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『向こうの果て』ストーリーと感想

2023-11-02 14:13:42 | テレビ
WOWOWライブで放送の舞台『向こうの果て』を録画したものを観ました。

ストーリーと感想を備忘録として書きます。
※ネタばれがありますのでご注意ください。
※文中の敬称は省略させていただきます。






【脚本】
竹田新


【演出】
山野海


【出演】
塚原大助
浜谷康幸
佐藤正和
泉知束
かなやす慶行
渡邊聡
44北川
関口アナン
皆川暢二
小泉今日子


【演奏】
小山豊(津軽三味線小山流三代目)


【ストーリー】
昭和60年。小さなアパートの一室で殺人事件が起こる。池松律子(小泉今日子)は同居人の君塚公平(塚原大助)を刺殺し、証拠隠滅のためにアパートに放火した罪で逮捕される。
裁判が進むにつれ、2人の過去が明らかになっていく。律子を知る男たちの証言から、夜叉のような女、売春婦のような女、嘘つきな女、ぜいたくな女、残酷な女、柔らかな女……と、律子のさまざまな顔が見えてくる。


【感想】
舞台は黒い背景。「ザーザー」という雑音のような雨音が響く。下手側に木製のテーブルと椅子が置かれている。
三味線が悲しげな音を奏でている。

青森の田舎で貧困と妬みと嫉妬で、できあがった人たち。彼らはうんざりするような、人の心の醜さをこれでもか!というほど見せつけてくる。その醜さが哀しく、切ない。真実がそこにある…。

律子の生い立ちは悲惨だ…。実父からの暴力に耐え、両親の死後、引き取ってくれた独身の叔父と15歳で関係し妊娠、堕胎。18歳で大手メーカーの御曹司と結婚、ようやく幸せをつかむことができたと思った矢先、夫は傾きかけた会社の債権者の娘と不倫。律子も夜遊びを繰り返し離婚する。
その後、幼馴染の売れない作家の君塚公平と同棲する。実質ヒモの公平に暴力を振るう律子。そして殺害してしまうのだ。
いつも律子は相手が望むだろうことを本能的に感じとり、それを実行してしまう。結果がどうであろうとだ。それが律子の生きていくための術だったから。
律子の心は一体どこにあるのだろう? 空っぽな律子の心はふわふわと空中浮遊をしているようだ。

土地の呪いのような風習、経済的な貧困と心の貧困はほぼ同じ。悲しみ、妬み、憎しみからは何も生まれない。生まれるのは不幸の連鎖だ。
「親ガチャ」親の負の遺産を受け継ぎ、みんなでよってたかって追い込み、全てを背負わされた律子の心は死んでしまった。

律子を取り調べている検事は、律子と結婚で苦労した姉とを重ね合わせ混乱する。検事としての職務を正しく遂行できず、職を辞すことになる。

公平が最後に書いた小説は「太陽のような女」。公平と律子と子供たち4人の幸せな暮らしを描いた小説だ。
律子を本当の世界に戻したかった公平。律子の人生を狂わせてしまったのは公平だからだ。
律子を父親の暴力から守ろうとして、父親を殺そうと持ちかけたのは公平だった…。

「殺して!」「時間を止めて!」と公平に懇願し、包丁を手渡す律子。だが誤って律子が公平を刺してしまう。流れる血は公平が生きている証。
マッチで火をつける公平。「おまえは生きてくれ!」と言い残して。
これが真実だった…。
鳴り響く三味線の音。

ラスト、下手側の天井から光芒のような照明があたる。
みっともなく、哀しく、美しい作品。


【余談】
以前に観たモダンスイマーズ『デンキ島~松田リカ篇』を思い出した。地方の風習や習慣、抗いがたい現実。窒息しそうな閉塞感や湿度の高さが同じように感じられたからだ。
映像、舞台、小説などの中にも、同じようなものが脈々と流れていると感じる。いいとか悪いとか、上とか下とかではない、なにかしらがそこにあると思う。


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