「いやぁ叶 (かなえ) コスプレ衣装
、そんなのありえないでしょぉ」
不破はハハハといつもの乾いた笑いをしながら三枝の話に答える。
「だってみたんだもん!」
三枝は口を3の字にして、眉間にしわを寄せる。
「まさかね、ドッペルゲンガーじゃあるまいし」
黛は向かい側の席で「明那の勘違いじゃない?」「違うもん!」と兄弟げんかのような口論をする2人を見ていた。口元にはうっすらと笑みが浮かべられていた。
合流する前は、不破くんと一緒に行動していたから、明那の言っていたもう1人不破くんがいるってことは現実的にはあり得ない。
相当不破くんに似ている人か、明那の見間違いなのだろう。
まあ、ドッペルゲンガーが存在するならそれはそれで興味があるけど。
と、黛はお冷で出されたグラスのコップに伝う結露を指でなぞった。
暫くすると、頼んでいた料理が運ばれてきた。
ザクザクとした硬めな衣に包まれた唐揚げと明太子入りのポテトサラダ、日本酒に会うような焼き魚、大きめな串に刺された焼き鳥などハイカロリーな料理が並んでいく。
「今日は飲むぞー!!!」
と三枝は大きなジョッキを片手に満面の笑みを浮かべている。
3人とも急ぐような仕事はしばらくない。今日は久しぶりの飲み会だ。
残りの2人はそれを見てグラスを手に取り、カンパイッとお互いの淵を合わせた。
ガラス同士がぶつかる高い音を合図に、3人の飲み会は幕を開けた。
☆ ☆ ☆
夜は深まり、深夜に突入し始めたころ。
皿の上に盛られた料理は少なくなり、残り僅かとなった。誰かのグラスの中の氷がカラリと音を立てる。
テーブルの上には中身が飲み干されたグラスいくつも置いてあった。
三枝は相当酒を飲み、顔を赤くしてゆらゆらと気持ちよさそうに体を左右に動かし、何もない壁に笑顔を向けている。黛は少しばかり顔が赤くなっているが、酔っているようなそぶりはみられない。不破は酒を一滴も飲んでいないため、もぐもぐと残りの料理を咀嚼している。
そんな中、不破は先ほどの話を持ち掛けた。
「明那の言ってたもう1人の俺って、結局どこに行ったの?」
「んぇ?」
三枝は体を横にゆらりゆらりと揺らしながらフクロウのようにグルリと不破の方へ向き、倒れこむように不破の肩にべたっとくっついた。「酒くさ」「ソーシャルディスタンス」と不破は笑いながらつぶやく。
「俺らと逆方向だったからねぇ、駅の方じゃない?えきぃ」
呂律の回らない舌足らずな状態で、にやにやと表情筋を緩ませながら答える。そんな三枝に「そっかぁ」と1つ返事で答えて、自分のグラスの氷で薄くなったジンジャーエールを飲んだ。
そんな不破の様子を見て、黛は話しかける。
「まさか探しに行くの?」
「いやぁ、まさかまさかそんなわけ」
ないじゃないですかぁ
そう言った不破の顔は困り眉をした笑顔を浮かべていた。いつもと変わらないその顔を見て黛は頬を緩ませて
「冗談だよ」
と呟き、残った唐揚げにレモンを絞った。
店内に流れているBGMが一瞬だけ大きく聞こえた。三枝明那 コスプレ衣装
「ドッペルゲンガーって存在はかなり昔からあったみたいだね」
そういえば、と黛は先ほどの話の続きをする。
不破は「へぇ」と寝転んでしまった三枝に自身の上着を被せながら答える。
三枝は気持ちよさそうにむにゃむにゃと何かをつぶやいている。
「禁忌を犯した修道士の話とかがいい例だよね、400年以上前の本」
どんなタイトルかわすれちゃったけど、と黛は唐揚げを頬張る。
もう冷めて元々硬めの衣がさらに硬くなってしまったが、それでもなお高いパフォーマンスを保つ唐揚げは満足するには十分の味だった。
「俺その話知ってるかも」
不破は黛の方を向く。妙にその瞬間だけゆっくりと時間が流れたようだった。
「人に勧められた酒はむやみやたらに飲むなって話でしょ?」
その時の表情をうまく例えられるような表現は無いと黛は思った。
どこか儚げで、消えてしまいそうな雰囲気と芯の通った声色が余計にそうさせているのかもしれない。ただ、黛がいつも見るコロコロと変わる不破の表情の中にその顔は入っていなくて、瞳の中にあるネオンカラーのハイライトがいつもよりはっきりと輝いて見えた。
「ふわっちも飲もうぜぇ!」
黛が不破の会話に返事をしようとしたとき、先ほどまで寝転んでいた三枝が起き上がり、不破の肩へ再びしがみついた。
「ぇえ!俺の肝臓死んじまうよ!」
「いいじゃんっ!ちょっとだけ!ちょっとだけだから!飲めるようになったんでしょ?」
「ハハハ、じゃあちょっとだけな」
「やったぁ!おねえさぁーん!!!注文良いですかぁ!」
目の前で繰り広げられる会話を聞きながら黛はその様子を眺めていた。
先ほどの見たことのない不破はもういなくて、いつもの不破に戻っていた。
カラン、とまた誰かのグラスの氷が音を立てる。潤羽るしあ コスプレ衣装
アルコールの匂いが漂う生暖かいこの空間で、黛の頭が妙に冴えていくような、冷えていくようなそんな感じがした。