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菊澤研宗著『「命令違反」が組織を伸ばす』を読む

2007年09月27日 | 折々の読書
組織論の本。モデルは旧日本陸・海軍の大失敗。例えば,インパール作戦,ガダルカナル作戦,ノモンハン事件,ミッドウェー海戦などの作戦指導者の心理を分析している。旧陸・海軍は本当に無知,不合理のために作戦,指揮を誤ったのだろうかという疑問を出発点とし,プロスペクト理論,取引コスト理論など最新の経済理論で分析していく。

不合理と考えられた指揮官たちの行動,言動もこういった理論を当てはめることによって見事に合理的に解釈ができることには驚く。現在から見ると不条理な考え方も,株式投資での心理を当てはめてみると手に取るように分かる。例えば,株で損をしている人がハイリターンを期待してずるずると損をし続けるという傾向は,一つの勝利に賭けて満足を得ようとする指揮官の心理と同じと説く。つまり,当人にとっては至極合理的なのである。

翻って,現代の日本でも組織の中では同様なことが起こりえる。否,起こっている。上層からの理不尽(反社会的)な命令によって不正な商品を流通させて社会的制裁を受けた会社はひとつやふたつではない。また,無駄と分かっていても止められない公共工事も多い。それでは,どうすればよかったのか,どうすれば同じ轍を踏まずに済むのか。そこに著者は「命令違反」という創造的破壊を措定する。具体例は過去の旧軍隊の中にもあった「良い」命令違反である。人間は常に正しい命令をするとは限らない。であれば,本当に命令に違反して事態を悪化させてしまっては論外だが,命令に従いながらも軽やかに別の合理的な行動をとってプラスに転じることは大いなるブレーク・スルーである。それが軍隊なら勝利へ,企業なら発展へと導く。

旧軍隊の組織には日本人の姿が投影されていると思う。8月に読んだ森史朗著『特攻とは何か』(文春新書)でも感じたが,戦争は極めて複雑で多様な姿を見せる。軍隊の組織やそれに関わる指導者もそう単純な心理状態ではなかったのではないかと思う。実際に時間的,心理的,組織的な様々な要素が複合的に組み合わさって進行していく事象を分析,理論化するのは大変な作業であろう。だが,軍隊に限らず組織の中で我々がどうしても陥ってしまう思考回路ともいうべきものを抽出,モデル化してくれたという面でこの本は興味深かった。

■菊澤研宗著『「命令違反」が組織を伸ばす』(光文社新書312)2007年8月刊