果として、知床から日本の沿岸漁業の自主管理の有効性を世界に説明する機会が得られました。
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二つ目は、「生態系にはできるだけ人手を加えるべきでない」という信念が染みついている人がまだまだいる、ということです。
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 今月出版した拙著「なぜ生態系を守るのか」(NTT出版)の表紙には、「地球は地球のもの」と私が言っているかに見える絵がど真ん中にあります。
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2008/NTT.html
 私の学生たちは、私がこんなことを言うとは考えられない、このまま出してよかったのかといっています(あえてデザイナーに文句を言いませんでした・・・)。
 実は知床世界「自然」遺産の管理計画でもこの言葉(できる限り人手をかけない)は残っています。
 生態学会生態系管理委員会では、下記の表現をとりました。生態系自身に回復力Resilienceがあるとし、それを活用するという原則です(Passive restoration)。
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http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2005/EMCreport05j.html#P13
13. 自然の回復力を活かし、人為的改変は必要最小限にとどめる(回復力活用の原則)
 自然再生事業は、できるだけ自然が持つ回復力を活かすように計画を立てるべきである。生態系の維持機構に対する理解が足りないと、しばしば無用な手を加え、自然の回復力をますます失う結果になる。
 積極的に環境を大幅に改変する以前に、回復を阻害している要因を除去することで再生が図れないか、検討すべきである。また積極的な環境改変を行う場合でも、短期間で大規模な事業を行うよりも、長期にわたり、小規模な再生事業を継続する方が、好ましい結果を生む場合もある。生態系の回復を妨げている要因を科学的に見極め、適正な規模の事業を行うべきである。
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 そういいながら、世界自然遺産の最深部(知床岬)で昨年から鹿大量捕獲を試みていますが。それは以下の方針
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http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2005/EMCreport05j.html#P18
18. 不可逆的な影響に備えて予防原則を用いる
 自然再生事業を計画するプロセスでは、次の二つの場面において、予防原則を用いるべきである。第一に、自然再生事業をせずに放置した場合の変化が不可逆であると判断されるならば、事業の有効性の科学的根拠が不十分であることを理由にその実施を遅らせてはならない。第二に・・・
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 いずれにしても、それぞれの取り組みから学びあうことが大切で、押し付けたり、違いを強調するのはうまくいかないでしょう。気にせずに批判しあえるようになるまでに、信頼関係を築くことが大切です。地域環境JSTが各地の在野知を集め、研究者の変容プロセスを促すものだとすれば、それぞれの担い手の処方箋が異なるところはたくさんあるはずです。いきなりどれが正しいかを論じても無意味でしょう。自分のやり方に信念を持ち、互いに尊重しあいながら、学ぶべきところを学んでいけばよいのだと思います。その意味では、外野からあせって原則を押し付けると「土足で踏み込む」ことになりかねません。レジデント型研究者といえども、地元以外では訪問型と同じだと思います。

 今、矢原さんが自然再生ハンドブックを作っていますが、その辺が難しいところのようです。彼によると、生物多様性条約の指標作りなどの国際機関で活躍している研究者は、ほとんど自分の現場を持っていないような人が多いそうです。

 規制改革会議の答申とその議論(水産関係)を見る限り、水産庁はただの抵抗勢力で、小泉路線に政治的に負けていますね。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_06.pdf
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_014.pdf

 水産総研センター(牧野光琢さん)がまとめた「中間報告」はそれに答えるものです。朝日新聞がこの内容を9.13社説で実質的に支持したことで、風向きが変わったと期待しています。http://www.fra.affrc.go.jp/pressrelease/pr20/200731-2/

 大企業が地元の漁業者と組んでうまくやっているところもあります。問題はうまくいかなくなったときです。企業の論理でリストラ(漁場閉鎖?)でよいかといえば、それではすませたくない。漁村でなくても、地方都市などでは実際に1企業の撤退が大問題になることはよくあると思います。
 実例があるとおり、今でも地元と信頼関係を作り、大企業は沿岸に参入できています。その経験と信用のある企業にとっては、完全な自由化がなくても可能です。
 漁業者だけでなく、ダイバーや遊漁との関係を整理したいですね。

Date: Thu, 11 Dec 2008 16:03:49 +0900

予防原則の定義は多様です。我々のCOEではあえて予防的順応的管理を提案し、「欧州の予防原則、米国の順応的管理の対立を超える」と申請書に書きましたが、「もともとそんな対立はない(新しくない)」という異論は外国の友人からも来ました。
 要は中身です。予防原則を禁漁側にのみ使う相手に対しては、「予防原則より順応的管理を」という主張と表現は間違っていません。定義が多様なものは、言葉だけで合意するのではなく、相手がどういう意味で使っているかを互いに理解することが大切です。
 海洋保護区も同様です。全面禁漁区という意味で使う人がいて、拒否反応がありましたが、国際的にこの言葉を使わないで孤立するより、定義を多様に使うほうが得策と思います。

エコツーリズム推進法・全国アマモサミット

2008-12-08 16:22:47 | Weblog
11月27日、28日の全国エコツーリズム推進セミナーと、12月5~7日の全国アマモサミットに続けて参加してきました。

エコツーリズムの推進に関しては各地で迷走が続いていますが、いずれ質のいいものに収斂してくことを期待したいです。今回のセミナーで紹介された事例は実に多様で、ここでもまた地域独自の状況に対応した多様なシステムの構築が重要だと再確認しました。自然再生推進法もそうですが、ここでも地域の多様なステークホルダーの参加を求めています。エコツーリズム推進法で特筆すべきことは、地域のステークホルダーが参加する協議会で基本方針を定め、それに基づいて市町村長が「特定自然観光資源」を指定し、それが損なわれる恐れがある場合には、立ち入り制限(時期、人数の上限、市町村長の承認など)を設けることができる点です。地域のステークホルダーの選択によって、環境負荷の低減のための具体的な対策がとれる、という点は、たいへん興味深いと思っています。このあたり、Kさんのお話をぜひお聞きしたいですね。MPAにしても世界遺産にしてもこういった法制度にしても、地域社会に対して付加される制約だと考えるのではなく、地域のステークホルダーが活用できるツールとして位置付けるべきでしょう。エコツーリズム推進法は、使いやすいツールとしての特徴を持たせようという意図があったかどうかはともかく、結果としてはかなり使い勝手がよいものになったという印象です。こういうシステムを地域固有の実情に合わせてカスタマイズして使うために、科学者との相互作用が重要ですね。

アマモサミットも同様に、地域ごとに実に多様な取り組みが行われていて、地域の固有性に対応したアマモ場再生への取り組みのあり方が議論されていました。科学者のかかわりも多様でしたが、それにもまして、先進的な活動をしている横浜市のグループが見事にコーディネーターとして機能して、全国で技術の普及と活動のバックアップを行っていることが印象的でした。ここでは、専門的な科学者だけでなく、市民の中から知識技術を各地に普及する役割を担う人材が生まれています。知識生産の主体の多様化の現実は、ぼくらが思っているよりもはるかに進んでいるのかもしれません。科学者(専門家)の関与のしかたの中で、特に印象に残ったのは、Y大学を退官されたHさんが全国ネットワークを形成するための中心となって動いていることでした。専門的研究者がもっている知識技術の普遍化、全国的な組織の運営に関するノウハウが、ステークホルダーによって生かされてきた事例だと思います。地域固有の現象についての科学的知見を一般化、普遍化することによって、さまざまな状況に応用できる多様なオプションを作り出していくことが、科学者(専門家)の重要な役割なのだと再認識してきました。また、アマモ場修復技術を有する企業が特許などの制約を超えて地域ごとのアマモ場再生活動に協働していること、大手ゼネコンのCSRとして地域における再生活動に協力し、専門家として技術を提供し、ビジョンを描き出していることなど、企業における知識生産が果たす役割の重要性に関しても、なかなか参考になります。(Tetsu)

12.12 国連大学でCOEシンポジウム

2008-12-03 21:08:23 | Weblog
このブログでは初めて紹介しますが 下記の本を出版しました。

NTT出版やりなおしサイエンス講座7(編集委員:村上陽一郎、鬼頭秀一、長谷川眞理子ほか)『なぜ生態系を守るのか:環境問題への科学的な処方箋』(目次、関係資料などはhttp://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2008/NTT.html)
 扱っている対象は下記のとおりです。グラフや計算機実験を追体験できるよう、上記サイトからExcelファイルが落手できます(訂正も載せる予定です)。
 主なキーワード:マグロ、サバ、クジラ、シカ、ヒグマ、トド、マングース、カワウ、マガン、知床、屋久島、渡島半島、奄美大島、竹生島、あわら市、中池見、亜鉛、ダイオキシン、植物レッドデータブック、海洋保護区、ITQ制度、漁業の自主管理
 「不都合な真実」とはアルゴア氏の著書名ですが、上記の諸問題を考えていく際に、最近、科学者と社会の考える「不都合」が逆向きと感じることがしばしばありました。学者と警察は罪なもので、問題が大きいほど目立ちます。私の学生が大きな環境影響があるのではないかと仮説を立てて検証を試みたとき、意外と影響が小さいという場合がありました。これは仮説を立てた研究者にとっては「不都合な真実」ですが、社会としては安心できる結果です。それに対して、アルゴア氏の「不都合な真実」とは、社会にとって容認できない問題という意味でしょう。私だけが強く主張している「不都合な真実」の例も上記にあります。しかし、科学者にとって都合のよい「検証不足の結果」に基づく例もあります。どの程度確かなことか、その対策がどんな副作用を及ぼすかを理解する市民(とマスコミ)の「科学的リテラシー」が問われます。とはいえ、実証されるまで何もしないということでは、予防原則に基づく対策は立てられません。
 自分の研究結果に科学的に確信がもてても、その対策を社会で優先すべきという確信は一人ではなかなかもてません。逆に、皆が指摘しても本当に重要とは限りません。拙著では、実際に問題となっているさまざまな課題への取り組みを紹介すると同時に、解を見出す中で得た「私なりの処世術」を記しました。皆さんの感想を聞かせていただければ幸いです。

 別件です。下記のシンポジウムへのご参加を歓迎いたします。五箇公一さんの「カエルツボカビ症でカエルは滅ぶのか?」の内容はリハーサルを聞いて衝撃的でした。http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2008/081212COE.html
 日時:2008年12月12日(金)13:00-17:00
 グローバルCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」シンポジウム
 環境問題における「不都合な真実」